初めての空間魔法
使える、使えないで言えば使えていました。
しかし『使いこなせるか』といわれれば首を振るしかありません。
今回はそんな空間魔法についてのお話です。
いくつかの装備構想をフィリカに伝えて庭に出る。
フィリカはそのまま工房に直行したのでここには居ない。
魔法についてもう少し教えて欲しかったが、また今度にする。
あの楽しそうな顔を不機嫌に変えたくなかったし。
さてと。
とりあえず空間魔法だね。
まずはおさらい。
僕が出来ることは亜空間を開くことだけ、だった。
さっきやってみたら今までの苦労が何だったんだと思うくらい簡単に空間が削れた。
虚弱化って魔力の循環とか制御にまでちょっかい出してたみたいだ。
そう結論付ける。
でないと理由がさっぱりだからだ。
いくらLvが上がって魔力も増えたからといっても、制御能力が格段に上がるというのは疑問が残る。
確かに余力をもてるというのは強みでもあるし、だからこそ制御が簡単な時もある。
けれど今回のは制御云々で言えば理熾のやり方は同じなのだ。
それなのに劇的な変化があったということは、他の要因が考えられる。
というか、それが虚弱化なのだが。
まぁ、原因はともかくとして。
何処まで使えるのかな?
そうして空間制御を始める。
基点は自分、効果範囲などを設定する。
術式の構築・確認、魔力量の調整・確認、魔力を通して術式の展開。
一工程ずつ丁寧に行う。
今まで指の軌跡でしか展開できなかった魔法を、あっさりと展開する。
理熾からみて約1m前方、範囲にして四方1m、厚さ10cm程が世界から抉れた。
軽くノックするように叩いてみると違和感のある弾力というか、膜というか。
表面が少しだけ柔らかくて一瞬めり込むが、更に進めようとすると芯の様な固さがある。
少し強めに殴ってみると表面を波紋が流れるだけに留まり、やはり突き抜けることは出来なかった。
うん、どうせだから投剣で実験しよう。
そう思って亜空間を空けようとした瞬間に、空間が解れた。
削った部分の空間が霧散し元に戻ったらしく、目の前には不可視の壁が消えていた。
どうやら効果時間はさほど無いらしい。
もっと魔力を込めれば長時間耐えられるかもしれないが。
おぉ…危ない…。
危うく何も無いところを撃ち抜くところだった…。
流石にフィリカさんに怒られる。
そうしてもう一度。
一度やって手馴れたせいか、先程よりも時間が掛からず壁が形成される。
跳ね返ったら危ないと思い、眼前に壁をもう一枚配置する。
急がねばまた消えかねない。
眼前と1m先の壁の間に亜空間を開き、投剣を発射する。
「カシャン!」というガラスが割れたような高い音を立てて1m先の壁が砕け散る。
貫通してしまったので「ズドン!」という音を立てて土手にも突き刺さる。
どうやら許容できる以上の威力に晒された場合は構築した術式ごと砕けるらしい。
でなければ貫通痕が残るはずだから。
空間魔法の防御壁のお陰で威力が殺がれたらしく、土手の反対側に盛り上がりなどは見当たらない。
場所は恐らく対面近くだろうが土手の中で止まったらしい。
今度こそ引っ張り出せそうにない。
あぁ…勿体無い…。
ま、まぁ。
実験に代償は付き物だよね!
とすぐさま諦め、防御壁の硬度を上げる方法を考える。
投剣を止められないまでも、砲弾(あるかどうかは分からないが)を止める方法があるとかなり楽だろう。
むしろ砲弾以上の貫通力を持っている投剣を止められたら恐らくほとんどを止められる。
ついでに一応取り出す方法も頭の隅っこで考えている。
実は諦めは悪い方なのだ。
あ、そうか。
土手なら止まるのか。
と目の前の土手を観察する。
理由は何だろうか…表面を撫でながら考える。
ある程度固めているはずの土手も、触ればざらざらと簡単に崩れる。
けれどもこの土を固めて出来た壁は、投剣の攻撃を受けてなお貫通を許さない。
幅にして5m。
たった5m程度で壮絶な貫通力を持つ投剣を受け止めきる。
んー…?
