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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十六章:―――
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急く疾く天幕

激しく時間間隔の狂った探索を終えた理熾たち。

治療や報告で忙しなく過ごしていた彼らと打って変わって、あちらの様子は――?

理熾が霊亀攻略を目指してから随分時間が経った。

しかし現実時間ではファロが進軍し始めてからまだ一週間を過ぎたあたり。


やはり魔境は手ごわく、ファロをしても街道を拓く難易度は並大抵ではない。

強力な魔物が不定期に大挙して押し寄せる。

人の手が入っていない大樹が生い茂る森が行く手を阻む。

そればかりか一度は制圧しても、補給線の確保に護衛を配置する必要まである。

その間にも襲撃は群発し、襲撃の度に最前線から戦力の分配だ。


まさに一進一退の言葉が似合う泥沼だ。

牛歩のごとく遅々として進まない苛立ちが募り続ける。

そんな中、理熾たち先行グループの状況報告は、ファロの毎日の日課となりつつあった。


しかし現在知らされている情報は多くない。

一、状況は安定している。

二、想定地点から北に二キロほど遠い地点である。

三、正確な測量が困難なため今後の微調整あり。


と言った風に、寄せられる報告は短く足りないものばかりだ。

それでもつい先日まではほぼ一日遅れという尋常ならざる速度で届いていた。


この誰もを拒否する魔境をいかな手段で攻略しているのか。

そして遠距離連絡において、この速さは明らかな力だ。

それに比べて街道を作ると豪語したファロは、遅々として進まない開拓作業に焦りを覚えるほどである。


「あいつらからの報告は?」


「……本日もありません」


「野垂れ死んでねぇだろうな……」


「遊撃はあくまで高望みの最善策です」


「わかってる。どちらにせよこの遠征を成功させないことには二国に未来がないこともな」


「では昨日からの――」


「遅くなってすまんな」


居酒屋の暖簾をくぐるように、気楽な調子で天幕を開けて男が入ってきた。

その者こそ件のネーブルである。

あまりに突然の来訪にファロとアイリーンはギョッとする。

この場は魔物に囲まれた魔境の最前線の中でも強固な警備に守られた中枢だ。

入室には指揮官クラスが求められるし、そもそも先触れが来るはずだが――


「聞きたいことはあるが、後回しだ。首尾は?」


()上。巨大な迷宮(ダンジョン)を見つけて来てやったぜ」


「そりゃ朗報だ。で、何処まで探索した?」


「とりあえず十階層までは確認している」


「は? 十階層だと?」


「まだ十日ほどしか経っていませんが……?」


唐突に顔を出しただけのネーブルに驚くのはまだ早かった。

たとえ地図が存在する管理されていても、低階層の迷宮(ダンジョン)でさえ敷地は十分広大だ。

そこに不定期で戦闘が挟まれば進むことも難しい。

そして魔物のランクが上がるほど足止めを食らう。

魔境産の迷宮(ダンジョン)ともなれば難易度は計り知れず、一日に一層進むだけでも十分すぎる速度である。


しかしたったの十日で十層の攻略。

いかな大戦力を持ち込んでいるとしても、見張り番もろくに用意できないような少数(ゆうげき)だ。

それも探索と報告を含んでの期間だと言うのだから、二人からすると冗談にしか聞こえない。


「おいおい。俺たちを誰だと思ってるんだよ。

 お前に吠え面かかせたラボリに神持ちが加わってんだぞ?」


「だとしてもその速度は……」


「探索期間は実質三日だ。

 一、二階層で様子を見て、以降は前進を心掛けてある。

 魔境でのんびりしてる時間はないからな」


「なるほど……? 巨大な迷宮(ダンジョン)なら、逆に低階層で急激な変化がないと踏んでの賭けか」


「ま、どう受け取ってもらっても構わんさ。

 そら証拠だ。現地に着いたら確認してみろ」


ばさり、と投げ渡された地図を見たファロは、一言「化け物め」と呟く。

階層によっては一切の寄り道なく次層に向かっているものもあり、先を急いだのは本当なのだろう。

運の良さも含まれているが、攻略したことは間違いなさそうであった。


「そりゃ誉め言葉として受け取っておいてやる。それより進んでいないようだが?」


「……魔境の森が想定していたよりも深い。

 それと他国からの編成軍が使えなさすぎる」


「慣れない行軍だから、かね?

 とりあえず無能は送り返せよ。最前線で遊ばせるほど暇じゃないだろ」


「人員の補給はない。使えなくても人は居る」


「そりゃ護衛対象(にもつ)が増えれば負担が大きくなるだろうが。

 そんなのはどうせ数合わせか口減らしで送り込まれた奴らだろ。相手するだけ無駄だから追い返せ」


「そんなところに戦力など割けん!」


「いや、誰が手間暇掛けろって言ったよ。

 補給路の確保に人を割いてるんだろ?

