031 山脈へ
とりあえず馬車とノアの準備を終わらせて、親父が出てくるのを待つ。
門の外に立つデンジーレ警備隊とは明らかに違う、そろいの鎧と剣を持つ親衛隊の面々を見回してみた。
最初は数に驚いていたが、よく見るとみんな貴族の子弟のようななまっちょろい面子が集まっているだけのようにも見えた。
警備隊のような頼もしさも威圧感もなかったのだ。
しかに気に食わないことに、ルミナと美月を見る目線がどうも下卑た笑いとともに癪に障る。
つむじ風でも起こして目潰しでもしてやろうかと考え始めたころに、親父が玄関先にでてきた。
親父は俺達の方に軽く目配せするとそのまま親衛隊の前まで行くと、大声で命令する。
「諸君!精勤ご苦労である!我々は星4つの冒険者であるコウサカ一家である!」
おお、なんかすごい腹に響いてくる声を張り上げているぞ。
親衛隊の若いのなんかびしっと直立不動の体勢を取ってしまっている。
「領主のボリーバル殿の招致は非常にありがたいが、諸国巡察の任を受けているため、すでにこのように出立の準備を終えている。貴兄らは、このまま城へと使者殿と帰り、無礼の段なにとぞよしなにと領主殿にお伝えいただきたい!」
有無を言わせぬってやつだよなあ。さて、聞いてもらえるかな。
親衛隊は、使者の命がないと動けないだろうし、その使者はまだこちらに姿を現していない。
「それでは我らは出立致す!門の前を空けていただけるようお願いする!」
こちらに向かって乗り込めと合図を出し、親父はブーモの上に乗る。
ブーモは通常の大きさで、馬よりも体高が高く、角を入れれば3mを超えてしまう。
その上に横幅だけはでかい親父が乗ると威圧感は半端ない。
足はぶらぶらしてるけどね。
ブーモが動き出すと、ママがハンドルを握るノアが続き、その後を3人姉妹の馬車、そして俺とルミナの馬車が続いて走り出す。
門の前に固まっていた親衛隊はブーモの迫力に道を開けるしかなく、声も出せないようだった。
俺の馬車が門を出た時点で、周囲を見渡すと2,3人は追いかけようとする素振りをしていたが、馬が言うことを聞いてくれないようだ。
おそらくママがブーモに威圧するように頼んだのだろう。
そのままデンジーレの西門へと進むと、そこにケビン隊長を見つけた。
「コウサカさん、いささか問題はあったようですが、旅の無事をお祈りいたしております!ダイチ、ルミナお嬢様を頼んだぞ!」
ケビン隊長にアルソーさんのことを頼むと、一気に馬車を加速させ、デンジーレの都を飛び出した。
そこから約5kmほどを駆け抜け、広場を確認するとそこで一回休憩を取る。
休憩といっても、ノアに馬車をつなぎ、馬を空荷にするためだ。
この馬車には誰も乗らず、ノアに8人が乗り込む。結構窮屈だが、馬に引かせてゆっくり進むよりは距離を稼げるのだ。
「使者はどうしたの?」
「ママ用の強力便秘薬を処方してあげたら、喜んでトイレに行ってたぞ?」
「うわ…普通の人に飲ませたらやばいんじゃ…」
「死なないだろ。」
笑ってる場合じゃねえって。追っ手とかくるんじゃないのか?
