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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十三章:有名税の取り立て方

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美味しい敗北

理熾が活躍(?)した集団戦の予選よりもスミレの個人戦の方が感想が多くて悔しい…。

いや、感想もらえるだけで凄い嬉しいんですが(笑

大金星のスミレの勝利を祝うと次は理熾の番である。

ちなみにアシュレイの勝利は当然なので放置したら拗ねていた。

何とも面倒な末っ子である。


『〝フード〟最後の一人、リオ選手!

 身軽な装いに騙されてはいけません!

 個人戦の予選では魔術紙片(マジックペーパー)を駆使してBランクを退けております!

 集団戦の予選でも鞍を用意して最後尾からトップへと抜き去り、優勝候補を棄権へと追い込んだ手腕!


 闘技大会始まって以来、最年少の参加者、その年齢何と13歳!

 討伐者としても若く、ギルド登録から僅か三ヶ月でDランクへと駆け上がった新人(ルーキー)です!』


闘技場へと顔を出すとそんな紹介が流れる。

これであっさり負ければDランク剥奪もありえるのかなぁ、と理熾は思いながら歩を進める。

対する相手は


『対戦相手はまさかのFランク!!

 この本戦出場者の中で最も低いランクでの突破です!


 掛け値なしのギルドのFランク判定!

 予選でも生き残り(サバイバル)形式が功を奏し、格上の潰し合いにより運良く本戦の出場権を獲得しました!

 年はまだ19歳と若く、これからの成長に期待が持てるリーゼ選手!


 年下とはいえ、格上相手のリオ選手相手にどう戦うかが楽しみな一戦です!』


・

・

・


余りにあんまりなあたしの紹介に思わず苦笑が浮かぶ。

ここに居ることが場違いなことにも、そして一番残念なのは全部が全部本当のことだということにも。

ただここに立っているだけで膝が笑うようなあたしからすれば、あの小さな子は特別にしか思えない。

だって押し潰されそうな歓声は、そのどれもが目の前の女の子に集中しているんだし。


ガーランドでは誰もが挑戦を憧れる学園迷宮(ダンジョン)アレクセイの今期覇者である、アシュレイ様率いるパーティの一員。

試験への運用が始まって以来の最速記録に加え、多くの記録更新に貢献した一人。

ラッフェルとアルスの間に発見された未開拓迷宮の攻略者にして、大氾濫(スタンピード)を抑えたパーティリーダー。

今ではラボリと名付けられた迷宮付近をクライン家から与えられる…ってどんな経歴だよ。

しかも見た目は誰が見ても可愛いとか…一体どれだけ恵まれてるんだあのリオって子は!


公開された情報を追うだけであたしは憂鬱になる。

敗戦濃厚どころか、衆人環視の中央へ出て行くだけ労力の無駄な気しかしない戦場を進む。

そこへ恵まれた彼女から


「リーゼさん、相談があります」


と声を掛けられた。

この煩い闘技場で、何故だかその静かな声は耳に届く。

もしかするとわざと声が通るように会場が作られているかもしれない。

だって戦場の小さな物音を会場で聞けるっておかしいしね。

そんな言葉に思わず、そして不審に思いながら「…相談?」と返事をした。


「はい、棄権してくれませんか?」

「は、なっ!?」


「事情は察しています。

 けれど僕も負けられません」

「何を言っているの?

 それに分かっているなら、そんな言葉を聞けないことも理解しているでしょう」


「ですが、勝てますか?

 僕ではありません。

 次に対戦する相手に、です」

「何を言って…?」


本当に一体何を言っているのか…全く理解出来ない。

彼女にすら勝てそうにないあたしが、今を見据えないで一体何をしろと…?


「戦場に立っている以上、僕に勝つのは当たり前(・・・・)です。

 必要なことは『勝つことで問題が解決するか』だけじゃないですか?」


何をややこしいことを…。

絶対に勝てる勝負なんてこの世に存在しない。

だって負けることが分かっているなら、誰も勝負なんかしてくれないんだから。


「うーん…そうですね。

 僕との掛け金の比率はいくつでしょうか?」

「32:1.1…」


見たくも無い現実をわざわざ突き付ける…これが精神攻撃ってヤツ?

それを馬鹿正直に答えるあたしも大概だけど。


「ですね。

 あの表記自体は倍率(オッズ)のみです。

 ですので誰がどれだけ賭けたか。

 あるいは今どれだけの額が賭けられているかは分かりません」

「そんなもの、見れば分かる」


「でも、見えないと困りませんか?

