緊急依頼1
【神託】通り、緊急依頼が発令されました。
この緊急の意味を理熾は知りませんし、聞くタイミングもありません。
それでも見聞きする情報を組み立てて考えをまとめていきます。
今までの【神託】ではこんなことは無かった。
毎回理熾が展開しないと中身が見れなかった。
今回は緊急で発生した上に、理熾に割り込む程重要な内容らしい。
うーん…いきなりこれって危なっかしいなぁ。
神様も結構焦ってるんだろうなぁ…。
何の脈略もなく殲滅て。
と一人唸る。
これは受けるしか無さそうだ。
それにしても会話の途中に差し挟まれたせいでかなりの違和感である。
「リオ君どうした?」
「あ、あぁ…気にしないで。
そうだフィリカさん。
もしかすると緊急の討伐依頼が発生するかも?」
「うん?
何か前兆でもあったのか?」
「んー…何となく?」
【神託】を説明するのは難しい。
と言うより、説明して変な事態になっても困る。
この世界に宗教があるかどうかは分からないが、そんなのに奉り立てられて使い倒されても困るのだ。
神の声が聞こえるとかで。
そうなったらきっと【神託】以外が良く聞こえるようになるはずだから。
「人とは恐ろしいものだ…」と理熾は一人頷く。
「何となく、ね。
私もリオ君の『何となく』は何となく当る気がする」
「そう?
まー見当違いかもしれないけどねぇ。
で、フィリカさん。
もし緊急の討伐依頼が発生したら見に来る?」
「そうだな、行ってみるか。
というかだな…依頼内容も見ずに受けることを決めるのか?」
そもそも見るも見ないも『出てるかどうかも分からないのに』という言葉は置いておく。
ギルドに行けば分かることだし、無ければ無いで済む話ではある。
フィリカ自身が腕を揮うことが稀なので実は時間は割と取れる。
だからこそ、理熾の依頼を1日で完遂したのだ。
出来合い品ばかりでも無いので、本来であれば数日以上掛かる話である。
この辺りが自営業の強みともいえる。
とはいえこの速度で完成させるのは異常の一言なのだが。
「ちょっとねー。
これは外せないかなぁと」
「そうなのか?
ならとりあえずギルドで確認してきてくれ。
実際発令されてるなら、私も同行するから一度戻ってきてくれるか?」
「りょーかいっ。
んでは、ちょいと行ってきまー」
たった2日顔を合わせただけなのにこの馴染み様。
どう考えても餌付けが効いている。
そう思ってフィリカは微笑む。
何せ防具として提供した【常盤の外套】と【常盤の戦着】は銘付き装備である。
日本で言えば高級な着物のように、一着が数百万という至高品である。
糸を4種以上(伝えた糸は単に特性持ちな分だけ)作り、それで配合を変えた布をいくつも製作し、出来上がった布を繋いで服に仕上げる。
というようにフィリカが糸から作った完全な特注品である。
材料費だけで考えても5000カラドはするし、フィリカの作業費を含めれば単品で3万カラドは下らない。
当然それだけ手間を掛ければそれだけの金額になるが、フィリカは惜しまない。
結局道具は道具だと思っているから。
「裸同然の装備でオークを撃破出来るんだ。
今の装備ならオーガでも簡単に倒せるだろうな。
にしても、何とも面白い子だ。
戦う姿すら見ていないのに、確信を持てるというのはなかなかに無い」
と笑う。
理熾の強さもそうだが、何よりも面白さが群を抜いている。
何せ布の服に、手甲だけつけて魔物の森を歩き回るのだ。
あまつさえ魔物に出くわしたら倒してしまう。
その前提で入っているとは言え、余りにも無茶苦茶である。
普通ならただの頭のおかしいヤツである。
そして使っていた武器が魔物から奪ったものとは、どこの強盗だと笑ってしまう。
「ノルン、リオ君が持ってきた鉄武器の研ぎ直しは済んでいるか?」
店の中の工房に入りながら、ノルンに聞く。
これから仕事なのだから、弟子の状況も知る必要がある。
「2本は終わってますが、すぐに入用ですか?」
「急がなくて良い。
必要なら出来合い品を貸し出すからな。
その代わり念入りにしておけよ。
