道具の新調1
間違って前日に更新してしまいました。
このため、一度削除してから再登録しております。
内容に変更はありませんのでご了承下さい。
今回は頼れる大人、フィリカ師匠が色々教えてくれます。
大人は子供の成長を手助けするべきですよね。
自分が持つカラドの価値を理熾は完全に忘れていた。
報酬を受け取ればステータス欄の数字が増える。
数字でしか実感が無く、常に「おつり」を考えなくて良い支払い方法。
これでは確かに実感として『所持金』が分からない。
そもそも日本とは通貨価値が違うのだから余計である。
そして理熾がお金を使う場面を考えるとあけみやと図書館くらいのものである。
お金を使うということをしない上に、スフィアに来て早々からの金欠状態。
収入が無い以上は財布の紐を固く絞るしかなく、使い先を究極的に絞り込んでいた。
これでは金銭感覚が育つはずも無い。
今になって思うと、研修後ならば村人Aを卒業できていたのだ。
何とも命知らずなことをしていたのだろうか。
「…うん、フィリカさん。
依頼を改めます。
予算は3万カラドまで。
投擲用の武器5本お願いします。
丈夫で投げやすく、少し重めの方がありがたいです」
投げやすさは言うまでも無い。
丈夫さを願ったのはゴブリンの武器が簡単に折れすぎたためである。
投擲武器は本来持ち歩くため、軽い方が良い。
しかし理熾は重さを無視でき、重さはそれだけ攻撃力になる。
「投擲も扱うのか?
5本というのは何か意味があるのか?」
「んーお試しって感じですかね。
使い勝手良いか分からないので」
「形状に指定はあるか?」
「いえ、その辺はお任せします。
使ってみてから、形変えてもらうかもしれませんが」
「了解した。
それで、防具とかはどうするんだ?」
「そうですね…防具に関しては動きやすさを重視ってことで。
僕って重い装備だと動けませんし、受ける戦いは出来ないですしね」
そもそも単独なので盾役を引き受けても攻撃役が居ない。
確かに死ににくくはなるが、倒せないのでジリ貧になる可能性が高い上に囲まれると逃げることも出来ない。
単独で生き残るために必要なのは高い防御ではなく、敵対者を圧倒できる攻撃を磨くこと。
鉄壁の防御力よりも、瞬殺の攻撃力の方が今の理熾には必要なのだ。
「なるほどな。
分からないかもしれないが、欲しい効果はあるか?」
「んーその辺もお任せします。
僕よりも僕らしい防具を用意してくれると思ってます」
笑顔で答える。
本当はこの場で一式揃える気は無かったが、「この人以上の装備は難しい」とステータスを見て思ったのだ。
見立てに関しても、理熾寄りの思考を持っているため波長が合う。
任せて悪い風に転がる未来が全く予想できないのだ。
例え残念な装備だとしても、今後装備を更新すれば良いだけの話である。
フィリカも言ったようにどうせ稼げるのだから。
「武器は最初に言ってた剣、槍、斧を1振りずつ。
後…フィリカさんのおすすめを一振りお願いします。
おすすめは値段問わずの出世払いで。
いくらになっても必ず支払うので、最高の物をお願いします。」
理熾は最後に爆弾を放り投げる。
今まではちゃんとした交渉を行っていたはずだった。
それがいきなりつけておけと言い出す。
しかもフィリカの腕を試すような言葉を添えて。
「くくく…リオ君、君はとても面白いな」
とても楽しそうにフィリカが笑う。
余りにも上手く職人魂を煽る様がツボに入ったらしい。
何よりも、目の前の子供が機転を利かせるところがとても気に入った。
「ありがとうございます。
先ほどの出世払いが本気なら受けてもらえますよね?」
「あぁ、構わないよ。
むしろ私から言い出したことなんだからな。
ただし、最低でも一度は私を同行させて貰わないとな」
「え?」
「最高の物がご所望だろう?
ならば君にとってが抜けては話にならない。
ただただ良い物、高い物が欲しいのならばすぐに出せるがな」
やはり考え方は理熾と同じだ。
道具は使ってこそ意味がある。
道具の良し悪しは所有者が決めるのだ。
聖剣になるのも、邪剣になるのも、所有者の使い方だ。
結局のところ、使われていないのならばただの剣でしかないのだから。
それはともかく。
連れて行けと聞いて、
え、守りながら依頼をこなすの?
うわぁ…僕まだそこまで上手く動けないんだけど…。
でもあそこまで言った手前引き下がれないしなぁ。
とか思っていた。
当然だが断る理由にはならない。
理熾にとって戦力は必要なのだから。
「うー…分かりました。
危険だとは思うけど、よろしくお願いします」
「ん?
