報償の値段
理熾は良く試されます。
年齢から疑問を持たれ、そのせいで毎回ことあるごとに試されます。
今回もそんなお話です。
中央カウンターで名前を告げてギルドカードを渡す。
すると受け取った女性が立ち上がり、案内をしてくれる。
後ろをついていくと、最上階の執務室に連れてこられた。
最上階はこの執務室しか存在せず、扉の前に立つだけで高そうという感想を持たされる。
重厚というか何と言うか。
学校の校長室を思い浮かべても単なる建材の扉だったことを思い浮かべると差がハンパ無い。
役職者、というのは見栄も貫禄も必要なのだろうか。
校長先生には無かったものだが。
そんな事を背中に冷や汗滴る中思っていると、連れてきてくれた受付嬢がノックもせずに入っていく。
流石に上司…というか支社長ランクを相手にそんな事をしていいのかとも思うが、それがアルス流なのかもしれない。
そう思ってそろりと後ろをついていく。
「さて、リオ様。
今回は大変申し訳ないことをしました。
ギルドマスターのガゼル・ライナーと申します」
案内してくれた女性がそのまま部屋のソファーに移動して反転し、そんな事を言ってくる。
呆然としながらも思う。
何だか昨日から、役職者と面識がありすぎる。
この人、実は理熾がギルドカードを作った時に説明をしてくれた受付嬢である。
その後すぐに【神託】で『ギルマスと会話』がクリアされた理由が今明かされた訳である。
一度ギルバートがギルマスかとも思ったが、それぞれ思惑が外れた訳だ。
そりゃそうだよ…。
説明受けたし、質問したし。
というか…何故受付嬢してるんだろ…?
そんな事を思いつつもとにかく疑問は棚上げだ。
「どうしました?
座ってください」
「はい。
初めまして、ガゼルさん」
とりあえず冷や汗は止まった。
ギルドマスターというくらいだからいかついおっさんをイメージしていたので、かなり心の余裕が生まれた。
目の前に座る女性は華奢で、何処から見てもいかつさなど無い。
事務方ということなのだろうか。
「何故受付嬢が、と疑問に思わないのですか?」
「いや、十分思って、衝撃も受けてるけども」
心外だという感じで答える。
理熾側から醜態を晒したのは一点のみ。
最初のカード作成の際だけだ。
だから別に心苦しいことも無いし、何より騙された側だから強く出ることすら出来る。
やる気は無いのだが。
「質問が無いので興味が無いのかと…」
「そんなこと無いですよ?
ただ今聞くことじゃないかなぁと。
それにある程度予想出来るし…」
「確かに。
ちなみにどんな予想でしょうか?」
何故こんなことが気になるのかということが疑問に加わった。
そもそも報償の席で話すことなのだろうか。
この場は謝罪会見する機会なのに。
「んー…初めてギルドで会った時はアルス領主の依頼を聞くためでしょ?
特殊なお願いだから、間に誰か入れるっていうのはリスクになるので自分が出張った。
僕と面識が無いって事は、お互いの顔と名前、役職を知らないってことだから一番手っ取り早い」
「他にする事が無ければだけど」と付け加える。
そうやって確定であろう内容を告げる。
ここから先は推測なので、とりあえずこれで様子見である。
ガゼルは予見していたのか表情に揺らぎは無い。
仕方ないので続きを話す。
「それ以降…つまり今日とかは趣味とか。
職員への抜き打ち調査。
初心者の見極め?
もしくはギルド員の精査とかかなぁ?」
と指折り数えて考えを答える。
こんなもの予想というか推測というか。
趣味か、覆面調査かのどちらかしかない。
意味が無いなら前者だし、持たせるなら後者だろう。
別に難しい話ではない。
「聞いていたより余程優秀ですね。
センガとジンが褒めるだけあります」
「ん?