 大体『1万カラド』が必要なんでしょう?」

「な…」


言葉が出ない、詰まるというのを経験したのは何度もある。

感情が追い付かなくて声が出せないアレだ。

けれど、この感覚は初めてだ。

この背筋が凍える寒さと、優しさに見え隠れするキモチワルさは。

どうして、なんで…と呟くように漏れる疑問の言葉は止まらない。


「優勝すれば絶対に届きます。

 人気があれば一戦で稼げるかもしれません。

 実際にアシュレイ様とうちのスミレは相当稼ぎましたしね。

 しかし…残念ながら、リーゼさんでは一度で稼げる額ではありません」


あたしが答えないことをいいことに淡々と、そして残酷な現実を首筋へと突き立てる。

息が浅くなるのが自分で分かる。

目の前が暗くなりそうなくらい気分が悪い。

だから叫んだ。


「分かってる!

 でも、やるしかないんだ!」

「ですね。

 だからこの場に立っている。

 『運が良かった』と実況の人は言いましたが、それだけではここには立てません」


「は?」

「だって『参加する』という行動が無ければダメでしょう?

 負傷するかもしれないという覚悟や、敵を打ち倒すという意思が無ければ居るはずがありませんから。


 だからこそ、相談…いえ、交渉です。

 僕に勝ちを譲って(・・・)ください。

 今が、一番高く『勝利を売れる瞬間』ですよ?」


差し出す手を見詰めながら、相手が何を言っているかを必死に考える。

あたしは、勝たないといけないんだ。

こんな話をしている場合じゃない。

この戦いに勝ち、次も、その次も…彼女の言ったように、金が溜まるまで負けることなんて許されないんだ。


「ではその対価の話をしましょう。

 僕にとって完全な格下相手となれば倍率が低くても、稼げる可能性がかなり高い方に賭けるのは当然。

 たとえリーゼさんの報酬が500カラドでも、比率が約30倍の僕は1万カラドを超える報酬を手に出来るでしょう。

 まぁ、賭けの仕組みを知りませんので、もしかすると報酬額にそこまで影響が無いかもしれませんが。

 ともかく…アシュレイ様とスミレの金額を考えれば、少なく見積もっても5000カラドは越えると予想しています」


交渉と言い出したくせに単なる自慢、か?

今すぐあの綺麗な顔を殴り倒したい衝動に駆られる。

何で実況者はこの状況に気付いて開始の合図を送らないんだ?


「では、リーゼさんが僕に勝利を売ってくれるというなら、この出場報酬(ファイトマネー)をそっくりそちらにお渡しします」

「はぁ!?」


おい、たった一戦の勝利に5000カラド以上の金を明け渡す?

あたしがどれほど溜めようとしても年単位で掛かる額を?

しかも『勝てる相手』に対して?


『それでは時間も押してきましたので締め切らせていただきます。

 果たして、圧倒的な人気のリオ選手をリーゼ選手は打ち倒せるのか?!


 ――――…一回戦、第16試合…開始ッ!!』


勝手に始まった試合。

こちらの都合などお構いなしか!


「もしも要望額に足りなければその分も出しましょう。

 逆に多かった場合はそのまま貰ってくれて構いません。


 さぁ、僕に『勝利を売る』かどうかの決断をお願いします」

「ちょ、ちょっと待て!

 何でそんなことをする?!

 あたしが困っていようと君には関係が無いだろう!?」


「理由はいくつかありますが…これも何かの縁ですしね。

 治る病気だからこそ諦められないのは分かりますし。


 …と、色々と建前を言ってますが、一番は『僕の戦い方を見せたくない』ってことですよ?」


待て、待てっ!

登録者の情報を全て持つ運営側すらも知らない情報だぞ!

何であたしの身内が病気だと知っている!?

しかも治すのに必要だとされる金額までッ!!


『アレ…?

 開始しましたよー?

 ちゃんと戦ってくださいねー?』

「今ちょっと忙しいんで後にしてくれませんか?」


『後!?

 今必要なのは戦うことですよ!?』

「え、そんな制限時間や交戦時間のルールはありませんよ?

 開始と終了の合図の間で戦えば良いだけでしょう?

 それとも開始から何分で近付かないといけないとかありましたっけ?」


『ですが、明らかな戦闘放棄は…』

「ふふ…戦闘放棄なんてしていません。

 単に『間合いを取り合っているだけ』です。

 こっちは真面目に戦っているのに、とんだ言い掛かりです」


『あぁこら!