板と座布団の違いかな?
固いってコトは、受け止めるってコト。
柔らかいってコトは、受け流すってコト。
この投剣は攻撃力が一点集中してるから止まらない。
てことは、ハイオークの時の斧みたいに威力をバラ撒けば止まる?
そう思って改めて土手を見る。
そして振り被って、殴りつける。
合金製の手甲装備で、理熾が殴れば今なら壁板に穴が開く。
けれど土手は少し凹むがその程度。
つまり柔らかい土が威力を逃がしたから拳の型が残るくらいなのだろう。
んー…そっか。
土嚢を遮蔽物にする事があるのはそういうことか。
土の特性が欲しいけど、土のままなら持ち運びが難しい。
だから土を袋に詰めて積み上げて、簡単な土手を作る。
その壁があるから銃撃戦でも生き残れる…。
やっぱり貫通力を殺ぐには土って有効なんだなぁ。
だが柔軟性を持つ空間を作ることなど今の理熾には出来ない。
というかそもそも空間魔法でそんなことが出来るかすらもわからない。
なら考え方を変えるべきだ。
単に勢いを殺ぐということに重点を置いてみる。
確か砂防ダムってのがあったような?
土砂崩れの勢いを抑える為に、要所に壁作るってやつ。
てことは壁をいくつも用意すれば止まるかな?
ならば実験だ。
そうして土手側の空間を見つめる。
先程と同じく基点は自分。
距離にして1mから。
厚み9cmの結界を10cm刻みで配置する。
つまりすき間は1cm。
イメージは密度の高いドミノ倒し。
想像の鉄線で1枚目の輪郭を描き出す。
2枚目以降は1枚目と同じ条件で配置位置だけずらして並べていく。
1m分、10枚の空間魔法で構築した鉄線の壁を幻視する。
後は展開用に魔力を注ぐだけ。
先程と同じように念のために自分の眼前にも先に1枚展開してから、10枚分の魔力を注ぐ。
すぐさま魔法が構築・展開され、防御壁が形成される。
改めて亜空間を眼前と1枚目の間に展開して投剣を放つ。
「カシャシャシャン!」と高い音が連続で鳴り響いた後に、「ドスン」と重い音がする。
残念ながら全ての防御壁を貫通して土手に到達していた。
とはいえ、土手への埋まり具合は1発目よりも遥かに浅かった。
今度は頑張って掘り返せば取り出せそうだ。
「何の音だ?」
とフィリカが顔を出す。
工房にまで音が届いていたらしい。
「あ、ちょっと空間魔法で壁作ってみてたんですよ。
それで防御力を調べようと思って投剣使ってみたら割れたんです」
「…馬鹿だろ、君」
フィリカのジト目というのはなかなか珍しいのではないだろうか。
と理熾は場違いにも思う。
それにしても馬鹿って…。
そんなにおかしなことしたのかな?
理熾の手持ちの魔法の知識は『魔法の無い世界の想像力』でしかない。
だからスフィアという世界で何かを行う時の意味が本人が一番分からない。
フィリカの率直な意見というのがこういう時に役に立つのだ。
「さっきリオ君も言ったように、この投剣は威力が高すぎる。
結界や障壁などで防ごうと思ったら城壁並みの硬度が必要だぞ。
こと貫通力だけを言うなら、恐らく個人では受け止められんレベルだ」
「ぇー…そんなに威力高いの?」
と言いつつも思い出す。
確かにウッドウルフなどは爆散していた。
それにオークですら6体分貫通したし、あの凄まじく固いと思ったハイオークですら腕に穴を開けた。
つまり未だに回避以外の防御手段が無いのだ。
「方法はあるかもしれんが、真正面から止めるのは難しいだろう。
あの土手ですら貫通しかけたのをもう忘れたのか?」
といって指差す先にはこぶし大の穴が開いた土の山。
衝撃吸収力に長けている幅にして5mの土の塊を貫通しかけるレベルの攻撃力なのだ。
個人で防げるレベルを大きく超えている。
だからふと思った。
あれ、じゃぁ投剣の威力上げない方がいいんじゃ…?
