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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十四章:集う三神

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上手な破産交渉の進め方

準備が順調に進んでいく中で、どうしても埋まらないものがあった。

それはカルロとアレンの外交能力だ。

大領主、ガートルードと比べるのも失礼だが、彼の能力を10とするとカルロは6か7。

アレンに至っては3もあれば良い方だろう。


特にある程度の場数を踏んでいるカルロはともかく、学生のアレンを引っ張り出すのは危険すぎる。

なまじ決裁権を持つ年齢でもあり、たった一言が国家間の亀裂になりかねない。


そうしたことから、外交官にアレンを立てたとしても、補佐官を付けるのは当然だろうと思われた。

何より、権限の大きさに比例して責任を抱えるため、聡明な貴族であるほどその重圧に耐え切れるものではない。

それが『力が足りない』と嘆く若造達ならなおさらだ。


しかしただ一人、その常識に「いや、アレンさんとカルロさんには一人で行ってもらうよ?」と真っ向から異を唱える者が居た。

言わずもがな、理熾だった。


「ヴァルトルの外交官で顔出してるし、カルロさんは今更だよね」

「しかし様子伺いと決裁権の行使はまったく違うぞ?」


「あーでもまぁ、相手がいきなりブチ切れるシーンは無いでしょ」

「それはまぁ…」


理熾は極論を持ち出してカルロを頷かせるが、誰も納得しない。

これだけ重い内容だ。

準備はどれだけしても足りるということは無い。


「それとガルヴァーニ家のアレンさんって有名なんでしょ?

 なら『学生だ』って侮って交渉が楽に進むよ。

 でも補佐連れてたらそうも行かないし、むしろ頭越しの交渉されてもね?」


ありえない話だが、代官セリナと男爵アールの件がある以上、無いとも言えない。

失敗は仕方ないと諦められても、話にもならないのはさすがにまずいだろう。

だからと補佐官を付けなくて良いはずも無い。


「カルロ…はともかく、アレンが一人ってのは賛成できんな。

 折角ギルバートから人を借りれるんだろう?

 あいつが推すヤツなら、そいつ等を二人に付ける方が確実・安全だ」


ネーブルの指摘にがくがくと頭を縦に振るアレン。

こんな案件、誰が一人で抱えられるか…口に出さずともありありと分かる動作だった。


「実はギルバートさんが出せるのって一人だけらしいんだよね」

「よし、スミレ門を開けろ。

 外交素人の俺らに頼りすぎだってあいつ絞めて来るわ」


コメカミに青筋を浮かべたネーブルがスミレを炊き付ける。

この場にはそう簡単に身動きが取れないガートルードに、外交官に仕立て上げられたカルロ、アレンを含めた関係者が全員集っている。

しかし、ギルバートだけは直接関わらないので居らず、アルス側での調整に奔走しているらしい。

あわあわと慌てるスミレを見て理熾は笑いながら話を続ける。


「その辺は大丈夫だから待って。

 ネーブル、ハッサク、スミレ、僕が組んで何とかするから」

「何さらっと説明も無しで面子に俺達入れてんだよ…出来るかどうかも分からんぞ」


「大丈夫大丈夫。

 ちょっと僕が(・・)大変なだけだから」


全員が首を傾げる中、理熾は「ねぇスミレ」と話を振った。

心当たりの無いスミレは慌てるが、続けて質問が飛んできた。


「《転移門》で一番難しいのは何かな?」

「ここと、何処かの座標の初期設定です」


「うん、だから僕の技術じゃ狙って開くと15kmくらいが限界なんだよね」


飄々と話すが、理熾の能力値ならば15km刻みでも10回は開ける。

魔法薬などを使えば更に回数を積み増せるため、蓄積する疲労を何とかできれば、結果的にスミレと大差ないとまで言えてしまう。

まぁ、どう足掻いても疲労が嵩むので結局軍配はスミレに上がるのだが。


「でもこれには『裏技』が存在します」

「裏技、ねぇ?」


「やってみる方が早いかな。

 さっき開こうとしてたギルバートさんの執務室狙ってくれる?」


疑うようなネーブルの相槌を受けて、理熾は軽くスミレに注文するが、狙う先は大領主の部屋。

何度も行き来しているからこそ誰も何も感じないが、よくよく考えれば余りに暗殺向きの技能だ。

これでは全ての護衛や障害物が無駄に金の掛かる置物と同じではないか、と始めて目の当たりにするガートルードは、引き攣る苦笑いを隠せない。


ネーブルの怒気を感じ取ったわけではないだろうが、繋がった執務室にはたまたまギルバートは居なかった。

しかし本題はこれではない。


「これでラボリ(ここ)とアルス(そこ)は繋がりました。

 では、この状態で僕がラボリ(ここ)とアルス(そこ)に門を開けばどうなるでしょう?」

「???

 繋がるんじゃないのk…あぁ!

