表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のおねがい  作者: もやしいため
第十四章:集う三神
402/537

【幕間:開拓地】財務官セルジ・クラインの場合3

少し長くなってしまいました。

会話を挟むとどうしても…。

さて、あの演説から二週間経った今、ラボリでは加速度的に家屋が立ち並んでいっている。

単なる住居の提供だけでなく、業種に関しても食品や雑貨販売用の店、鍛冶場なども用意しているため、既に村としての機能は揃いつつある。

貸し出す住居や店舗は画一的な作りをしている主な理由は費用と時間の問題。

だが、汎用性はあっても独自性の無い建物は、金を貯めた者達の買い替えを促す思惑もある。

そうして残るのは一定数の住人だけというところまでこぎつけた。


ついでに演説を行った際に労働力の募集も掛けていたことが功を奏し、この場には近隣の村から訪れた出稼ぎ労働者も混じっている。

三つの村からの出稼ぎ者に限り、男女別に分けられた領主直轄の共同住宅を無償で貸し出している。

現物を見なければ分からないだろうし、現に自分達で作っていく村だ。

それに出稼ぎの名に相応しく、支払いは他と比べて少し多めにしてある。

この辺はリオ君達の働きを安く見積もりすぎたギルから巻き上げた分を当てる予定だ。


「こちらが一覧になります…」


第一陣の転居申込者の取り纏めが終了したことで、顔を出したのは先日の男爵。

顔を青く染めた男爵は名簿をちらりと見せるだけで引っ込めてしまった。

今更遅いというのに…この時間すら勿体無い俺達からすると苛立ちしか募らない。


俺は手を差し出したまま、にこやかに上下させて名簿を差し出させてひったくる。

数冊に纏められた資料をセリナとリンクスに配り、パラパラと捲りながら話を進める。


「転居についての手配はこちらで全て行おう。

 対象者の移送に関してもラボリから荷馬車の手配をするつもりだ」

「平民に馬車ですと!?」


「当然だろう。

 着の身着のままこちらに着いても意味があるまい?

 必須の家財道具はともかく、転居者それぞれに応じた用意が出来るほど準備を整えるのは不可能だからな」

「家財道具…ですと?」


「何だ知らぬのか。

 ラボリは既に住居の一式を手配し、転居者を待っている状態だぞ」

「じゅ、住居とはまさか…今建てている家屋を開放されるということですか?!」


「だから先程からそう言っておるだろう。

 着の身着のまま来られても、飯の消費だけ激しくなって役に立たないわけだしな」


馬鹿なのかこいつは。

いや、馬鹿なんだよなこいつは。

人が生きるのに必要なのは衣食住の三つに娯楽と希望だ。

前者三つの用意もせずに人を呼び込めば叛乱にしかならんだろうが馬鹿め。

俺に一体何度馬鹿と思わせれば気が済むのだこの馬鹿は。


「セルジ様、大変申し訳ありませんが…」

「うん?

 どうしたね?」


取引される領民の名簿一覧に目を通す俺は、ラッフェル領の馬鹿男爵ことアール・ミルド相手にすっとぼけた。

隣に座るセリナ、すぐ傍に立つリンクスも同じくアールが持ち込んだ名簿に目を通している。

特にリンクスは犯罪歴を中心に、問題行動を起こす者などをメモに書き起こしていた。

なかなか仕事熱心なものだ。

声を掛けられたのは確かに俺だがな、セリナとリンクスもちゃんと聞いておけよ…?


