装備の新調3
フィリカ先生は物知りです。
装備に関しても、魔法に関しても。
伊達に200年以上生きt…いえ、女性の年齢を引き合いに出すのはいけませんね。
失礼しました。
「買う」と即答した理熾。
既に安いとか高いとかではない。
値段合わせまでしてくれた(しかも大幅に安い方に)のだから、買わない訳にはいかない。
少なくとも理熾には買う以外の選択肢は無い。
そして即金で渡す。
理熾に商売の心得など無いが、少なくともされて嬉しいことはせねばならない。
つけなんてのは以ての外である。
これから出世払いにする者の考えとは思えないが。
「あ、もう一つお願いしたいんだけど」
「ん?
足りないものでもあったか?」
「足りないと言うか…これなんだけど」
と靴を見せる。
日本の技術を費やした運動靴は、正直そこら辺の効果持ち装備よりよっぽど使える。
にしたって、全身が変わるタイミングで靴だけ今まで通りというのもちょっとどうだろう?
村人Aの段階では誰も気にしなかっただろうが、今となっては浮きまくりなのだ。
今の理熾は親や背景といったステータスは無く、本当に理熾単体である。
評価が上がるのも下がるのも理熾だけの特権である。
なので見た目が悪くても別に気にしない。
趣味が悪くても同じく。
それは単に自分を表しているだけで、誰にも迷惑を掛けないからだ。
けれども余りにも浮く、異世界の靴を履いて逐一しょーもない指摘を受けないためにも交換するべきだった。
何より名工が目の前に居るのだから、余裕で量産品を凌駕してくれるはずだ。
「あぁ…一応考えてはいたんだ。
全身が鎧ならともかく、君は手甲だけつけている。
なので格闘系だと思っていたのだが、武器を依頼されて違うと判断したんだ。
単なる盾代わりの手甲だと…けれどやはり格闘も扱うのだろう?」
「ホント凄い。
持ち物だけで結構判断できるんだね。
元々無手…というか、武器無かったから仕方なくなんだどね。
今まで持ってた鉄武器は全部オークから貰ったものだよ」
「えぇええええ?!
オーク相手に殴り合いしてたんですか!?」
「ノルン、だからお前は黙ってろ。
…にしてもだ、それで無傷とは君は凄いな?」
「えーいや、たまたまですよ。
最初に遭ったオークがたまたま剣持ってたから借りて倒せたんですし」
「いやいや、武器持ってるオーク相手に殴りかかるとか!
しかも勝てるって!?」
今まで頑張って黙っていただろうノルンが叫ぶ。
フィリカは顔をしかめながら窘めるも、興奮の余り聞けない様子だ。
驚きは分かるのだが、それはそれ。
そんなことより今はしっかりと話を聞かねばならない。
フィリカの判断は明確だ。
「五月蝿いぞノルン。
もうお前は裏で何か打っていろ。
リオ君にも頼まれているんだろう?
お前が受けた依頼なんだから、ちゃんと依頼をこなせ」
そう言ってノルンをシッシと追い払う。
とても大人気ない。
しぶしぶといった感じでノルンが下がる。
五月蝿かったノルンもノルンだが、フィリカもフィリカである。
フィリカのお店はこうやって経営されているのだろう。
「でだ、そうなると蹴れる靴が欲しくなるな」
「うん。
どうせなら【神威の護手】と同等以上のモノが欲しいんだよね」
「ん?
その手甲銘持ち装備なのか?
珍しいな…鑑定しても構わないか?」
「どうぞ~」
気楽に答えてすぐ外して渡す。
そういえばこうやって鑑定の伺いは必須なのだろうか、と理熾は思う。
確かに売り物とは違い見せるものでは無いのだから確認した方が良いのだろう。
昨日フィリカを勝手に解析した時のことを思いながらそんな事を考える。
「ふむ…作成者不明、か。
この【神威の護手】だが、まだ特性付与の余地があるな」
と呟く。
理熾は「作者は神様だよ」とこっそり思う。
それよりも聞き捨てなら無い言葉を聞いた。
「付与? 何それ」
付与については余り分からない。
いや、そもそも装備に関して知っていることの方が少ないだろう。
ここには匠も居ることだし、しっかり聞くべきだ。
「うーん」と少し考えてから、フィリカは口を開いた。
「装備に付ける特性や加護と言うのは、人で言うところクラスだ。
だからクラスでいうところの魂の容量分までなら特性が付けられる。
これが大前提だから、頭に入れておいてくれ。
そして装備にはそれぞれ特性や加護を書き込める余白が存在する。
この余白分が『魂の容量』と思ってもらって構わない。
当然だが余白は量産品なら狭く、逸品と呼ばれるもの程広い。
これは単に装備の完成度の指標だな。
基本的に作成物は完成品だ。
出来上がりからの成長は無く、単純に劣化しかしない。
これは全ての物体がそうであり、だからこそ整備や交換が必要になる。
感覚で分かると思うが、50年もつ家とか言われるだろう?
