017 3姉妹
『なろうコン大賞』挑戦中
その光景はろくろを回して陶器を作る光景に似ていた。
渦巻きを中心に持つ炎の柱が20mくらいの高さまで立ち上っている。
山賊達は声を出そうとした瞬間に、肺の中の空気を一気に炎に持って行かれ、声も出すことができないまま、窒息していく。
馬達も同じように何度かいななくと、ばたりと倒れていく。
「親父、これって気絶してんのか?それとも窒息死してんのか?」
自分がやっていることではあるが、現実離れしている光景にぼーっとしてしまう。
「蘇生作業しないと、お前を殺人者にしちまうな。よし、3分の1は残っているが、もう動けないだろう。魔法を消してくれ。」
魔法を消した瞬間に、ママが水を竜巻状にして灯油を巻き込ませ、あたりを消火していく。
親父が考えた討伐法は、火と風を利用した窒息であった。
竜巻で火を大きくし、竜巻の中の空気をすべて燃焼に使う。そうすることで中にいる山賊は酸欠の空気を吸い込み、一気に意識を失うのである。
これで蘇生法を用いなければ最悪死に至るのだが、やはり人殺しには抵抗がある俺達は、無事な奴の両手両足を縛った後、山賊仲間に人工呼吸をさせる。
「ほれ、鼻塞いで、顎あげさせろ!そんでぶっちゅううと口と口を合わせたら、息を吹き込め!何度もやるんだぞ!」
地獄がそこには広がっていた。
おええ・・・
山賊には人工呼吸をさせておき、俺と親父でアンパンマンのテーマを歌いながら、心肺蘇生を施していく。
本当は人工呼吸は蘇生法に必要ないらしいのだが、親父の趣味でやらせてるんだろう。
気道を火傷したような奴も何人かは見かけたが、大体は無事なようだ。すでに両手両足を工事用トラテープでぐるぐる巻きにされているため、なにもできないはず。
粘着力最強。ついでに口にも貼り付けておく。
しかし、こいつらなんか関係ない切り傷が多いな。俺達の他にも誰かと戦ったのだろうか。
「さて、あんたが頭領らしいな。とりあえずアジトを教えてもらおうか?」
親父が思いっきりテープを剥がしたら、トラ髭も一緒にごっそりと抜けたようだが、気にしないことにする。
「てっめえ!覚えてやがれ!どんな魔法を使ったかしらねえが、絶対に許さねえからな!お前の家族全員ぶっこあべし!」
あ~あ。家族になんかしたら、親父に魂まで消されるぞ。
言っておくが、俺の2倍ある横幅は脂肪じゃねえぞ。ゴリラなんだぞ。
頭領さんはもうふがふがとしか話せなくなっていた。
頭領はそこらへんに転がして、一番年上っぽい爺さんのテープを剥がす。
「ひぃ…こ、この道をすす少し西にもどお、戻っていくと、右の方に小高い岩山があって、そそその裏にどど洞窟があるんじゃ」
「何人残っている?」
「た…たぶん、4人くらい、戦いに使えない子供ばかりのはずだ…です。」
「お前らが追いかけていた相手は?」
「都からきた奴らだ。たぶん売られるかどうかしそうになって逃げてきたんじゃねえか?でも見た感じはまだちっちゃいのか小柄なのかしらんが、うまそうじゃなかったぞ。…です。」
必要な情報は手に入れたので、山賊と馬を整理することにした。
馬は11頭、山賊は14人いた。馬は頭絡とハミに手綱を結び、一列で引けるようにしておいて、ノアの後部へとつなぐ。
山賊どもは全員の手をトラテープで結び、大岩の周りにぐるっと数珠つなぎにしておく。まあ、都からここまで2,3日で着くなら、警備の人が確認に来るまでなんとか生き残ってくれるだろう。
山賊を繋いでいると、逃げていた馬車が、美月の乗ったブーモとともに帰ってきた。
「3人とも無事だよ~。怪我もないし、元気みたい。」
3人が近づいてくると確かに小柄ではあるが肉付きはしっかり・・・
てか、みんなうちのママみたいなドラミちゃん体系なんだが。しかも髭っぽいものまで生えてないかあれ。
かなり愛くるしい顔ではあるが、ちょっと人族とは違った人種ではないかと思う。
大人には見えるが、ママよりさらに10cmは背が低い。
あ、足短いな。あれだ短足族だ!
