鍛冶士の片鱗
もやしが普段書かないジャンルの短編が完成しました。
後書きにアドレスを掲載しておりますので、ご覧いただければ幸いです。
実験と称して放ったフィリカの投剣では五本穿ってすら殺しきれず、最終的には【首落とし】と銘打った巨大な肉切り包丁を取り出して頭を飛ばした。
それでもなお巨躯が暴れ、魔眼の力が解放されていたことには驚きしかなかったが、蓋を開けてみれば終始フィリカが主導権を握り続けていたことになるだろうか。
「で、あの投剣はなんだ?」
「初期の投剣が余っていてな。
どうせなら使えないかと考えたんだが驚いたか?」
「<空間使い>でなくては使えない投剣だぜ?
ここに居る全員が度肝を抜かれたに決まっているだろ」
「だと良いんだが、残念ながらお目当てのリオ君は原理に心当たりがあるらしい」
地上で合流したフィリカとネーブルの問答。
肩を竦めて見せるフィリカは、巨大な合成魔獣の死骸を感心しながらも《亜空間》に取り込む理熾の表情から察していた。
さして時間も経っていないのに大した観察眼だ、と呆れるネーブルは、正否を問うために理熾に声を掛ける。
「…分かったのか主人?」
「うん、まぁ?
多分それ、《拡張空間》の筒じゃないかな?」
「ははっ、正解。
相変わらずの観察眼だ。
にしても一目で看破されては驚かせるのは難しいな!」
分かる二人にはこの会話だけで成り立つらしいが、それ以外がついていけない。
軽い苛立ちを覚えてコメカミ辺りを押さえたネーブルは、冷静に「どういう意味だ?」と改めて問い掛ける。
「投剣って特に難しいことをしてるわけじゃないんだよ。
単に空間をループさせて落下距離稼げばあの威力になるのは知ってるよね?」
「実際に準備を見ているからな」
「うん、だから投剣が通るギリギリサイズの筒に《拡張空間》を付与するでしょ。
後はそれを縦に持って暫く待つと、随分速度が上がるんじゃないかな?」
「過不足のない完璧な答えだよリオ君。
筒状にしたのは《拡張空間》で『細長い体積』を実現するのが一つ。
もう一つが狙い撃つ時に筒の出口を敵に向けるんだが、その時に内部で勢いよくぶつからないためだ」
「ぶつければ?」
「強度を越えればあっさり暴発の可能性は高い」
「なんつう恐ろしいものを作ったんだ…」
「原理を理解してないと絶対壊れるって美徳だろ?」
「そりゃ奪われた時に利用されないのは安心だが………やり過ぎじゃないのか?」
見た目に反して利用方法に罠がある二段構え。
使用者を選ぶフィリカなりの安全装置なのだろうが、手の入れようにネーブルは呆れてしまう。
「そうでもないさ。
この筒の《拡張空間》は規模がでかくて魔法士でもそれなりに消耗する。
一般人なら一秒ほどの起動で吸い尽くされるから、暴発すら起こせないはずだ」
「魔力込めたら全部持っていかれるって呪いの道具かよ…」
「日常で見れば魔力を込めないし、逆に戦場に立つ相手に手加減は要らないだろう?
それと筒内での落下は外から見えないから、タイミングを合わせて敵に向けないといけない。
傾ける際も一気に、同時に筒内部を保護するように《結界》の起動も必要だから意外と難しいかもな」
「サラッとやってた割に秒未満のタイミング見切れって魔法士にできるのかよ?」
「だが戦士だと魔力が足らんぞ?」
「なんて無意味な欠陥品だ…」
「だからこそ面白いんじゃないか!」
ケラケラ笑いながら「試作品で遊ばねばいつやるのだ」とも胸を張って言うのがフィリカらしい。
そんなやりとりの間にも、取り出し、身に着けていた装備や道具を、あちこちに忍ばせてある《拡張空間》にしまっていく。
身体を覆うようなローブや、肩に引っ掛けるケープは良かった。
しかし手に付けていた装甲を外した中身は、目を背けるほどにズタボロだった。
ぎょっとする理熾が思わず回復役のライムを呼んでフィリカの手に触れ、まじまじと注視する。
「おっと、リオ君。
もしも私が怪我人だと思うなら、そんな乱暴にしてはいけないぞ?」
「もしも…?
これで無事なんですか?」
「そりゃもう。
あ、ライムも別にこっちに来なくて良いぞ。
たまには私の手札も見せておこうか」
取り出したのは指貫手袋と、その下に身に着けていた指先まで覆う薄手の手袋二種類。
指貫は指先の感覚を失わないため、すべてを覆うのは防護・防寒用であるはずで、重ねて使えば全く意味がないように思えてしまう。
その二つをフィリカはボロボロになっているものと交換して身に着け、グッグと握りを確かめた。
「最初から身に着けていた一枚目の特性は【金剛力】で、可動域と薄さを追求した結果、特性の全開放は一度きり。
指貫タイプの二枚目は【過剰消尽】がついていて、簡単に言うと使い切ることを制限に、他の特性の効果を上げるものだ」
「【金剛力】って確か身体強化系の上位特性だろ?