どう見ても量産品の屑武器だが、お前なら良品程度には仕上げられるだろ?」
「師匠…期待は嬉しいですが研磨だけでって厳しいですよ?」
「確かにな。
だがそのつもりで、やれ」
「ガンバリマス」
無茶振りではあるものの、出来ないことではないのだ。
たかが研磨でもそれだけ出来るのだ。
むしろそんなことが出来れば研磨だけでも生活できる。
生産者は総じて物を作りたがるが、消費者は総じて使えれば良いのだ。
買うよりも整備の方が安上がりだし、何より愛用品を使いたがるのは世の常だ。
つまりそれだけ需要があると認識しなければならない。
ノルンの鍛冶としての腕は見習いレベルではあるものの、既にそれなりにはなっている。
今後はどの系統を極めていくかだが、それは打ち手としての話である。
『作れる=売れる』ではないので、売り手としても学ばなければ今後は無い。
その辺フィリカも頭で分かってはいても、人に教えるほど理解できていない。
何より理熾への対応からも分かる通り、フィリカはそういう経営に無頓着なのだ。
そんな事を思いながら「ふぅ」と息を吐き、
「さて、ご依頼の靴でも作るか。
材料はあるし半日あればいけるかね…?」
等と特注品を楽しそうにさらりと作ろうとするフィリカはフィリカで規格外であった。
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理熾が服の着心地を感じながらギルドへ向かっている間にも、周りは加速度的に賑やかになっていく。
祭りか何かか、と言うように皆が皆騒いでいる。
喧騒という言葉が似合う騒ぎようなので、余り平和的ではないが。
【神託】の通り、恐らく何らかの問題が発生したのだろう。
それにしても着心地が良すぎる!
肌触りが良くて軽い癖に、きっちりと重い。
多分、身体の形に完璧に合っているからかな?
というか身体を動かしてもフィットするって異常すぎない!?
と一人で戦慄していた。
服の抵抗がほぼ無く、裸状態にすら感じるくせに、しっかりと着心地を提供する。
逆に気持ち悪いぐらいの快適感だった。
「もう他では買えない」と思ってしまうレベルで依存性が高かった。
そんな風に街中を歩きながら着心地を堪能していると、
カンカンカンッ!
と急にギルドの鐘が鳴り出す。
今まで時刻の為に時計塔の鐘を鳴らすことはあったが、こういう風に心を掻き乱すような鳴らし方は初めてだ。
何事かは分からないが、ギルドへ急ぐ。
討伐カウンターではなく、中央カウンターにてフリーの掲示板が引っ張り出されている。
依頼内容は簡単だった。
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【討伐:緊急】魔物討伐
依頼者:アルス領主
依頼内容
アルスの南に隣接する平原にオークの集団を確認した
偵察により、最低でも50体のオークを確認
これらの早期討伐を依頼したい
討伐者諸君は打って出て掃討をお願いする
また、騎士団はアルス防衛と討ち漏らしを担当する
報酬:オーク1体につき1500カラドから
※その他働きにより特別報酬も用意する
◇◇----------------------------◇◇
内容は【神託】と似たり寄ったりだ。
額面通りに取るなら情報としては足りていないはずなのだが、何故だか余り違和感が無い。
こういう貴族が出す依頼は巧妙に不利が隠されているのだろうか?
正規軍は後衛ってことね。
まぁ、いくら何でも突撃させるわけにはいかないよね。
全滅なんてしちゃったら目も当てられないし…責任問題って事かな。
だからこそ、お金で解決できるギルドだしね。
命を金で買うってことか…なるほど、傭兵ってこういう事なんだなぁ。
騎士団と討伐者の全滅なら騎士団の方が命の値段が高いのだろう。
だから討伐者に代償の前払いして、騎士の命を買うのだ。
最悪全滅しても、敵兵が減っているのでそこに騎士団を投入すれば良い。
んーにしても、オークの集団ごときに依頼を出すかな?