 リオ選手、何座ってるんですか!』

「『座ってはいけない』なんて規約にはありません(・・・・・・・・・)よ?

 本戦の敗北条件は『死亡による離脱を含む戦闘不能』、『戦闘区域からの離脱』、『棄権申請』の3つ。

 実況者さんから直々に教わったルールです。


 あ、もしかして告知されていないルールがあるなら流石に僕も知りませんけど?」


『ぐぬぬ…』

「それで、僕の行動に何か問題が?

 実はこの姿勢で無いと本気出せないんですよね。

 あ、これ、皆にバレると対策されて困るからオフレコでお願いしますね?」


と言い放って会場の笑いを誘う。

相手は格下、明らかな余裕の態度、とでも思っているんだろう。

けれど運営側はそうはいかない。


『あ、ほら、リーゼ選手今がチャンスですよ!?』

「煩い!

 今考えるのに忙しい!!」


『リーゼ選手まで!?』


嘆く実況を考えの外に置いて現状を考える。

目の前で座る子供が言うように、勝つためや名を売るためにココに来た訳じゃない。

弟の治療費を稼ぐために参加したんだ。


あの子の言ったように、ここで勝って500カラドの報酬を貰っても意味が無い。

次回で負ければさらに500カラド前後を渡されてそれで終わり。

運が良ければ2戦で2000カラドくらいは手に入るかもしれない。

いくら普段の稼ぎより破格に良くても、それっぽちでは全然足りない。


後はもう、身に付けている装備と身体を売るくらいしか思い浮かばない。

装備を売ればギルドの仕事は当分出来ないし、改めて買い直すだけのお金が必要になる。

身体を売れば…最後に残る『自分を売る』ことになれば、もう歯止めは効かない…と、思う。

きっと何もかもが…人でさえもただの金に見えるようになる。

それらをしても時間はどうしても掛かってしまう…そうならないためにここに立っているのに。


「いい話なのだろう…だがその保証が無い!」

『ほしょう!?

 なんの話ですか!?』

「そうですね。

 なら契約書を用意しましょうか?」


ぺらりと、胸元から紙がすぐに出てきた。

最初からそのつもりで用意してたのか…。


「……用意周到な」

『契約書?!

 闘技場のど真ん中で一体何を契約すると!!』

「第三者の確認もあった方が安心ですよね?

 というわけで実況さん、これ読み上げてみて?」


『急に振られても!

 …えぇ、おしてる…………?

 あ、はい、それでは…。


 ―本戦敗北による対価は、ミカナギリオの出場報酬にて支払う。

 ―また、規定金額までの不足分が発生した場合には請求に応じるものとする。


 って、何ですかこれ!

 魔法紙まで使って堂々と八百長なんて許されると思ってるんですか?!』


そういえばそうだ。

最初から『交渉』と言われていたので気付けなかったけれど、勝敗を金で買うなんて八百長以外のなにものでもない。

そんな抜けた思考であたしはそんなことを考える。

これを受けて良いものかも含めて。


「実況さんも面白いことを言いますねぇ。

 許されるも何も、禁止も罰則も無いですし別に良いでしょう?

 それに『今まさに決めてる最中』なんだから『八百長』ではないですよ。


 あ、大丈夫ですよ?

 実況さんには迷惑掛かりませんって。

 単に『あいつは金で勝利を買ったんだ』って僕の評判が下がるだけですから。

 それにリーゼさんも、次以降の試合を見れば、僕と戦わずにお金を受け取ったことは『英断だ』って褒められますよ」


だが彼女は何を得る?

出場報酬という安くない金をあたしに与え、2回戦へと駒を進めるだけだ。

堂々と八百長(とは違うらしいが)なんてすれば彼女の言うように評判だけが下がる、と全く割に合わない。

しかも『絶対に勝てる格下相手』にこんなことをするんだから本当に意味が分からない。

普通は正反対の状況…『絶対に勝てない相手への脅迫』って形じゃないの?


「何故、そんな契約を?」

「さっきも言ったように情報を隠すため。

 次で勝つための布石を買ってる最中です。

 それに僕は弱いから、勝てる方法に全力を尽くすだけかな」

『ちょっとーー!

 何良い感じで話を進めちゃってるんですか!

 こんな結末誰も…って、え、もういいから進めろ?!