アレは逆で、50年までしか保障できないのだ。
完全物の作成が不可能である以上、物体はいつか壊れる。
だからこそ装備は完成品でしか作成できず、劣化しか出来ない。
ここまでの説明を聞いた段階で、リオ君ならおかしいと気付くと思う。
完成品を作る以上、モノに書き込める余白があるのは本来おかしいことなのだ」
確かに今までの話を聞くと完成品では余白が存在しない…いや、存在できない。
むしろ完成させてしまっているからこそ、商品足りえるのだから当然だ。
そんなことを脳裏で考えつつ続きを聞く。
「つまりこれは、作り手自らが未完成品を作った証拠。
故に発想は逆転する。
未完成品ですら完成品を越える装備が、逸品と呼ばれるものだ。
最後の一手間を持ち主に託す事で、擬似的な成長性を持たせる。
どれだけの余白を残して、どれだけ完成品よりも高い能力値を出すか。
この余りにも矛盾した概念をバランスよく組み合わせられるのが一流だな」
装備にも色々事情があるらしい。
要は仕様変更できるかどうかは作り手の腕、ということらしい。
しかも特性を付けられるように余白分を広げると駄作に。
だからと言って完成品を目指すと余白分が取れないらしい。
何ともバランス感覚のいる装備作りである。
「おぉ…なるほど。
ということはそれに成長(?)の余地アリ?」
「そうだな…まぁ、余白分は結構ありそうだから何か付けるか?
まぁ、この辺りは鑑定士クラスでないと精確なところは分からないから危険と言えば危険だが」
「…装備に成長要素を付けるというのは出来る?」
【神威の護手】を交換するのが惜しいのではない。
単に装備を更新する必要が無いようしたいのだ。
使い勝手もあるし、資金的なものもある。
となれば、装備が成長すれば良いじゃないかということである。
「良くある願いだな。
愛着のある装備を使い続けるためにそういう特性を付けたいというのは。
出来る出来ないで言えば、出来る」
「ならそれで」
即答する。
愛着というフィリカの受け取り方が違うが、その辺は誤差である。
今後必ず来る装備の更新を見越して、今から準備するのだ。
アルスの装備が一番というわけでも無いのだから。
「が、難しい」
「難しい?」
「基本的に装備は完成品なんだ。
特性を付けるにしても、基本的に完成時より余白が増えることは無い。
なので劣化はあっても成長や進化は本来の意味では無い。
どんな道具を使っていても、所有者による最適化で扱いやすさは変わるが、性能が上がることは絶対に無い」
「うん」
どんな物でも、必ず壊れていくということだ。
出来上がった瞬間から劣化が始まり、耐久限界を超えれば壊れる。
丈夫や、壊れないといった言葉は単に耐久度が高いだけである。
そして耐久度が高く、壊れるまでに多くの時間を使う場合は壊れないと言われるだけなのだ。
見えないところで弱体化していくと言いたいのだろう。
「これまでは先程説明した通りだ。
が、それでも成長する要素はある。
『魂の封入』だ。
成長というのは未完で生まれる生物の特権だ。
完成品として生まれる、生産物とは逆の性能だな。
だからその生物の特権を装備に宿すには、生物の核…魂が必要になる」
「なるほど…理に適ってる」
余りに明確な回答に納得してしまう。
しかしその答えに至るまでにどれほどの困難があったのだろうか。
やはり知識を積み上げるというのは並大抵のことではないのだろう。
「あぁ、だろう?
