015 旅立ち!
「ちっちゃくな~れ」
ママの魔法でも悲しい事に家は小さくなることはなかった。ママの魔法が通用するのは今のところブーモだけのようだ。
木や草、車や小屋、他の動物など、いろいろなものに試したのだが、ママの魔法が効果を表すことはなかった。
「もう、なんでブーモにしか効かないのよ!ちょっとブーモ、上位精霊とかよくわかんないけどどうにかしなさい!」
ちょっと無理なお願いじゃね?家を引いて動かせるほどの力もないだろうに。
ところがブーモはなんかやる気出してるぞ。しかもみんなを家から遠ざけるように外側に向かって押し出し始める。家の周囲に俺たちや動物たちがいなくなったのを確認したら、納得したような声を出した後、ブーモは叫んだ。
「ブモ。ブウウウモオオオオオオ!」
叫び声は続き、地鳴りが始まる。
ゴゴゴゴゴっという音が家のまわりを取り囲んだ。
そのとき、家の周囲の土がもこっと盛り上がり始める。
その盛り上がりはどんどん周囲に広がり始め、外壁に沿って土の壁が地中から現れてきた。
やがてそれは周囲の土地そのものをひっぱり始めるような動きになり、草原そのままの屋根までも覆いつくす土のドームになったのだ。
「おおお!さすが土の上位精霊様!」
「ブーモすごおおおい!かっこいいよ!」
「ブーモすげえ!もちろんノアは出せるんだよな?」
魔力切れのブーモはそのあとぐったりとして、魔法を使えなくなったようだ。
親父と一緒に出入り口を作ろうとしたのだが、この土の壁セラミック製じゃないのか?手じゃなにもできなかったので、とりあえず小動物を愛でてブーモの回復を待とう。
ブーモが回復したのはあたりが真っ暗になりかけたときだった。
ノア1台がやっと通れるくらいの範囲で、土壁を切り取ると、そのまま板のように取り外すことができた。厚さは50cmほどだが、材質は完全にセラミックのようになっていた。
魔法を使わないでも、そのドアにちょっと土をかけてやるだけで完全にカモフラージュできる。これでセキュリティも万全で出かけることができるだろう。
荷物は思ったより多く、助手席と運転席以外は荷物で埋まってしまった。
親父の計算では後ろのシートを倒すだけで十分詰めるはずだったのだが、どうしたことだろう。
一回荷物を降ろして見たところ、大きな衣装ケースが4つでてきた。
「だって着替えはいっぱいないとだめでしょう?」
ですよねえ。
ノアの上のキャリアーには、テントやらバーベキューセットやらのっけていたが、いったん降ろして衣装ケースを置いた後、さらにテントとバーベキューセットを置くことになってしまった。
さあ出発というときに、入り口をくぐれないことに気づいてしまったのがいつもどおりの高坂家であった。
なんだかんだとあたふたしながらやっとドームの前にノアを準備し、ブーモも小さくして荷物の上に遊ばせておく。
家の戸締りと、ドームの偽装を終え、ついに準備完了となった。
みんなで乗り込むと、まずはロッカの町へ向かい、高くなった太陽の下高坂家の旅は始まった。
前回は道も距離もまったく検討つかずで行った町ではあったが、今回は多少の余裕がある。前回宿泊した場所を今日の目標として飛ばせそうな場所は結構なスピードを出して走破していく。
馬車を用意するという案もあったのだが、いざというときにノアは絶対必要だということでノアでの旅となった。
ノアでの旅ということで、車内にはママのお気に入りCDが流れている。
(((地獄だ・・・・)))
エンドレスで流れるラテン音楽にママ以外はぐったりしていた。早くエンジンを切ってほしいとみんなが思っていたよ。
「さて、今回は車中泊ではなくテントで寝るぞ。俺と大知でテント張り、ママと美月はご飯準備だ。」
今夜はご飯とコンソメスープ、そしてステーキだ。ステーキばかり続くのは一番簡単で手間が少ないからだが、親父は腹にもたれるとかなんとか言いながら漬物とスープとご飯だけで済ましている。
結局みんなが残したステーキをもったいないといいながら食ってたけどね。
前は必死だったから気がつかなかったのだが、夜空がすごいことになっていた。月は見えないのだが、この世界にあるのだろうか?田舎の夜の星空も降ってくるような綺麗な星空なのだが、ここの星空はまるでつかめるようだ。
月もないのに、周囲が星明りでぼんやりと見通せるほどだ。
親父とママはワイン(赤い玉が描かれている奴)を喜んで飲んでいるが、おいしいのかな。ちょっともらって飲んだら、ぶどうジュースより甘いんじゃないか?おいしいので俺も一杯もらうことにした。
親父が言うには、昔は15歳が成人だったから問題なしってことだったので、遠慮なくもらっていたら、途中で記憶がなくなったよ。
なんか裸になって踊っていたとか言ってたけど、そんなことするわけないじゃん!
