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神様のおねがい  作者: もやしいため
第三章:始まりの街
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初の討伐依頼

残酷シーンが流れますご注意下さい。

ようやく討伐者としての依頼を行います。

これで戦闘シーンを入れていけます。

ギルドへ向かう短い道中。

普段ならボーっとするような隙間時間にも考えるようになった。

日本では考えられないほど、頭を使っている。

スフィアの常識が欠けている以上、予想と推測で動くしかないので仕方ないのだが。


そのお陰か、理熾はこれまで様々な新事実を確認している。

スキルの重複効果、体術の有効利用、低レベルでのクラス選択、クラスの複数同時選択。

これらの発見は異世界人(理熾)にとっての『異世界』という性質が余りにも大きい。

まず自分の常識が通用しない。

苦労することばかりだが、これは逆にスフィアの常識外のことばかりを知っているということになる。

非常識しか持たない理熾が、スフィアを見ると違和感や歪さを感じる。

そこ非常識の知識を当てはめて考えるため、スフィアの誰もが気付かない事実を発見していく。

切羽詰った状況下でこれが思いの外プラスに働いた。


加えて『異世界』なのだ。

スフィアの常識は、『未知』と等しい。

何を見るにしても、何をするにしても知らないことばかりでストレスになる半面、楽しいことばかり。

当たり前が無いのが当たり前…隣の芝は青いどころの話ではない。

スフィア人より物事に興味を持ち、スフィア人より深く考え、スフィア人より『新たな常識』を発見する。

『スフィアに対する素人』だからこそ。


そうして理熾はスフィアに降り立ちたかだか一週間という期間で研修を終えられたのだ。

この研修、実は能力の足りないものは途中で失格者として省かれる。

最終日に向けてどんどん人数が減っていくのだが、詰め込み教育で忙しい研修生は気付かない。

本来この研修を終えられるのは本当に討伐者として能力が足りる者のみなのだ。

当人である理熾は全く分かっていないのだが。


 うーん…どうしようかなぁ。

 やっぱり常設依頼で良いか…前の薬草採取みたいなのもないし。

 そういえばこれからは『持ち運び』がかなり楽になるんだっけ。


空間魔法の一つに亜空間作成がある。

これは虚空に自分の部屋を作るような魔法である。

亜空間内では時間経過が極端に遅い(ほぼ停止のレベル)ため、基本的に劣化も腐敗もしない。


 てことは、物凄い安い時に物を買い込んで亜空間で保存しておいて、高くなってから売るってのもありなんだな。

 劣化しないからホントにいつまで持っててもいいし。


飢饉の時にでも食品ばらまくかぁなどとなかなか鬼な考えをしながら依頼を眺める。

理熾にとって都合の良い依頼は無かったのは残念だが仕方ない。


常駐依頼である、


◇◇----------------------------◇◇

【討伐】ゴブリン系種族

依頼者:ギルド


依頼内容

対象は全てのゴブリン

ゴブリンの右耳にて討伐数のカウントを行います

また、上位種族の場合は討伐ボーナスをつけさせていただきます

常設依頼ですのでいつでもご利用下さい


報酬:1体につき10カラドから

◇◇----------------------------◇◇


を行うことに決める。

【神託】にもミニゴブリンなどのが入っている以上、倒しておいて損は無い。

いや…むしろ討伐者としてはこの辺りをクリアしておいた方が良い。


こういった常駐依頼は事後報告になるので、特に依頼を受ける事無くギルドを後にする。

目標は南の平原の外周部である森。

森は未開の地であり、奥へ行けば行くだけ魔物の領域になっていくので浅い場所での探索に抑える。

中へ入っていくのはいつでも出来るが、帰ってくることが出来るかわからない。


 自分のスキルやら能力を使いこなせてすらないからなぁ。

 何より今は日帰りレベルで無いと精神的にもつらい。

 さっさと行ってさっさと帰ろう。


というわけで、早速向かう。

門をくぐって外へ出る際に守衛がギルドカードを確認する。

今回もギルバートは居なかった。


 んー?

 常駐してるわけじゃないんだなぁ。

 まぁ、試したいこともあるし今回は居なくて良かったかも?


と薄情な感想を持って出発する。

ギルバートが居れば『挨拶+会話+近況報告』のコンボが発生して出発が大幅に遅れるのだ。


それはともかく。

今回やることは2つ。

空間魔法の運用方法の確認と、近接戦闘の見直しである。

考えをまとめながら森を進む。


 まず接近戦。

 僕の速度はそれなりだし、何より武神・体術のスキル補正である程度戦える。

 なのに結局転がる羽目になるのはやっぱり使いこなせていないから。

 センガさんの時を思い出せば、ビックリしすぎて頭が動かず、反射的に迎撃した。

 このことから考えれば、落ち着いてさえいれば倒せると言うこと。

 まぁ、それが凄く難しいんだけどね。


そんな事を思っていると、ミニゴブリンと呼ばれる魔物を見つけた。

向こうはこちらに気付かずぎゃぁぎゃぁ叫んでいる。

ゴブリン種族の中でも最弱の一角で、成長する事でゴブリンになるという。

生まれたてということなのだろうか?