 そうすれば距離を誤魔化せる(・・・・・・・・)のか!」


「正解でーす。

 本当なら100、200km単位で離れてる場所でも、『繋いだ後』ならたったの数mしかない。

 そんな短距離なら僕でも座標を間違うことは無いし、大した負担も掛からない。

 一番の問題を解決した以上、僕が繋いだ後にスミレの門を閉じれば……ほら、僕でも『超遠距離の門を開ける』ってことになる」


余りにも簡単に実演する二人。

この事実に気付いたのは、スミレと一緒にコボルトキングと戦った帰りだ。

あの時は《障壁》を門越しに展開したに留まったが、同じことを《転移門》でやっただけ。


また、《障壁》とは違い、門は展開さえしてしまえば『繋がったまま』になる。

距離が遠いほど維持するのに苦労するのはどの魔法でも同じだが、門を閉じて遠方に《障壁》を置いたままにするより遥かに難易度は低かった。

当然こんな使用方法など、スフィアの何処を探しても見付からない。

そもそも<空間使い(ディメンショナー)>を二人も同時に使って連携させようなどとは思いもしない。

これで超遠距離の移動手段が手に入ったわけだが…。


「いや、そもそもスミレが繋いだ時点で意味無いだろ」


とのネーブルの指摘通り、《転移門》が有する一番の利点は『移動』だ。

スミレが開いてしまえば得られる利点を焼き増ししたところで無駄な労力でしかない。

しかし


「移動だけならね?」

「…どういう意味だ?」


『ここ』と『そこ』を繋ぐ技術。

ただそれだけの効果を拡大解釈し、汎用性を掴んでいく。

疑問符が飛び交う中、門を維持したまま理熾は話を続ける。


「ガートルードさんは首都でガーランドとの交渉だよね?」


急に振られた話に「あぁ、そうなる」とガートルードが頷く。


「だから『僕達』もガーランドに待機します」

「それだと何処にもフォローを…」


「僕やスミレが小さい門を使って『のぞき穴』とか『耳打ち』するのは知ってるよね?

 普通は移動にしか使われていないけど、ネーブルの【以心伝心】を使って思念会話も出来るから、実は使い方は色々あるんだよ」


この件では一番の部外者であるフィリカが理熾の結論を予想して「っはは!」と笑う。

彼女は『魔境遠征に参加する』という名目だけで席についていたのだ。


「カセレスとヴェローナに行く二人には血魔石(ブラッディコア)を配ります。

 まずはそれを目印にスミレが門を開け、距離をごまかした門を僕が上書きで開ける。

 一度スミレが遠方側を閉じて、再度もう一つの血魔石目指して門を開けて、ハッサクが僕たちが開けた二つの門を隠します。

 後は隠した門を通してネーブルの【以心伝心】で交渉役と補佐役の全員を繋げば、交渉の同時進行(・・・・)が実現します」


先に結論に至ったフィリカを除く全員が息を呑む。

いくら『同時進行』と言っても、まずガーランドで許可を。

次にカセレスかヴェローナを、と順番に対応する想定をしていた貴族達とは余りに毛色が違う考え方。


まさか本当に、文字通り、言葉通りの同時進行を実現しようとは…。

驚くべき机上の空論に、この場に居る全員がぞわりと毛が逆立つ思いだった。

しかし持てる技術を使えば到達しうる場所でもある。


「何処かが『嫌だ』って言った時点で終わるけど、これなら三国同時に進められる。

 一番難しいのが受け入れるガーランドだし、そこからなら距離はどちらも似たようなものだしね。

 この話、どの国もかなり拒否しにくくて、しかも僕達は常に『最新情報を共有してる』から、かなり有利だと思いますよ?」

「こちらは百戦錬磨の頭脳集団(ブレーン)を抱え、勝手に油断してくれる学生と小僧を前に出して交渉を行う。

 対する相手は、見た目や態度、駆け引き内容の落差に驚いている間に追い詰められるわけだな。

 リオ君が敵じゃなくて本当に良かったな!

 少なくとも私は『想定すらできない状況』を作り出される敵側に回りたくないな!」


誰一人口を挟まず聞く中、実に楽しそうに笑って話すフィリカ。

ネーブルだけが呆れ…いや、諦めを含んだ疲れた笑みを浮かべる。

『この主人(マスター)は何処までも使い倒す(・・・・)』と。


「あ、ちなみにいくら負担軽いって言っても、僕が遠距離の門を維持出来るのは、今のところ30分が限界だから時間調整よろしくね」


ただ、やはり最後に爆弾は放り込むようで、かの二国と同じように全く想定していない問題を突き付けられた一同は、いかに休憩を小まめに入れるかの議論が繰り広げられた。

理熾以外の他の面子は『交渉内容』を詰めるはずだったのに。

お読みくださりありがとうございます


☆重要なお知らせ☆

活動報告に掲載していますのでご確認ください。

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