「今回の転居でダダから六割、ジオフから三割もの領民が減ります。

 これでは我が領地は立ち行きませぬ…先日のお話は無かったことに…」

「ふむ…リンクス、お前の領地の転居率はどれほどだ?」


開いていた名簿をパタンと閉じ、わざわざアールに視線を合わせた俺はリンクスに問う。

当のリンクスは名簿から顔も上げずにメモを続けながら


「農地を持つなど、離れられない理由が無ければほぼ全てですな」


事も無げに答えた。

俺達の陣営に加わったリンクスは領民全てをこちらへ転居させる。

管理地域にウッカという村もあるが、そちらは少し遠いため希望者のみ。

いっそアインとウッカを一つに纏める案まで出ているくらいに話は進んでいる。

この場に居るリンクスを見れば分かるだろうに「なっ…」と今更息を詰まらせるアールを見て溜息が出そうだ。


「セリナ、今回の開拓に使用した金額の概算をすぐに出せるかね?」


そんな高い要求は、セリナの能力を問うたもの。

打ち合わせなどしていないので時間が掛かっても別に構わない。

目の前の馬鹿をどれだけ待たせても俺達は一向に困らないからな、と考えながら改めて名簿を開く。

しかしそんな俺の思いは空振りに終わった。


「領民の取引での出費は最大で400万カラドを見込んでいます。

 また、切り開いた土地、街道・住居の整備、鍛冶を始めとした特殊店舗の建設、ギルド誘致を含めれば最低でも二千万以上ですね」


セリナもリンクスと同じく、顔も上げずにさらさらと諳んじる。

提示した金額の大半はギルとガゼル嬢が折半で支払う予定なので実は男爵には関係がない。

しかしそうも言ってられないのは当然だ。

領民の転居を見込んで金を出しているようにしか見えないからな。

口を半開きにして「に…にせん…?」と呻いている馬鹿面に改めて問う。


「それで男爵、何の話だったかね?」

「うぐ…で、ですがセルジ様!

 何卒ご容赦を!!

 このままでは領地は崩壊、領民も無残に離散してしまいます!」


おぉ、こいつ凄いな。

二千万を超える金を使った事業に対し、たかだか100万、200万カラドの契約でふいにしろと言って来たぞ。

しかも『領民が無残にも離散』とはな。

その領民は俺達が手厚く歓迎するんだから全く違うだろ?

あの演技派のセリナも名簿で顔を隠して半笑いじゃないか。

向かい合って座った間にあるテーブルに頭をこすり付けているが、全部お前が招いたことだろうに…。

どう考えても喧嘩売ってるように聞こえるんだが…まさかラッフェルはそこまで落ちぶれてるのか?


「ふむ、そこまで言うなら仕方あるまい。

 転居申請者への説得と十分な補償が最低の条件だ」

「で、ではっ!!?」


急激に明るくなった顔を上げる。

まぁ、俺は別に構わんよ。

労働力が無くて困るのはセリナだし、開拓に金を出したのも今のところ俺じゃない。


「あぁ、だから先日の契約に対する違約金の相談を始めようか。

 こればっかりはギル…おっと、アルス領主とアルスギルドが関わっているので、俺の勝手な判断で『無かったこと』には出来んのだよ」

「あ…あぁぁぁ…ッ!!!」


聞くに堪えない騒音を撒き散らしながら崩れ落ちるアール男爵。

おい、リンクス、不審者を追い出してくれないのか?

今動かなくていつ動くんだよ…ってセリナと一緒にドン引きしてるんじゃない。


「申し訳ありません!!

 セルジ様!

 お願いですから、何卒、何卒ッ!!」


テーブルを回って大の大人が縋り付いてくるが、そもそも俺は『財務官』だ。

本気で話を通す気ならセリナに頼まねばならない。

結局こいつは最初から最後まで何一つ正しくないのだ。

まぁ、セリナに縋るようなら俺が手ずから物理的・精神的・社会的に抹殺してやるが。


「セルジが困っています。

 落ち着いてくださいアール男爵」

「こッ…これが、落ち着いていられるかっ!?

 我が家が取り潰しになるかの瀬戸際だというのに!!」


矛先をセリナに変えて泣きながら怒るというなかなか見ることの無い表情で迫る。

おい、まさかセリナに危害を加える気じゃなかろうな?

リンクスも流石に詰め寄るかどうかの瀬戸際で


「はーい、そこまで。

 それ以上セリナさんに近付かないでくれる?」


男爵の背後から襟首ががしりと握られ、セリナへの接近がピタリと制止した。

気楽な調子で現れたのは、【幻影の首札】(ファントムタグ)という首飾りをつけた我等が領主のリオ君(女性版)だった。

何ともタイミングが良いと思ったが、ネーブルが隣の部屋からこっそり俺に手で『後はほっとけ』と指示を送ってきていた。

いつから聞いてたのかと呆れもするが、孫の危機に現れたので相殺しておこう。


しかし急に現れたことといい、ギルやセリナの話からするとこの領主、武力で生計を立てているんだよなぁ…全く見えないが。

そして相変わらず間違い続けるアールは「何だお前は!?」と、よりにもよってラボリの領主に向かって暴言を吐いていた。

ここまでこじれたのは俺のせいじゃない、よな…?


