真実の姿
緊急依頼がようやく終了しました。
今後は事態の収拾に努めていきます。
今回の魔物討伐のその後の顛末を語ろう。
理熾はハイオークとの戦いで全力を出し尽くして意識を失った。
辛くも勝利を収めたが、全身打撲と極度の疲労が理熾の意識を強制的に落とした結果だった。
そのまま起きる事無くアルスへ帰還して、現在ベットで寝ているという状態だ。
日付が変わっており、緊急依頼が昨日になっていた。
ハイオーク戦から寝ていたと思えば、大変良く寝ていたわけである。
何せ今はお昼なのだから半日以上寝ていたことになる。
聞いたところによると理熾が倒れてから急にフィリカが張り切ったらしい。
理熾を騎士と揶揄しての参戦だったらしいが、前線で戦っていていた14体の最後のオークは殲滅された。
ものの1分で。
掛かった時間は詠唱時間と、魔法の発動時間、そして着弾時間のみ。
前線で必死に戦う討伐者を尻目に、14体のオークへ同時に魔法で射抜くなど常軌を逸している。
相手に何もさせないというのが戦闘の極意だと言うが、フィリカはまさにそうだった。
何より騎士より強い貴婦人とか笑えない。
その後、フィリカとジンの間で交わした約束事を思うとジンが可哀想に思える。
何せ理熾が倒した討伐した魔物の回収と、その魔物に対する報酬の清算なのだから。
ついでに丸のまま欲しい場合もあるので後日ではあるものの、解体まで請け負わせたらしくありがたいながらも理熾は「鬼か」と思った。
だって日も暮れようとしていたあの最中に言い出したのだから、今も作業中だろう。
理熾とは違って亜空間に入れられないので放っておけば腐るし、魔物の餌かのどちらかだ。
アレだけ広範囲の戦場を駆け回った身としては「ご愁傷様」という言葉しか浮かばない。
最初のウッドウルフなんて爆散してたし、ハイオークも胴が無かったような気もする。
いや、それは考えない方が良いだろう。
全て指揮官様が対処なさる。
ちなみに覚えているだけで、倒した数(止めを刺した数)はウッドウルフ41体(罠に掛かったのも含む)。
オークアーチャー全部(12体)、オーク21体、ハイオーク1体である。
誤差はあるだろうが、総数の約半分とボスを倒したことを思うと自分でも良く頑張ったと手放しで褒められる。
(オークに関しては横殴りなので誇れない)
英雄に名を連ねなければならない身としては、「オーク如き!」と言って全滅させるくらいでなければとも思うのだが。
まぁ、初陣ということで目を瞑ってもらおう。
それくらい頑張った自負はあるのだから。
ちなみに数時間にも及ぶ全力行動が出来たのは体術のお陰らしい。
足りない体力値をHPとMPから補完していたらしい。
走っているだけでHPがゴリゴリ減るとかおかしいと思ったのだ。
MPに関しても、【繋ぎの指輪】がある以上、服の吸魔分くらいはMP回復速度上昇で足りていた。
使ったとしても靴で蹴り飛ばした時くらいだから、常に満タンでもおかしくない。
無傷だったのにも関わらず、オークアーチャーまでにHPが半分以下、MPが7割か8割くらいまで減っていた。
理由はこれだったのだ。
まさか足りない体力を生命力で補うとは、体術というスキルも相変わらずの無茶振りである。
まさに理熾でなければ死ぬという能力・スキルの使い方だった。
本人の与り知らぬところでだったが。
とまぁ、そんな感じで現状分析という名の現実逃避を行ってみたものの、目の前の光景が信じられない。
セリナが涙を湛えて「リオ君無事でよかった!」と抱きついてきているし、フィリカも優しい目をして頭を撫でている。
さらに言うならギルバートまで部屋に居て、「今回のことはすまなかった」などと言っている。
何が「すまない」のかさっぱり分からないが、とりあえず「え、うん、次頑張ろう」とか言ってしまった。
本当に何だったのだろうか。
ちなみに全身打撲に関しては全身の骨にひびが入った程度で済んだらしい。
原因は左腕だったことと、穴が開いていたことで全力ではなかったことだろう。
ついでに長い戦闘時間での疲労も蓄積していたというのもある。
さらにたまたま理熾が宙に浮いていて、衝撃が飛距離になったという理由もあるだろう。
理熾もハイオークもお互い疲労困憊だったので、その状態で殴れたハイオークが凄いのか、理熾が幸運で生き残ったのかは定かではない。
ただし、何をおいても今日…いや、昨日変えた装備が理熾を守ったことには違いなかった。
フィリカの装備は理熾の命を繋いだと言う意味でもやはり本当に優秀だったのだ。
「痛いよセリナさん」
「え、あぁ、ごめん!
