怒りの基準
無知とは危険なことです。
何処で足元を掬われるか分かりません。
理熾が躊躇い無く触りだして早5分。
毛皮というか羽毛というかを堪能しながらフィリカに問う。
「このグリフォンってどうしたの?」
グリフォンを見てこれがまず初めに聞かなければならない内容である。
今更感満載だが、種明かしを求めるのも無理は無い。
「私が契約を結んでいる精霊の眷属だ。
この子が了承すればいつでも呼び出して構わないとされている」
「へー…なんと言うか太っ腹な話だね。
グリフォンって災害クラスの魔物認定されてなかったっけ?」
「されているな。
格にも因るが単独でBランク以上にされる。
時間は掛かってもアルスくらいは滅ぼすくらいの戦力だな。
あぁ、もう時間が勿体無いからさっさと背中に…そう、その肩口に乗るんだ」
といわれても鞍が無いから、鐙なども無い。
触っていたものの、頭の高さで言うと2.5m、肩口までなら2m近くあるのだ。
そんなのを…とも思うが、良く考えれば今の理熾は常人の身体能力じゃない。
軽くジャンプして羽を巻き込まないように乗る。
「もう少し前に行ってくれ…って、そういえば鞍を忘れたな。
まぁ一日だし問題無いだろう」
そういってフィリカは理熾を抱えるように飛び乗る。
やはり鞍を付けて乗るのが普通のようだ。
それにしてもフィリカが凄く近い。
相変わらずの美形がすぐ近くにある。
今まで特に単に『綺麗だな』くらいしか思っていなかったが、改めて認識させられる。
薄い朱色の長い髪をアップで纏めていてうなじが見える。
可愛いよりはかっこいい切れ長の目は碧眼。
化粧っ気がさっぱり無いくせに睫毛が長く、眉毛はきりりと凛々しい。
肌が白くて光を反射するようだ。
口紅を付けるような人ではないので、綺麗なピンクは自前なのだろう。
顔の印象だけでこんなにも美形要素があるのに、体型も理想的だ。
細身の癖に出るところは出てているし、背が高く手足まで長いのだから同じ人とは思えない。
性別が違う理熾が「ずるい!」と思えるのだから本当に極まっている。
しかも服装も動き易さを突き詰められている一張羅なのだがこれがまた逸品である。
恐らく理熾と同じ製法なのだろうが、もっと多くの効果が付いているのだろう。
腰や胸周り、関節などの要所が若干絞られていて身体のラインがしっかり分かる。
魔法士なので武器の類は持たないが、それでも手ぶらはありえない。
なのに発動体(オーソドックスなので言えば杖だが)も見当たらない。
一応背中の腰辺りに短剣を仕込んでいるはずだが、それはまた違うはず。
身体のラインが分かるレベルの服装なのに、一体何処に何を仕込んでいるのかさっぱりだ。
機能美を追求した結果、こんなに見栄えの良い服装に仕立てるのだから恐ろしい。
と今更ながらフィリカを見直す。
フィリカが理熾を抱えるような体勢で密着しているのですごく気恥ずかしく思う。
ついでに「良い匂いがする」とかこっそりと思っていた。
特に口に出す必要もないし、言うには凄く恥ずかしい感想だ。
「では行こうか」
そうフィリカが言うとグリフォンは少し前に駆けて一気に飛び上がる。
すぐに地面が遠くなり、平原を飛び越えてゆく。
遠くを見れば既に岩山が見えているのだから、高度というものは凄い。
気が付けば森がすぐ前に見え、少しの時間で森が眼下に広がる。
どれだけの速度が出ているのだろうか…このままなら本当に20~30分ほどで着きそうだった。
フィリカと理熾の組み合わせであれば、何処でも商売が出来る。
特に行商を行えば成功間違い無しだ。
理熾の亜空間で物は腐らず、大量輸送が可能。
フィリカのグリフォンで何処よりも早くお届け。
この二人の行商は誰も太刀打ちできないだろう。
とかそんなことを二人して楽しく話していた。
先程の気恥ずかしさなどは既に忘却の彼方だ。
「そういえば。
なんで風が無いの?」
早すぎることを思えばそんな疑問も生まれる。
グリフォンの背が無駄に快適なのだ。
こんな速度で飛んでいれば…むしろ飛んでいなくても高度があれば風は強い。
それがそよ風以下の風しか受けないのだ。
「この子が風の加護を持っているからな。
グリフォンの中でも飛行能力が随一なんだ。
まぁ、在野にもっと凄いのが居ないとも限らないが」
とフィリカが答えるとそれを聞いていたグリフォンは抗議のためか「クァ!」と一声鳴く。
「俺がナンバーワンだ」と言うように。
理熾はそんな様子をにこにこしながら眺めて頭を撫でる。
羽毛の手触りが良すぎると言いながら。
そんなこんなで目的地についてしまった。
空の旅は快適であったが、やはり乗りなれないグリフォンの背。
すぐに降りて体の調子を確認する。
掛かった時間はおよそ30分。
いくら空の旅とはいえ、時速200km/hほど出るとか無茶苦茶である。
「投剣もびっくりだよ!!」とは理熾の言。
「ちなみにこのグリフォンの名前ってあるの?」
「いや無いな。
それに勝手に名付け「ならフィンってどう?」いけないって、おい!」
「ん?」
理熾はフィリカの鋭い声に首を傾げるだけだが、フィンと呼ばれたグリフォンが一瞬仄かに光る。
その光が消えないうちにクリクリした眼が理熾を射抜く。
その眼光の鋭さに理熾は動けなくなってしまう。
「待て!今のは質問だ!
