028 戦利品
12/3 ドワーフの郷の位置を修正しました。
ルミナが親父とママを呼ぶときの呼び方を修正しました。
深夜の道は、ノアで走るのにはかなりきつい。
がっつんがっつん床下からなにかにぶつかる音が聞こえてくるが、エンジン音は快調なのでペースは落としていない。
そんな状況でも、親父以外はしっかり寝ていた。親父は睡眠がなくてもいいくらい体調はいいらしい。
都を守る城壁が見えたところで、ブーモにノアを引っ張らせ、24時間営業のギルドへと向かう。
ほぼ朝だったが家族全員が起床し、ギルドへ乗り込んだ。
夜間だからか、おっさん二人がカウンター業務をしていた。
俺たちが姿を現すと、昨日の係員さんがすぐに対応してくれた。
もう一人は、奥に行ったのでギルドマスターのスナーブさんを呼びに行ったのだろう。
「コウサカさま、まさか…ダンジョンからのお帰りですか?」
親父が討伐の証として、魔玉といくつかの装備装飾品をカウンターに取り出すと、係員さんは目を丸くしていた。
スナーブさんもすぐにやってきて目を丸くしていた。
「おはようございます。まさかもう討伐完了でしょうか?」
カウンター上の物を確認し、眼を見開いてから労いの言葉をかけてくれる。
「ちょっと時間が掛かりましたけど、魔玉と吸血鬼からの戦利品です。」
「時間は全く掛かっていませんよ…。最後のボスは吸血鬼でしたか。なかなかの逸品もありそうですね。鑑定が必要でしたら、別室に移動して私がやりますが?」
「いや、アルソー伯爵に早めに安心していただきたいので、あちらで鑑定していただきますよ。こちらではギルドカードの手続きをお願いします。」
「わかりました。それでは吸血鬼ダンジョンは討伐済ということで、のちほど調査隊を派遣して確認します。そのため、カードの発行には二日ほど必要ですが宜しいでしょうか?」
「了解しました。伯爵邸に滞在しておりますので、連絡下さればすぐにお伺いします。」
アルソー伯爵には早めにルミナの無事な姿を見せたいというのが、高坂家の一致した想いだったので、ギルドを足早に出た俺たちは、すぐにアルソー邸へと向かった。
早朝ではあったが、アルソーさんはすでに起きだし、庭の手入れをする振りをしながら、ルミナの帰還を待っていた。
「おお!おはようございますみなさん!首尾はどうでしたか?ルミナは怪我しなかったか?」
「お父様、私は大丈夫ですから落ち着いてくださいね。皆様お強くて、ダンジョンの攻略を一日で成し遂げてしまわれました。」
「な…なんと…。私が思っていた以上に高坂様はお強いようで。これで、安心してルミナも旅立たせることができます。ささ、中へお入りになって、朝食をご用意させていただく間、お話を聞かせてくださいませ。」
みんなまずはお風呂の用意をお願いしてから、お宝の鑑定をお願いした。
まずは金貨と銀貨の入った宝箱だが、宝箱自体がお宝だった。
魔力により開閉するのだが、なぜか現在の持ち主は親父とママになっていて、他の人間には開閉ができないようになっている。
恐らくは前の持ち主にダメージを与えたり、倒した人間のものになるのだろうか。
大きさはランドセルくらいだが、外側は金箔が貼られ、宝石が綺麗に並べられている。
中に入っていたのは、大抵が金貨でありそれに貴金属や宝石がいくらか混じっていた。
さすがに吸血鬼ともなると小さなダンジョンでも貯め込んでいたようだ。
アルソーさんはいくつかの品物を宝箱から取り出し言った。
「残りのものからは魔力は感じませんので、おそらくこのネックレスと指輪2個が加護の力を持つ装備となりますね。
他の物は貴金属店で売るか、ご自分の装身具としてお使いになられるのが良いでしょう。」
「そのネックレスと指輪の効力はどんなものなのでしょうか?」
「ネックレスは身代わりの効果がありますね。ただしそんなに強力な魔力は感じませんので、打撲とか打ち身などの身代わりをしてくれるくらいでしょう。」
「指輪のほうは、暗視と遠目の効力がありそうですね。これは吸血鬼が使っていたものでしょう。」
指輪のほうが結構使えそうだな。ネックレスは売り物にしたほうがよさそうだ。
親父がまたもや俺のほうにぽ~んとその3つを投げてよこすので、とりあえず受取っておいた。
するとルミナがネックレスのペンダントトップにある黒い宝石に興味を持ったようなので、すぐに首へと着けてあげた。
にこ~っと微笑む顔に俺もへら~っとしたら、周りから咳払いが頻発したよ…。
「それでは、吸血鬼のドロップを確認しましょうか。魔玉は、ああ、美月さんが持つことにしたのですね。立派なものですね。」
あの時拾った魔玉は美月が持っていた。
そのまま能力を授けてもらえるまでは美月に持たせると親父は言っていたけど、なんの能力がもらえるのかちょっと楽しみだ。
変身能力なんか美月に備わったら、一日中遊んでいそうだな。