初めて見た短足族はオーストラリアのアボリジニの人達のイメージが近い。浅黒い肌と、剛毛、くっきり二重に厚い唇など、愛嬌はあるけど原始的なイメージだ。
あの山賊達、良く見ないで追いかけたんだろうな。
さっきまでんんん~~~(離せ~~~?)とかおおええおおお~~~(覚えてろ~~?)とか唸ってた山賊達が、その3人を目にしたとたん、14人が一斉にがくっとうなだれてしまったのが気の毒だった。
「んうばあばばぶあうぶばぶん」「うがあうばばうぶばういおばうん」「ばううばぶぶん」
「本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れませんって言われたから、忘れていいよ~って答えておいたよ。」
おい美月。どこで覚えたんだ。でもこのパターンで行くと、美月は言語チート持ってるよな。おそらく公用語は日本語でいいんだろうけど、他の部族はこのパターンか。
なんか、3人と美月が車座になって、こそこそ話している。そして4人で俺の方を向くと一斉ににやりってやりやがった。無視だ無視。
「ホントウニアリガトウ、ミヅキカラタビヲシテイルキキマシタ。ミヤコヲコエテワタシタチハブゾクノマチモドリタイデス。イッショニツレテイッテモラエマセンカ?」
聞きづらいけど、短足族の町に戻りたいから連れて行ってということだな。
まあ、急がないでいいのならいいんじゃないか?と親父は言っているので、俺も頷いておいた。ママも異論はないらしい。
3人は働ける状態ではなくなったデンジーレの都から落ち延び、ロッカの町に行く予定だったそうだ。なけなしの財産で馬車を購入し、壁をくぐって街道に出たとたん、山賊どもに追いかけられてしまった不運な子達だ。
ロッカの町には鍛冶屋があまりないため、家事や畑用の包丁や鍬、鋤を売ろうとしていたらしい。しかし逃亡しているうちに、山賊相手にすべて投げつけてしまって、売り物がなくなってしまったらしい。
ああ、山賊達の傷ってそうやってつけられていたのね。つおいんだね。
確かに都からここまで、かなりの距離を逃げてこられたわけだ。
3人の名前は、ブーナにヤーナにキーナと言い、姉妹だという。3人の容姿は似通っており、黒髪剛毛、浅黒い肌、ドラミちゃん体系で、眼はぱっちり二重、唇は厚いが愛嬌のある顔だ。
服装はなんとなく昔のワンピースといった形で、足元は編上げのサンダルっぽいものを履いている。特徴的なのは頭のてっぺんで結んだパイナップルのような髪型だ。
親父、デンジーレの都に行けばたぶん貴族の令嬢もいるはずさ…
とりあえずノアに親父とママと3姉妹、馬車、馬、最後尾にブーモと美月と俺で街道を進み、山賊のアジトへと向かう。
すぐに小高い岩の山が見えてきたので、裏手を探索してみるとすぐに洞窟が見つかった。別に扉とかはないが、丸太でバリケードはしてある。
「入口近くに4人、黄色の気配だからあまり痛めつけなくてもいいかもな。奥にはだれもいないようだが、洞窟なのでよくわからん。さて、いってみるか。」
「ご”おおお ら”あああああ!!さっさと出てこいやああああ!お前らの頭領はもう降参したぞおおおお!!」
親父の胴間声が洞窟を揺らすように響く。ラグビー部と応援団を掛け持ちしていた親父は、大声援中の野球場でも、その声が野球場の外へと通るほどだったと自慢していたが、あながち嘘じゃないかもしれない。
結局中にいた4人の少年は、武器も持たずにすぐに出てきた。
「お前達の頭領はすでに捕えて縛っておいた。お前らは今からデンジーレへと連行するから、大人しくするように。それから、お宝の位置を素直に教えるように。」
親父がそう言って手をトラテープで縛っていく。少年達は中学生くらいかと思うが、それなりの目つきになっていたので、結構悪さはしてたんだろうな。
この世界に校正施設でもあれば多少は良くなるかもしれないが、放っておけば、盗賊になるしかないんだろうな。
4人とも美月に見とれていたが、そんなに飢えていたのか…かわいそうに。
でも、美月がお宝のことを聞くと、素直に全部白状してくれた。
貴金属だけでもナップザック一つ分になり、換金と鑑定が楽しみだ。
すでに朝日が昇ってきていたので、そのままデンジーレまで行くことにした。
ノアに3姉妹を詰め込み、馬車の荷台には山賊たちの装備と、4人の少年を縛って放り込み、御者台には俺と美月が乗った。馬車はノアに引かせるので、御者台の上で俺たちは居眠りしていた。
そしてデンジーレの都がついにその姿を…うわ、寂れてるよ…。
とりあえず、ブーモにノアを、馬に馬車を牽いてもらうために、みんな協力して準備をした。3姉妹によると、ミヤコノナカトソトトアマリカワラナイヨとのことだった。
令嬢…
正直すんません。