012 ダンジョン
美月が選んだ弓は装飾も一切ない普通の弓だったが、それでも5000タンくらいのものだった。矢はある分すべての100本ほどを購入したのだが、おまけでただでもらえた。鏃は鉄ではなく、黒曜石のような石を割ってとりつけてあるそうだ。
ゲンネーさんの家に帰り、買ったものをノアに詰め込んでダンジョン観光へと出発することにする。メロンを受け取ったゲンネーさんは喜んでいたのでよしとしよう。よく見ると使用人のお姉さまたちが喜んでいたので、本当に需要のあるものだったんだね。
ブーモはブラッシングしてもらったり、結構いい食べ物をもらったようで機嫌がよさそうだ。ノアの前に自分から移動し、おとなしくゲンネーさんがくれた馬具を親父につけてもらっている。
ノアのフロントに帆布でつくった座布団を固定し、昨日と同じようにおれが御者となって出発すると、みんなで見送ってくれた。これからは何回か訪れることになる町だから、いい関係を作れてよかったと思う。
あぜ道をしばらく走ると、向こうに森が見えてきた。あれがダンジョンのある離れの森だろう。
近くに農夫がいたので話しかけて情報をもらうと、ときどきコボルトのような魔物が出て、畑の野菜を荒らしていくのだそうだ。ダンジョンが育つと熊のような大きい魔物も出てくるので、どうにかできないかと領主に頼んでいるとか。それは困るだろうなあ。
農夫にお礼を言い、森の手前までノアを持っていってそこからは歩きだ。
親父はベヒモスの角とフリル、俺はフリルと鉄パイプ、美月は弓、ママはブーモに乗って観光だ。怖いなこのパーティー。ちなみにフリルは手首とひじのところで皮ひもで縛っておいたので、盾というよりはガーダーだな。
入り口が見えてきたが、なるほど、あれはベヒモスの頭だ。角やフリルは石化しているようで、ダンジョンになるともうお宝ではなさそうに見える。
フリルから下は地面と同化しているようで、口が入り口になっている。高さが2mくらいあるのだが、武器を振り回すほどの大きさはないように見える。
「うわああああ~」
入り口の奥から野太い悲鳴が聞こえてくる。あ、あいつらだ。町でからんできたやつら。親父の目がきらりんっと光ると、ベヒモスの角を腰だめにする。冒険者3人が走り出てきて、俺たちの姿を確認するとぎょっとしていたが、すぐに洞窟の横でひざをつき、ぜえぜえ言っている。
そして洞窟の奥から冒険者を追って魔物が数匹姿を現した。
先制攻撃は美月だった。後ろからひゅひゅひゅひゅっと一気に4本の矢がとんでいき、すべてが魔物の顔の真ん中に突き刺さる。
それで戦闘は終了してしまった。
ああ、俺の妹は俺たちとは違う人間だったようだ。これからはもう少しやさしくしようと俺は心に誓った。
魔物は溶けるように地面に吸い込まれていき、その後には魔玉と銀貨が数枚落ちていた。今回の敵はイノシシのような奴と、小さな熊っぽいやつだったが、あの冒険者たちはこんな敵から逃げていたのだろうか。
「もう一匹いるんだ!気をつけろ!」
お、終わってなかったらしい。よく見ると鎧を着た熊らしき魔物がゆっくりダンジョンからでてくる。こいつが冒険者を追い払う力を持った魔物らしい。
「剣も火玉もきかなかった!気をつけてくれ!」
火玉?魔法かな。とりあえず親父がベヒモスの角を前に出して突っ込む体制になっている。俺もちょっとは戦ってみたいんだがな。よし、親父より先に突っ込んでみよう。奴との距離は20mくらいあるので、親父と競争したら勝てるだろう。
鉄パイプきくかな。とりあえず肩の上にパイプを構えダッシュの体制をとる。できる限り速度をつけてぶち当ててみようと考えた瞬間だった。
おれは熊から2mの地点にいきなり移動していた。ちょおおおおおおおおおおおおおおお!
勢いがついたままだったようで、急いでパイプをやつの頭に振り下ろすと目の前が真っ赤になった。あれ?俺死んだ?
親父が固まっている俺にタオルを差し出す。もう少しきれいな倒し方をしたほうがいいぞと言いながら。
親父が首のなくなった魔物をとんっと押すと、地響きを立てて魔物は倒れた。よかった、俺の血じゃなかったらしい。うわ。。。血生臭い。
魔物が消えると金貨一枚と鶉の卵程度の魔玉を手に入れた。どうせならこの返り血も消えればいいのに。
美月は4枚の銀貨とビー玉くらいの魔玉を手に入れてたけど、ずるいずるいとしきりに俺に言ってきた。いいじゃん、弓あるんだから。
さて、観光どころではなくなったが、どうするんだろう。とりあえずさっきの俺の様子を親父に聞いてみると、どうやら一瞬で魔物の前に俺は移動したようだ。やっと現れた俺の力は、どうやら縮地の能力らしいな。あの魔物が弱くてよかったが、強い魔物の前にいきなり移動したら結構やばいんじゃないのだろうか。まあ、それまでになんとか格闘法をものにしないとね。
それから発動前と発動後になんか風の渦が足元にできていたようだ。それを聞いた俺は手のひらをうえに向け、つむじ風のイメージを浮かべる。
しゅるるるる!っと風が巻き始め、小さな竜巻が発生したのだった。
いっきに俺の能力が判明し、かなりうれしい。これで今まで感じていたコンプレックスも少しは解消されるだろう。美月には負けないぞ!
竜巻は狙ったところに投げつけられることがわかった。木の幹を狙ったら、あたったところから、一気に4mくらいのところまで皮を剥いでしまった。これ、生き物に使うとかなりスプラッタのような・・・
さて、存在を忘れていた冒険者たちはしきりに礼を言ってくる。あまりの戦闘力の違いを見せ付けられて、もう対抗心なんか消えてしまったのだろう。
中はまだ2階程度までしかない若いダンジョンだったらしく、彼らでも奥のほうまでいけたらしい。ただし、さっきの熊みたいなのがまだいるようである。金貨をもらえるなら行ってもいいな。
親父はどう・・・
ちょっとまてえええええええええ
親父はダンジョンベヒモスの頭の部分に向かって、ベヒモスの角を振り下ろしていた。いつの間に上がってたんだあんなとこ。
がっこおおおおおおん!がらららららら!!
こうしてダンジョンは滅んだ。ママの持っていたのより大きな魔玉と金貨29枚を残して。
え?
さ、観光終了。くさいけど気前のいいイトチュに報告にいこうか。
討伐確認から帰ってきたイトチュはゲンネーと一緒に討伐金15万タンとダンジョンバスターの証を持ってきてくれた。150万!金貨は8枚残っているし、さっきのダンジョンが残した金貨が29枚だったので、合わせると金貨52枚!!!
日本でだったら520万円だよ。
二日でこの金額。。。ダンジョンを制圧して歩くと王様になれそうだ。
今夜も宴という領主さんを落ち着かせ、俺たちは家にいったん帰ることにした。ゼウスやルナには自動給餌できる入れ物で餌をあげてきたが、放っておくわけにもいかないしね。
とりあえずしばらくは家のまわりを探索しようか。
頑張って投稿します。よろしくお願いします。