報償の値段2
拒否権というものはとても強い権利だと思います。
相手の行動に対して『否定する』のですから。
今回はそんなお話です。
「ギルドからの報償として5万カラド。
また、ステータス開示義務に対する拒否権を提示します」
そもそもの話になるが、ステータス開示義務があるとは思っていなかった。
いや、あってもおかしくは無い。
今思えばあった方が自然とすら言える。
ギルド員の情報を持っているからこそ、ギルドは運営できていると言っても過言では無い。
ギルド員に対してそれくらいの権限が無ければ情報収集など出来ないのだから。
「んー…そこまでする理由は?」
義務とまで言われる権限を手放す理由が思い浮かばない。
例え報償…『償い』だとしても、この権利を放棄すると理熾の情報がブラックボックス化してしまうのだ。
ランクが上がったとしてもとても使いにくい駒だと言える。
「最初に担当したのが、私ですので。
貴方の異常性を十分理解しているつもりです」
「あぁ、Lv1の件かな?
確かに僕の情報ってちぐはぐだよね」
と納得する。
恐らくだが、最初のステータス読み取りが『間違っていた』と感じる者が大半だろう。
だが、このガゼルだけは『そうではない』と知っているのだ。
だからこそ、この提案なのだ。
「確かに。
誰でも分かるような一般常識に疎くてLv1。
だからどっちかがおかしいはずってことだよね。
けれど一般常識を持っていた上(ステータス隠蔽疑惑)でのLv1はありえない。
逆に本当にLv1だとすると、一般常識(年齢≦Lv)が成り立たなくてありえない。
となると両方とも正しいという推測が立つけれど、そうなるとどっちもおかしい」
「えぇ、貴方の存在が年齢とレベルについての常識を壊します。
これが狂ってしまうとそれはそれで大変問題なのです。
貴方だけが例外という証明も難しい以上は今までの基準全てを変える必要性が出てきます」
「あくまでも必要性ですが」と付け加える。
要は『今までの常識通りでいきたいから、この事実を公表しない』と言いたいらしい。
恐らく年齢やLvで制限を掛けてる、ギルド・国の施策全てに影響を及ぼすのだ。
日本で例えるなら酒とタバコだろうか。
Lvがそのまま強さに直結するので状態異常の耐性を持つLvを、年齢で縛っているとする。
つまり『Lv20の人は良いよ→20歳まで我慢しろよ』ということである。
それが今後は『きちんとLv20かどうか確認するよ!』に変わるのだ。
何せ『年齢≦Lv』が成り立たないのだから仕方ない。
そしてLv20かどうかなんて見た目では絶対に分からない。
まぁ、見た目で年齢が分かるかと言われれば微妙かもしれないが、今後は更に難しくなる。
何より一々そんなコトはやってられないのだろう。
この世界には戸籍が無い以上、個別の管理も行っていない。
だからその場限りで手軽に確認できる方法が年齢だったりするのだろう。
それら全てのルール変更をするのはまず無理だ。
だったら、理熾を例外として弾いてしまえば良い、という結論だ。
これは理熾の為と言いつつ、情報を管理するギルドや、法律やルールを扱う国の為なのだ。
「でもそれって、僕のLvが上がれば解消されるんじゃないの?」
「えぇ、でもLvというのはそう簡単に上がるものではありません。
例え上がったとしても、加入時のLvを調べられると困るのです」
今後一般常識を手に入れても加入時にLv1だったことは覆せない。
そうなると一般常識を手にした未来では、今更のように隠蔽疑惑が浮上するということのようだ。
ステータスの開示義務を使っても良いが、わざわざLv1というありえないLvに隠蔽する理由が無い。
そこでまた問題が混線する。
結局登録時のLv1を抹消するのが一番なのだ。
この問題を解決する方法は恐らく二つ。
1:ステータス開示義務に対する拒否権を持つ
ステータスを見せる必要が無いので問題にならない
単に今後の対策なので、特に手間は掛からない
ただし勝手に調べられたりするとボロが出る
2:現状の登録を削除後、再登録
根本的に解決出来る上に、国・ギルド側では憂いも無い
ただし依頼達成などの情報を移行する事が不可能だと予想されるので理熾が一方的に損をする
多分2に関しては、理熾にとってデメリットが多いので提案できない。
というか提案されていないので理熾の勝手な予想である。
提案されて無いことを思うと『デメリットが多いのかな』と思うのだ。
だが良く考えると理熾からすると2つめで全然問題が無い。
「ガゼルさん、質問。
登録抹消後の再登録って出来るのかな?」
「問題ありません」
そちらの方向に流れるとは思っていなかったのだろう。
気付かれたことに少し驚く。
「じゃぁ、再登録後の開始ランクって変更できるの?