ママがスマホのカメラで見せてくれたけど、そこには親父にお姫様抱っこされる生まれたままの俺が写っていた。
今すぐそれを消せ!消して!お願いだから消してください。
翌朝早いうちにロッカの町へと到着した。
まずはゲンネーさんの館に顔を出し、手土産のワインと干し魚を渡す。
「これはコウサカ様、お変わりございませんか?」
「こんにちはゲンネーさん。今日はお願いがあって立ち寄らせていただきました。実は、都にどなたかお知り合いがいれば紹介していただけないかと思いまして。」
親父の目的は、都で自由に動けるように、身分を証明してほしいといったことらしい。
「それならお安い御用ですよ。すぐに手紙を書きますので、少々お待ちください。それから、身分については、ギルド員になるのが一番手っ取り早いので、システムについてノッシュから説明をしておきましょう。」
「助かります。それではよろしくお願いいたします。」
ノッシュじいさんにギルドの説明をしてもらう。
どこの異世界でも同じようだが、依頼を受け、それをこなし、報酬を受け取る流れが基本である。
そのときにカードやら水晶玉やらに情報が出るのかと期待したのだが、この世界はそんなのはないらしい。
どんな依頼であっても成功するかどうかは、炎の占いで見ることができるのだそうだ。
この炎の占いというのは、依頼書を魔法使いに見てもらい、その魔法使いが出した炎の上に手のひらをおくことで、やけどしたらその依頼は荷が重いとなり、炎がつぶれたら依頼をこなすことができるというようになっているそうだ。
大体、自分の身の丈にあっている依頼であれば、やけどすることはないそうなので、それによって現在の強さもわかるらしい。かなり楽しみだね。どんな依頼があるのだろうか。
ノッシュさんの説明が終わると、ゲンネーさんから忠告をもらう。
都には結構な数の貧民が流れ込んでいるらしく、現在治安は良くないとのこと。それに伴って、都周辺でも山賊の類が出没しているらしい。
「コウサカ様方は勇者のご一行様。遅れを取るようなことはまずないとは思いますが、相手は集団で襲ってきます。本当であれば護衛などが必要でしょう。もしそれでも4人で行かれるのならば、十分に用心してお行きくださいませ。」
ゲンネーさんからの言葉はしっかりと胸に刻んで行くことにしよう。
その後、バザーで美月の矢を補充し、メロン味のフルーツ、ステーキ肉、パン用に使う小麦粉と卵を補充し、昼飯を食べることにした。
屋台でイノシシ肉の串焼きとピカタのような餃子のようなお好み焼きを買う。硬いイノシシ肉は塩味でもうまかったのだが、お好み焼きは正直ひどい味だった。粉と卵にいろいろな野菜とひき肉をはさんでいるのだが、すっぱいソースをたっぷり染み込ませているせいで正直げろっぽい。
もしまた食べる機会があったら、ソースは遠慮してマヨネーズとソースを自前でかけることを自分に誓った。
「ところで、ダンジョン討伐のときに手に入れた魔玉からなんかの能力ってもらったの?」
メロン味ジュースを飲みながら親父に聞いたが、なにも実感はないそうだ。
魔玉から能力をもらえないこともあるのかなと首をひねりながら、お好み焼きを完食する俺って味覚音痴なのかもしれない。
「さ、ひとっぱしり都までいこっか!」
OKボス!
アイデアを文字にして伝えるのは本当に難しいんですね。