師匠登場
ノルンの師匠があっさり登場です。
何にしても、知らない土地で信頼の置ける人を探すのは難しいですね。
オークを解体し、ギルドで報酬を受け、その足で【フィリカの店】へ向う。
名前だけ聞くと何となくカフェとか、洋食屋とかを想像するのだが、ノルン曰く装備を扱う店だ。
外見からは判断が付かない。
普通の大き目の一軒家にしか見えないのだ。
恐る恐る、と言う感じで店に入る。
理熾は何軒も店を回っているが、この入る瞬間は毎回慣れない。
何となくだが、入ったが最後「何か買わないと」と思わされるのだ。
まぁ、理熾の財布の紐は尋常じゃなく固いので散財はしないのだが。
店に入ったは良いものの商品らしきものが置かれていない。
「まさか違うのか?」という冷や汗が出てくるも、玄関がこんなに広い民家は無いと思い直す。
「すみません」
「はーい」
と答える高い声とパタパタと軽い足音が聞こえてくる。
余りにも場違いな感じに戸惑いを覚える。
「やっぱり違う?」と冷や汗を流すと、本人が登場した。
「いらっしゃい」
きりっとした、高い声で出迎えられる。
身長は180近くあるスレンダーな美人だった。
装備を扱うような血生臭く、泥臭い場所に居るには完全に場違いな雰囲気だ。
未だ確信を持てないので聞くしかない。
少なくとも「いらっしゃい」と言われた以上はお店なはずだ。
「すみません、ノルンさん居ますか?」
「誰、君?」
一気に目が細まり、冷たく問い掛けられる。
何故ノルンの名前を出しただけでこうまで態度が激変するのだろうか。
「理熾といいます。
【フィリカの店】ってここでいいですよね?」
間違ってたら一大事である。
違う店で知らない人を呼び出したら失礼極まりない。
「なるほど、君がリオか」
「…ということは貴方が師匠、ですか?」
「正解。
残念だけど、ノルンは君の武器も防具も打たないわ」
師匠直々にダメだと言われた。
施設を持ってる者がダメだと言っているのだから、これはもう仕方ない。
だから理熾は「仕方ないですね」とあっさり引き下がる。
「そうですか…。
なら、ノルンさんに装備を選んで貰いたいので、少し借りても良いですか?」
「何でそんなにノルンに拘るの?」
さっきから質問を質問で返してくる。
お客より自分の方が重要らしい。
実際確かにノルンに選んでもらわなくても良い。
そのために各お店には従業員が居るのだから、そこで聞けばいいのだ。
普通は、だが。
「僕に合う装備を選んでくれそうだからですかね」
と理熾は言う。
問題はそこだけなので、別にノルンが作る必要はない。
単にノルンが作ると安く上がるだけだ。
そしてそれは理熾にはとてもありがたい。
お財布的にも、実験的にも、その他でも。
「変わった子ね?」
「そうですか?」
変わっていると言われて疑問に思う。
道具は使ってこそ意味があるのでは?
まぁ、技術もそうだけど。
と理熾はシンプルに考える。
道具も技術も、目的の為の手段でしかない。
だからこそ誰もが手段を選ぶのだ。
『手段を選ばず』とはよく言うが、それこそ選んだ手段なだけである。
「よし、私が探してやる」
「え? 師匠が選ぶんですか?」
何故かそうなったらしい。
意味が分からない。
今朝のノルンとライも心変わりが激しかったことを思うと、スフィア人は気分屋なのかもしれない。
そんなことを思ってしまう。
「いや、君の師匠じゃないんだが」
「名前知りませんし」
「あぁ、フィリカだよ。
店の名前になってるだろ?」
それはそうなのだが、余りのその通りさ加減に驚いてしまう。
人名かなとも思っていたが、まさか店主の名前がストレートに店名になってるとは思わなかった。
そりゃ【フィリカの店】だよなぁ…。
でもまさか真正面から来る?
ねぇ、来るの? てか来ちゃって良いの?
どうやら師匠は分かりやすい人らしい。
分かりやすすぎて気持ち悪いくらいに。
単にネームセンスが無いだけなのかもしれないが。
「んー手持ち少ないんですよ。
ノルンさんには言ってあるので、その辺も考えてくれるかなぁと思ってたんですが」
「あぁ、出世払いで構わんよ?