「そのときはしょうがないさ。話し合いをしてあげよう。」
うわ~、悪い顔してるよこの人。
馬は最後尾の馬車の後ろにロープで繋いで、引いていくことにした。
美月と俺が交代でブーモに乗り、様子をみることにする。
「さあ、出発すんぞ!」
ノアでゆっくりと馬車を曳き始める。
ブーモに乗ってみていると、牽引ロープはまったく余裕みたいで、心配していたほどの張力はかかっていない。
さすがに馬車2台はぐらんぐらんと揺れているが、壊れるほどではなさそうだ。
しばらくブーモで馬車に併走したが、いまのところ道が都に近いためか問題はない。
すでに時刻は3時を回っており、問題は休憩場所をどうするかだ。
親父は夜駆けをするつもりらしいが、馬達は大丈夫なのだろうか。
ドワーフ3姉妹によると、この先にある村までは歩きで2日ということなので、100kmいかないほどだろう。
今の速度が30km/hほどなので夕方にはつく算段だが、親父はいけるところまで行きたいと行っていた。
道の両側はまだ田園風景が広がっていて、農夫だろうか、珍しそうにこっちを見ている。
向こうには深い森が見えてきた。
道幅も狭くなるが、まだすれ違えるほどの広さはある。
雨も降っていないので、ぬかるみの心配もないだろう。
森の入り口あたりで、ゆっくり走る商人の馬車がいたので、先行して追い越させてもらうようお願いした。
すぐに現れたノアにびっくりしたのか素直にどいてくれて助かる。
森に入ってからも数台の荷馬車をかわし、どんどん距離を稼いでいると前方に冒険者らしき人間が道に広がって歩いていた。
6人くらいだろうか、とりあえず声をかける。
「すいません、いま後ろから早い馬車がきますので、道を開けてくれませんか?」
「なんだてめえは!化けもんに乗りやがって俺達を誰だと…」
「やめろ!あれは上位精霊だ。そんなもんに乗ってる人が怪しいわけないだろ。おいみんな端によれ!」
よかった、話の通じる人がいないと絡まれちゃうもんな。
すぐにノアが来て、その脇を通っていった。
「すごい馬車だな!馬車が馬を引いていたぞ!」
苦笑いでその場をごまかし、すぐにノアを追いかける。
何回かそのようなやり取りをしながら、先へと進む。
1時間ほどで森を突っ切ると、なだらかな平原へと続いていた。
先行も必要なさそうなので、馬車の後ろの馬達の様子を見ると、かなりへばっていた。
親父と話をし、周辺を探索して野営できそうなところを探すことにした。
ママがなんかブーモに話し掛けていたから、ブーモに探させるのが一番いいだろう。
ブーモが歩きたい方向へそのまま行くと、一段低くなっている場所に結構な空き地を見つけてくれた。ノアでもなんとか来れそうなので、みんなを呼んでみると、街道からはかろうじて見えてしまう。
「ブーモ、ここの丘をちょっとだけ高くしてちょうだい。」
ママが頼むとブーモが街道から隠れる高さまで丘を盛り上げてくれたよ。
なんて有能なんだ!
さっそくキャンプの準備をし、凝り固まった体をラジオ体操でほぐす。
親父の合図で始まったラジオ体操に3姉妹とルミナは首をひねっていたが、最後は一緒にやってくれたよ。
ママはいつも通りやらなかったけどね。
「だれか近づいてくればすぐにわかるから、さっさと夕食の支度をしよう。」
まあ、生木を燃やすわけではないから、煙もそんなに上がらないだろう。
今夜もコンソメスープとステーキだったが、ルミナは白いご飯を食べて首をひねっていた。
「口に合わない?」
「味がしないんですね。ちょっと甘いかもしれませんが、これがダイチさん達の食べ方ですか?」
「こっちはお米を食べないの?」
「いえ、食べますがこちらでは味をつけてから食べるので。」
なるほど、タイ米のような長米種は普通に食卓に出ていたけど、たしかにピラフみたいにしてたもんね。
「まあ、この肉と一緒に食べてみて。」
うちのママもルミナと同じだったんだよと親父が言ってる。
うそだろ?あんなにぱくぱく食ってるのに?
「ああ!ちょっと油っぽいお肉が、ごはんに洗い流されるようにさっぱりとしますね!」
ああ、そんなに食べると…
「スープと一緒に食べると、リゾットの味になりますよ!それにお父様の作られた干物のあぶり焼きとなんて合うのでしょう!」
やばい、これは確実にママの道を追いかけそうだ。
白いお米の素晴らしさに気づいたときからやばい将来が予見できますよ。
現にママとドワ3姉妹のお米を食べるスピードが怖いです。
肉一枚で何杯食う気なんだ。
ママが出してくれた水で体を洗い、みんなカジュアルな格好になって寝床の準備をする。
ママとミヅキとルミナは結構狭いけどノアで、3姉妹はマットレス馬車で、最後の馬車は荷物とブーモと猫達。
親父と俺は外で寝袋組だ。
なんで俺まで?
そろそろ構成分けないと長すぎる。
やり方がわからんけど、頑張ろう!
そんな親父に応援ぽちり。




