011 バザー
その夜は遅くまで美味しい物を堪能し、部屋へと帰ってきた。
ゲンネーさんは本当に感謝してくれて、かえって恐縮してしまった。
宴の中盤には、猫族の若い女の子たちが音楽に合わせて踊ってくれるというイベントもあり、体重を感じさせない軽やかなアップテンポの踊りにすっかり魅せられてしまった。露出度の非常に高いセクシーな衣装なのだが、体中の毛がすっかり服のかわりになっていたのが残念すぎて泣けるよ・・・
酒を飲んでいつもより勢いのあるいびきをかき始めた親父を3人で廊下に放り出してから、ママの宝玉や、お金の話をしてつい夜更かししてしまった。
翌朝、泣きながら、まさか廊下で寝かせられるなんてと抗議する親父を無視し、ゲンネーさんと朝食をとる。アイディシさんは美月へのアプローチはあきらめているらしくおとなしい。
「ところでゲンネーさん、ダンジョンが見つかったと言っていましたが、ここからは遠いんですか?」
行く気満々だな親父。金儲けに目覚めたか?
「そんなに遠くはないのですが・・・失礼ですが討伐に行かれるには装備もなにもなさそうに見える気がします。この町には冒険者の方用のお店もなく武器の調達などはできないのですが、近づかないほうがよろしいのではないでしょうか。」
そっか、俺たちの装備といえばスコップとただのステンレスパイプだもんな。ちょいと戦力不足か。
「討伐というよりは観光ですよ。都の冒険者ギルドがどのようなものかは知りませんが、依頼などを受けるような気はあまりありません。ベヒモスの討伐礼金でしばらくは不自由なさそうですし。」
観光ということで、それならばとゲンネーさんは場所を教えてくれた。町を北へ進み、開墾中の畑を越えた森のすぐに小山のように盛り上がったダンジョン入り口があるという。
護衛をつれてという言葉を丁重にお断りし、今日は町で買い物をしてから、午後からダンジョンを目指すことにした。予算は金貨2枚!おお20万円じゃないか!それなら結構買い物できそうだな。
今日はこの世界での休日のようで、町には結構人がいる。ブーモを連れていないためか、町の人は昨日のように平伏したりはしないが、おおむね好意的な瞳をむけてくれている。ただし、気性の荒そうな冒険者にベヒモス討伐なんてうそつくんじゃねえ!といちゃもんをつけられたのだが、町の人が警備隊を連れてきてくれて冒険者は無事にどっかへ消えてくれた。
親父は残念そうな顔をしていたが、余計な騒動はいらないからね!
生活雑貨や、食料品、服飾のお店をなんとか探し出し、一軒ずつ覗いてみる。まずは生活雑貨の店に入ってみたが、ほぼ調理用品と木の食器がほとんどだった。一応焼き物の皿とかもあったが、まだ都以外では手の出ない代物らしい。人のよさそうなおばちゃんが対応してくれたが、残念ながら買いたいと思えるものはなさそうだった。家ごと異世界に来てしまったから、ほぼ必要なものはそろっているんだよね。それでも親父は帆布のような丈夫なシートだけは何枚か購入していた。たぶん地面にそのまま寝袋で転がるのがいやだったんだろう。
食料品のお店には、お宝が転がっていた。ビーフジャーキーだ!こちらの世界ではあまり好んで食べる人はいないみたいだが、日持ちがするという理由で、一定の量は在庫があるらしい。それでも、樽ひとつ買う客はいないそうで、店番のお兄ちゃんはびっくりしていた。また果物は豊富なようで、ドライフルーツを多く購入することができた。親父は大好物のアーモンドに似た木の実を大人買いしていた。
調味料はどうみても家にあるもののほうが上等そうなので、ステーキ肉を10kgくらい買って店を出た。
服飾の店ではほぼ買うものはなかったが、逆にママと美月の服を見て、既製服にデザインを載せるという野望にアパレルさんは燃えてしまったようだ。ここから新しいモードがこの世界に誕生するかもしれない。
一通りの店を覗いたあとは、食事できる店を探すことにした。ゲンネーさんには適当に食べると伝えてあるので、ここらで探さないとだめなのだ。
しかし、ここらへんにある店にはさすがにファミレスみたいなところはなく、ランチもあの店では丼もの、この店では2~3種類の定食、こっちではサンドイッチといった感じで、複数人で行った場合にはだれかが我慢することになりそうだ。
