016 山賊戦
12/4 町の位置関係と国の名前修正
相変わらず車内で流れるラテン音楽にぐったりしながらも、ノアは一路西へと向かっている。
ゲンネーさんのいたロッカの町からは、人の足で6日ほどということだったので、およそ300km前後と考えていたが、ロッカの町から100kmほど離れたところからは山越えとなっている。
標高はまったくわからないが、広葉樹の生え方からして、もとの世界とはまったく違った気候であるということはわかった。
元の世界ではこのあたりは亜寒帯に近い気候で、針葉樹しかないさみしい山しかなかったのが、一面ジャングルばりの森が広がっている。
ノアの走る道もぬかるみが何ヶ所かあり、ブーモに引いてもらって乗り越えたりしていた。
標高が高くなるにつれ、あたりの景色は乾燥した平原となり、モンゴルあたりの景色を思い出す。
まわりに山などはあまりないようなので、ここらへんは高原ということになる。
「結構登ったと思うが、気持ちいいなあ」
「そうね、今夜はこのあたりで早めにキャンプしてもいいんじゃない?」
「でも、本当に隠れるところもないから、雨が降ったらめんどくさそうだぞ?」
「大知の言う通りかもなあ。もう少し進んでみるか。この高原の先あたりにはもう、デンジーレの都とかがあるらしいしな。」
高原の先には、乾燥しているが、大きな岩とかがありそうなので、身を隠すためにももう少しだけ進むことにした。
「そういえば、ブーモのこととかゲンネーさんに聞かなかったの?」
「おおお!そういえば、パーティーのときに聞いていたんだっけ。精霊のことやら、都のことやら聞いていたんだが、酒飲んだらすっかり言うの忘れてたわ。すまん。」
ということで、ドライブしながらこの世界の説明を受けることになった。
まずこの世界にある魔法とは、精霊の力を使わせてもらうことで発現するものであり、ママの水魔法は水精霊が、俺の風魔法は風の精霊がそれぞれ力を貸してくれることで発動するのだそうだ。これらの精霊は目には見えず、その精霊に好かれた人間にだけ力が現れるそうだ。
それらの魔法には決まった使い方というのはなく、使う人間のイメージによりいろいろな形で使えるそうで、俺は竜巻の形にしていたが、イメージ次第では切り裂くような形で使ったり、体そのものを包んで力を使ったりすることも可能ということだ。
俺の縮地みたいな魔法は、風精霊が運んでくれることであのような効果となっているのだろう。
その話を聞いたので、窓を開けて風の中に手をかざしてみる。すると俺の腕の周りになんとなく精霊を感じるような気がしてうれしくなってくる。
「これからもよろしくな」
とつぶやいてみると、やさしい風が頬をくすぐるような気配が・・・
「「「大知がなんかきもい!」」」
こんな家族だったのを忘れていた。ごめんな精霊たち。
ブーモについては、ゲンネーさん達全員が驚いていたそうだ。
そもそも上位精霊とは力のある精霊が何匹か集まって生まれてくる、土地神のような存在であり、人とはあまり交流してこないため、姿を見ることも珍しいそうだ。
なぜその存在を町の人たちがすぐにわかったのかというと、その瞳に秘密があった。
ノアにブーモを引かせようと思ったとき、まじまじとブーモを観察したことがあったのだが、そのとき瞳の色が金色だったことに気づいていた。
ゲンネーさんの話によると、伝承や昔話に出てくる上位精霊とは一様に金色の瞳をしていたらしい。
改めて、後部座席で丸くなっているブーモに呼びかけ、こちらを向かせると、たしかに綺麗な目をこちらに向けてくる。
てか、お前が寝ているのは俺の服じゃないかい?しかも誕生日に買ってもらったダウンジャケットの中身が出ているのはなんでだい?やっぱこいつはただのヘラジカって扱いでいいだろう。
いつもなら車に乗せるとにゃあにゃあうるさい2匹も、ブーモに寄り添って大人しくしている。それだけでもまあジャケットのことは許してやろうかという気になった。
「伝承によると、上位精霊を使役する人間が過去にはいたらしい。使い魔のように上位精霊を使い、魔族を退けたとかって話まであったらしいぞ。」
魔族?今もいるのかな?やっぱり悪魔のような存在なのだろうか。
「ああ、魔族ってのはただの伝承にしか残っていない存在だよ。日本で言う妖怪みたいなもんだろう。いたら面白そうなんだがな。」
いなくていいですよ。この旅行中は、トイレもそこらですませているから、そんなもんいたら怖いわ。
親父の話を聞いていると、そのうちまわりには大きな岩がごろごろと転がっているような場所に出たので、適当な場所を探してキャンプすることにする。
本日の夕食はステーキ丼ですよ。親父はついに肉をあきらめ、干し魚を隅っこで焼いていた。ブーモも魚のほうがいいらしく、親父と争い始めたが、猫共が一番でかい干し魚を咥えてノアの下にもぐったのには気づいていなかった。