二人とも僕を褒めてくれたの?」
「ジンに関しては命の恩人ですからね。
センガは研修生の中では群を抜いた資質と話してましたね」
そう評されるならあれだけ肉体言語を理解した甲斐があるというものだ。
とはいえ、やはりセンガ視点からするとまだまだということなのだろう。
今なら少しは抵抗できそうだけれど…。
まぁ、僕の攻撃って基本的に攻撃力が高すぎるんだよね。
と残念になる。
今のところ、試合ではなく殺し合いにしか向かない力なのだ。
何せ技術ではなく物量で押し込むため、準備が全てなのだ。
問題解決の為に攻撃力を研ぎ澄ませた結果だとも言える。
「それはまた…。
センガさんのお陰で今はかなり快適に生きれているのでお礼言わないと」
「そう言って貰えるとギルド職員としては大変嬉しいでしょうね」
「ジンさんは…まぁ、依頼書悪かったしね?」
そう言って苦笑いする。
だがあの書き方でなければ24人も人が集まらなかった可能性もある。
強制参加を呼びかけても武器が無ければ戦えないし、体調もある。
ある程度の罰則は発生しても、言い訳を止める理由にはならないのだ。
それを考えればあの依頼書も仕方ない部分もあったのだ。
「耳の痛い言葉です。
ギルド側は明確な依頼と、確実な報酬を提供するのが仕事です。
だからこそ仲介業として営めているはずなのですが…今回のことです」
別にガゼルが行ったことではない。
だが、責任はガゼルが取るべきなのだ。
それが組織の長としての責務なのだから。
だからこそ、それだけの権限を持っているのだから。
「担当者の処分は現在精査中です。
決定次第、リオ様にはご連絡致します。
また、ジンについては降格処分と再教育、そしてリオ様の討伐補助を命じております」
一つ一つ聞いていく。
発令者の処分は…理熾に関係ない。
ギルド内部の話なので、今後こういう事が無ければ良いだろう。
まぁ、もっと色々と態度が良くなる方がいいと思うけども。
受付嬢とかギルドの顔なのに。
とも思う。
子供の理熾でこんなことを思うのだから、他のギルド員はもっと思っているだろう。
それよりも。
「討伐補助って何ですか?」
「今回のように解体業務やその他の雑務を受け持たせます」
「うん?
それって僕だけ特別扱いってこと?」
「えぇ、そうなります。
基本的にギルドでの解体は有料ですし、高く設定しています。
これには技術料や、手間賃など色々含みますが要はやりたくないという意思ですね。
しかし討伐補助に関してはその辺りの手数料は頂きませんし、何なりとお申し付け下さい」
少し考える。
これで何が『得』なのかと。
理熾にとっては十分に魅力的な話である。
少なくともアルスに居る分には解体依頼を新たに出す必要が無い。
それに疑問に答えてくれる(答えられるかは別としても)相手が出来たのはとてもありがたい。
フィリカの知識や見識はとても役立つが、どうしても一方向の見方になる。
これではフィリカの考え違いや思い込みがあった場合はアウトである。
リスクを避ける意味でも、他の目や頭は必要だ。
だから理熾にとってはとてもありがたい。
では相手にとっては?