荷重硝使うとかって嬉々として話してたけど…。
と。
言い分と現実には大きな齟齬がある。
仕方ないのかもしれない。
彼女は探究心には勝てない部類の人なのだから。
「ま、まぁ…防御策は必要じゃないかな?
これが僕しか出来ないっていう理由は無いんだしさ」
「確かにな…。
空間魔法を使える者にタネが割れれば使えるからな」
とはいえ、実はそれも難しい。
空気抵抗があればあるほど落下の威力は殺がれるし、何よりまっすぐ落ちない。
とてつもなく長い落下距離が必要な分、些細な空気抵抗でも結果が大きく出る。
つまりちゃんと飛ばないのだ。
フィリカ作だからこそ、まともに飛ぶのだ。
実際は他の者が作った武器で実験していないので二人が気付くことは無いのだが。
「だから方法考えないとなぁって」
「そもそも魔法で作る結界や障壁なんかは貫通属性に弱い。
範囲攻撃を受け止めるためのものだからな。
貫通属性は攻撃範囲が狭いので物理的に回避する方が圧倒的に簡単なんだ」
「なるほど…」
フィリカの説明にただ頷くことしか出来ない。
確かにこんなに悠長にイメージを固めて障壁を作るのは不可能だ。
それが出来るならそもそも避けた方が手っ取り早いのは確かすぎる。
「だが投剣に関しては回避すること自体が困難だ。
虚空から発射されるので前兆を確認しづらい上に早すぎる。
そうなると魔法で防ぐなんてのは速度的に間に合わないから、意味が無い」
「意味無いのかぁ」
と残念がる。
アレだけの速度で発射されては受けきれない。
例え貫通力が無くても確実に間に合わない。
けれど出来て損は無いはずで、投剣を受け止められるなら今のところどんな貫通攻撃でも止められるはずである。
そうして考えているとフィリカが土手を一瞥して動きを止める。
「リオ君。
こっちの投剣は何だかかなり手前で止まっているが何故だ?」
「空間魔法で作った壁を撃ったからだよ」
「そんなに強力なモノが作れるのか?」
あっさりと言った理熾に信じられないという顔をするフィリカ。
やはりあの投剣の攻撃力はハンパでは無いらしい。
「いやぁ、一枚じゃ簡単に壊れたから一杯並べたんだよ。
とりあえず10枚並べてそれだから、他に方法考えないとダメっぽいね」
「……結界士というクラスを知っているか?」
少しの沈黙の後、フィリカが唐突にクラスの話をする。
確かに今まさに欲しい能力のクラスではあるが、理熾の知識にはほとんど無い。
そもそも理熾は完全な攻撃特化である。
物凄く偏っているのだ。
防御方面の知識は勿論、能力すら無い。
「やだなぁ、フィリカさん。
初心者がそんなコト知ってるわけ無いじゃないか」
「それもそうだな…防御魔法を極めた先にあるクラスだ。
そのクラスの結界や障壁を突破するのは難しいとされている。
理由は、結界を施す際に条件を付与できるんだ。
例えば柔らかい、硬い、薄い、厚い、大きい、小さいなど、色々と。
だからそれを突破するのはとても難しい。
状況に応じて瞬時に切り替える手腕があってこそ、『結界士』というクラスになる」
「うん、それで?」
話す内容はとても魅力的である。
攻撃に特化しすぎた理熾には喉から手が出るほど欲しい能力でもある。
殲滅力が高ければ生存率が高いのは確かだが、防御力が高くても同じ結果になるのだ。
どうせなら両方欲しいと思うは欲張りではない。
だからもっと情報が欲しい、と次を促す。
「その結界士というクラスは数も操作できる。
複数の効果を持つ結界を並べて、攻撃を止めるんだ」
「なるほどね。
それならどんな攻撃がきても何処かで止まりそう」
「あぁ。
だが、それは『結界士』というクラスでやっと出来ることなんだ。
それをリオ君は、『とりあえず10枚並べた』と言ったな。
そもそも結界や障壁を複数配置するのはとても難しいことなんだぞ?」
「え、そうなの?
