030 ギルドカード
買い物を終えてアルソーさんの屋敷へ帰り、みんなの装備を確認する。
ついでに磨くようにと、ヨーゼフさんからミンクかなんかのオイルとぼろ布をもらったので、装着するついでに磨いていく。
俺は青いレッサードラゴンの鱗を使った、ヘルムとスケイルアーマーとガーダー装備に、ミリタリーブーツ、レイピアと風の短剣といったところか。
ルミナは赤いレッサードラゴンの鱗を使った、ヘルムとスケイルアーマーとブーツと盾装備に、遮蔽の指輪とゾンビマジシャンの杖。
二人の装備は本当にペアルックといった感じで、みんなから冷やかしとともに賞賛を浴びてしまった。
金貨10枚という金額内で買える装備じゃないということで、アルソーさんも手放しでほめてくれた。
続いて美月とママの装備だが・・・
ふわふわの猫耳の黒帽子に、黒の編み上げブーツ、黒の革鎧に自前のタイツとシャツで全身黒猫装備の美月。丁寧に黒猫の尻尾まで売っていたのを買ったそうだ。それに黒い弓までお揃いで…。
にゃあとか言うとアルソーさんやヨーゼフさんが目尻を下げまくっているんだが…。
ママのほうは白兎装備で固めたようだ…。白兎の足がついたという杖までふわふわ…。
見たくないので割愛する。
二人は親父に買ってもらった革の帽子に換えられて抗議の声を上げているが、当然だと思う。
ついでに俺が持っていたベヒモスのフリルを盾代わりにママに持たせることにした。
親父は板鎧をしっかりと着込むような感じで、ガントレットも厚みのあるそのまま殴りながら戦えるようなものだ。
剣はゾンビジェネラルの大剣をそのまま使うし、いざとなったらベヒモスの角もある。
ドワーフ3人娘には親父が革鎧と盾をそれぞれ買い与えていたが、戦闘には参加させないといい含めていた。
装備の確認の後、アルソーさんに美月の能力について話をし、領主のことについて話を聞く。
「この町の領主はデンジーレ王の弟であるボリーバル・デ・ロス・デンジーレ公爵様です。」
ボリーバルはデスコバル王の兄弟であるが、デンジーレの都に置いていかれたような気持ちでここの領主をしているようだ。
基本的に、このデンジーレの都は打ち捨てられた場所であり、領民も新しい都の政策により追放されたような人間が大半を占めている。
それでも大きなダンジョンがあったり、古くからの交通の要衝でもあるため、新しく入ってくる人間もいる。
しかし、政務についてはほぼ補佐官に一任され、ボリーバル公爵は城からあまり出てくることはなく、怠惰な生活を送っているようだ。
デスコバル王に対するやっかみの気持ちが日々大きくなっていて、アルソーさんやケビン隊長は心配しているという。
「では、ケビン隊長から公爵へ私達のことは報告していないのでしょうか?」
「そう思いますよ。正直、ケビンもあまり公爵様のところへは顔を出さず、報告書だけ上げているようですから。」
公爵の身の回りの世話は他の貴族が内務官となり、アルソーさんは役所のトップといった感じで仕事をわけているようだ。
「まあ、問題は内務官のほうですがね。」
どこの世界にも派閥があって、一生懸命公爵に媚を売る人間の派閥もあるのだろう。
「私も明日の夜にはこの町を出たほうが良いと思います。能力がある方を手の内に入れたいと権力者はいつでも考えていますからね。正直に言うと、私だってこのままコウサカさん一家をここに留めたいと祈念しておりますので。」
最後は冗談ではなくまじめな顔をして発言していたので、本当にやっかいなことが起こりそうな気もする。
「食料などの積み込みは明日の昼には終わらせるよう手配いたしますので、ギルドカードはなるべく早めに取りに行かれるのがよろしいでしょう。」
不穏な空気を感じながらも、その日はお開きとなった。
翌日は朝早くからギルドへと顔を出す。
「コウサカ様、ようこそいらっしゃいました。さっそくカードを持ってこさせましょう。」
スナーブさんは、俺達の顔を見たらすぐに用意を始めてくれた。
「昨日の市場での奇跡はこちらにも届いております。コウサカ様一家がすぐにでもこのデンジーレから、ドワーフの郷へと向かうであろうことも。そこで、昨日の夜に確認のものが小ダンジョンの討伐を確認して戻ってきていますので、すでにカードは用意させていただいております。
それからこちらが討伐報酬となりますが、ギルドの手数料を引いた金貨150枚となります。」
またとんでもない額だな。一生遊んで暮らせるだけの金は貯まったんじゃないか?