 どうせリーゼ選手は勝てない…ってそれは失礼でしょう!?』


実況はあたしのフォローをしてくれてるようだが、余計に悲しくなるよ。

正直戦っても魔術紙片で封殺されるだろうしね…むしろこの契約の方が彼女にとって赤字のはず。

この状況で観客の暴動が起きないのは、ある意味予定調和ってヤツだからかな。


そうして契約書は既に足元に置かれていて、ペンも添えられていた。

不意打ちをしない意思表示か、随分と距離を置いて背中まで向けている。


「棄権は『敗北の受け入れ』です。

 ルールに『棄権』を入れる以上、『負けを認めた選手の敗北』は確定ですよね?」

『え、えぇ…っと、そうですね?』


「では次に。

 両者戦闘不能による引き分けは、後日の再試合が通例と聞いています。

 つまり『引き分け』というものはありません。

 今回のように、きっちりと敗者が出た試合の対戦者は勝者で問題ありませんね?」

『大会規約(ルールブック)をください!

 ほら、はやく…いや、誰か調べてください!!』


「それに衆人環視の下の棄権交渉は、相手への『優しさ』でしょう?

 現にスミレ選手もイスラ選手から『棄権の要請』を受けています。

 当然応じる、応じないは当人の勝手…実力差を感じて応じた人も中には居たでしょう。

 その方達が皆、違反者として敗北しているなら僕もこんな無茶は言いませんがどうでしょう?」

『大会記録も!

 はやく! はやく!』


「あ、もしそれで反則負けなら、剣を首に当てられて敗北濃厚な状態でも聞けませんね?

 だって質問した時点で『規約違反で負け』になるんですし。

 あれ、過去にどれだけの人がその状況で棄権を認めましたっけ?

 これからは常に『首を刎ねないと勝敗が決しない』と考えた方がいいんでしょうか?」

『誰かあの子止めて!

 全然ついていけない!!』


「そうか、むしろその状態なら様式美的にも良い、という訳ですか。

 リーゼさん、ちょっと剣を首に添えてから改めて聞いてみますから、後でお願いしていいですか?」

『ちょっと待てーーーー!

 リオ選手、こちらも混乱しています!』


「こちら『も』?

 いえ、僕は一切混乱していませんよ」


大会運営という巨大な組織を相手に、運営側が敷いた規律(ルール)の説明を求めているだけ…なのだが、全くついていけない。

観客もざわざわと口々に話をしているけれど、棄権云々ってのはニュアンスというもの。

その時の雰囲気で良し悪しが決定するような内容で、場面によるとしか言いようが無い。

そういえば過去に八百長が発覚した者が居たが、結局すぐ負けてしまったし、それはそれで良いだろうと有耶無耶になったのを覚えている。


参加者の数や、動く金額の大きさからしてそういったやり取りはどうしても締め出せない。

けれど、それでも『誰が強いか』は分かるものだ。

そして毎回皆が認める強者が頂点に立っているので、やはり誰も気にしない。

つまりあの子も『黙って見届けろ』と言いたいわけだ。


『勝利を買って利益を得るのはいけません!』

「いえ、戦っても恐らく勝ちます。

 そのせいで僕の倍率は悪いので賭けたところで大した払い戻しもありません。

 だというのに、この契約により僕の出場報酬はリーゼさんに渡ります。

 そこまで言うなら出場報酬に変わる『利益』が、僕に発生する仕組みと根拠を提示してくれますか?」


『うぐぐぐ…』

「この契約で僕の利益は何一つありませんが、それでも認められないなら戦いますよ?」


『い、いえ…結構です。

 リーゼ選手の決定に運営側も従いましょう』


やはりあたしの勝ち目は無い、と考えられていたらしい。

それにしても子供の言い分で折れて大丈夫なのか運営側…。


「それでは、僕の出場報酬はリーゼさんに渡して下さい。

 その時に必ず僕とリーゼさんの分で別にして、それぞれを渡すようにお願いします」


と小さな子供が運営側に注文を付けていた。

あたしの分が混じってたら請求に来にくいとか細かいな…。

しかも支払いは迅速にって…自分のことじゃないのに全力すぎじゃない?


初戦がこの子で良かったと思いつつ、戦わずに済んで安堵する。

提示された契約書にサインをし、あたしの本戦は終わりを告げた。

ただ…なんというか、次回の大会ルールは書き換わる気がして仕方が無かった。

お読みくださりありがとうございます。


ということで。

理熾も個人の本戦を通過しました。

『棄権が出来る』というルールは意外と穴が多いものですね(‘‘

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