「リオ君お帰りなさい」

「うん、ただいま」


挨拶の間に握り締めた襟首を軽く引き寄せたと思うとアールは空へ…いや、一回転してテーブルの向こうのソファへと座らせられた。

それも『ぽすん』と軽い調子で。

ギルめ…武闘派領主とはよく言ったものだな。


「さて、初めましてアール男爵。

 僕はこのラボリ領をギルバート様から下賜された、領主の理熾です」


状況が分からず、ソファに座ったままぽかんとするアール。

アールを投げ飛ばした様を見たリンクスは『え?』と疑問符を浮かべたまま固まっている…って、大丈夫か警備担当。

そういえば遠目に見ていても顔を合わせるのは初めてかもしれないな。

アールの向かい合わせに位置するセリナの膝に、足を組んで座って話を続けた。


おい…リオ君や、それはちょっとやりすぎじゃないのかねぇ?

肩を掴もうと手を伸ばしかけたがセリナが重さを感じている様子も無く、ネーブルが改めて『ほっとけ』とのサイン。

よくよく見ると微妙に浮いている…?

一体何をやっとるのだこの子は。


「セリナさんとセルジさんからは一連の流れを聞いています。

 それでこちらに何か不備がありましたか?」

「不備もなにも領民が大量に移動する非常事態だぞ!」


「非常事態って…え、もしかしてそれだけ?」

「そ、それだけ、だと…?」


ぶるぶると身を震わせるアール。

汗と涙と鼻水とよだれって…お前汚すぎだろう。

よくぞ使用人を連れてこなかったものだ、とこの部屋に入る前の判断を評価する。

まぁ、誰しも部下に『謝罪する姿』を見せたくはないけどな。


「だって一人当たり1万カラドの取引でしょう?

 何でも言うことを聞く奴隷の最低金額でそれくらいって聞いてますが…足りませんでした?」

「き、金額の問題ではない!」


「金額に問題がない?

 契約内容からすると問題になるのは額くらいですが?」

「だから人数だと言っているではないか!」


ダン、とテーブルを叩きつけるアール。

勢いで物事が運ぶとでも思っているかね?

ちなみにこのテーブル。

応接用だから10万カラドくらいするんだけど価値を分かってるのか?


「いえ、人数と言われても『一人当たり』以外に取り決めが無いでしょう?

 何で今更そんな契約に無いようなことを問題にしてるんですか?

 というより問題にならないように契約を結んでるのに、貴方は一体何を言ってるんですか?」


あぁ、ダメだ…リオ君の言い分が正しすぎる。

質問してるだけなのに追い詰めているように錯覚するのはそのためだろうな。

俺はと言えば余りにも見当違いのやり取りを視界の端で追う頭は更に冷えていた。


「えぇい、この小娘では埒が明かない!!

 セルジ様、何卒どうにかなりませぬか!?」


改めてテーブルに頭を叩き付けるかのように下げるが、この面々に効果は無いぞ。

あぁ…同じ立場になりかねなかったリンクスは同情するかもしれないか。


「領主を目の前に財務官のセルジさんに声を掛けるってどういうことなの?」

「決裁権も持たぬ子供が何をえらそうに!!」


「だからセリナさんに『代官』を頼んでいるんですけど?

 それで、何で『財務官』のセルジさんに話を振っているの?」

「セルジ様と結んだ契約だからだ!!」


おぉぅ…領主を差し置き、よくもまぁ言ったもんだ。

こいつ本当に大丈夫なのか。

一体どんな領地運営をしているのか…まぁ、たった二週間で四割ほどの領民に見放されてる時点でお察しか…。

リオ君は「はぁぁ………」と深い溜息を吐き出して区切り


「…アール男爵、とりあえず一旦落ち着こうか。

 結んだのは『代官』のセリナさんで、財務官は説明しに一緒に行っただけだよ。

 それともアール男爵の領地では、財務官の判断が領主や代官の契約(いけん)を曲げられるのかな?」

「そ、そんなわけがッ!!」


当たり前だ。

主の下に位置する従者が言葉を勝手に翻すことなど不可能だ。

どうしてだろう…子供のリオ君の方が圧倒的に大人に思えて、しかも子供(アール)を正論でいじめているように見えるのは。

いや、子供な大人であるアールが100%悪いはずなんだけどな?


