オークの解体2
交渉とは難しいものです。
理熾の純粋さは交渉とは無縁で、ただただ突き付けるというものです。
子供なので仕方ないんですけどね。
残酷シーン(?)が入りますのでご注意下さい(‘‘
驚きから立ち直る素振りが無い為、理熾が声を掛けた。
「二人とも。
時間制限は特に決めてませんが、始めませんか?」
「は、はい」
「あぁ…うん、頑張る」
2人共とりあえず手を動かし出す。
驚きは尾を引いているが、依頼主が見ている前で『サボる』訳にもいかない。
「お願いします」と改めて理熾は告げて、解体を見守る体勢に入る。
亜空間のことも質問が無いなら答えない気である。
当然だが。
「あ、ちょっと質問なんですが。
ライさんとノルンさんの装備って何処で買いました?」
混乱の中解体作業を始める二人に問いかける。
もし良い鍛冶師が居るなら知りたいと思っての質問だ。
「あぁ、ノルンが見習いやってる。
だからそこでノルンが作ったのとか、師匠の試作品を使わせて貰ってるかなぁ」
「うん、ライには材料とか貰って作ってるね」
「ノルンさんが…?」
人物への解析系スキルはマナー的に余りよろしくない。
敵対していればともかく、ステータスを見るのは個人情報を覗き見するのと同じだからだ。
とはいえ、気付かれればという前提がある。
実際に気付ける者は極少数なので、気にする必要は無い。
というか、気付かれるような相手だったら勝てないから、見てた方が作戦立てられるよね。
っと…ノルンさんのステータスはっと…。
などとスキルに対して理熾なりの解釈をしてしまう。
すぐに解析スキルを通してノルンのステータスを展開する。
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名前:ノルン
年齢:34
種族:ハーフドワーフ
職業:戦士/鍛冶師
Lv :45
スキル
パッシブ
槌術Lv5
斧術Lv3
腕力強化Lv3
火耐性Lv2
アクティブ
槌技Lv3
斧技Lv2
装備品調整Lv3
装備品作成Lv2
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うっわ…予想の倍ッ!!
見て思わず唸る。
倍なのは年齢の事である。
能力値が見れないのはまだまだスキルが低いからだろうか。
うーん…34歳でLv5が最高なのか…。
しかも1つだけ。
これが普通レベルだとすると、僕異常だなぁ。
一週間ほど前まではユニーク1つだけだったのが、いまやスキル18個。
内2つがユニークで、ついでにカルマまで手に入れている。
ちなみに最高はLv9の体術と、なんとも豪勢なスキル郡である。
たった1週間で…というか、1度のクラスチェンジでノルンの30年を追い越してしまったようである。
何かトランプの大富豪みたいな逆転ぶりだ…。
人と能力値やスキルを見比べたことが無かったので、改めてクラスチェンジの有用性に気付く。
クラスチェンジが成功していなければ、今頃ただのカルマ持ちの無能で終わっていたのだから。
「最近ノルンも色々作らせてもらえるようになったみたいでさ」
「そうなんだよね。
今までずっと下積み…というか、整備しかさせてもらえなかったんだよね」
そう言って笑う。
職人と呼ばれる人達は下積みをこよなく愛する。
理熾には余り分からないのだが、そういう技術を持ってこそ生きるということを信じている。
実際は整備の際に使い手の癖を見極める能力を付けさせるためらしいが。
そこで理熾は閃く。
「自分に合う装備が無いなら作れば良いじゃない!」と。
だが自分用は値段が張る…。
そこで未だ作り手としては未熟なノルンにお願いする、と言う方法を。
「んー…ノルンさん、だったら僕の装備を作ってくれませんか?」
「え?!」
「ライさんと同じく、材料・お金はお支払いします。