普通ならGランクからだと思うんだけど、その辺りはどう?」
「問題ありません。
推薦やギルドからの要請でギルド員になる方もいらっしゃるので」
ということは、推薦か、ギルドからの要請があれば問題ないということ。
つい今しがたアルスのギルドマスターから合格点を貰ったばかりなのだから、さぞ開始ランクも高かろう。
「ちなみに登録抹消したら今までの記録は…?」
「全て破棄となります。
ギルド側では依頼主、受注者、結果は残りますが受注者側の記録を抹消するので辿れません。
というよりは過去に居た、というだけで現在の登録者と『同じ』とは認識されません」
「つまり同じ名前、経歴でも『別人扱い』するってことかな?」
「その通りです」
やはり過去の依頼分の上乗せは出来ないらしい。
まぁ、行った依頼は薬草依頼を除けば依頼主は全てギルドなのだから気にする必要は無いかもしれない。
今回の緊急依頼分が受けたことにならないのは少し残念だが。
「んじゃ登録し直しでお願いします」
「え?!
今までの依頼評価を全て捨ててもよろしいのですか?!」
「んー…惜しいといえば惜しいですけど。
まだFだし、今後を考えるなら今の内に手を打った方が良いかなって」
「…ありがとうございます」
とガゼルが頭を下げる。
であれば。
と頭を切り替える。
もう少し押してみよう。
「うん、ただお願いが」
「何でしょうか?」
「拒否権は欲しい」
これは譲れない。
過去に遡って調べるなんてことをする不届き者への対処は再登録で完了だ。
だが今後理熾について調べる、または確認されるということは避けたい。
つまり理熾のステータスをギルドに残さないというのを条件に出したのだ。
「承知いたしました。
登録の際もステータスを空欄とさせていただきます。
カードへの情報は名前、ランクのみ。
ギルド側での情報はそれに加えて依頼状況という形で対処いたします」
「うん、お願いします」
「あぁ、それと。
今回の緊急依頼については初仕事として登録させて頂きます。
余りに遡りすぎると改竄対策で弾かれてしまいますが、一昨日程度でしかも大規模依頼であれば問題ありません」
「これくらいの経歴が無いとランクも疑われますしね」と追加で告げられた。
全くその通りなのでありがたい。
いきなり年端も行かない理熾が中級ランクから出発するのは難しい。
どうしてもコネや裏口という評価が付きまとってしまう。
だから理由付けとしては今回の緊急依頼はうってつけなのだ。
何せ理熾の存在を緊急依頼前にきちんと知っていた者など居なかったのだから。
「うん、そういうことならお願いします」
そう言って了承する。
報償としての5万カラドが多いか少ないかは分からない。
けれどそれ以上のメリットがあるので十分。
実際はそのメリットは理熾だけでは無いので、値段を吊り上げることも出来るが、その辺は気にしない。
何せ理熾には願ったり適ったりなのである。
これで少なくともギルドからのステータス、スキルに対する要請はストップ。
今後ありえるのは事情聴取や診断・解析系スキルでの盗み見に限定される。
Lvを見られても良いが、スキルを見られるのはかなり困るのだ。
「ありがとうございます。
それでは下のカウンターにて5万カラドをご用意いたしますので、お受け取り下さい。
あ、ギルドでは資金のお預かりも行っております。
今回の報酬は膨大ですので、強盗に遭わない為にもご利用いただければと思います」
とちゃっかり銀行アピールを行う。
単に預かり業務を行うだけで、多分利子などは付かないだろう。
下手をすると保管料や利用料という形でお金を取られそうだ。
「ありがとうございます。
今のところは予定は無いから、必要になったらお願いします」
とあっさり断る。
理熾にとっての財布はステータス表記される数字である。
持ち歩いても荷物にならず、見た目上は何も持っていないのだ。
これでは強盗も対処できないだろう。
「報償の件はこれで終わりですか?」
「はい、お手数をお掛けしました。
今後とも当ギルドを不満無くご利用頂けるよう努力いたします」
そういってガゼルは改めて頭を下げる。
一ギルド員…いや、ただの新人に対してギルドマスターが頭を下げるのはかなり凄い光景だ。
いくらコトを収めた理熾とはいえ、破格だろう。
今回の不手際はこれで許せという意味もあるのだろう。
こういう風に完璧に謝罪されると何もいえない。
そもそも理熾は怒ってもいないから「仰々しいな」と感じてしまう。
「うん、こっちこそお願いします。
ずっと居るとは限らないけど、その時は紹介状でも書いてくれると嬉しいな」
「承知いたしました」
そう言って握手をして、謝罪という名の交渉を終えた。
お読み下さりありがとうございました。
これで理熾の討伐者暦が3日に戻りました。
そうなると初心者研修はやり直さなければ…とも思いましたが、ランク的に必要ありませんね。