 その後方部隊の護衛とかにちょっとずつ混ぜて使えよ。

 さすがに自分の命掛かってたら本気で動くだろ。それでもサボれるなら才能だがな」


「……それで万が一補給路が断たれでもしたら?」


「護衛に立って護衛が何もできずに全滅するわけないからさっさと追撃して取り返せばいいんだよ。

 それに全滅するなら使い道のない無能が減るから丁度いいじゃねえか。邪魔だから困ってんだろ?」


「各国から預かる大事な人員だが?」


「使えるならな。荷物になるならさっさと捨てちまえ。

 あとは使えそうなヤツだけ手厚く治療して前線に戻せば選別も楽だろ」


「それができないから困ってるんだが……」


「元が素人だから、って言うならちょくちょく命の危機を演出してやれ。

 死に物狂いで生き残るだろ。実地訓練ほど身に刻まれるものはないぞ」


「逃げないか?」


「逆に逃げれるなら大したもんだ。お前らが居るのは『魔境』なんだぞ?」


「……なるほど。確かに甘やかしていたようだ」


「てかファロ、お前さては防衛には向いてるが強襲はからっきしだな?

 うちの主人(マスター)と真逆じゃねぇか。これだけの頭数が居て半分も機能してないだろうが」


呆れるとはこのことだ。

余り戦力の差配に口出ししないアイリーンも、ふんふんと密かに配置換えを検討し始めていたりする。

経歴を思い返せば、たしかに大氾濫(スタンピード)の防衛記録を持つが、未だ遠征に成功したことがないのも事実だ。


目の前で「うぅむ……」なんて唸るファロは、どうやら人の命を重く見る傾向があるらしい。

実際、五都祭(フィックスウォー)では命のやり取りに言及していた。

それだけ重要視しているのだろう……何とも英雄向きな性格をしている。

その結果がヴァルトルでの高い人気というわけだ。


だがネーブルからすると、そんなものくそくらえ。

今は犠牲を払ってでも未来の利益を確保するために遠征を行っているのだ。

本音から『何でこいつを総大将に据えたんだ』という思いでいっぱいである。

戦場(いくさば)サラクが二国対策会議に送り込んだメイスンでも引っ張り出せば良かったのではないか、とさえ考えてしまう。


「俺たちはこの十階層の地図を埋めておくから、適当に参謀なり顧問なり付けてさっさと迎えに来てくれ」


「お前たちがこっちに加わるのは?」


「遊撃が本体に加わったら周りはどう感じると思う?

 一、成功して手伝いに来たなら劣等感抱く。

 二、失敗して逃げ帰ったなら無能と蔑む。

 どっちにしてもいい感情なんて持たないだろ」


「う、うむ……」


「頼むぜファロ。お前が道をつけてくれないと俺たちも成功を拾えないんだからな?」


そう念押ししてネーブルは天幕を出ていった。

さらなる助言を求めてアイリーンが追うも、既にそこには誰も居ない。

嵐のように去っていったネーブルに彼女は呆然と立ち尽くす。

同じく追ってきた背後に立つファロがため息を吐いて気持ちを切り替える。


「ともあれ、だ。

 気に入らないがヤツの指摘は一々正しい。

 他国からの支援(かし)だからと今まで遠慮しすぎていたらしいな」


「では編成は?」


リストラ要員(つかえないやつ)を補給警護と前線に混ぜる。

 指揮官には『使える者を優先して助けろ』と言い含めるとしよう。

 実力と有用性を見せなければ生き残れない戦場にすれば少しは必死にもなるだろ」


「……犠牲が増えそうですね」


「ふん。どうせこのまま進めないなら結局犠牲が増えてジリ貧だ。

 業腹だがネーブルの言う通り、これまでが過保護すぎたんだろうよ」


「承知しました。忙しくなりますね」


「まさかこんなところまで来て人事評価(デスクワーク)とはな。

 だが今の話で光明が見えたのも事実だ。まったく、ラボリはやってくれるぜ」


「前線で暴れてもらっても構わないのですよ?」


「そりゃありがたい。だがお前にばかり頼ってはいられん。

 地図が完成する前にさっさと終わらせて間抜け面を拝んでやろう」


後は道をつけるのみだ、と天幕の中で静かにファロが意気込んだ。

お読みくださりありがとうございます。

やっぱり書くなら戦闘シーン書きたいですね。

でもまだまだやり残してることあるので、それらの処理をせねば……みんな大変だよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新待ってました! [一言] とっても今更だけど、ルビが特殊ですよね。 それがこの小説の持ち味であり、同時に会話のスピード感を高めてる感じがします。
[良い点] 話の流れや伝え方が上手い [一言] うぉおぉおおぉ!! 更新だーーーー!!!! まだまだ遠征は始まったばかり! 体調に気をつけて続きお願いします!!
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