オーク単独撃破が一人前の登竜門だと言われてるとはいえ、集団戦を仕掛ければ簡単に倒せるって聞いてる。
数が多いからって余りにも軽率に『緊急』を出してるね?
多分これってお財布的に優しい依頼じゃ無いだろうし、何より金額が金額。
通常のオーク討伐報酬は1体につき800カラドだから、今回の報酬はほぼ倍。
これはきっと何かあるなぁ…。
とりあえず受けることを前提に依頼を読み進める。
フィリカにも同行して貰わないといけないので、普段より少し慎重になる。
「迷惑も掛けられないし」と思って。
ん…?
いや、この依頼はおかしい。
オーク討伐はフリーの常駐依頼とはいえ、今回のみたいな場合でフリーはありえない。
危険だからこその緊急なのに、そんな場面に素人同伴とかおかしい。
少なくとも僕が人を連れて行くなら新人は省く。
足引っ張られるし。
と新人が考える。
口に出していないので誰も気付かないが、失礼極まりない。
「自分は大丈夫だ」とも思っていないのだが、理熾は基本的に第三者視点である。
この状況下なら、自分は置いていく方が良いに決まっているのだから。
となると…猫の手も借りたいくらい|忙しい可能性があるってことか。
新人でも出来る仕事がある?
あぁ…だから最低って言葉が入ってるのか。
うっわぁ…そもそもタイトルも魔物討伐じゃんか。
これって正確に依頼するなら魔物討伐じゃなくてオーク討伐になるし。
ということは、混成部隊だと思っておいた方がいいのか…。
新人でも倒せる程度の魔物も居るって感じ?
いや…むしろ使い捨て用かなぁ?
多分、危険なオークの情報だけは流しておくという優しさ…違うか。
この場合は保身かな?
言い訳が立つように。
書き方があくどいなぁ…。
と依頼書を読み解いていく理熾。
とにかく情報は入った。
後は参加者に名を連ねるだけである。
幸か不幸か平原は目と鼻の先である。
幸運という意味では、街から近いから行き来が楽。
更に運がよければ日帰りもありえる。
不幸という意味では、街から近すぎる為に猶予が無い。
今すぐにでも部隊編成を行わないと間に合わない。
どちらにせよ、オークの部隊がアルスに攻撃を行う前提話を進めてはいるが。
「静粛に!静粛に!
今回、領主より発令された緊急依頼の説明を行う。
現状分かっている内容はこれだけだが、討伐の参加者を募る。
基本的に強制召集の扱いにはなるが、今回は今までよりも遥かに急だ。
ギルド側としても、強制の枠では召集しない。
死なない自信のあるやつだけ参加しろ……以上だ!」
アルス存亡の危機っぽいが、ギルドはギルドらしい。
依頼主の意向を余り汲み取らないようだ。
それよりもギルドの体裁が重要なのだろう。
少なくともこういうごり押しを毎回されては困る。
何より前例を知った馬鹿は「○○のギルドではやってもらった」などと意味不明なことを言うのだから。
「さてと、参加してこようか」
受付が開始され、討伐者が殺到する。
内容の確認と、行軍開始のタイミングを聞かないと受けるのも受けられない。
当然その辺の情報は依頼には書いていないという素敵仕様。
装備の整備や消耗品の準備をギルド側で全て行うなら別だが、そんなはずも無い。
支給品くらいはあるだろうが。
ちなみに今は朝の8時である。
オークが迫ってきている以上、それほど時間は無いだろう。
まぁ、だからこそ皆が聞いて一々面倒なんだろうけど。
ギルドの不手際を改めて眺めながら待つ。
そうしている内に内容が追記される。
どうやら窓口で対応するより依頼内容に書き込んだほうが良い事に気付いたらしい。
追加された内容は
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受付締切:本日11時
作戦説明:本日12時~
作戦開始:本日15時~
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物凄くタイトなスケジュールだった。
お読み下さりありがとうございました。
依頼書の不備は基本です。
これはギルド側の怠慢であり、能力不足です。
しっかりとした依頼内容、情報等を供給しなければならない立場にあるくせにこの体たらくです。
まぁ、理熾は始めからその煽りを受けまくりなんですが(。。




