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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十四章:集う三神
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戦場サラク

三国の同意が得られてからも忙しい。

ガートルードの手配で二国へと渡った部下達は、すぐに働き掛けて周辺国への使者を用意した。

同じくして、ガーランドからも周辺国へと使者を送ったのは、会場を用意するための打診だ。


複数の国が集まるため、会場選びも重要。

とはいえ、そう大した時間もないため選択肢は限られる。

立地から考え、事情の把握と手配に利害関係を含めて考えると、サラクと呼ばれる国が浮かび上がった。


この『サラク』は、魔境を挟んだガーランドの対面に位置する派兵産業を営む傭兵国だ。

二国が抱える問題の半分が傭兵の雇用であり、もう半分が魔境対策になる。

つまり今現在、二国に多数の傭兵を用立て、多額の収益を得ている国でもあるため第四の関係国とも言える。

いや、こいうなるといっそ問題の中心地と言った方が正しいかもしれない。


「それなら二国はガーランドより先にサラクと交渉するのが筋じゃないのか?」


ガートルードが決めた開催地を聞いたネーブルの第一声だ。

理熾が話を聞いてからこれまで、二国への交渉対策に労力を使っていたため背景を調べていなかったのだ。


「一度結んだサラクとの契約を反故にするのは困難を極める」

「だとしても単に期間を繰り上げて、残り期間の半額分でも上乗せすれば頷くだろ?」


「その交渉が行えるほど二国の財政状況は芳しくないのだよ」

「…損切りが下手にも程があるだろ。

 で、その国で集まる理由は?

 まさか開催費用を押し付けるためだけじゃないよな?」


呆れるのはネーブルだけでなく、ガートルードも同じ。

詰み上がった戦費を前に、財政はとっくの昔に火の車だったようだ。


「…傭兵が作った国、通称『戦場(いくさば)』サラク。

 小さいながらもその戦力は確かで、筆頭輸出品目は『戦力』になる…ガーランド(うち)と似たようなものだな。

 国同士の小競り合いに介入する仲裁国家とも言えるが、実態は巨大な傭兵団だ。

 サラクを使った同士討ちさえ画策されなければ、敵対する国にそれぞれ戦力を派遣する無茶な国でもある」


予備知識無しで乗り切るには説得力も納得感も無い。

これまでずっと周辺国や隣国と纏められて出てこなかったサラクの説明をガートルードが始める。


「国が潰れないんですか?

 それって単純に人を消耗品扱いしてるわけだから、人口がどんどん減りそうだけど」


いくら生き汚い傭兵といえど、数多の戦場を転戦して回ればそれだけ死には近付くものだ。

寿命や事故、転出などの自然減に加え、率先して戦場に立たせる国ならば死亡率は随分高くなる。

規模が大きくなっただけの傭兵と説明されれば、理熾の疑問は当然だろう。


「サラクはね、良くも悪くも『傭兵団』なのだよ。

 つまり流入もそれなりに多いとも言える。

 この国に所属する条件は二つ。

 過去に所属していた国と縁を切ることと、家族のいずれかが国の兵団に加入することだ。

 当人一人なら参加表明だけで済むが、家庭を持った徴兵者が亡くなると、猶予はあるものの家族の誰かが入らないと国を追い出される」

「必ず『徴兵者≧世帯数』になる、意外とよく出来た制度でな。

 基幹産業が人ありきで維持にコストが掛かる反面、働けなくなれば追い出せる(・・・・・)

 サラクの民は『現役しか認ていない』という、非常に面白い偏った構造になっている。

 しかも周辺国には『そういう国だ』と知れ渡っているだろう?