聞けばオークを単独で倒せる討伐者らしいじゃないか。
どうせ稼げるんだから、今から塩を送っていても問題ないだろ?」
色々問題があった。
正直に言うと、この店だけで揃える気は無かったのだ。
何故なら鍛冶師と一括りにされているが、実際はそれぞれの特化分野が存在する。
武器作成・防具作成・装飾細工・効果付与・装備合成・装備強化などなどなど。
装備品と一口に言っても色々あるのだから、輪を掛けて出来ることが多いのだ。
と言うことはそれだけ専門家が居るし、一つの店に絞って揃えるというのは単なるブランド集めに過ぎない。
もしかするとブランドで揃えると追加効果があるかもしれないが…現状は分からない。
「にしても、街人か村人だな、その格好は。
その手甲は確かに逸品だが、逆にそれしかない」
とフィリカに手痛い指摘を受ける。
だがだからこそ早急に装備が必要なのだ。
にしても、いきなりお客を見ながら口に出して分析するという暴挙に出てくる。
店の寂れ具合を見るに、当然の惨状だ。
「後、そのしゃべり方が気持ち悪い。
子供は子供らしくしろ」
ついでに意味不明な指摘も飛んできた。
「これがクレームというやつか!?」と理熾は戦慄してしまう。
確かにこの世界に来てからは下手くそだが出来る限り敬語を使っていた。
何せ全員格上の年上なのだから、仕方が無い。
「アハハハ…あ、そうだ。
ノルンさんが僕の武器を整備してくれるらしいんですが」
話を切り替える。
このまま言われ続けると精神的に追い詰められそうだ。
「こっちがお客さんなのに…」といった弱音など、恐らく聞いてくれないと知りつつ思う。
「メンテナンスを?
だが君は手ぶらじゃないか?」
「んー…フィリカさん」
打って変わって少しトーンを落として理熾が名を呼ぶ。
「何だ?」
「僕は、貴方を信用して良いですか?」
質問の意図が全く分からない。
信用とはそんな簡単に生まれるものではない。
時間や工程が必要なものなのだ。
それをたった一言だけで理熾は片付けようとしている。
「…それは、変な質問だな?
信用するなと言う馬鹿が何処にいるんだ?」
「ま、そりゃそうですよねー」
と理熾は笑う。
この質問に理熾なりの意図がある。
指摘をすれば信用し、馬鹿っぽく指摘しなくても信用する。
ただし冷静に指摘しなければ疑う。
ただの目安でしかないが。
「あ、出しますね」
亜空間からゴトゴトと武器を取り出す。
オークから接収した剣3本、斧1本、槍1本だ。
「何とも…」とフィリカが絶句する。
何も無い場所から取り出せばそりゃ誰でも驚くだろう。
「ボックスの類か?」
「あ、それノルンさんも言ってましたね」
「…違うということか」
「僕のは空間魔法です」
「ふむ…便利なものだな。
それさえあれば在庫を持ち運べるじゃないか」
商人からすれば行商にうってつけ。
少なくとも店を構えずとも、店舗並みの品揃えが実現される。
討伐者にしてみれば、持ち物が減って持ち帰れるものが増えるので、体力的にも財布にも優しい。
まったく良いクラスを紹介してくれたものである。
「そんな訳で、僕は装備を色々使い倒します」
「なるほどな。
だから、ノルンか…。
本来なら装備をいくつも持てない…食料もあるんだからな。
だからこそ、多くの状況に応じられる装備を欲しがる。
火耐性を持ちながら、水耐性もある、とかな。
しかし君は多くの荷物を持ち運べるから、特化装備で良い。
さっきの例で言うなら、火耐性、水耐性がそれぞれ必要な場面で着替えられる」
フィリカの推測は当たる。
多くの状況に耐えられる装備を作ると言うのは難しいし、高い。
一流であればあるほど、能力の高い万能装備を作成する。
それが出来るからこそ、一流を名乗れるので当然ではある。
しかし特化装備と言うものは別だ。
その為だけにを追求した結果、その他の能力が削られる。
しかし見習いが作った物でさえ特化した装備は、一流の鍛冶師の万能装備の一点を凌駕する。
その特化装備を状況に応じて交換するのだ。
そうすることによって万能装備よりも遥かに安く高性能な特化装備を使いまわす。
この方法は理熾自身が求める高レベルの器用貧乏とは真逆の発想である。
「この話だけで分かるとか凄いですね。
さすが師匠です。
なのでフィリカさんの選んでくれる装備とは相性が悪いかも?」
「いやいや、リオ君。
君は勘違いしているよ。
ノルンと私が作る特化装備の差は歴然だよ?」
「いやいやいや、だからお金ないってば。
僕も出来たら万能装備の方が良いんだよ?
工夫とか要らないし、気にせず戦えるんだから。
けどお金が無い…これは苦肉の策なんだよ!