「……僕と、フィリカさんのお目付け役ですか?」
ガゼルは表情を崩さない。
が、答えも無い。
単に一人分(しかも元指揮官クラス)を遊ばせるのは勿体無さ過ぎる。
それならば優秀な生産者であり精霊術師であるフィリカと、その関係者で今回の解決者でもあり不明な点が多い理熾の偵察を行わせる。
ジンが適任かは分からないが、少なくとも顔見知りであることを思えば的外れの選任という訳ではない。
「それともジンさんの再教育ですか?」
ジンの楽観視は利点であり、弱点だ。
現場で高揚感や士気を上げるのにとても役立ち、能力以上の戦果を上げることも珍しくない。
このために指揮官役を受け持っていたし、これまではそれで結果を残していた。
だが、物事を細分化して関連性と問題点を洗い出すには適さず、今回のように戦力が違いすぎると途端に崩れる。
策を弄するという事がそもそも不得意なのだが、何よりも相手の策に嵌るというのが問題だった。
対してフィリカも理熾も士気を上げるのは上手くは無いが、物事を斜めに見ている。
発想の出発点や到達点が違うからこそ、策を練れるし破れるのだ。
そんなフィリカと理熾の傍に置けば、目の前で起きていることだけでなく問題の本質を見抜く目を持てるのではないかという考えだ。
少なくとも理熾は、ジンと自分との違いを明確に感じている。
だからそういうことも考えられているんじゃないかと思うのだ。
だが同じくガゼルは微笑んだまま、答えない。
理熾に答えを求めているかのようだ。
報償の件は何処へ行ったのやら。
ひも付きの謝罪なのかとがっかりする。
結局手放しで「悪かった」と謝れないのだと。
「たったこれだけの情報で、私の思惑を見抜くなんて素晴らしい」
どうやらガゼルには合格点をもらえたようだ。
何故か面接というか、テストのような感じになっている。
新人の癖に余りに的確な指示、新たな兵科の使い方を考案したことに対する確認なのかもしれない。
年齢的にも経歴的にもどう考えても異常なのだから。
「……ということは、答えられるかどうかが思惑だったってのが正解かな?」
「本当に素晴らしい」
と感心して顔をほころばせる。
どうやらこちらが本命だったようだ。
情報を絞った上で『思惑を見抜く』ところを見たかったのだ。
なのにその『思惑を見抜くところが見たい』というのを指摘されて驚いたのだ。
「試すようなことをして申し訳ありません。
リオ様には報償を受け取っていただくつもりでしたが、フィリカ様が無関係かは分かりません。
今回同行されたフィリカ様の発案の可能性も否定できませんでしたので、このような形を取りました。
フィリカ様も仰る通り、これだけ意を汲み取れるのでしたら機転も利くでしょう…リオ様の功績であると認定いたします」
下からなのに言い方の所為で何だか上からに聞こえる。
認定とか言われても、そもそもそういう話ではなかったはずだ。
誰がどう関わっていたところで、依頼書の不備は問題だし、それに対する報償だったのではなかったか。
「つまりフィリカさんが手を回していた、ってこと?
僕がフィリカさんに付いて回っただけという外野の意見を潰すために」
「その通りです。
報償とは別に、リオ様のランクを引き上げるということで功績の補強を行います。
こちらについてもギルドマスターである私が面接後に認定したということで外野の言い分を通しません」
どうやらフィリカのおせっかいは理熾が建前に使った認めさせる機会にまで及んでいたらしい。
ギルドマスターに能力を認めさせ、その上でランクを引き上げる。
今回の参加者であれば理熾の名を聞けばそれで理解する。
それだけで参加者に関わりのある者は実力を認める方向で受け取るだろう。
半面、知らない者からすれば飛び級に違和感を抱いて突っ掛かってくるかもしれない。
だがそれらの声に対する返答としてギルドマスターが認めたという事実が必要なのだろう。
それでも言われる場合はもう仕方ないと諦めるしかない。
「フィリカさんにもお礼言わないとなぁ」
「あの方は身内に優しいですからね。
では報償のお話に移らせていただきます」
「あれ?
ジンさんのことじゃなかったの?」
「あぁ…あれは単なる罰ですよ。
なのでせいぜいこき使ってやってください。
罰としては軽いですが、基本的に無期限です。
命を預かる指揮官があれほど短絡的では困るのです」
と急にプリプリと怒り出す。
一応ギルド員に対しての責務を持っているからこその言葉なのだろう。
そう仕切り直して報償の話に移る。
「ともかく、ギルドからの報償として5万カラド。
また、ステータス開示義務に対する拒否権を提示します」
お読み下さりありがとうございます。
フィリカの根回しは恐ろしいものです。
本当に『根本』から手を回すので、何をされているのか結果でしか分かりません。