「改めて聞きますが、代官も領主も揃っているこの場で、何故セルジさんと交渉しているのですか?」

「う…ぐ…ぅぅぅ…」


とまぁ、貴族間での間違いは致命傷になる。

何故あの男爵は転居者が少ないと思っていたんだろうな。

いや、少ないかもしれないが最悪を想定しないのは貴族として終わってるがな。


「………セ、セリナ様、どうにかなりませぬか…?」


声を搾り出すようにアール男爵は告げた。

まぁ、半分と生きておらず、爵位すらないセリナに頭を下げるのは屈辱だろう。

現に俺と一緒に行った時は添え物のような空気だったわけだし。

あえて(・・・)な。


「…仕方ありませんね」

「で、では!!」


「えぇ、まずは爵位を返上してください」


セリナが放った言葉はアールの思惑から外れるものだ。

本人は「はぁ!?」と目を剥いて仰天しているが…爵位返上は当然だろうが。


「それを防ぐために頭を下げているのですよ!?」

「先程セルジも話しましたが、この契約は正しく結ばれています。

 これを破棄するのはお互いに『私は馬鹿です』と告知して回るのと同じではありませんか?」


「し…しかし…当人同士の契約です。

 内々に処理していただければ何処へも漏れることは…」


確かに無いな。

だが契約を反故にするお前に、『黙っている』という信用がそもそも無いんだよ。

何の見返りも無しに誰がそんな危ない橋を渡ってくれるって言うんだ?


「そもそもこちらには破棄する理由もありません。

 粛々と契約に沿って対処すれば良いだけですから」


余りにも順当な判断に口を挟む必要すらない。

俺達に不備はないので行うのは金を差し出すことだけ。

たとえ『契約は無効だ!』と金を突き返したところで領民の移動は確定的で、阻止することがあれば契約違反で審判問題に発展する。

アールにしか非が無いので俺達は一切痛くないけどな。


「そこを何とか…」

「えぇ、ですので現状の説明をして爵位を返上してください。

 それであればラッフェルのエクス伯爵も溜飲を下げてくれるでしょう」


「そ、それではクライン家に詐欺師のレッテルがっ!」

「何を言ってるんですか?

 貼られませんよそんなもの」


いかに接客能力の高いセリナとしても、怒りを通り越して呆れ混じりの声色になるのも仕方ない。

つまりこいつは俺達を詐欺師だと言っているわけだからな。


「契約の際に『どれだけ転居者が出るか分からないので断りを入れに来た』と告知しましたよね?