私なら自分で守れるから気兼ねなど必要ないぞ?
置いていくつもりでいつも通りで動いてくれ」
そう言われて思い出す。
あぁ…そういえば精霊魔法持ってたっけ。
てか、精霊魔法って…普通に戦えるんじゃ…?
等と思い直す。
理熾はさっき魔法の使い方を教えてもらうつもりだったのにもう抜けていた。
魔法のことから装備のことへ頭が切り替わっていたからなのだが、何とも困った話である。
とにもかくにも依頼を出した以上はこれで装備は手に入る。
後は出来上がるのを待つだけだ。
それより何より魔法のことだ。
何せ理熾がスフィアに来た理由は『魔法が使えるから』である。
今のように使えても自在と言うわけではないのは耐えられない。
「フィリカさん、魔法のこと教えてください!」
「いや、私の専門は作成なんだが」
「精霊魔法の表面だけでも!
というより魔法の基礎を教えてください!」
理熾の言葉にフィリカが首を傾げる。
「うん?
空間魔法を扱うのに何を言ってるんだ?」
「何故か空間魔法が上達しないんですよ。
もしかすると僕の基礎が間違ってるからかなぁって思って…」
嘘は言ってない。
基礎など知らないのだから、合ってるも間違ってるも無いのだが。
「うーん」とフィリカは唸る。
フィリカにしてみれば、まだ生産系技能での師事は受け入れられる。
だが本業でもない魔法を教えてくれと言われると戸惑ってしまう。
「まぁ…基礎だけなら誰が教えても一緒か。
これから時間はあるか?」
「はい、予定は無いんで」
そう言って教えを請う準備完了である。
ついでに報酬だった魔術のススメを取り出して広げる。
テキストとしてなら十分に役立つだろうという目論見だ。
いや、実は単なるメモ帳である。
オークの解体時に内容を読んだのだが、正直何を書いてあるのかすら分からなかった。
「小説か?」と思うような主観的な内容だったのだ。
というよりは擬音ばかりで一体何が書かれているのか分からないのだ。
例えば「心をシンとし、グッと湧き上がるものをぐるぐるしてドバッと放つ。後はイメージだ」みたいな。
この説明で誰がわかるんだ。
何をもってどの辺りが『魔術のススメ』だと言えるのか皆目見当が付かない。
所詮あの神の【神託】かと嘆息するだけだ。
とりあえず持ってはいるものの、邪魔になるので捨てる予定である。
「当たり前だが、まず魔法を使うには魔力が必要になる。
そして魔法は魔力を燃料に、欲しい結果に至るように使い方を調節する技術だ。
なので魔法は『燃料を使った結果』だと言える。
また、燃料である魔力は何処でも存在している。
生物の体の中にもあるし、世界に満ちている。
このように魔力は何ら変哲の無い物質の一つなのだが、魔法が使えたり使えなかったりする」
フィリカはすらすらと何かを読むように語る。
基礎とはこれほど体に刻むからこそ基礎たりえるのかもしれない。
「この魔法が使えるか、使えないかを左右する要素は極めてシンプルだ。
単に魔力を認識出来るか出来ないかの差しかない」
「え、でも魔力って誰でも持ってるんだから分かるんじゃ?」
「それがそうでも無いんだ。
この理由も簡単で、余りにも魔力と言うものが身近過ぎるんだ。
故に気付けない…いや、気付くと言うものでも無いな。
例えば、魚が水の中に居るとする。
これは魚の日常で、だからこそ生きているのだが…地上に出たとする。
そうして初めて初めて息が出来ない世界があると分かるのだ。
だが魔力は違う。
魔力の濃淡は存在しても、ゼロという場所は限りなく少ない。
何より自分が魔力を持っているので、魔力が無いと思えるタイミングが無い。
そもそも魔力が無くても生きていけるし、大量に持っていても何か変わるわけではない。
だからさっきの例みたいに呼吸が出来ないというような、分かり易い気付きも無い。
魔法を使うというのは燃料を探せるかという問題がかなり大きい。
魔力さえ感知できれば後は使い方なのだから、使ってさえいれば割とどうにでもなるものだ」
要は魔力を感じろと言うことらしい。
それが出来なければ魔法は使えないし、それさえ出来れば使い方を磨くだけなのだと言う。
その使い方が分からないから理熾は今困ってるのだが。
「うーん…?