スナーブさんによると、王様や領主様とはギルドは関係なく、世界中に広がるギルドからすれば、俺達のような強い冒険者はそれだけでギルドを上げて応援するような地位となるらしい。
「ボリーバル様は野心といったものは聞かないお方ですが、もしものことを考えると、このまま都を出たほうが良いかもしれませんね。あ、カードが来ましたので確認をお願いいたします。」
カードを確認すると、5人全員が☆4つの【あらゆる依頼をこなす力がある。大規模戦闘などで前線に立ったり指揮をする】という身分になっていた。
できれば、それは親父だけにしてほしかったのだが、このような待遇だと後々困る気もする。
「スナーブさん、これは家族全員4つにしてしまうと、個々人での行動で困ることになるような気がしますが…」
「いえ、本当のことを言うと、このデンジーレには、コウサカさん一家の誰一人にでも勝てそうな冒険者はいないのです。新都には何人かいるかもしれませんが、それでもコウサカさん一家全員でいる場合、軍隊レベルでの相手でも撃退できそうです。」
スナーブさん…。まあ、想像できそうなのが怖い。
ギルドカードを全員で確認し、それぞれが持つことにした。
「ドワーフの郷に行く途中には何ヶ所か小さな村があります。これらの村にはギルドなどはないので、なにか問題などがあった場合に非常に困った事態になっていることがありますので、よろしければ立ち寄って様子を見ていただきたいのです。ドワーフの郷にはギルドがありますので、そこで報告していただけませんでしょうか?」
「わかりました。補給で立ち寄ることもありますでしょうから、見てみましょう。」
「ありがとうございます。こちらの手紙はこのギルドからの依頼で巡察を行っていることを記載しております。村でなにかあった場合村長に見せて署名をもらうことで、依頼料をギルドからもらうことができますので、有効に使ってみてください。」
スナーブさんが手を回してくれたみたいで、旅に巡察という仕事が加わった。
もしかしたら、賞金で生活費を賄えるかもしれないので、ありがたいことだ。
ギルドを後にして、アルソーさんの屋敷に帰る。
馬車1台に馬達の餌や食料品を積み込み、もう一台にはエアーベッドを敷いて、その上にみんなの荷物や換えの服などを入れておく。
とりあえずノアには貴重品や装備、最低限の携帯食だけを入れておき、ノアのルーフ上には、テントとキャンプ用品を積んでおいた。
一応緊急時にはノアでダッシュしてもいいように配置したが、後ろの馬車もなくなるとつらいことになるだろうな。
デンジーレの町中では、食料馬車を俺とルミナが御者し、箪笥馬車はドワーフ3姉妹に使ってもらう。ノアはブーモに引いてもらって親父とママと美月と猫達が担当だ。
猫達はブーモと一緒にいると大人しいのでかなり助かっているが、キャットフードを食べないで干物ばかりになっているのが心配だな。まあ、塩は使っていないので病気にはならないだろうが、ちょっと問題になるだろう。
みんなで別れの昼ごはんを食べていたら、やはりというか、心配していた通り、城からの使者が現れた。
「アルソー伯爵閣下。コウサカ様。ボリーバル公爵閣下からの使者でございます。」
ヨーゼフさんがアルソーさんと親父に向かい、使者の到達を告げてきた。
「さて、どう煙に巻いてやろうか!お前達は歯磨きでもして準備してろよ。」
アルソーさんと親父が使者の待つ応接間へ行くと、俺達は素早く身支度をして、馬車へと行く。
そして玄関を出ると、門の外に勢ぞろいしていた公爵家親衛隊を目にして、やっかいなことになるなとため息をついたのだった。
スケイルメイルはもっと評価されてもいいはず!