でもホントに心配したんだからね!」
「うん、でもまぁ。
割と無事な方だと思うんだけども」
「半日以上も寝込んどいて何を言ってるの!」
そういわれてしまうとぐうの音も出ない。
全身くまなくダメージを受けても居るのでまさにその通りだという意味で。
でもあの酷い戦場で五体満足で帰ってきたんだから十分無事だと思うのだが。
「あ、フィリカさん。
今回はありがとうございました。
最後まで見学者に出来なくてごめんなさい」
「何を言うか。
むしろあの状況で、私に頼らないなんてどんな頑固さだ。
指揮官など私への第一声が手伝えっていう命令だっただろう?」
同じくぐうの音も出なかった。
ウッドウルフを倒しに行くくらいまでは冷静だったはずなのに。
何せウッドウルフの囮にする算段すらつけていたのだから。
なのに気が付けば意固地になって戦わせない事に拘っていたような気がする。
相変わらずの視野狭窄である。
反省しなければ、と理熾はうつむく。
「二人ともその辺にしてやってくれ。
リオ君も疲れているだろうからな。
概要は既に聞いているとは思うが、結果を伝える」
ギルバートが声を落として話し始める。
セリナもフィリカもとりあえずこの場はギルバートに任せるつもりなようだ。
「討伐者の犠牲者は3名。
名前は…いや、面識が無いから必要ないな。
その他の残り20名は疲労困憊で重軽傷だ。
回復薬や魔法でも当然限界があるので少なくとも暫くは休業する者ばかりだろう」
犠牲者が出たことはとても残念なことではある。
が、あの戦力差(数で5倍以上)では十分な生還率であるともいえる。
ただこれに関しては理熾は楽観できない。
何故ならフィリカの実力を聞く以上、最初からお願いすればよかったのだ。
理熾を見限るかもしれないが、受けてくれれば誰も死なずに済んだ可能性もある。
「リオ君、君が病む必要は無い。
討伐者は本来命を賭ける職業だ。
それを選んだのも当人。
そして今回の依頼を受けたのも当人なのだ。
君が悪いわけではないし、何より君が居たからこの被害で済んだのだ」
とフィリカは優しく告げる。
だがフィリカが本気にさえなっていればと思うとやるせない。
いや、むしろフィリカが本気にならないからこそ、言っているのだ。
最後の最後で気が変わったというのが本音なのだろう。
それまでは手を貸すつもりなど絶対に無かったのだ。
手を貸す気なら、もっと早い段階で手を打つようなタイプである。
罠を張る前、行軍中、いやもっと前の募集要項に対するところまで遡って対応するだろう。
だからこそ、理熾という餌に釣られて来ていた事自体が理熾の功績なのだ。
「フィリカ君が最初から本気ならよかったんだがな。
だが、それもそもそも依頼を受けていない以上、強制することなど出来ない。
討伐者というのは自己責任という言葉の結晶だから、その行動に口を出すことは出来ない」
「犯罪とかでなければな」と追加で言う。
まさにその通りなのだが、何とも言えない。
だが言っていることは分かりすぎる。
自分の命の使い方を決めるのは自分だと言っているだけなのだから。
「さて、では続きだ。
指揮官のジンは今回の件で降格処分だ。
依頼書の不備はあるが、それにしても手落ちが多い。
リオ君達に指摘されてもすぐには気付けない上に、フィリカ君に助けを求めている。
気持ちは分からなくは無いが、そもそも同行させている時点で問題だし言い訳はできない状況だ」
何とも不幸な感じになっている。
ちなみにあのジンは討伐者ではなく、ギルド職員である。
降格とはまさにその通りで、隊長・指揮官クラスから、一討伐者クラスへ落とされたということらしい。
ギルド側でも戦力を持っているのは、今回のようなまとめ役と講師役、そして依頼の処理役である。
処理役に関しては、依頼期間内に受注者が現れなかった時の処理役である。
受けている以上は放置も出来ず、違約金が発生する。
それならばギルド子飼いの担当者を派遣すれば良いじゃないか、ということである。
「それとギルド側、領主側から共に謝罪と報償が約束されている。
元気になり次第、それぞれに連絡を入れてもらえるとありがたい」
「分かりました」
とは答えたものの、ギルバートは何者なのだろう。
一端の警備兵がわざわざ理熾に報告に来るのはおかしいし、ギルド員という訳ではなさそうだ。
情報通ということで言えば、恐らく全てを知っているから来ているのだろうが…。
「あぁ、そうだ。
今回の報酬は現在計算中になっている。
が、戦況自体の制御と、討伐数を考えても一財産になるはずだ。
それに加えてギルド・領主からの報償だから、余り散財しないようにな」
何だか聞いたことがあるような言葉をいわれた。
確か…
宝くじが当たった人用の対応、かな?
突然大金が舞い込むと使い方が分からなくて逆に破滅する、的な。
そう思うと宝くじレベルの金額が提示されるのかもしれない。
たった一度の緊急依頼でと考えると何とも恐ろしい話である。
それにしても気になることがある。
「ギルバートさんってさ、何者なの?」
「ん?
あぁ、そういえば守衛としてしか挨拶していなかったか」
今、確実におかしなことを言った。
フィリカもセリナも微妙な顔をしてギルバートを眺めている。
守衛以外の顔も持っているらしい。
まぁ、この場に居る以上はその通りなのだろうが。
「紹介が遅れて申し訳ない。
アルスの領主、ギルバート・クラインだ。
我が娘、セリナ・クラインと仲良くしてくれていることを嬉しく思うぞ、小さき英雄」
初めて会った異世界人は超上流階級な人だったらしい。
お読み下さりありがとうございます。
というわけで、仕事をしない守衛さんでお馴染みのギルバートは貴族様でした。
というより貴族の癖に宿屋の経営(しかも娘が女将役)とかしてる辺りが庶民染みています。
理由はあるんですけれどね。