奪おうとしたのではない!!」
すぐさまフィリカが間に割って入る。
そして続ける。
「お前も分かっているだろう。
この子は無知なのだ…次は無い。
だからこの場は退いてくれ…貸し一つだ」
その言葉でグリフォンの眼が緩んだ。
理由は分からないが許されたらしい。
眼光で射抜かれた側の理熾は何のことだかさっぱり分からない。
「ふぅ…」
「ごめん、フィリカさん。
何だか迷惑を掛けたみたいだね」
「いや、説明していなかったのが悪いんだ。
私も久々に人前で呼び出したから忘れていたよ」
と言ってくれるが、それでも何となく居心地が悪い。
何せ理熾のせいでフィリカが貸しを作ってしまったのだから。
「この子は『眷属』だと言ったろう?
つまり精霊に属しているんだよ。
だから第三者が勝手に名前を付けることはしない。
理由は簡単。
名付けは『自分のものだ』という意思表示に他ならないからだ」
「あぁ…それで僕が『名前をつけた』ってこと?」
「そういうことだ。
名付けとは契約で、同じ契約を二重に交わすことはしない。
それをリオ君がやろうとしたから、上書き…つまり精霊から盗ったと認識された」
本当にまずいことをしたのだという自覚が出てきた。
そもそも精霊は魔法生物であると聞いている。
そんなものに敵対しないし、太刀打ちなどできない。
気紛れに契約者や眷属を作るというが、それが侵されることは許さないということなのだろう。
「すみませんでした。
いや、ありがとうございました」
「あぁ、そっちの方が良いな。
後、あの子にはきちんとした名前はあるはずだ。
私は知らないが。
名前とは相手を縛るための呪詛にも利用できる。
特に魔物や精霊は人より余程魔法に近しい分、名を知られるとまずいんだ」
フィリカは「気を取り直していこう」という言葉と共に、歩を進める。
ここにはグリフォンに喧嘩を売りにきたわけではないのだから。
当のグリフォンは召喚を解かれて元の場所へ戻っていった。
還す前に一言「ごめんね」と理熾が謝ると「クワァ」と気の抜けた返事をされた。
少なくとも怒っては居ないようなので一安心である。
魔物使いってあのランクの魔物も扱えるのかな?
だとすると移動って意味で欲しいクラスだなぁ。
そんなことを思いながら岩山を移動する。
場所に心当たりも無いのでその辺を歩き回る。
「フィリカさん、リザードって狩りに来たことあるの?」
「ここではないが何度か。
魔石が必要ならリザードと言われる程度には有名だからな」
「それって狩り尽くされないの?」
「それがリザードは自然発生型なんだよ。
というより竜種のほとんどは自然発生だ。
魔力溜まりから生まれるから、いくら狩っても問題ない。
まぁ、生息域が限られているのには何か理由がありそうなもんだが…」
と言いよどむ。
余りその辺は考察されていないらしい。
単に魔石収穫のためのボーナス的な扱いをされている印象を受ける。
他にも竜種の特徴である竜鱗なども目的らしい。
いくら一番弱い竜種とはいえ、竜種には違いなくやはり強力なのだ。
防具や武器に付与や利用するだけで性能が上がるのだから有用性が高い。
「あ、それでついでに質問。
自然発生型って、何か食べるの?」
「ん?
普通に食事するはずだぞ。
魔法生物ではあるものの、魔物は基本的に精霊等とは違う。
魔法そのものではなくて、既に現象化してしまっているからな。
そうなると『現象を維持するため』には補給が必要なわけだ。
魔法も魔力が無ければ霧散するだろう?
魔物も何かしらの補給が出来なければ弱って死ぬ。
魔物によって補給方法は違うが、リザードは生物を喰らって生きているはずだ」
その話を聞いて更に思うことが増えた。
理熾はそこまで細かく認識している訳ではないが、少なくとも土や金属を食べることは無い。
人としての食べ物は肉や野菜、魚といった『有機物』である。
つまり食事は生物である。
地球で言うなら動物であれば良い訳だが、この場はスフィア。
動物というカテゴリーに入らないものもあるのだ。
つまり
「ということは、ゴーレムとかなら食べられない?」
という、無機物の癖に魔物という存在がある。
こいつ等の場合はどうなのだろうか。
「いや、関係は無い。
基本的に摂取するものが違う。
私達で言えば栄養だが、魔物は栄養ではなく『魔力』を摂取する。
つまりモノは割と何でも良いが、魔力の含有量が多いモノを好むというわけだ。
核持ちの魔物ほど周りから狙われているが、そのせいで逆に周りよりも強者としても存在するという風にな」
獲物に差は無い。
あるのは魔力量や好みのみらしい。
簡単に手に入るものであれば良いというタイプは魔物の中でも草や空気から摂取するらしい。
これらは生態ピラミッドの最下辺に属するものらしい。
地球で言うならプランクトンだろうか。
だから魔物とは言え『飼える』のもあれば、『討伐対象』としてしかならないものもいるということらしい。
「なるほどね。
ところでこれって何処に向かってるの?」
ここでリザードを狩るのは初めてと言っていたのに、何処に何があるか分かっている風に動くのはおかしい。
迷う事無く足を進めるフィリカに疑問を持ったのだ。
対するフィリカは
「リザードの討伐依頼が出ていた付近だが」
とあっさりと言ってのけた。
そんなことは全く聞いていない理熾としては
え、依頼とか出てたんだ…。
と思うしかなかった。
お読み下さりありがとうございます。
少しリアルが忙しくなってきたのと、ストックがなくなってきたことで更新が不定期になる可能性が出てきました。
急に静かになるかもしれませんがご了承下さい。




