014 方針会議
2kgの肉はおいしくいただきました。
親父は猫族から手に入れた野菜や、冷蔵庫にあった大根やナス、きゅーりをどんどん糠漬けや浅漬けへと仕込んでいる。
俺は葉野菜を中心に、乾燥野菜の作成をまかされている。
うん。ただ押し付けられているだけなんだ。
普通乾燥野菜って奴は、秋風の吹きすさぶ中一ヶ月間ほど吊るしておいたり、ざるに広げて縁側で2週間とかかかるものらしいが、こっちには風の魔法がある。
乾燥野菜の作り方講座
まずはお野菜を適当な大きさに切ります。俺の役割です。
切ったお野菜をしっかりお水で洗います。俺の役割だよね。
ざるに野菜を超山盛りに盛ります。もちろんやったるよ。
俺に野菜をどんどん投げつけます。美月かあああい!
美月が目覚めたのは弓矢だけではなかったようで、俺の顔に向けて握って固めた野菜をまっすぐ次々に投げつけてくる。
俺はそれを手のひらに作った竜巻でどんどんキャッチするのだが、美月は面白がって竜巻の範囲から離れた場所から投げつけてくる。
まあ、余裕で顔中にキャベツやら玉ねぎやら貼り付けながら、作業をしてみた。
思ったよりも上手に乾燥できたようで、水気がすっかりなくなった野菜を袋につめていく。大体30分くらいでいけた。
一回目の作業が終わり、2回目の作業を開始しようとしたときだ。発生させた竜巻の規模が突然大きくなったのだ。
初級風魔法が中級になった瞬間なのだろうか!
どきどきしながらその竜巻をゆっくりと操ってみた。右に左にと上の渦巻きを傾けながら、ぐいっと曲げて手のひらから地面へと竜巻をつなげてみる。
その瞬間土と草が一気に竜巻に吸い込まれていく。
そこにママのうれしそうな声が聞こえた。
「それちょっと小さくして家の中掃除してきて。」
危なく自分の竜巻に飲み込まれそうになったよ。人間洗濯物乾燥機の次は人間掃除機ですか。次はなんだ?
とりあえず残りの野菜をすべて乾燥させてから、家の中の大掃除にかかった。
壊したものの数だけ、ママに土下座させられたけどね!
理不尽すぎて泣けてくるよ!
俺が掃除している間に、ブーモにのって美月が狩りに行っていたようだ。いつの間に一人でそんなことをできるようになったんだろう。
ブーモには座椅子が載せられて、かなり快適な乗用動物になったらしいが、いいのだろうか。こんなでも土の上位精霊なんだぞ?
ああ、美月になでられて目を細めているから、別にかまわないんだろう。
ところで、獲物を持っていないがどうしたんだろう?
「ウサギと鹿がいたけど、可愛かったから一緒に遊んできたよ!」
ああ、安心の美月さん。宝の持ち腐れですね!
なんか、家のまわりにリスやウサギがこのごろ寄ってきているのは、害がないとわかったからなんだろうか。
その夜は、今後の方針について家族会議を行うことにした。
「第一回異世界における行動方針決定会議~~」
親父がテンション高く宣言する。普通だったらスルーされるところだが、ママと美月が喜んで拍手したおかげで親父はでれでれ状態になってしまった。
議題としては、3つ。
・どうしてこの世界に来たのか。誰かに呼ばれたのか、それとも追放されたのか。
・今後、自宅周辺で暮らすのか、それとも諸国漫遊の旅へと出るのか。
・冒険者として戦闘技能を磨きつつ、ダンジョン攻略を進めるのか。
まずは、答えのでない異世界召還についてはおいといて、諸国漫遊の旅について話を進める。
「できることなら、この世界を回ってみたいよな~。お金を稼ぐあてはあるし、ノアでならどこまででも行けるからね。」
「やっぱりきれいな場所は見たいから、旅にでたいわ。それにいろんな種族の人たちも見たいし。」
「私、猫族のお友達がほしいなあ。でももっといろんな人とお話もしたいな。できれば宝石集めもしたいから、ダンジョンも倒したい!」
あの、美月さん、ダンジョンは倒すものじゃなくて、探索するもののような気がしますよ?
「大知はどうなんだ?お留守番しとくか?」
「冗談じゃないぞ!俺は伝説の武器を探して勇者になるんだ!」
白い目で俺を見るのをやめろ。
「異世界で美少女と付き合うくらいは許してもいいが、勇者ねえ・・・」
それもどうかと思う。しゃあないから、旅をしつつダンジョン探索&討伐しつつ、美少女と付き合うのを目標に生きていくか。
「じゃあ、コサカ家の方針は、大知の嫁さん候補を探すということに決定しました。異論は認めません。賛成の人は拍手!」
ぱちぱちぱちぱち。
なんだこいつら。もうそれでいいからそっとしといてくれ。
旅に出るとしても、この家とルナとゼウスをどうしようということになったのだが、ルナとゼウスは当然連れて行くとして、餌やトイレをどうしようかという話になった。家の中のものは朝になるとなぜか補充されているのだが、ノアの中のものはきちんと消費されている。ということは、猫をつれて旅にでると、こいつらの餌が問題となるのだ。うちの猫共は、完全な室内飼いで、カリカリ意外食べないのだ。とった肉なんか食べないだろうし、どうすれば。
「親父、猫たちどうすんだ?こいつらの餌がないだろ?」
「大知、今そいつらが食べているのなんだと思ってんだ?」
2匹はカリカリに見向きもせずに、親父が作った干物にむしゃぶりついていた。すでに問題は解決していたのね。
「あとはセキュリティの問題だね。こんな家はこの世界にないし、もう一台のノアもたぶん持って行こうとか、壊そうなんて考える奴もいるかもしれなよ。」
「それなんだよな。どう考えてもこの世界では異質なんだよ。よりによってこんな大平原にぽつんと建っているから、目立つし。」
4人で考えてみても、あまりいい案は浮かんでこなかった。
とりあえず、明日は近くの森の木をこの家のまわりに植えてみようかということにして、家族会議を終わらせるのであった。
翌朝、みんなで朝食の後に外に出て、どのような手段で家を隠すかについて話し合っていた。
そうしている間にも、小鳥や小動物が家のまわりに集まってくる。
美月がパパのお酒のつまみのナッツ類をみんなにあげているが、リスなんかは美月の手から直接ナッツをもらっている。どうしてこんなに動物が集まってきているんだろう。
どうやらその理由はブーモにあるらしい。
ブーモの角には小鳥が連なって止まっており、背中にはリスや狸が乗って遊んでいる。足元にはウサギや鹿なんかがすりすりしていた。
そんなになついたら、君たちを食えなくなるじゃないか。。。
ルナとゼウスの2匹も、初めて外に出してもらえたのだが、オスのゼウスはごろごろうれしそうに地面を転がっているのに、ルナが警戒してまったく動かない。
ゼウスはうさぎを追い掛け回し始めたが、ルナはリスから逃げ回っている。
呼ぶと2匹とも帰ってくるので旅に連れて行ってもそんなに苦労はしなさそうだ。ブーモが近くに寄ってきて、2匹と交互に挨拶しているようだ。
ルナもブーモとは鼻先をくっつけて挨拶したので、どうやら問題なく過ごすことができそうで一安心した。
一日一話だけでもなんとか!