魂に関しては上位の魔物が真核、または魔核、神核と呼ばれる結晶を持つ。
これを装備に上手く封入できると、生きた装備になる。
使った核によるが、何かの代償が必要ではあるものの、成長する装備となる」
「ということは、核と封入できる人が居れば問題なし?」
「そうだな。
それに封入に関しては私も出来るから、核さえあれば何とかしてやる。
が、更に問題はここからだ。
核を持つ魔物はそもそも強力だ。
その上で、核にも成長限界が存在する。
例えばどんなに頑張ってもLv3までしか上がらないような核もある。
要は核自体も生物から取り出され、完結したもの…つまり完成品になるからだ。
そんな核を入れたところで大した成長もしないから、せっかくの装備が勿体無い。
封入という技術を使うのならば、本当に最高峰の核で無いと、となってしまう」
「なるほど…。
手の届く核は微妙、ってことだよね?」
「…そういうことだ。
だが核の市場価格は高すぎる。
今回支払った金額の3万どころではなく、桁が2つも3つも変わる。
まぁ…モノによりけりだけれどな」
100点満点の理熾の答えを聞いてフィリカが唸りながら付け足した。
余りにも理解力が高い。
本当に、気持ち悪いほどに大人の言葉を吸い込んでいく。
戦慄を覚えるほどにこの子供は理解する。
正確に言うなら、子供の理解力を超えているのだ。
恐らくアルスの子供…。
いや、大人ですら理熾と同等に受け答えできないだろう。
どれほど高度な教育を施せば理熾が、フィリカと同等のやり取りが出来るのだろうか。
「………君っていくつだった?」
「13歳だけど…?
まさか核を持つのに年齢制限とかッ!?」
「ガーン!」という言葉が似合うような衝撃を受けて固まる。
もし年齢制限とかがあるなら大人に頼もうと理熾は決める。
袖の下でも渡して。
「いや、そういうのは無い。
しかし…13歳か…本当に凄まじいな。
今の話の流れだけで大方理解してしまえるとは…」
「え、分かりやすかったけど…?」
理熾は戸惑いつつもそう答える。
とにかく現状では成長する装備は作れ無いらしい。
核も無いし、何より倒せるレベルでは意味が無いらしい。
少なくとも伝説クラスの核でないと微妙っぽい。
残念だが受け入れるしかない。
「とりあえず、靴をお願いするよ。
条件は違和感無く戦えること。
金額は…お任せで。
借金したくは無いけど、高かったらツケでお願いします。
生きてる限り必ず払う…っていっても、担保が何にも無いからダメかもしれないけど」
「そんなのは要らんよ。
久方振りに私が腕を揮いたいと思ったんだからな」
と言ってくれる。
『フィリカ』という人が一体どんな人かは分からないが、これ程の人に認められるのは嬉しい。
話も合うし、何より非常識な理熾には知識や忠告がありがたい。
何をおいてもこの信頼に応えなければならない。
「…よし。
フィリカさん、これを渡します」
そういって渡すものは、【繋ぎの指輪】である。
空間魔法を使う時の必須アイテムではあるが、指から引き抜き担保として渡す。
「要らないと言ってるのに」
「うん、でもこれは受け取っておいて。
僕が依頼を出している証明って事で。
契約書の代わりと、僕の誠意の形として。
裏切るようなことがあれば売るなり壊すなり、捨てるなり自由にして」
「いやはや、ホントに子供とは思えんな。
もっと甘えても良い年頃だろうに…むしろ背伸びしたい年頃なのか?」
「それもあるかも?」
と言ってにやりと笑う。
こういう笑顔は完全に子供である。
「でも、僕ってまだ信用されるには多分早いはずなんだよね。
好かれることは嬉しいけれど、フィリカさんは商売しているんだから、そこには甘えられないよ」
「くく…本当に面白い子供だな。
ならしっかりと受け取っておこう。
あぁ、言っておくが私の料金は時価だからな。
出来る限り機嫌の良い時に来るんだぞ?」
そう笑顔でフィリカが言う。
本当に、キレイというのは得だなぁと理熾は思う。
言葉遣いが男っぽい癖にそれがそのまま魅力的なのだから。
「分かりましtッ!?」
答えようとした瞬間に視界が明滅して脳裏にいきなり【神託】が浮かんだ。
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【神託】
アルスを守れ!
達成内容:敵戦力の殲滅
平原に敵勢力の集合を確認した
これに対しアルス側は討伐隊を編成する
時は一刻を争う!
すぐに討伐隊に参加して敵を殲滅せよ!
報酬:いずれか1つのスキルレベルUP
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何とも物騒な【神託】が発生してしまった。
お読み下さりありがとうございます。
ジリジリ増えてきているお気に入り登録数に喜びを隠せません。
今回は緊急クエスト的な感じで割り込まれ、【神託】で初の行動指示がされています。
神様の思惑とはいかに。




