オークの解体3
オークを単独撃破するのは同じ新人としては信じられない光景です。
何より二人よりも圧倒的に若い理熾が倒してしまうなんてのは世間の常識ではありえません。
せめて魔法使い系ならば分かるのですが。
二人が呆然と理熾とオークを交互に見る。
息を殺すというのはこういうことだろうか。
あっれー?
そんなに解体するの嫌だったのかな?
と見当ハズレなことを思う。
単に目の前の状況に対して理解が追いつかず、驚きが抜けないだけである。
うーん…まぁいいか。
何はともあれ剣回収しないと。
せっかく徴収した武器を捨てるのはもったいない。
これで鉄シリーズは計5本。
剣3本、斧1本、槍1本である。
あぁ…槍使えばよかったなぁ。
と、これまた後になってから気付く。
握れば使えるとはいえ、使ってみて実感しておいた方が良いに決まっている。
亜空間投擲の時と同じく、後悔先に立たずである。
斧と剣を拾い、血抜きしたオークを回収してから振り返るも、まだ呆然とした二人が居た。
その状況に振り向いた理熾は思わず「ビクッ」とする。
え…?
あの二人壊れてないよね…?
オークに指一本触れさせてないけど…何かあったのかな?
全く良く分からない。
そのまま歩いて解体現場に戻ってくるも、視線だけは理熾から外さない。
既に5分くらいフリーズしてるような状況だ。
「コホン」と咳払いして、
「ところで二人とも。
解体を始めて貰ってもいいかな?」
昨日森の中で取ってきた葉っぱで血を拭いながら理熾が言う。
そもそも武器を扱う知識が必要な世界ではなかったから当然なのだが、武器の扱いや手入れが余りにも悪かった。
血糊など、目で見える程度だけやっている感じだった。
「すみません、武器の整備を僕がやってもいいですか?」
雑な扱いを見ていたノルンが堪らず聞く。
いくらオーク製とはいえ、武器が可哀想過ぎた。
「え? お願いできるならありがたいけど…」
理熾の正直な気持ちは「そんなことより解体して欲しいんだけど…?」というものだった。
今回はそのために雇っているのだから、当たり前だが。
「あ、あと。
解体は1体くらい増えても大丈夫…です」
「やります」とライが答える。
どうやらフリーズが解除されたらしい。
それにしてもなんだかいきなりしおらしい。
あれー?
さっきまでの子供扱い何処いったんだろ?
…もしかしてオーク退治で?
いやいや、解体頼んでるんだからまさか倒せないとは思ってないでしょ。
と疑問を持つが、とりあえず気にせず進む。
まさに疑問通りだったのだが、それを理熾は知らない。
状況が好転したことには変わりないのだから。
ちなみに二人はやはりこの依頼はおつかいだと思っていたし、オークが出た時点で逃げ切るつもりだった。
オークの足は遅い(持久力はある)ので振り切るのは簡単なのだ。
なのに依頼主がオークに突っ込んでいくから、逃げそびれたのだ。
子供を見捨てられないという理由で。
結果的に全ての予想を裏切り、理熾が倒してしまったのだが。
「それとさっきの装備品の話ですが」
「うん、やっぱりダメかなぁ」
理熾は残念そうにする。
何せ持っている装備はただの鉄の剣、鉄の斧なのだ。
そもそも防具も肘まである手甲くらいしかない。
実力に余りにも見合わない姿なのだ。
「まだ駆け出しだから、装備の良し悪しが分からないんだよね。
装備に効果とか能力とかってのを込められるんだよね?」
「あ、はい、出来ます」
「だよね? うん。
自分に合う効果とか装備の見極めしたいんだけど、それって無理じゃない?」
「確かに…」
そう、効果や能力、果ては加護など。
装備品には様々な特典が付けられる。
しかしこの特典付きは、錆びにくいとかのしょぼいものでもかなり高い。
錆びにくいなんてものはただの気のせいレベルなのだが。
自分に合うかどうかも分からない特典を簡単には実験出来ないのだ。
だから理熾が欲しいのは実験装備なのだ。
実用装備にできれば幸いだが、実際欲しいのは良し悪しを見極める下調べ用の装備である。
「そこでノルンさんが出てくる。
ほら、店売り装備って店外に出せないから、ちゃんと振れないし、動けないし、効果も使えない。
試着くらい、握るくらいならいいけどね。
なのに高くて、なおかつすすめて来るでしょ?