そうこうしていると、大通りの行き止まりの広場で、バザーをしているところにでくわした。
中央の池のまわりに冒険者風の人や、そこらの農家の人、猫族の人や短足族の人たちが商品を置いてまわりを見物客が大勢歩いている。外側には何件か屋台も出ているようだ。
美月が腹が空きすぎて痛くなってきたとか言うもので、最初に屋台をまわる。俺とママはナンのような簡単なパンに、肉を大量にはさんだクラブサンドのようなもの、美月は蕎麦のようなうどんのような麺に肉味噌をかけたジャージャー麺っぽいもの、てか、あれ味噌なのかな。なんか違うっぽいけど。親父はお好み焼きのソバ抜きだな。マヨネーズはないのか!って親父が怒っている。家に帰ればあるだろうに。
飲み物はほぼ100%ジュースかお茶のようなものだ。氷はないのかな。メロン味の100%ジュースはかなりの当たりだった。この果物を買って帰ろうとみんなでうなづきあっている。
ぬるいのだけがいただけなかったが、そこで不思議なことが起きた。ママが冷たいのが飲みたい!といつもどおりわがままを発揮したときだ。
ママの持っている木のコップがなんか白く変色しはじめた。どんどん中身が凍り始めたので、あわてて親父がママの手からコップを取り上げると、そこで凍結はとまったようだ。
みんなで不思議な顔をしたのだが、とりあえずみんなでママにコップを渡した。3個のコップの中にシャーベット状になったジュースが無事渡されたのだった。お約束の魔法まで使えるようになるとは、どんだけ恵まれた能力なんだろう。
「このコップのジュースに冷たくなればいいのに!って思いをぶつけたら冷たくなったのよ。」とママはうれしそうに言っている。
魔法ってそんなもんで発動するんだな。
とりあえず街中ではあまり変なことを願わないようにしながら、見物しようと親父がみんなに釘を刺してから、バザーを見て回ることにした。
農家のおっさんのところには、さっきのメロンっぽい果物があったので、ゲンネーさんの家に全部運んでくれるよう頼んで料金を割り増しで支払った。あんなに買っても消費できないんじゃないの?と親父に聞くと、ゲンネーさんへのお礼だってさ。
いままでの買い物で、金貨一枚をほぼ消費してしまったので、約10万円を使ったことになる。やはりビーフジャーキーが樽代込みで7万円くらいしたのが大きい。
俺が一番興味のあったのはやはり冒険者のところだ。短剣なんかや胸当てとか弓のようなものもある。弓は試しうちもできるようで、広場のはじっこで的当てができるようだ。見たところ、短剣は包丁のほうがましな感じで、刀身は青銅のようなとても実用には耐えそうにないものだったので、買うことはなかった。親父愛用のモリブデン包丁なら、魔物だって刺し殺せそうだからね。
美月は弓に異常な興味をもったようで、一生懸命弦を引っ張ってしっくりくるのを探している。これはすでに購入する気になっているね。
親父も引いてみていたが、弱すぎるとかつぶやいてあきらめていた。
結構な大きさの弓を選んだ美月は、矢を5本購入して試しうちをするみたいだ。矢を買わないと弓の試し打ちはできないようにしているところが、商売人だよな。本当に冒険者か?
美月は的から30mくらい離れたところで、弓に矢を番えた。
なんかさまになっているところが気になるが、そんなに離れていては届くこともなさそうだ。小学校では一番大きい女の子だが、吹奏楽部なんだから運動神経は・・・とか考えていたら、狙いもそこそこに美月が矢を放った。
しゅこん!っといい音を立てて的の真ん中に矢が突き刺さっているんだが、冗談だよな?しかも厚さが5cmもある的の反対側に鏃が飛び出ているぞ。
そこからの美月はいつもの美月じゃなかった。間を空けることなく立て続けに残り4本の矢を放ったのだが、中央の矢に対し、同心円状に十字の形で5本の矢がきれいに的に刺さっていたのだ。最後の矢が当たって数秒後、的が十字の形に割れて落ちてしまった。
広場にいた人たちからおおきな拍手が起こり、美月は両手を広げて声援に答えていた。俺たち3人は口をあんぐりと開けてその光景を見ていた。
頑張って投稿します。よろしくお願いします。