003 一家でドライブ
家に帰るとママがなんとか復帰していた。美月と一緒に俺たちの様子を見に行こうとしていたらしい。
周囲の様子を教えると、美月と二人で天井を見上げ固まってしまった。
「太陽って二つあったらどうなるの?お月様は?」
「わからん。洗濯物が早く乾くかもな。・・・洗濯機は使えそうにないけど。」
ママはソファーに崩れ落ちた。
それから、親父を中心に今後について話し合いを始める。
「ここはどうやら、俺たちのいた場所ではないな。ご近所さんが消えたのかと思っていたら、元の世界から消えたのは俺たちのようだ。たぶんばあちゃん達ともここでは会うことはないだろうね。」
「ミアモール、どうするのよ。帰れないの?他に人はいないの?」
ミアモールってのは、ママが親父を呼ぶときに使うスペイン語だ。なんか愛する人とかって意味らしいが、俺や美月にも使ってくる。まあどうでもいい。
「一休みしたら車を使ってみようと思う。一応小さな道もあるからそれをたどってみるよ。ばあちゃんちのほうに向かって、少しずつ調べてみるか。」
「あ、私も行く!外を見に行きたいからお願い。」
ママがどうやら元気を出してくれたみたいだ。うちの一家は適応性が高いのだ。いつまでも悩むことをするより行動するほうがいいってわかっているからね。
「よし、みんなでドライブにいこう。水筒とお弁当をもっていこうか。」
「弁当って・・・ああ、ガスは無事なんだね。」
都市ガスと違い、田舎はガスボンベなので普通にガスは使える。以前の地震のときに、電気がなくてもおにぎりと味噌汁に、野菜炒めをさっと作ってくれた親父がいるのだ。今回もあまり心配はいらなそうだ。
でも肉やら生ものはどうするんだろう。買うことができないんだけど、なくなったら終わりなのだろうか。
「おし、なま物を全部料理してもっていこう。とりあえず野菜なしの海賊弁当だけどな!大知と美月は小屋からクーラーボックスとでかいバケツを用意してくれ。あと虫取り網と・・・のこぎりと軍手だ。バーベキューセットも持っていこうか。それからママは毛布を4枚用意して。後洗面用具と着替えをいくらかね。」
親父の掛け声にみんなで行動を開始する。
車に荷物を積み込むと、家からはいい匂いが漂ってきている。さきほど朝食を食べたばかりだから食べようとは思わないが、お弁当には期待しよう。
自分の家のノアに全員乗り込み、親父がエンジンをかける。無事に始動したのでそこで一安心したが、ノアでオフロードを走れるかどうかは賭けだな。
「全員シートベルト!話していると舌を噛むかもしれないから、パパが草原の運転になれるまでは、あまり話しはしないこと!」
親父は自分のことをパパというが、あまり似合ってないぞ?国際結婚するとそうなるのかな。
静かに走り出したノアは、がたがたとは揺れるがなんとか走ってくれている。さっき歩いてみた感じは、そんなに穴や石ころはなかったから、なんとかいけるんじゃないかと考えてしまう。それでも時速は30kmもでていなそうだけど。
「元の世界なら、10kmくらい先に大きな川があるから、そこを目指そう。橋がなかったらそこで今日は引き返す。」
走り始めて10分くらいすると親父が今日の目的地を言う。妥当だとは思うが、確かに橋がないなら車での渡河は無理な川だ。車を使えないとなるとかなり困ったことになりそうだ。
そのとき前方になにか見えた。いや、正確には獣道がなくなったのだ。
辿っていた獣道が消え、ある程度幅のある街道のようなものにでくわしたのだ。
みんなで車から出て道を見てみると、馬車の車輪が通るようなわだちを見つけた。どうやら少しは使われているようで、下草もあまり伸びていない。
せっかく見つけた道なので、ノアを走らせて見ると、結構スムーズに走れるようだ。親父も運転がらくになったのか、先ほどまでの運転でこった肩を片手でもんでいる。母親はスマホが使えなくなった状況に絶望して、道なんかどうでもいいようなことを言っていたが。
「道があるってことは、とりあえず誰かはいるってことでよさそうだね。村かなんかあるのかな。」
「人間がいればいいんだが、同じ姿してるかどうかわからんのが怖いな。とりあえず突っ込んでいくことはやめとこうか。遠くになにか見えないか見張っていてくれ。」
そのまま道を進んでいくと、遠くにきらきらと輝く川の流れを見つけた。元の世界にもあった川だが、もちろん河川工事なんかされていない自然のままの川だった。
道の前方にはしっかりとした木の橋があったので、親父と一緒に降りて強度を確認してみる。よく見るとところどころ隙間はあるが、車でも渡ることはできそうだ。
一番狭い場所を選んで架けたようで、橋の長さは15m、高さは2mくらいのものだろう。
車に戻ると不安そうな二人がまっていたが、橋を渡ることを伝えるとしぶしぶながら承諾してくれた。
ノアを橋に進めると、タイヤの下からみりっみりっといやな音がしてきたが、なんとか進めるようだ。なんて透明な川だ。現実世界では結構生臭い匂いがしていたのだが、泳ぐ魚まで見える。そんな光景を楽しんでいたのは俺だけみたいだけどね。後ろできゃあきゃあうるさい二人は親父が必死でなだめていた。
無事橋を渡り終わり、橋の袂で昼飯にする。ノアの後ろを開放してみんなで弁当を食べる。俺が学校に持っていく予定だったメンチカツサンドと卵サンドのほかには、親父が握った塩にぎりと、牛丼の具のような肉煮、鶏肉のコショウ焼きだった。それを麦茶とコーラで流し込む。
「川があるってことは魚釣りはできそうだな。家から10kmくらいはあるけど、なんとか歩いてくることもできそうだ。」
親父と食料確保の一歩を話していると、ママと美月はあきらかに嫌そうな顔をしている。俺と親父は大丈夫なのだが・・・
「お米がある間は魚なんか食べないからね!他に食べられる動物とか木の実とか探すわよ!」
やはりこうなるようだ。困ったことに、この二人は魚を食べないのだ。
まあ、元の世界では親父と一緒に釣りに行くから、小屋に釣り道具は腐るほどある。落ち着いたら親父と釣りにこよう。
昼の後片付けをしてから、ノアに乗り込むとまた道を南に進む。
しばらく進むと前方に畑らしきものが見えてきた。なんかにんじんっぽいが、ほかにもいろいろありそうだ。のどかな光景とは別に車内には緊張感が漂ってきた。とりあえず姿を見るまではこの状態だろう。
頑張って投稿します。よろしくお願いします。