フィリカさんが作っちゃうと僕が払えなくなっちゃうの!!」
思わず理熾も「話聞けよ!?」と言いそうになる。
出世払いとか言われても、一流鍛冶師の安価な特化装備を複数買うなんてのは経済的ではない。
この場ではお財布事情が全てを決めるのである。
「リオ君の口調は今の方が良いな。
これからもそれでお願いするよ」
にこやかに告げるフィリカ。
最初の美人の冷たい目の破壊力は何処へ行ったのやら。
何というか、美人と言うのは得だと思う。
あぁ…僕も美形だったらなぁ。
そんなことを項垂れながら思う理熾。
フィリカは続ける。
「それとだ。
特化装備に関してはノルンに作らせよう」
「え! やった!」
「これで安上がりに!!」と思うとテンションが上がる。
しかしそれで終わりではなかった。
「ついでにそれ以外は私が作るし、見繕う」
「え?」
意味が分からない。
1つの店で全部揃えるなんて馬鹿のすることだ。
そう思って憚らないのが理熾である。
だから「何でこの人こんなに自信あるの?」という理熾の疑問は当然だ。
理熾は理由を確かめるべく、フィリカを解析する。
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名前:フィリカ・グラン・サーガ
年齢:236
種族:神功族
職業:精霊術師/鍛冶師/鍛造師/彫金師/封術師
Lv :121
スキル
パッシブ
魔力感知Lv12
魔力操作Lv13
職人Lv10
細工Lv12
精密Lv15
アクティブ
精霊魔法Lv10
武具作成Lv12
装飾作成Lv9
裁縫Lv8
彫金Lv10
封術Lv7
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ステータスが色々バグだった。
格が違う、レベルが違うとはまさにこのことだろう。
なるほど…これは自信があるはずだ…。
むしろノルンさんが|師事できてるのが凄いな…。
ノルンとは違う意味で唸る。
それを眺め、フィリカがにやりと笑みを浮かべながら告げる。
「リオ君、それは失礼だと思うぞ?」
「!?」
「今解析系スキルを使っただろう。
どれくらい鮮明に見えているかは知らないが、それは私以外にはやめておけ。
まぁ、私の場合はステータスを見てむしろ納得したとは思うが」
何故か見破られていた。
だがそう言ってマナー違反を仕出かした理熾を否定しない。
単に「敵対行為と見做される」と注意するに留まる。
最早何の言葉も出ない。
いや、素直に謝罪する。
「はい、すみませんでした」
フィリカはあっさりと「構わんよ」の一言で終わらせる。
そして「そんなことより」と切り替えもする。
「しかし…まさか診断までを使えるとは驚きだ。
そうなるとオークを一人で倒せる理由も分かってくるな。
スキルや能力値を知ればある程度傾向が分かるのだからな」
と勝手に解釈していく。
実際には解析スキルを手に入れたのは昨日なので、ステータスを見る前に倒してたりする。
「今後は敵のステータスは最初に必ず見よう」と理熾は心に刻む。
「そうだ、それでノルンさんは?
この武器をメンテしてもらいに来たんですが」
「あぁ、あの馬鹿弟子か。
少し『打たせる』とこんな指名依頼を受けるなんてな」
「え゛?」
「いや、その話はもう良いか。
さっき決めたことで問題ない。
が、それとは別にあの馬鹿は暫くお仕置きだ」
残念ながらノルンはお仕置きらしい。
作れもしないくせに勝手に依頼を受けてきたというのは問題なのだろう。
まぁ、納品が危ぶまれる状況下ではどう考えても失態だ。
「ぁー…僕がごり押ししたんで、お手柔らかに。
ところでフィリカさん、精霊魔法使えるんですよね?」
「あぁ、使えるな」
先程の解析結果を思い出して質問する。
今の理熾は魔法の技術が上がらずジリジリしている。
せっかくなので教えを請おうという魂胆だ。
「少し魔法について教えてくれませんか?」
「それは構わんが…それより装備だろう?」
「あぁ…ですね。
今手持ちが3万カラドほどしかありません。
とりあえず武器を3種類、防具を一揃えお願いできますか?」
「リオ…君は一体どんな装備が欲しかったんだ?」
フィリカは呆れたような表情で理熾を見る。
「え?」
その表情を見てびっくりする理熾。
良く考えると、500カラド=5~7万程度で換算していた。
つまり3万カラドだと300~400万くらいになる。
車が買えるね!!
まさかの金額であった。
お読み下さりありがとうございました。
フィリカのイメージはセリナと正反対です。
合理性というところで理熾と気が合います。




