フィリカの隠し芸
フィリカが隠していた移動方法公開です。
「なーんだ」と思われるかもしれませんが…。
フィリカの店について行うことは一つ。
明日向かう魔石狩りの打ち合わせだ。
ギルドで簡単に調べてみたが、どうやっても日帰りできる距離ではないのだ。
「で、フィリカさん。
魔石取りは良いんだけどどうやって行くの?」
「走って」
「まじで150kmの距離を走らせる気か」と絶望しそうになる。
が、それに一緒についてくるフィリカが全く想像できない。
無駄に器用に『そういう面倒事』を回避している気がするのだ。
だから「冗談でしょ?」と聞くと
「そういう乗り物があるんだよ」
と種明かしをしてくれた。
それなら良いかとも思うが、よく考えて欲しい。
直線距離だとしても時速50kmの車でも2時間の距離である。
乗り慣れていない乗り物(馬とか?)で50km/hなんて速度で進めるはずが無い。
良くて自転車の20km/hくらいじゃないだろうか。
もし20km/hだとしたら5時間も掛かる。
そもそも直線で走れない。
それに車と違いこの世界の乗り物は動物なのだから、走りっぱなしという訳にもいかないだろう。
そう考えるとどうする気なのか興味が沸く。
それにそもそも理熾は『馬にすら乗れない』のだ。
念のため伝えておいた。
「馬とか乗れないよ?」
「大丈夫、何とかなるだろ」
という感じで話が終わってしまった。
それ以上の情報は頑として言わなかった。
つまり翌日にならないと詳細は分からないということだ。
それにしても最後にかすかに聞こえた「気に入られれば」というのが凄く気になる。
聞いてみるのも良いがきっと教えてくれない。
フィリカが最近こういう小さなイタズラを仕込むようになってきて困る。
とはいえフィリカが「大丈夫」だと言うのだから大丈夫なのだろう。
そんな話を終えてあけみやに帰り着くと急に不安になる。
日帰りできなかったら空腹で倒れかねない。
最近成長期なのか、すぐに空腹になるのだ。
ということでセリナに頼んで山ほど食事を作ってもらった。
急に言った割りに量は2人用で少なく見積もっても10日分を用意してくれる手際の良さを思うとセリナも大概である。
あけみやの従業員を総動員だったらしいが。
そういえばあけみやの食事が5カラドなのは真っ赤な嘘だったらしい。
屋台のお好み焼きモドキや味の無いスープがそれぞれ2カラドと1カラドだったことに疑問を持って聞いてみたら案の定だった。
最安値の定食でも20カラドから、というなかなかの高級店のようで、ご希望に応じて食材や値段の上限が無いという。
ついでに宿泊の金額を聞くと宿泊費は1泊500カラドとやはり高級宿だった。
初日から使える金額を大幅に突破していたわけで、セリナとギルバートには全く頭が上がらない。
つまり理熾は宿泊費無料の上に食事まで半額以下で食べさせてもらっていた訳である。
今までの分全て払うと言っても二人とも頑として頭を縦に振らなかったので、せめて今後は払うということで折り合いが付いた。
今後食材が入ったら出来る限り提供しようと心に決めた瞬間である。
翌日になり、フィリカの店を訪れる。
するとノルンが店の前で待っていた。
ノルンは当然お留守番なので、一緒にフィリカがいる庭へ入っていく。
そこには身支度を済ませたフィリカが居た。
挨拶もそこそこにフィリカが
「リオ君。
これが血魔石の試作品だ。
魔石が残ってたから既に組み込んである」
そう言って渡された投剣は昨日貰った杭型の投剣とさほど違いが無い気がする。
ただ柄の部分(?)が違う。
刃とは正反対の位置に透明な石が嵌っていた場所に2cmくらいの大きさの石があった。
色合いは同じなのに切り方のせいなのか、モノのせいなのかは定かでは無いが、今回のは完全に宝石に見える。
「違いは血魔石かどうか位だな。
ちゃんとした魔石だから結界の刻印を入れてもまだかなり容量がある。
後はリオ君の血を覚えさせればそれで完成する。
あぁ、そうだ。
荷重硝も仕込んであるから魔力の取り扱いには注意だ」
「覚えさせる?」
「あぁ、覚えさせると血魔石はリオ君の魔力に反応するようになる。
口で説明するより早いな…ちょっと手を貸してくれ」
そう言われて手を握られ、すぐにフィリカが背後の腰辺りに仕込んでいたナイフで指先を浅く切られて血が浮く。
「痛ッ!」とか言えないレベルの早業である。
思わず理熾は「ナイフまで使えるのかこの人」とか思ってしまっていた。
「で、この血をこの魔石に吸わせる」
すると仄かに光り、すぐに落ち着く。
宝石の色が無色透明だったのが薄い朱色に変わっていた。
薄い朱色は血の色なのだろうか。
「おぉ…綺麗な色だね」
「これで契約完了だ。
試作品ということで無料だ。
使い勝手を試すのと、量産するために魔石狩りが今回の目的だ」
今更にして『本当の目的』を知らされた。
目的自体は変わっていないが、気付いたら試し撃ちも追加されていた。
何というか断れないタイミングで『やれること』を放り込むのが上手すぎる。
全くフィリカさんは手ごわい。
受けるしかないじゃないか。
とぼやくも仕方が無い。
それよりも狩りである。
久々にアルスの街の外に行くかと思うと感慨深い。
とはいっても1週間ぶりだし、何より1週間前はハイオークとの死線の潜り合いだったのだが。
さて…行程150km、直線距離で100kmをどうやって日帰りするんだろう?