じゃぁ、使い続ければコツが見付かるってこと?」
「あぁ、そうだな。
気になるなら空間魔法を扱う者に師事する方が確かだが、魔法の基本は今言った通りだ。
使い方という意味で言えば、得意分野があるだけで燃料は同じなのだからな」
「質問です。
フィリカさん精霊魔法以外も使えるの?」
「あぁ、簡単だぞ?
火を起こしたいならそう思えば良いし、水が欲しいなら願えば良い。
要は明確なイメージがモノを言う。
コツというならそうだな…。
結果を求めるのではなく、過程を思い描くと良いぞ」
「…その違いは何ですか?」
「魔力は使い方だと言っただろう?
だったら当然使い方である、過程を明確にする必要がある。
君で言うならそうだな…。
敵が吹き飛ぶという結果が欲しいとしよう。
どうやって吹っ飛ばす?
殴るのか、蹴るのか、投げるのか、それとも交渉か?
過程を飛ばして結果が生まれるはずが無い…。
つまり、結果が欲しいなら過程を明確にする必要があるんだ」
「なるほど…。
魔法の効果はあくまでその結果ってことですか」
理熾の中で色んなことが解明されていく。
出来ていることと、出来ないことの差を明確にしていく。
空間魔法のほとんどは結果しか分からない。
それは使用者が少ないという理由もあるが、何よりも技術として体系化出来ていないからだ。
他の魔法においても、恐らくそうなのだろう。
だからこそフィリカは使っていればという言葉を使った。
習うより慣れろというのがスフィアの教育方針だということだ。
何だか急に色々と世界の歪さの理由が垣間見えた気がするよ…。
要はちゃんとした理由を知らないまま使い続けてるって事だよね。
「とりあえず使えるから良いや」ってことでず~っとほったらかし。
だから過去にある技術ですら扱うのに手間取るんだね。
そう考えると超危ないなぁ…。
とはいえ、それが全てと言うわけではないだろう。
フィリカはきちんと理熾に説明できるだけの基礎を持っている。
そしてそれらの基礎でもって武具を作り出しているのだから。
「大体分かりました。
もう少し考えてみます」
「それと、もう一つ。
世界には自浄作用と呼ばれるものがあるらしい」
「自浄作用?」
「自己修復のような意味だな。
そもそも世界の一部を魔力によって書き換える魔法は、世界にとって異物であるという立ち位置にある。
感覚で分かると思うが、燃えるモノが何も無いところに火を起こせるのは魔力によって世界を書き換えた結果だからだ。
世界はこの異物の排除を常に行っているので、基本的に魔法の効果は維持できないんだ。
どんな魔法を使っても、必ず効果が切れるのはこのためだ。
表面上、継続性のある魔法は単純に魔力の供給を受けているだけで、魔力が切れれば破綻する。
そうならないように細心の注意を払っているだろうがな。
要は魔力のごり押しで実現している結果だから、魔力が無くなったら効果が無くなるということだ」
日本的に言うなら、ガソリンと車の関係だろうか。
車だけでは動かないし、ガソリンだけだと用途が限定されてないので燃えるだけ。
車とガソリンが揃ってようやく動くのだが、特にガソリンが無くなったら止まるよ、ということだろうか。
当然の結果ではあるが、魔法はとても便利で何でも出来ると思っていたところがある理熾からするとびっくりである。
なるほど…。
魔法は万能だけど全能じゃないんだなぁ。
何でも出来るけど限界はあるってことか…。
結局は使い方だと言われるのも頷ける。
ある意味でシビアで現実的である。
いや、スフィアは確実に現実なのだが。
「さて、こんな感じで良かったか?」
「十分です。
僕の思ってたところがごっそり違ってました。
目からうろこですよ~」
「目から…?
そんなものが出るとは凄いなリオは」
「あ、すみません故郷の例えです。
うろこが落ちるくらい『目が曇ってたよ!新しい発見だよ!』って意味です」
「なるほど、面白い言い回しだな」
とフィリカは感心する。
日本の諺はスフィアでは珍しいらしい。
いや、むしろスフィアに諺がないのかもしれないが。
「ですよね~。
あ、装備はいつ取りに来ればいいかな?」
「明日で構わないよ。
そうだ、今日の内に採寸だけしておこうか」
そう言って理熾の身体を計り始める。
採寸が終わり、店を出ると既に夕方になっていた。
思ったよりも長時間この場に居たらしい。
「今日も一日色々あったなぁ」
そう呟いてあけみやに戻るのだった。
お読み下さりありがとうございました。
装備の話だったのが、魔法の話にすり替わって居ました。
でもこんな機会でもないと理熾君の魔法は成長しないですからねぇ…。
本日1万PV、ユニークも2500を超えました。
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