日が落ちると、親父はワインを飲みながら今から行くデンジーレの都の話をしてくれた。
「今から行く場所はデンジーレと呼ばれているのは話したよな。この都や、ロッカの町や猫族の集落などは、モンブシオという国らしい。モンブシオ王国という、王族のいる国家で、比較的亜人種も住んでいる。ただし、人間は俺たちと同じ黒髪黒目の人間が多く、それ以外の金髪やら青い目やらの人間ってのは少ない。まあ、少ないってことはいないってことじゃないから、見ることもあるだろうな。」
「大知はロングヘアーの青い目の女性が好きだから残念でしょ?」
ちょっとまて、いつの間にそんな設定になってんの?まあ、嫌いじゃないとは言っておくけどさ。
そのデンジーレの都なのだが、都であったのは一昔前までらしい。いまは、首都はヌエボデンジーの都ってのに移っているらしく、デンジーレは無法者が流入してきたりして治安がかなり悪化しているようだ。
その理由ってのが、モンブシオ王が海洋国家を目指す宣言したのが発端で、デンジーレから南西方向に大きな港を作りそこから別の国家と交易を始めたのだそうだ。
その港から川に沿って護岸工事を行い、新たに開いた町を首都にすると宣言して、デンジーレからヌエボデンジーと住民を強制移住させたのが、ここ最近の出来事なのだ。
ゲンネーさんなんかは、ロッカの町を捨てるわけにもいかず、そのまま留まる事になったそうだが、一定以上の身分を持つ貴族連中はもうデンジーレ領主以外はそんなにいないかもしれないと言っていた。
夜半過ぎに話を切り上げた親父は、ふと遠くに視線を向ける。
「ん~。赤い気配がこっちに向かって来ているな。結構多いぞ。」
なに!これはこっちのステーキの匂いにつられたってことか?
「赤い気配の前に馬車がいるけど、これは普通の人たちだな。3人くらいが乗っている。山賊に追いかけられてるって感じだ。よし、助けに行くぞ。」
さっすが親父。自分から火事場に飛び込むのを躊躇しないとこなんて、一家の大黒柱っぽくなくていいぞ!
「大知、灯油缶をもて。美月は矢に布を巻いて、灯油をかけといてね。ママはブーモとお留守番!」
「やだ。」
「ママはブーモに乗って水魔法で援護お願い。」
「はい!」
親父、言っても無駄だってわかってるだろ。ママは絶対に親父から離れないよ。
でも美月を最初から連れて行く気になるなんて珍しいね。やっぱ火計には弓矢がベストって考えなのか。
「たぶんあの一段低いところが一番火攻めに使えそうだ。大知、あの岩の始まりのところと、こっちの狭いところに灯油を撒いて来い。時間は2分ないぞ!たっぷり撒かないと意味がないから、それ全部使えよ。」
親父に返事もせずに飛び出した俺は、すぐに灯油で罠を作る。もう地響きはすぐそこまでせまっているようだ。
「美月、馬車があの罠を通ったら、山賊を通す前に火矢を放て。」
「火矢ってなに?ひゃあ?」
親父、三国志を好きなのはわかるが、ちゃんと説明しなさいな。
岩の陰で美月は火矢の準備をする。ママはライターを持っていつでも着火できるように構えている。
灯油缶の中身を全部撒いたあたりですぐ近くから山賊の掛け声が聞こえてきた。
「いやっほおおお!女だけだぞ!早く捕まえて楽しもうぜ!」
「おかしらああ!自分だけで持っていくなよ!おれらにもわけてくれえええ!」
なに!女だけ!?親父とアイコンタクトをとり、やる気を150%UPさせる。いて!いたい!なんで後ろから石が飛んでくるの!ごめんってば!
やべ、親父が倒れた。ああ、なんとか起き上がってるけどふらふらじゃねえか。近くにはスイカくらいの石が落ちてるけどまさかあれが直撃したんじゃ・・・
ボシュ!ボシュ!
あ、火矢が飛んでった。いつの間にか馬車が親父の横通ってるしさ。めちゃめちゃじゃないかい?
先頭を駆けていた山賊が止まりきれなかったみたいで、炎を浴びながら罠を抜けてきたが、すぐに親父がベヒモスの角を振り回し、罠の中へと山賊を打ち返していた。あら、楽に止めを刺すつもりはなさそうだね。八つ当たりだろうな。
「だれだおめえら!こんな火に俺らを止められるとでも思ってんのかあああ!」
なんか火の向こうで山賊がわめいているが、親父はここからどうする気なんだろう。灯油なんで山賊はせいぜい火傷するくらいだろうし、数も十数騎いそうだ。
「さて殺さないように一網打尽にするにはどうすればいいかな。」
あ、親父無策だったな。暴れるしかないか。
「おし、試してみよう。大知、風魔法をあの罠の真ん中へ叩き込んで、上昇気流を作ってみてくれ。規模は火が消えない程度で最大の大きさ、どんどん火は巻き込んでいいぞ。」
お、なんか思いついたらしい。
実は火遊び大好き。