あぁ…だから合成魔獣の攻撃を受け止められたわけか」
「その通り。手袋の形状を取っているから、基本的には腕力強化になる。
ただ、元の特性は全身を対象とするから、効果中はあんなこともできるわけだ。
あと、私があんな巨大な斧を持ち上げられたのは、全て手袋による副次効果ってやつだ」
そんな説明をしながら近くの大樹に近付き、軽く振りかぶって殴りつけた。
大した力を入れた風もない、しかも適当な動作だったのにも関わらず、着弾部分が轟音を上げてだるま落としのように吹き飛び、大樹はズレて倒れる。
丁度ラザフォード目掛けて大樹が倒れて来たのは愛嬌だろうか。
当然のようにスミレが《障壁》で守っていた。
「ただ殴っただけこれかよ…」
「その分使い捨てだけどな」
ボロボロになった手袋を《拡張空間》に放り込んでフィリカがぼやく。
どのようなものにでも限界は存在し、それを超えるならば相応の反動を覚悟しなくてはならない。
フィリカの場合はあえて限界を超えて効果を引き出し、代わりに制約を課して増幅までしてしまう。
理熾が作った【爆撃槍】や【起爆投剣】と似て非なる使用方法だった。
「…いや、いくら何でもそんなものを消耗品で使っていいのか?」
「在庫の問題か? 素材はともかく、今のところ100双は用意してある。
ちなみに手甲は耐久力が高いから、【金剛力】を常時展開しているぞ」
「それなら手甲だけでいいだろうが…あの金槌やらでかい斧を振り回すなら十分だろ?」
「今回の相手はあの合成魔獣だ。
現に鍛冶士では倒しきれなかったわけだし、手袋を使い捨てた方が効果が高いと判断したのさ」
「散財を気にしないのは生産者の強みなのかね?」
「材料費は掛かるから、手袋ばかり使ってるわけじゃないぞ。
そもそも私の肉体的な限界が低すぎるのが問題だから、ちゃんとした戦士タイプなら平気で使えるだろうが」
「あんなでけぇ斧とか金槌振り回せるやつがそうホイホイと…」
言いかけたネーブルが周囲を見渡し、理熾、スミレ、穂波を視界に入れた瞬間に「そうでもないか」と納得することになる。
理熾と穂波は素で扱えそうだし、スミレも機巧人形が輪をかけて効果を発揮しそうだった。
個人間での戦力差を改めて思い知らされる非力な指揮官は、軽く不貞腐れるように移動を指示する。
この場に留まる理由もないのだから。
「フィリカさん、この魔眼ってどんな効果があるのかな?」
フィリカの使い捨ての道具や、巨大な斧や金槌をスルーして理熾は目の前の新しいことに興味津々だった。
もちろんそれはフィリカも同じで、笑みを深めながら説明に入る。
「魔力糸、火、風、氷は確実だと思うが…中でも魔力糸は珍しい」
「魔力を糸状にするとかそんなのかな?」
「簡単に言えばそうだな。
ただその糸は脆くて弱いので、発動した魔法を強化するための魔力供給に使われることが多いか」
「《火炎弾》を維持してるときに魔力糸を繋いで強化できるってこと?」
「簡単に言えばそうなるな。
ただ、それなら最初から強力な魔法を使えば良いだけなので、そうした戦闘での利用価値は存在しない。
そういえば昔は『魔法維持』の技術が注目されていてな、ある者がこの魔力糸を利用した実力詐欺で勇名を馳せていたこともある」
「珍しいけど使えない?」
「いいや、むしろ有用で永続魔法や機巧への整備・調整用に利用される。
たとえば高い位置にある魔力を使った照明器具や、設計図通りに配管が通っているかなどを魔力糸を通して検査するわけだ」
「結構自在に動かせるんですか?」
「あぁ、操作性は抜群だ。
その反面で距離や強度は脆弱と言わざるを得ないな。
媒体や術者によるものも大きいが…必要魔力に対しての効果が低すぎるんだよ」
「そうなのかぁ…」
何かを考えている風に理熾はうんうんと頷く。
こんな基礎知識から、一体どんな発想が生まれるのか。
びっくり箱を見るフィリカの視線は楽し気で、それを外野から見る幼馴染の表情は不安に揺れていた。
お読みくださりありがとうございます。
前書きでも報告しましたが、他ジャンルの短編を書きました。
この作品を読まれているのなら、是非とも一読ください。
【いつも傍に居てくれる君へ】
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