職務質問3
賢い子供はとても恐ろしいものです。
そして常識外れであればあるほど、未知に恐怖を抱くものです。
二人目にしてあっさりと情報を手に入れた理熾。
これから三人目と四人目が待つのだが、順番をどうするか考える。
そもそも別に知りたい情報もなくなってしまったのだから、困る。
が、まだ報酬が受け取れないことを思うと全てを知っているわけでは無いらしい。
二人目からの情報はこんな感じ。
1:シミル国にて竜種の養殖をしている
2:育て方は蠱毒式
3:転移魔法にて洞窟に卵を安置
4:餌を与えつつ監視
5:成体になったので監視のみに移行
6:成体の戦闘力の確認
7:卵を回収次第帰還
といった感じ。
帰還方法はリーダーが魔法で発信機を操作して向こうに捕捉してもらうらしい。
ということはそう簡単に帰れないということである。
念のためフィリカにそれらしいものを取り上げておいて貰うことで話がついた。
ちなみにこのあと三人目を呼ぶのだが、リーダーは最後に回すことに決める。
「では次の方~。
うん、そう。
リーダーじゃない方ね」
そう言ってわざと「二人がしゃべった」ということをバラす。
これで『残りの二人がしゃべらなければ困ったことになるよ』と暗に指摘する。
こういう秘密の情報は何一つ漏れないからこそ意味がある。
一度でも出てしまうと、芋蔓式に出てくる上に『まだあるのでは?』と考える。
そういうことに発展したら目も当てられない。
全て言い尽くしても搾り取られる。
それこそ死ぬまで、だ。
「さて、気付いたかもしれませんが二人ともお話してくれました。
貴方は僕に何を教えてくれるんでしょうか?
頑張って彼等二人が『知らないこと』を教えてくださいね」
と笑う。
この笑顔が途轍もなく怖い。
情報漏洩において、厳しい戒律がある工作員をあっさりと突破して情報を引き出したのだ。
表情が笑顔だろうが最早関係ない。
むしろその笑顔こそが恐ろしい。
「何が知りたい」
「あれ?
どうしたんですか、盗賊さん?」
「違うことは既に知っているだろう?
なら生存確率を上げることが今の至上命題だ」
「割りきりがいいですね」
三人目は何もせずとも陥落した。
とはいえ二人を突破している時点でこの後は単なる余興である。
三人目となった彼に選択肢はほとんど残っていない。
単に意地を張って死亡フラグか、知ってることを吐いての命乞いかだ。
何せ二人がどれだけ話したかは分からない。
しかも何を話しているかもわからない。
だから簡単には嘘を吐けないし、撹乱も出来ない。
この状態で平気で適当なことをいえるなら、それこそ工作員の鏡である。
ある意味この状況下で吐く嘘こそが一番信用されるのだが。
とはいえ、二人分の確認以外は取れなかった。
整合性が取れただけマシといえるだろうか。
そうしてそれほど時間も取らずに話を終えた。
次は四人目である。
しかし理熾は。
「いや、もう十分教えても貰ったから良いよ?
四人目の人って、部下に嫌われてるのかな?
リーダーが話せるような内容残ってないから、時間の無駄だよ?」
と突き放す。
別に悪口ではない。
実際に今回の経緯については100%の確証を得ている。
国家間の話も一応頭に残っているから、多分「ちょっかい出すついでに実験を」という程度なのだろう。
何せ相手は魔物である。
わざわざ首輪も付けられない竜種を養殖してまで持ち込むのか、という話になる。
現実味が薄いからこそ、自然発生したのだろうという結論になるわけだ。
だから四人目が話すようなことは無い。
「なっ!」
自分の番を待っていたのだろうか。
意外そうに驚いている。
「ん?
僕に何か聞いて欲しいの?
今回のことについては全部知ってるよ?」
「下っ端の情報だろう?
私と取引しないか?」
「いやいや、十分だって聞こえなかった?
下っ端の情報とか言うけど、そもそも現場は皆下っ端でしょ?
現場舐めてんの?
そりゃ上司として嫌われるよ…あーぁ」
更に突き放す。
正直ここまで知っていれば、ギルバードやエリルとの交渉材料としては十分だ。
これから時間を掛けてまで質問をする意味も無い。
後日改めて彼等に問えば答えてくれるだろう。
「これだけ知ってるけど、続きは?」という風に。
「っく!」
「あ、フィリカさん聞きたいことある?
僕の為に待っててくれたと思うんだけど」
「いや?