本当に僕に合うかも分からないのに、自信満々で。
僕の戦う姿見た訳でもないし、戦い方教えた訳でもないのに、『貴方には』って言うんだよ」
「おかしいよね」と理熾は苦笑いを浮かべる。
これが昨日店を回った結果である。
別に見た目がこれだから、侮られるのは諦めた。
この世界は強くなくては生きられないのだから、見た目も強そうな方が得だ。
それを理熾は持ってなかっただけなのだと。
にしてもだ。
店へ入れば勝手に人を測り、これが良いと渡される。
好みや、大きさ、種類、戦い方など、選び方や選ぶ基準は千差万別だ。
なのに気に入る気に入らない以前の問題で、理熾の話をまともに聞かない。
話を聞いた上でのお勧めであれば理熾も聞けるが、そんな物よりと違うものを勧められるのは話が違う。
逆に理熾の見ている物全てをすすめるのもおかしい。
知識が無いから質問して、興味があるから手にとっているのに、誰もが理熾を軽視する。
全てのお店でそんな扱いを受けたわけではない。
違ったのは4店舗ほどで、その店には今日解体が終わってから行こうと思っていた。
思わぬ収穫だったのはこの場にノルンが居たことだったが。
「僕は別に量産品でも良い。
効果や付与や加護が無くても別に良い。
装備が良い物である必要はないとも思ってる。
けれど、いや、だからこそ。
装備は使える物じゃないと本当に役に立たないと思ってる」
ノルンは気付いてしまった。
目の前の子供は作成者を侮ってなどいない。
彼らはきっと誰かにとっての『良い物』を作っているだろうから。
だが使える物を見繕えない作成者を軽蔑しているのだ。
作成物に対する知識を誰よりも持つくせに、その知識を持つだけだから。
単に理熾は『使える物を寄越せ』と言っているだけだ。
なのに何故か誰も理熾の要求を満たせない。
仕方が無いので、自分で見定めることにした。
だから実験用の装備が欲しいと言う。
何ともノルンの耳には痛い話である。
「リオさん」
「ん? あぁ、愚痴ってすみません。
ノルンさん責めてる訳じゃないんですよ」
「いえ、僕達が悪いです。
それよりも、さっきの装備作成の件、受けさせてください」
「おぉ! やったね!」
ライに引き続き、何故かノルンまで心変わり(?)をしたらしいことを理熾が喜ぶ。
差し当たりの問題が装備の更新である。
討伐者としての現状は『裸よりはマシ』程度の物しか身に着けていない。
せめて『初心者として恥ずかしくない』程度にランクアップしなくてはならない。
期間に対する討伐数とかを考えると既に初心者ではないのだが。
「ちなみに、ノルンさんの工房って何処かな?」
「【フィリカの店】って所だよ」
聞いた名前に思い当たらない。
少なくとも昨日見た店の中には無い。
ということは、ギルド員じゃ無いってことかな。
だとすると多分店も見れていない。
うわぁ…今更だけど、嫌いなタイプの師匠だったら最悪だなぁ。
「知らないお店だね。
師匠の許可も取らないとダメだよね?」
「うん、師匠に聞いてみて了解を得たらってことでいいかな?」
作業場を使う訳だから、許可がないとできないに決まっている。
そんなことを何故か二人して失念していた。
「ねーノルン、そんなことよりあたし一人でさせないでよ!」
手が止まったままだったノルンにライからの苦情が飛ぶ。
すぐにノルンも手を動かし始める。
まだ朝の時間とはいえ、さっさと終わらせて先ほど聞いたフィリカの店にも行かなくてはならない。
開始早々に増えたオークの分もあるので、作業は急ピッチで行われていく。
結局この日、6体のオークを解体するのにおやつの時間まで掛かってしまった。
1体につき1時間ほどか。
二人とも解体はできるがスキルを持つほどではないので、こんなものなのだろう。
ちなみに200kg強の巨体は解体され、大体肉が1体当り160kgになった。
合計で998kgと1t近い肉になったわけだが…そう思うと、解体速度は驚異的である。
報酬も6体分(1体はギルドを通していない)をそれぞれ二人に渡して完了した。
解体を終えるとノルンは地図を書いてくれ、そのまま師匠の許可を取りに先に店へと向った。
討伐報酬と解体した肉を合わせて買い取ってもらい、収入は諸々含めてと1.4万カラドを受け取った。
オークを重点的に狩ればそれだけ手に入るということを確認し、これで今度こそ金欠から開放されたのだった。
お読み下さりありがとうございました。
ようやく解体が終了しました。




