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ファミリートリップ  作者: きたくま
魔族の気配
33/75

033 山岳地帯

 キャンプ地に戻って服を着替えていると、ママとルミナが起きだしてきた。


「なんで二人ともびしょびしょなのよ?」


「魔物の襲来があったんだよ。追い返したけどね。」



 着替えながら、ママたちに魔族と魔神についても話す。


「私達がこの世界に来たのは、魔神の魔法が失敗したせいってことね?」


「まあ、たぶんそんな感じだろう。ただし、魔神はこの世界には来ていないし、魔神のいる世界にも今は行くことができない。」


「面倒くさいわね。どっかに魔界へ行くアイテムとか落ちていないかしら。」


「落ちてはいないと思いますが…そのようなアイテムがあるということは聞いたことがありますよ。」


「「「え?どこに?」」」


「も…もう少し下がってください。…えっとですね、長耳…エルフ族と人間族、ドワーフ族や他の亜人種族が協力し、魔物や魔族、そして魔神と戦ったという伝説があります。」


「おお、伝説だ。そういえばまったく調べていなかったな。」


「親父、静かに聞いてよう。」




 ルミナの話はこうだ。


 遥か昔、この世界は魔神を大将とした魔界の軍勢に滅ぼされようとしていた。


 エルフの若者が強力な精霊使いとして立ち上がり、エルフ族、ドワーフ族、亜人族、人間族の王達を説得して、魔神と魔族を魔界へ押し返す聖戦をしたという。


 エルフの若者と各氏族代表の戦士達が魔神の力の源である魔界の窯を塞ぐために、少数で魔界へと進入し、見事窯を大岩で塞いで、戦争を勝利へと導いたという。


 そのとき魔界へ行くために使ったのが、大いなる翼という空飛ぶなにかだったという話だ。



 …飛空艇?


 その飛空艇は、長命であるエルフの若者に託され、エルフの森奥深くに現在でも保存されているという話だが、正直エルフの森さえ今ではどこにあるのかわかっていないという。



 まあ、王族やらとは会いたくはないのだが、そういう伝承を聞くのなら王族しかいないだろうし、寿命が長いエルフ族の王に聞くのが一番早そうだ。


 日が昇るまでママとルミナに見張りを変わってもらい、寝袋に潜り込む。



 さっきまでヘッドロックされていたエザキエルの横乳が気になって寝つきが悪く、親父のいびきが重なってひどい寝不足に悩まされることになった。


 朝、ルミナの可愛い声で起こされると、まずは小川で顔を洗ってこいと、親父にタオルを投げつけられた。


 パンとスープとゆで卵の朝食だが、パンはママがイーストを使って生地を昨夜のうちに作ったのを、朝焼いてくれたものだ。


 香ばしいお焦げはぱりぱりしてるし、中からはふわっと醗酵したイーストの匂いがして口の中に広がっていく。


 コンソメがあるので、沸騰したお湯に俺が作った乾燥野菜を放り込むだけで豪華なスープも完成だ。


 これにソーセージがあれば最高なんだけどなあ。


「キャンプでこんな贅沢な朝食が食べられるなんて夢みたいです。」


「ぼうぼううばぶぶん!」「オイシイデス!」「アリガトウデス!」3姉妹も大満足っぽいね!ただ、早く食わないと全部食われそうなのが怖いよ!