ただ…余りお金は持ってないので、それほど報酬を出せませんが」
ノルンにとっては青天の霹靂だ。
誰が贔屓目に見てもノルンは未熟なのだ。
なのに、正式に依頼をするという。
初対面の状況で、しかも腕すら見ないで一体何を言っているのか分からない。
「それはありがたいですが…。
自分で言うのも悲しいけれど、まだ半人前に届きません。
そんな僕に直接依頼をするのはどう言う理由ですか?」
気が付けば解体する手は止まっていた。
指名依頼とは、最も名誉なことである。
貴方で無ければならない、という意味を含んでいるのだから。
「あ、いやぁ…そんなに意気込まないで下さい。
僕は、ノルンさんの装備を安く手に入れる。
ノルンさんは、僕へ練習品を納品する。
当然ノルンさんの腕が上がればその分値段を上乗せします。
逆に、僕がノルンさんの装備を必要としなくなれば依頼しません。
このお願いは、僕の利益の為に、ノルンさんに持ちかけているものです」
ノルンは考える。
理熾はとにかく単に安く手に入れたいという。
しかも粗悪品でも構わないとまで聞こえる。
討伐者とは命を賭ける職業なのに、飄々と装備品の優劣を問わないと言う。
問題なのは値段なのだと。
ノルンも、ライも全く見たことが無いタイプの討伐者だった。
言っていることは、命よりも金の方が大事としか聞こえないのだから。
他人がどういう風な評価をするかは分からない。
けれどノルンが作るライの装備は、ノルンにとっての最高品質である。
ライはそこに不満はないし、ノルンも作成に妥協は無い。
その装備一つでまさに生死を分かつのだから、お互い何処までも本気なのだ。
「気持ちは嬉しい。
けれど、その話には乗れない」
ノルンは搾り出すようにそう言う。
そして思った。
「これは作成者を侮辱する行為だ」と。
どれだけ未熟な作成者でも、作る時には心を込める。
大切に扱えと押し付ける気は無いが、最初からぞんざいに扱う宣言をされて装備を渡せるはずが無い。
「僕の作る装備は、まだ商品として扱えない。
そんなモノを売るわけにはいかないし、使わせるわけにはいかない」
そう宣言する。
どれだけ嬉しい話でも、この一線は譲れない。
職人としての誇りを試されているに等しいのだから。
だが、理熾の思惑とは全く外れている。
「え? うん、だから安く手に入るんじゃないの?
しかもライさんが使ってるんだし、僕も同じようにしたいってだけなんだけども?」
ノルンの言い分が全く分からない。
理熾にとってはただの商売の話だったのだ。
装備を扱うのは買い手の勝手だし、その装備で生きるのも死ぬのも買い手の勝手だと思っている。
だからこそ、装備を選ぶのだから。
そう、装備は選ぶものであって、押し付けられるものではないのだ。
「ん…ちょっと待ってて、何か来た。
そっちから来るから、後ろに下がってて」
理熾が何かに気付く。
そもそも平原だから、索敵範囲はかなり広い。
近くの森からゴソゴソとオークが1体現れる。
血の臭いを嗅いで出てきてみれば、解体中の|仲間を目撃して激怒したらしい。
帯剣してるな…にしてもまた剣か。
まぁいいか。
理熾はあっさりと頭を切り替え、事に当たる。
今は目の前のオークを倒すのみだ。
対オーク戦での必勝パターンである、投石+首刈で倒すことを選ぶ。
「下がっててね。
もう少し近付かないと倒せないから」
そういって走りこんでくるオークに向ってゆっくり歩き出す。
途中で亜空間から石を取り出すのも忘れない。
攻撃範囲に入ったと思った瞬間、歩きの歩幅を1歩だけ思い切り前を踏みしめ石を投げ込む。
歩いている動作中にいきなり投げ込んだため、オークが反応できずに右足の脛に石の直撃を受ける。
「ブヒィ!」と喚くが少し痛がる程度で、怪我すらないらしい。
うっわぁ…何とも無いのか。
そういえば、こっちの攻撃がばれてからだと、石でダメージ与えたこと無い?