確か吸血鬼からのドロップはマントと指輪、それから手袋だったな。
「このマントと手袋は防御力のかなりいい装備です。どなたがお使いになられても、かなり有効でしょう。それから…」
みんなびっくりしたのだが、アルソーさんがテーブルに額をこすりつけ、親父に向かって懇願する。
「コウサカさん、やはりルミナがあなた方にお会いできたのは、天のお導きなのでしょう。この指輪は遮蔽の指輪と言う希少価値の高い指輪です。」
「遮蔽の指輪?それよりアルソーさん、お顔を上げてください。これがどうしたのですか?」
「失礼しました。遮蔽の指輪とは、吸血鬼達が外に出るためのアイテムなのですが、完全に太陽の影響を受けなくするアイテムなのです。」
「え?じゃあルミナは!?」
「そうです。これを装備することにより、普通の人間と同じ暮らしをできるようになります。」
ルミナはびっくりして飛び上がり、その後目を見開いたまま涙を流し始めてしまった。
アルソーさんはルミナを抱きしめ、喜びをかみ締めていた。
「さあ太陽も仲良く上がってきています。効果のほどを確認しましょう!」
親父がみんなを玄関に誘うと、みんな喜んで外へとでることにした。
空にはいつも通り双子の太陽が上がり、今日も暑い一日になることを予感させる。
指輪をはめたルミナは、玄関の庇から体を一歩進め、太陽を見上げる。
「ソルとストレーヤの兄弟を見上げることができるなんて…シュウイチさま、本当にありがとうございます。これで、ダイチさんと一緒に旅の空を手を振って歩けます。」
「シュウイチさまじゃないよ。お父さんと呼びなさい。ネナのことはお母さんね。ルミナはもううちの娘になるんだからね。」
今日はルミナの目から涙が消えない日のようだ。
親父とママはルミナを抱きしめ、祝福の言葉をかけてあげていた。
せっかく外へと出られるようになったのだからと、朝食はテラスでいただく事にした。
ルミナのお母様と姉妹達もやってきて、みんなで抱き合って喜んでいたよ。
アルソーさんの家には浴槽があった。表面に抽薬をかけてから焼結させたレンガを綺麗に敷き固めた浴槽だが、大きさはユニットバスくらいしかない。
それでも貴族の屋敷にしかないらしく、魔玉で水を出した後、金属製の釜で循環させた水を温めているようだ。
そういえば、ママはお湯を出せないのかな。
「なんか冷やすことはイメージで簡単に成功するんだけど、温めようとすると火のイメージが出ちゃって水でしかでてこないのよね。」
なるほど。温めるのは火の精霊の仕事になっちゃうのかな。
みんなで順番に入り、いつも通り親父が最後に入って浴槽を洗って出てくる。
おかげさまですっきりしたけど、今後の旅でお風呂は結構問題になりそうだ。
3姉妹も交えて朝食をいただき、今後の予定を話合う。
明後日の朝にはドワーフの郷へと出発することに決め、その工程をノートに書いていく。
「そのノートというものはとんでもなく上質な紙ですね。日本という国はやはり素晴らしい国のようだ。」
作り方とかは多少はわかるが、その方法で作るような紙ならばこの世界にもある。
ここまで上質な紙というのは、それこそ工場で作るレベルのものだから、再現は無理なんだよね。
ドワーフの郷は、デンジーレの都から北方にある山脈をいくつか越えて、その山中にある盆地らしい。
北方というから寒いのかと思えば秋のような気候のようだ。
やはり日本の北部に住んでいた俺達は、まったく違う世界に飛んできたようだとあらためて思う。
山沿いに道があるというのだが、ノアで行けるかどうかは微妙なところらしい。
普通の馬車が通る道はあるそうなので、それを期待して進むしかなさそうだ。
とりあえず、3人娘の馬車に加え、アルソーさんの馬車もお借りしてブーモと馬4頭で引いていくことにする。
アルソーさんには馬車と馬2頭分の代金を支払っておく。さすがに借りて返せる保障もないしね。
ノアが先頭で、馬車2台を引っ張り、馬は後ろを走らせればなんとか休憩も少なく進めるだろう。
いざとなったらノアでダッシュすればどうとでもなる。
後ろ2台の馬車には食料品と寝具や衣服を載せて、ノアに8人か。ノアの二台と上に貴重品や手回り品を載せておく必要がありそうだ。
吸血鬼の城から持ち出した金貨は、余裕で1000枚は超えていた。もう1億円とか思考が追いつかないので、親父以外はお金のことを考えることをやめてしまったよ。
ただし、魔法の武器や防具は一組で金貨1000枚のものまであるそうなので、いくらあっても困らないというか、足りないのかもね。
ひとまず、アルソーさんに頼んで、一ヶ月分の食料を用意してもらうことにした。
俺達は、軽い鎧といくつかの武器を補充するために、今日一日はショッピングすることにしたのだった。
ルミナのドレス姿は惜しいが、さすがに旅には無理だからね。
いいよね!
なんでこの世界には冒険がないんだ!!