リオ君のお手並み拝見というつもりだったのだが…。
驚くほど鮮やかだったよ。
しかもリオ君自身は単に聞いているだけだったからな」
「ありがと。
まぁ、単に知りたかっただけだしね。
これ以上時間掛けても仕方ないからエリルさん達捕まえようか」
そうして立ち上がる。
フィリカは世界情勢には興味が無いのだ。
身の回りが平和であればいい。
理熾にしても結局【神託】で巻き込まれるのだから、『知ってた方が良い』程度である。
そこまで固執するものでもないし、何よりリザードを持ち帰りたい。
理熾もフィリカも魔石取りに来たのだし、早いところリザードを解体したいのだ。
「ま、待て!!」
「何ですか?
言いたいことがあるならすぐにお願いします。
あぁ、フィリカさん《探査魔法》使っといて」
「そうだな。
向こうに知られたほうが良いからな」
と帰り支度を淡々と進めていく。
転がされている三人は居眠り中。
邪魔する者は目の前で泳がせているリーダーだけだ。
「わ、分かった!
話すからちょっとだけ待ってくれ!」
「いや、聞きたくないんだってば。
その辺りの話は騎士団の方達と拷問を交えて談笑してください」
理熾が否定する。
その横でフィリカが《探査魔法》を展開する。
あっさりと反応を見つけたらしく、こちらへ向かってきているとの事。
「まず最初にリザードに飛び込んだやつのスキルは【暴走】だ!」
「あぁ、なるほど。
ということは誰かが【診断】持ちなんだね。
で、その程度の情報が僕達に何の意味があるのかな?」
「ここからだ。
スキルは本来生まれ持って手に入れるものと、生まれてから身に付けるものがあるだろう」
「だね。
その常識がどうしたの?」
「俺の国は『スキルを移動させるスキル』を保有している!」
理熾もフィリカも「馬鹿な間者も居たもんだ」と困ってしまう。
これだけ『お前の情報はいらねぇ』と言っているのに、出してしまう。
いらないといわれると必要だと思わせたいと感じる心理かもしれない。
フィリカには理由に察しがつく。
工作員の口が堅いのは当然である。
それをあっさりと突破してしまった理熾。
しかもそれほど時間を掛けず、見た目に傷も無く、今は幸せそうに寝ているだけだ。
一体何があればそれほど簡単に自白を促せるのかリーダーにはさっぱりなのだ。
そして人は『分からないこと』に恐怖する。
恐らく拷問や尋問にはある程度の耐性はあるのだろう。
むしろそれらを行われた際は速やかに命を絶つ方法があることを思うべきだ。
例えば異常に衰弱していく、などだ。
しかし理熾は一切暴力を使用しない。
そもそも質問をしたかも曖昧だ。
アレは単に理熾の中での推測の『答え合わせ』をするための時間だ。
だからある意味では誰一人として『理熾の尋問』によって口を割ったといえる状況では無い。
けれどそれらがとても恐ろしいのだ。
「何それ…ユニーク?」
「そうだ。
正しい効果や名称は暗部でも公開されていない。
ただ『ギフト』と呼ばれている」
いきなり放り込まれた話だが、なかなか興味深い話である。
もしそんなスキルがあれば…と理熾は夢想する。
他の人に比べればかなり楽に習得できる理熾からしても、【スキル取得】を使うには条件がある。
それにSPという自身に根ざすステータスを消費してようやく手に入るのだ。
しかもLv1で。
育てなければいけないことを思うとやはり理熾のユニークは弱い。
というよりは融通が利くという万能さはあっても、一芸に秀でるという特化は出来ない。
万能型はより多くの状況に対応できても、対応力の上限を超えると何ら意味を成さない。
対する特化型は一つのことしか出来ないが、ほとんどのことを一芸のみで打ち破れる強さがある。
故に最終的には特化型の方がより有利であると言えるのだ。
結局のところこの世界では【スキル取得】は弱いのだ。
しかしリーダーの言葉が本当であればスキル周りのシステムを一新するような革命的なスキルである。
理熾の持つスキル取得などとは一線を画す、完全な上位スキルである。
「うーん…フィリカさんどう思う?」
「確かにこの話に信憑性自体は無い。
しかし、大変興味深いな。
そもそもスキルは装備のような生易しいものではない。
簡単に習得出来ないのは当然として、簡単には消せない。
いや、本当の意味で『消すことなど出来ない』と言える。
スキルはクラスと同じく、魂や本人に根ざす物だ。
だからこそ、それだけの力を個人が保有できるのだから」
「だよね。
いくらなんでも破格過ぎる。
複製出来るっていうならまだ分かる。
でも『移動できる』ということは、単純に『奪える』ってことだよね。
その上で、人に『渡せる』ってこと。
流石に効果が逆方向のスキルを持ってるって考えるのは…。
いや、そうか。
『渡すスキル』も渡せば良いのか」
「どういうことだ?」
「例えば僕が、剣術を持っていたとします。
そんな僕に『ギフト』を付与します。
そうすると僕には剣術+『ギフト』を持ちますよね?