 いちいち周知や在野から引き入れるなどといった工作の必要もなく、勝手にサラクに群がるので告知も必要ない」


ガートルードの言葉を引き継ぐようにセルジが説明に混じる。

こうした商売の絡む話になると生き生きするのはサガかもしれない。

隣で小さく溜息を零すリゼットに気付かず、セルジの説明は続いた。


「兵団の運用は国の方針で決まるが、その反面所属者には非常に手厚い。

 生きのびる術、戦場の駆け方、計略、交渉術など、多岐に渡る訓練を受けることになる。

 先程『手厚い』と称したのは、訓練だけでも給与が貰えて家族を養え、派遣先や仕事の難易度を勘案して見合う手当も付く。


 また、戦力の購入者側からしても、他の傭兵団に比べて能力が安定していて暴動などの可能性が非常に小さい。

 さらに質・数・期間と細かく指定して、流動的な戦力の算出が比較的簡単に見積もれるのはかなりの利点だ。

 ちなみに小国と侮って適当な取引を行った勢力は総じて痛い目を見ている。

 今回のように契約を強制的に打ち切るような可能性があれば、即座に略奪に走って『清算』に回るだろうな。

 まぁ、取引で舐めた真似をされれば見せしめに動くのはサラクでなくても同じだが」


つまり魔境を挟んだガーランドの向かいに軍事国家が存在することになるわけだ。

これは確かに要注意かもしれない、と警戒感を滲ませるラボリ陣営。

しかしセルジは「問題外だろう」とサラクの参入に否定的だった。


「サラクはあの規模だから成立してるんだ。

 ここで領土を広げて『販売先』が減ったら意味が無い。

 サラクにとって一番の利益は、二国が分割統治されることだろうな」

「戦力が分散すればそれだけ確保が難しいからですか」


「その通り。

 ラボリの戦力比率は人口に対して一割ちょっとだ。

 同じ比率でアルスが兵士を雇えば数千規模にも及び、逆に十人の村の一割など役に立たん。

 規模が小さくなるほど非効率になり、集団に掛かる負担は跳ね上がr「やかましいですよセルジ」…邪魔をするなリゼット」

「あなたの興が乗ると終わりません。

 早い話、サラクが二国に干渉してくる可能性が非常に低いのでしょう?」


セルジの話をリゼットが答えを引き継いだ。

遮られたセルジはセルジで「ふん、その通りだ」と面白くなさそうに呟く。

二人には日常なのかもしれないが、老夫婦のトゲトゲしたやり取りに周囲は冷や冷やするばかりだ。


「領土が広くなって他国までの距離が遠くなるのも運用の面で大問題になる。

 サラクは移民施策を主体に置くので内政に力を入れられるような構造でも無いし、輸出業に偏るのも考え物だな」

「どういうことだ?」


「暴力的な解決をする戦力を派遣している国だから、その原因が無くなれば買い手も無くなるのは道理。

 簡単に言うと、サラクは他国への出稼ぎや魔物鎮圧が主で、どうしても『戦場』が必要になる。

 こうした構造から、国境付近が一番稼げる場所となり、中央はどんどん過疎化する。

 どの国でも『通勤距離』は邪魔でしかないからな。


 代わりにサラク国内…特に中央は安全が保たれているため、そこに家族を置くのが一般的になる。

 それなりの期間離れて生活することになるが、これも国境まで馬車で2、3日の距離だから意味があるとも言えるだろう。

 つまり稼ぎ頭の『国境線の長さ』は欲しくとも、利益にならない『領土面積が広がる』のは遠慮したいわけだ」

「さすがセルジ様。

 接しもしない他国の産業の利点・弱点の考察を常になされているわけですな」


セルジは苦笑しながら「商売ってのは何処にでも転がっているものさ」と返す。

本当に何にでも首を突っ込んでいそうだった。


「ともあれ。

 随時移民を受け入れているサラクは、国内の管理能力は著しく低い。

 細長い国土を持つ二国は確かに魅力的かもしれないが、戦力バカのサラクを支える内政官は優秀でも数は居ない。

 新しい都市を作ったり引き継いだり運営したりする手は何処にも残っていない…それに手を上げて失敗でもしたら最悪だ」

「それなら特に気にしなくてよさそうだな?」


「内政官を現地調達する、など考えない限りはとりあえず大丈夫だろう。

 ただ、どう転がろうと、あの国は『対価を求める外交能力』に長けているから、安心はできないがね」

「むしろ首を突っ込んで来てくれれば二国の問題を押し付けられてありがたいですな」


セルジとガートルードは、二人してうんうんと頷きながら納得する。

サラクを開催国に指名したのは中立を保つはずだ、という思いから。

また、周辺国がそれぞれある程度の戦力を借りていることもあるため、口を出しにくいのもある。

常時戦力を抱えているより、適宜借り受け(レンタルし)た方が安いのは分かりやすい。


魔境を抱え、外交を担うガートルードは気苦労に喘ぎながらも最適な行動をし続けているようだった。

お読みくださりありがとうございます。


これまで日曜夜9時に更新していた本作ですが、来週より月曜朝7時に更新タイミングを変更したいと思います。

ずっと行っていた定期更新から半日ほどズレますが、ご了承ください。

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