結構簡単に出来たけど…」
理熾としてはそれほど難しかった感覚が無い。
というより、何故難しいのかが分からない。
やった事といえば1枚目の術式構築を丁寧に行った後は、全てコピーなのだから。
理熾の空間魔法が上達したことと、虚弱化の影響も無くなったこともあったのか、物凄く簡単だった。
空間使いの癖して『座標の感覚』を掴めていなかったという致命的欠陥が払拭されたのは大きいかもしれない。
だからセンチ単位での魔法構築という行為ができたのだから。
「それはおかしいぞ…?
1枚展開するだけでどれほどの設定が必要だと思っている」
「え、うん。
だから1枚目はしっかり作ったよ?」
「……何を言ってるんだ?」
「あぁ…もしかして、足し算と掛け算の違いかも」
「なんだそれは」
「僕の場合10枚の結界を1枚ずつ丁寧に作ったわけじゃないんだよ」
何を言っているのか分からない風に首を傾げる。
理熾にしてみても、魔法なんて今まで亜空間しか使って無いし、使えなかった。
感覚的に分かるというだけで説明を求められるととても困るのだ。
が、出来る限り言葉にはする。
「1枚目は多分同じように作ってると思う。
けど2枚目は『2枚目を作る』ことはしていないんだよね。
『1枚目の複製』で、展開場所だけ変えてるんだよね。
それ以降も同じ条件で、展開場所だけをずらして行くって感じかなぁ」
「結界の複製など聞いたことが無いぞ…?
いや、それこそが結界士の極意なのか…?」
「あ、違うや。
今回作ったのって厚さ9cm、1cmの隙間を空けて10枚なんだよね。
だから『10cm(9+1cm分)の空間』を複製したんだよ。
複製壁の基点は『展開する一つ前の壁』って感じの条件で。
んじゃ魔力の続く限り、分かる範囲までなら何処まででも何枚でも作れるでしょ」
「…なるほど、それが術式を簡単に書く方法か」
先程フィリカが言った通りだ。
術式の書き方に差があり、それが腕に直結する。
理熾は単に書き方が上手かっただけなのだ。
実際は「同じのを何回も作るのが面倒だっただけ」なのだが、気にしない。
んー…でもこの方法じゃ止めらん無いなぁ。
土、土…土の成分って何だっけ…粘土と砂?
粘土かぁ…って砂?
砂…………つぶ?
そっか、粒か。
あぁ、なるほど。
粒が衝撃を受けて動き回るから、その分の衝撃が分散するのか。
なるほどね。
なら粒を敷き詰めれば良いのか。
んー…でも空間魔法じゃ空間に固定しちゃうから意味が無いような…?
という風に隣でフィリカがしきりに感心しているのを尻目に考え続ける。
結局結論は出せなかったが、とりあえず空間魔法が使えることだけは分かった。
せっかくフィリカも居ることだし「少し話してみるのも良い」と思って障壁についての考えを中断する。
改めて魔法を教えてもらうのだ。
お読み下さりありがとうございます。
気が付けば5万Pv突破です。
今後も『神様のおねがい』をよろしくお願いします(‘‘