今度は剣術から先に人に渡すんですよ。
そうすれば『ギフト』をあとで別の人に渡せば、結果僕の手元には何も残らない」
「なるほど…。
一時的に『ギフト』を保有するのか。
当人のスキルとして使用すれば『奪う』ということをしない。
つまりは特に問題も無く渡せる、というわけか…しかしそれはどうやって使うんだ?」
「自分のスキルを捨てる真似など普通しないが」とフィリカは続ける。
誰もがその通りだと思う。
けれど理熾は予想がついた。
馬鹿な考えではあるものの、絶対に出来るし『丁度良い』のだ。
「囚人だよ。
犯罪者を使えば良い」
「なるほど…。
有無を言わさず引き剥がすのか」
「特に死刑囚だったら余計に都合が良い。
あぁ、表に出せない口封じのついでにするのもいいんじゃないかな。
この話が外に漏れない上に、スキルが無くなっても問題ない者だから」
「となると、奴隷も考慮に入ってくるな」
「奴隷…そんな制度あるの?」
「知らないのか?
まぁ、その辺はおいおい話すとしよう」
そういって区切りをつける。
フィリカが「ふい」と視線を向けるのに気付いて理熾も理解する。
そろそろ騎士団が到着する頃らしい。
「そうだね。
で、リーダー。
まだ言いたいことがあるなら聞くよ?
そろそろエリルさん達もこの辺に来るはずだから時間は無いけど」
問いかける理熾にリーダーは本気で戦慄している。
放った言葉はただ一つ。
『シミル国にはギフトがある』だけである。
リーダー自身も、リザードに特攻を掛けた者が『ギフト』によってスキルを得たという話だけを聞かされていただけだ。
それだけだったのが、今はどうだ。
たったあれだけの話で、秘匿されている内容の概要を把握した。
使用方法も、効果も。
正解かどうかはリーダー自身にも分からない。
だが、そんなことすら考えなかった側からすると『キモチワルイ』としか思えない。
「目の前の子供は一体何なのだ」と。
今更『敵対する』ということも無いが「あの子供と敵対するくらいなら死ぬ方が楽だ」とまで思う。
こちらの情報を一言で見透かすのだ。
ちょっとした拷問よりも遥かに恐ろしい目に遭わされる可能性がある。
いや、むしろ『一番ダメージの大きな方法』を選りすぐられる可能性が高い。
自分でも知らないような、トラウマなどに塩を塗りこむような目に遭いかねない。
そんなのは絶対に嫌だ。
ある意味でリーダーは最初から心を折られていたと言っても良い。
部下が口を割り、手持ちの情報を拒否されて追い詰められた上に、伝えたスキルを『解読』されてしまった。
敵対など、絶対にお断りだ。
「……シミルは戦争の準備を始めている。
竜種の養殖もその一環だ。
隣接する大国もあるが、そちらへの宣戦布告は後回しだ。
まずは周りの小国を併呑した後に、一気に全土の旗をシミルに染めるつもりだ」
「あぁ、なるほど。
小国との戦争を実験場にするんだね。
そもそも武力としては圧倒的に勝っているのだから、失敗しても取り返せるし。
ガーランドを狙っている訳ではなくて、単に少し怖がってるのかもしれないねぇ…」
焦ることも無く、リーダーの言葉を読み取る。
理熾にしてみればただの感想を告げる。
こちらの話を聞かれていようが、無視されようが気にはならない。
だがリーダーは違った。
というより勝手に追い詰められていた。
『この程度で良いのか?』という幻聴を聞かされたリーダーは慌てながら頭をフル回転させる。
もっと情報を渡すために。
お読み下さりありがとうございます。
この四人の中で一番工作員やってたのは一人目でしたね。
それにしてもリーダーが深読みしすぎて墓穴堀りまくりです。