 事前に父のギルバートにも確認を取っている内容ですし、現にそこに居るリンクスはその言葉を聞いて断りました」

「な…」


「ですからまずはエクス伯爵の怒りを抑えてください…話はそこからです」

「そ、その後は…?」


ほう『その後』を求めるか。

よくもまぁ、この体たらくでエクスを黙らせられるものだと感心してしまう。

希望を見るのは勝手だが、進むのは茨の道だというのになぁ。


「では説得出来たと仮定して。

 今度はアルス領主のギルバートの認可を。

 認めてもらえればラボリの一員として歓迎いたしましょう」

「ギルバート様にまで!?」


「アルス領は在野からの登用が随分と簡単な領地です。

 クライン家が認めた者なら自身よりも低い爵位を与えられます。

 今回はそれを利用する訳ですが、あいにくと私もセルジも与えられる爵位がありませんからね」

「リ、リンクス殿は!?」


「あぁ、確かに彼は騎士爵を持っていますが…そうなると結局平民ですよ?」


というかリンクスは『クライン家』じゃないからな。

こいつの頭はどうなってるんだ。


「わ、私は男爵ですぞ!?」

「いえ、エクス伯爵に爵位の返上するので平民ですよ。

 取り戻すためにギルバートと交渉するので、失敗すればやはり平民ですね」


現状では何をどうしても平民へと没落するのは変わらない。

そしてエクスの小僧に許してもらえなければ最悪極刑、良くて放逐だが…貴族がいきなり世間に放り出されたら普通は死ぬ。

ある意味そっちの方が酷かもしれないかね。


「で、ではギルバート様に口添えを…?」

「面会くらいは。

 しかしアルスは完全実力優先ですので、それ以上は無理です。

 いや、逆に実力を示しさえすれば今以上の…そうですね、子爵位をもらえるかもしれませんね」


「し、子爵っ!?」


没収される爵位よりも上がるかもと言われれば確かに反応するのは仕方ない。

だがこんな崖っぷちに立たされるような馬鹿をギルが認めるわけが無いだろう…。

頭のネジが緩すぎるアールを見ていると、ちゃっかり「可能性の話ですけれどね」とセリナが予防線を張っていた。

笑顔のまま「それはもう!」と頷いているアールの様子を見ると聞こえているが頭に入ってないらしい。

何処までも哀れなヤツだな。


「あぁ、もしこれらを行うならラボリ預かりの案件です。

 まずはアール男爵が持つ陣営の詳細情報が無くては話になりません。

 こちらとしても受け入れ準備等がありますからね」

「えぇ、すぐにでも用意いたします。

 それで…エクス伯爵への取り計らいなどは…」


「ここはアルス領ですよ?」

「で、ですよね…しかしそこさえ何とかなればっ!!」


「えぇ、その通りです。

 期待していますよアール子しゃ…あっと、まだでしたね」


向かい合うアールとセリナは笑った。

何だこの茶番は…いや、脚本を書いたのは俺だがな。

それにしてもこうも上手く演じきるとは…セリナ侮りがたし…。

しかもそれをリオ君を膝に乗せたままやってるというのがまた…。


「では、私は急ぎますのでこれで!」

「お待ちくださいアール様。

 今回の領民の支払いはいかがしますか?」


いきなり席を立ち、挨拶もそこそこに「バーン」と扉を開け放っていくアールを呼び止めたセリナ。

もうほっといても良いんじゃ無いか…?


「それはまた後日!

 いえ、子爵となって帰った際にでも頂きましょう!」

「え…えぇ?

 い、いえ…明確な期限を…余り先走るようなことがあっては…」


「問題ありません!」


ほらな。

気を遣うだけ損だというものだ。

困り顔のセリナは「どうしようリオ君…」と我が領主様に嘆く。


「うん?

 何かまずいの?

 まぁ、ギルバートさんから爵位はもらえそうに無いけどさ」

「それもそうなんだけどさ。

 この契約って『領主』と契約してるから、爵位を返上しちゃったらお金渡せないよ」


そう、先に返上してしまえばアールには渡らない。

そして領主間の契約なので簡単には破棄出来ず、担当領主が居なくなれば『決済されたもの』として処理することも可能だ。

要は『アールが持ち逃げした』とみなされる。

というよりこんな内容を伯爵の前で言えるわけが無いから、単純に領主を降りて爵位を返すとか言うのだろう。


少し考えたリオ君は


「………いやぁ、儲かったねセルジさん」

「まったくですな、領主様」


「はははっ」と朗らかに笑い合う俺達を横目に引くのがリンクス。

代官のセリナは「二人共!?」と絶叫していた。

しかも心優しい我が孫は「リオ君ならまだ間に合うでしょ!?」とも言っていたがね。


「いやぁ、だってさ。

 セリナさんを蔑ろにした相手に優しさとかいらないでしょ?」

「………まったくリオ君は…でも、ありがとね」


そう言ってリオ君を後ろから抱きしめるセリナ。

倍以上も無駄に年を重ねた男を相手にしたのはやはり心細かったらしい。

ふん、今回だけは許してやろう。


「いえいえ。

 ってあの人ホント話通じないね。

 貴族ってあんな人ばっかりなの?」

「「「それはない」」」


と貴族側の意見が揃ったのは言うまでもないことだろう。


それから二週間後、ラボリは当初の予定通り、喧騒渦巻く村へと早変わりした。

リンクスは必死に駆けずり回り、セリナも持ち上がる要望に心を砕き、俺はいつも通りの金勘定。

落ち着きはしないものの、発展の予兆を感じさせるようなラボリの活気は本物だ。


そうして先日、リオ君達は王都へと旅立って行った。

そこには密かにギルバートとエリルが混じっていたらしいが…なんというスミレの無駄遣いだろう。

とはいえ、この年になってこれほどはしゃぐ事態になるとはな。

今ではラボリとセリナの成長を見守るのが日課になりつつある。

お読みくださりありがとうございます。


長々と続けてしまって申し訳ありません。

何だかんだと内政話が好きなようで、楽しくて仕方ありませんね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