今の理熾が思うことはそれくらいである。
そうこうしている内に外壁に到着した。
特に何をするでもなく、ギルドカードを取り出して守衛に見せて通る。
何となく守衛の人達に緊張が走った気がするが気のせいだろうか。
そのまま何事も無く平原に出た。
今はフィリカについていく形で平原を走っている。
ここからどうやっていくのかと思えばひたすらに走る。
「まさかこのまま走りきる?!」とも思うが、それは無い。
そんな事をすれば絶対に間に合わないからだ。
3km程離れ、ちょうど外壁が霞んで見えなくなった辺りでフィリカが立ち止まり、理熾に向き直る。
「さてリオ君。
少しは私の実力というものも見せておこうと思う。
リオ君ばかり披露するのは不公平だからな」
と言ってくる。
既にフィリカの実力は理熾の装備を見るに実証済みなのだが、そういうことではないらしい。
今回は『討伐者』としての実力というわけなのだろう。
「声を聞け。
我が好むは赤なり」
フィリカの周囲が赤く染まる。
空間が染まるなんて現象を初めて見た。
驚いていると次の一節が告げられる。
「我が好むは青なり」
赤い空間に更に青が染み渡る。
色は重ならずに厳然と2色が存在する。
「我が好むは黄なり」
ダメ押しで黄までもが混ざる。
「色の三原色だったかな?」などと理熾は思っていると次の一節が続く。
「我が望むは緑。
全て交えて収束せよ。
空を駆け、食らい、支配する王者をここに」
フィリカの周りにあった3色が混ざり合い、緑色を形成する。
緑の空間は風を起こしてフィリカを中心に竜巻のように一瞬舞うとすぐに静かになった。
「さて、リオ君。
この子に気に入られたら目的地はすぐそこだ」
そう言ってフィリカが紹介したモノは百獣の王であるライオンの身体。
猛禽類である鷲の頭と鉤爪、羽を備えた高位の魔物のグリフォンだった。
現状の理熾ではまず勝てない相手。
魔物のランクで言うところのB、ないしAランク。
竜種の次のランクである。
理熾は唖然としながら眺めるが、特に脅威を感じない。
それはフィリカが呼び出したからか、隣に居るからかは分からないが、特に怖くない。
むしろ内心は「カッコイイ…」だった。
「ねね、触って良い?」
と理熾が言い出すまで時間は掛からず、フィリカの返事を聞く前にグリフォンに触る。
眼は鋭いのにクリクリと愛らしく動いているグリフォンの首筋(?)を柔らかく撫でて羽毛の感触を味わう。
そのまま背中に手を伸ばして大きな鷲の羽をワサワサと触る。
流石に羽を触られるのは嫌だったのか、グリフォンが軽く羽ばたいて理熾の手から逃れる。
「うわっ!」と驚くもそのまま気にせずライオンの身体の背筋を撫でて毛皮を堪能している。
フィリカに召喚されたグリフォンは過去に無い反応に「何だこいつ?」という風な雰囲気を醸しているが、嫌がる素振りは無い。
その様子を
「………ホント物怖じしない子だな…」
とフィリカは呆れながら眺めるしかなかった。
お読み下さりありがとうございます。
規格外の鍛冶師ですが、そもそも登録は討伐者です。
なのでこんな一芸も持っていたりした訳です。
フィリカもわざわざ手の内を晒すことを良しとしない性格なので滅多に見せたりはしないのですが。