 今日は美月がブーモで先導し、露払いしながら街道を北へと進む。


 そのためドワーフ3姉妹との意思疎通がうまくできなかったので、簡単な単語を調査していたのだが、"ばびぶべぼ"と"う"と"ん"しか使わない言語ってどうなのよ…。


 おいしいもありがとうも理解することができなかった。正直、全部同じ言葉にしか聞こえないんだもん。


「親父、ドワーフの郷を出たらどうすんの?」


「アルソーさんが言っていた、コウロナの町を目指そうかと思っているよ。まあ、行き方も方向もまったくわからんけどね。」


「港のある町を目指すのがよろしいかと思います。新しい都ヌエバデンジーの港なら各方面への船も出ているはずですよ。」


 世界地図ってあるのかな。いまの位置関係って、親父くらいしか把握してないような気がするわ。



 昼になるとついに遠方に山脈が見えてきた。


 あの山脈を二つ超えて、三つ目にの山腹にドワーフの郷は広がっているという。



 しかし、見事な風景だ。


 おそらく山頂に向かっては気温が低いのだろう、赤、黄色、緑、茶色の木々が紅葉し、山脈すべてを彩っているのだ。


「まるで絨毯ですね。見とれてしまいます。」


 俺と手を繋いだルミナは感動しまくっている。俺でも見とれるほどなんだから、すごい風景だよ。


「今夜は一つ目の山脈の途中で野宿することになりそうだ。みんな風邪引かないように暖かくしておけよ。」


 まあ、ノアに乗る分には温かいんだけどね。



 山脈からは俺がブーモの専属騎手になることにしたので、ダウンジャケットを着込む。



 車の中では、ハリー○ッターシリーズの上映会が始まっていたよ。


 ここにきて、DVDを持ってきたのをママが取り出して、みんなでキャーキャー見ている。


 ドワ3姉妹に通訳する美月は感情移入して大活躍だ。


「すごい!杖からあんなに魔法が出るなんてうらやましいです!ほうきで人が浮いてますよ!空を飛べるなんて!」


 まあ、今更だけど俺も飛べるよルミナちゃん。


 山腹の道は結構狭く、スリルがいっぱいだ。


 途中すれ違う馬車とかがなかったためなんとか進めたが、正直いつ落ちてもおかしくなさそうな道だ。


 てか谷底が深すぎて覗きこむと吸い込まれそうになるから、見られないんだけどね。


 さすがにスピードは出せない上、ノアに引っ張らせるのは限界がきたので、御者台に俺とルミナ、ドワ3姉妹がそれぞれついて、ゆっくりと登っていく。


 美月は後ろでブーモと警戒している。



 馬車が外れたことでノアが身軽になったので、先行してキャンプ地をさがしてもらうことにした。


 ドワ3姉妹によると、山脈の谷になっている場所に道は作られているようで、山頂まで上がることはないという。


 崖の部分を過ぎ山の中腹を進むが、大きく育った木によって見通しは悪くなった。



 しばらく行くと前方にノアが見えた。



 親父のレーダーに反応があったのだが、色は黄色らしい。


 魔物ではなくおそらくは冒険者か商人であろうが、広場になった場所で、キャンプをしているらしい。


 ブーモをノアの前につなぎ、広場へと進んでいくと、どうやら冒険者らしい風体の6人ほどがテントを張っていた。



「お邪魔しますよ。私達もここで一晩キャンプさせてくださいな。」


 広場は学校の体育館半分ほどの広さがあり、とりあえず3台を反対側の端っこに止める。


 冒険者達はどうやら男4人、女2人のパーティーで、こちらの構成を見て警戒を解いてくれたようだ。



 親父が挨拶した後は、シグナルがグリーンに変わったようで一安心できた。


 親父が相手を夕食に誘ったので、料理は大人数で食べられるカレーとなった。


「このカレーというのは辛いですが、本当においしいものですね!」


「ほんと!初めて食べたわ!」


「いやこんなところでこのような豪華な食事にありつけるとは、本当にコウサカ様には感謝いたす!」


 一番若そうで一番良い装備をした若者は、話す事もできないくらいのペースで食べ続けている。



「ぼっちゃん!そんな勢いでかきこむとむせますよ。」


 どうやら、いいとこのぼっちゃんが家臣とともにドワーフの郷で装備を作ってもらったといったところだろう。



 ブーモと親父が最後のカレーを巡る戦いをしている横で、ドワーフの郷の話を聞く。


 ドワーフの郷はやはり鍛冶師の町で、山から取れる豊富な鉱物資源を、確かな技術で形にしてくれているようだ。


 鉱物以外の材料を持っていくと格安で装備を作製してくれるようで、この若者も沼ワニの皮を持ってスケイルメイルを作ってもらったそうだ。



「俺達はデンジーレの都へと帰る途中ですが、すでに一ヶ月が経過しております。都は変わらないでしょうか?」


 デンジーレのいいとこのぼっちゃんか。ルミナがさっきから隠れているような気もするが…


「ところで、そちらの銀髪の娘さんは、もしやカルナル伯爵の娘さんでは?」


 執事のようなおっさんが、ルミナをちらちら見ていたが、意を決したように問いかけてきた。


「ええそうです。ルミナ、お知り合いかな?隠れてないで挨拶しなさい。」


 親父がルミナの様子を見た上で前に出させる。親父は問題が残るのを嫌がるタイプなので、ここでしっかりとルミナを紹介しておきたいのだろう。



「ルミナ!?俺の婚約者になるはずだった娘じゃないか?」



 なにいいい?誰だお前!


「自己紹介が遅れました。私はデンジーレ領主ボリーバル・デ・ロス・デンジーレの息子、カルロスです。カルナル家の次女であるルミナさんとは、婚約する予定でした。」


 ボリーバル・デ・ロス・デンジーレ。デンジーレ領主だが、俺達は挨拶もしないで逃げてきた。


 権力者に捕まると面倒臭いってことでここまで来たのだが、息子がこんな所にいるということは、もしかしたら息子への言付けなどがあってカルナル邸に使者を寄越したのかもしれなかったんだな。


 ルミナが白子だったため、アルソーさんが婚約を断ったのだそうだが、元気になったルミナを見て本当によかったとカルロスは目を細めていた。


「カルロスさん、ルミナの夫の大知です。よろしくお願いします。」


 一応牽制しておくか。


 カルロスは残念そうな顔はしていたが、二人を祝福してくれた。



 ルミナの白子はまだ治ってはいないが、遮蔽の指輪で自由に動けるようになったことなど、冒険談を交わすうちに夜は更けていった。




「物騒な冒険者じゃなくてよかったね親父。なんとか無事に野営できそうだ。」


「まあ、腕が立ちそうな護衛はいるが、どうも嫌な気配があるんだよな。」


「気配?あの人たちのことか?」


「いや、山だ。モンスターがいないんだよ。さっき美月が狩りに出たときも動物がいないって言ってただろ?」


 そういえば、ブーモと美月が狩りと称した散歩に行くと、いつもなら動物がくっついてまわるほどなのに、今日は見かけなかったな。


「もしかしたら、山になにかいるのかもな。俺と大知は寝袋で外に寝るぞ。鎧も着ておけ。」


「了解。あ~あ、ルミナと一緒に寝たいなあ。」


「一億年早い。それから、ゴムがないから禁止な。」


「俺そんなえっちなこととか考えていないからね!!!」


「考えていなくても禁止。あ~風呂入りてえ。おやすみ。」



 俺は純愛を貫く男だ。



 でも、高校生なんだ。



 今日は眠る前に木立の奥に行ってこないと眠れそうにないな。



 イッテキマスと呟いて寝袋を出たときに、親父のレーダーに真っ赤なあいつが現れたのだった。

真っ赤なあいつ。

3倍?ちゃいまんがな!

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