あ、ステータス見よう。
思い出したかのように即座に開く。
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種族:オーク
Lv :16
スキル
パッシブ
剣術Lv3
肉体強化
アクティブ
剣技Lv2
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まず思ったことは「え、Lv高くね?」と言うことだった。
よく考えてみれば、年齢≦Lvなのだから、討伐者をやってればLv20くらい当たり前なのだ。
そう考えればオークのレベルが16くらいと言うのはそれほど高いというわけではない。
単に理熾が低すぎるだけだ。
初めて見たけど、よく勝てたな僕。
Lvが10も違うよ?
苦笑いしながら行動する。
必勝パターンが崩れ、戦況が変わってしまった。
でもま、やることは一つなんだけどさ。
流石に解体依頼の面子に戦わせるわけにはいかない。
武器で打ち合うことを心で決め、走りこむ。
オークも剣を抜き放って対峙する。
初撃は理熾が亜空間からの抜剣術の要領でオークの右腕を狙う。
今までを考えても、武器を奪えば勝てるのだ。
だが武器を持っている腕を狙うというのは変な話である。
何せ武器に一番守られている箇所を狙うのだから。
その矛盾に理熾は気付かない。
何も無いところから急に現れた剣に驚くも、即座に反応して剣の軌道を剣で弾くオーク。
その後も理熾が攻撃するも全て阻まれる。
そしてオークが力任せに弾いた時に、理熾の姿勢が崩れた。
今度はオークのターンである。
剣と剣が打ち合う音が何度も鳴る。
むぅ、剣術Lv3って凄いのかな?
そんなことを思いながら、相手の剣を弾く。
外野から見れば苦戦しているように見えるが、理熾はまだ余裕があった。
何せオークの攻撃を正面から打ち合う事を選んでいるのだから。
そもそも理熾の体格でオークと打ち合うというのはおかしな状況だ。
「がぁぁ!!!」
気合なのか何なのか。
叫びながら理熾を力任せに弾き、全力で真っ二つにするように剣を振り下ろす。
理熾は動作が大きいので苦もなく避け、全力で振り切ったため体勢を崩したオークに切り込む。
まずは通り抜けるように胴に全力の一撃。
さらに背後に抜けた瞬間に身体を回転させ、背中に一撃。
背中はとともかく、切られた腹は重傷だ。
だが崩れることも無く怒声を上げながらオークが振り向く。
振り向きざまに剣で攻撃してくるが、その腕に合わせて理熾も剣を振り下ろす。
残念ながら腕の1/3程食い込んだ場所で剣が止まったため、すぐに剣を手放して横にかわす。
オークは使い物にならない右腕を諦めたのか、剣を左手に持ち替え、まだ交戦の構えを取る。
腕を1/3も切られているのに剣を手放さなかったのは凄いの一言だ。
しかし流石にひざが落ち、現在進行形で血抜きされるオークは動けない。
数分も放っておけば死ぬオークを見、殺す決断をする。
「おやすみ」
そう言って亜空間から新たに抜き放ったのは鉄の斧。
最早左腕一本しか動かせないオークに受ける方法は無く、戦闘は終了した。
ライもノルンも驚きしかない。
何せオークは力が強く、武器を持つ。
二人のような初級ランクなら、オーク1体を数人で囲んで倒す魔物である。
安全にそして確実に倒すためにも、それが常識である。
人はそれ程に脆いのだから。
それを苦戦していた(二人から見れば)とはいえ、単独で撃破した。
中級のDくらいなら単独撃破も可能だろうが…。
そうした色々な思いを綯い交ぜに、呆然とする二人。
何も知らない理熾は…
「ごめん。
ライさん、ノルンさん。
オークの解体っておかわりしても大丈夫かな?」
「報酬は1体当り100カラドだから、その分追加するよ」と小さな依頼主は気楽に伝える。
ありえない状況でそんなことを言われた二人はさらに呆然とするしかなかった。
お読み下さりありがとうございます。
理熾がオーク相手に無双してますね。
これで2日の合計討伐数は6体。
Fランクで1日1体も狩れば十分なのですが、本人に自覚はありません。
何せソロですから。