見た感じ性別は無い上に何も持っておらず、そもそも裸だった。


 何かそれを考えると出世魚みたいだなぁ…。

 どう見ても美味しそうじゃないけど。


見た目からして頭と鼻の大きな人型で背は低く大体80cmくらいか。

しかも緑色でついでに薄汚れていたりする。

一応人型ではあるものの、どちらかと言うと動物に近く見える。

『食料』としては絶対に見れない。

そもそも食べる習慣などない。


ミニゴブリンは群れる魔物なのだが、運よく1体だけで居るようだった。

戦闘訓練(殴り合い)をしたことによって『殴り方』くらいは覚えている。

が、殺し合いはしたことが無い。

自分の一撃から始まると思うと動きが強張る。


だがここは既に『魔物の領域』である。

『人間の常識』でモノを考えてはいけない。

そして理熾の持つ『日本の価値観』など何の役にも立たない。

ここは異世界(スフィア)で、今立っているのは魔物の領域(弱肉強食)なのだから。


固まっている場合ではない。

目の前の魔物は、討ち果たすためだけの目標である。

それをふまえて討伐者になったのだから、こんなところで躓いてはいけない。

深呼吸を入れ、理熾は心を決める(凍らせる)

後は行動のみである。


決断してからは早かった。

すぐさま接敵し、左の拳で軽めの一撃を繰り出す。

体勢を崩してから、右の拳での本気殴りである。

が、初撃が顔にめり込み、吹っ飛んだと思ったら木にぶつかり、動かなくなった。


 って、アレェ?

 う…うーん…脆すぎない…?

 命を刈るというのは確かに心にクるけど、余りにもあっさりだ…。

 何だか現実感が薄すぎる。


結構な気合を入れての行動だったのだが、まさか一撃で倒せる(殺せる)とは思っていなかった。

余りのあっさり感で初めての魔物を討伐してしまった。

理熾にしてみれば最早事故だ。


 ま、まぁ…無事死線を潜り抜けたことを良しとしよう。

 少なくとも戦う以上、負ける可能性もあるのだから。

 っと、討伐証明を…右耳だっけ。


腰につけているナイフで頭から削ぎ落とすという慣れない作業を行う。

作業だと思わなければ、血臭にむせ返る。

いや、割り切っていてなお、気持ち悪い。


 こんなことしてまで討伐を証明しなくちゃいけないんだなぁ。

 僕の場合は亜空間があるから、腐ったりしないけども…。

 これだけでクるよね。


とうんざりする。


討伐後は出来る限り早急に現場を離れるか、処理する。

鮫などと同じで肉食系の魔物は血の臭いに敏感だからだ。

処理をするなら埋めるか、焼くかが基本である。

このような森の場合は簡単に死霊化することが無いのでちゃんとした処理はせずに現場を離れることが多い。

何がどれだけ現れるかが分からない以上、敵の増員を防ぐための討伐者の常識である。

だが理熾はそんなことはせずに迷う事無く亜空間に死体を放り込む。


そうして手に入れた死体を、平原との境界程度の森の浅い場所まで戻って吐き出す。

殴殺だったので、殆ど流れていない血をこの場で抜く。

理熾の考えた死体の利用方法…それは『撒餌』である。

討伐者の常識と、理熾の考え方は全くの逆なのだ。


 森を歩くのは危険度が高い。

 視界は悪く、奇襲を受け易い上に何がどれだけ出てくるかが分からない。


これは森を歩いた時の教訓である。

能力値は以前に比べて格段に上がってはいるが、行軍は気力・体力を同時に消耗する。

しかも当たり前だが移動した分だけ帰り道が長いのだから、気を使う。

それを身に染みて理解しているからの発想だ。


 血の臭いに誘われて来る増員も、何がどれだけ来るかが分からない。

 それならば自分に有利な場所…視界が広く、敵を発見しやすい場所用意して、『撒餌』で誘い込んで対処する。

 何より索敵するより遥かに簡単で、平原であれば逃げるのも楽なんだよね。


敵を探すことと、敵を誘うことで生じるエンカウントのリスクは同じ。

森を歩くことと、場所を特定することで生じるリスクは前者が圧倒的に高い。

索敵しながらの移動と、位置を限定した待ち伏せの索敵ならばリスクは断然前者が高い。

誰もがやらないことを、効率とリスクを天秤にかけて利があれば平然と行う。

理熾は出来る限り早く自身を強化しなければならないのだから。


その足で平原に戻り、手の平に乗る程度の石を拾っては亜空間に放り込んでいく。

この石が理熾にとっての投擲武器である。

淡々と準備を整えていく。


 来たッ!


現れたのは先ほどと同じミニゴブリンが3体。

同属の死体を見付けて共食いを始める。

そんな食事風景を見て理熾は思う。


 うわぁ…これ目的だけどこれは無いわぁ…。

 まぁ、金魚も自分の卵とか稚魚食べたりするから、一緒…。

 一緒…かなぁ…?


その状況を見て身近に置き換えて逃避する。

金魚より目の前の光景の方が遥かに血生臭いのだが。

すぐに思考を切り替え、亜空間から石を取り出して右手で本気で投げる。

「ヒュッ!」という音と共に投擲された石は1体の頭に直撃してめり込んだ。


 ぎゃぁ! 威力高すぎた!

 陥没してるッ!


一撃必殺ではあるものの、まさかの状況を演出してしまい、まさしく絶叫物である。

だがこれで良い。

各個撃破は基本中の基本である。

残りのミニゴブリンが理熾を発見して襲い掛かってくる。

瞬間、またも理熾の右腕が全力で振られて石がめり込み1体が崩れ落ちる。

残りは1体。

改めて頭を切り替える。


 …これからが本番だ。

 とにかくまずは避けることを考える。

 その次に反撃だ。


理熾はただ『経験値を稼ぎに来た』訳ではない。

まさしく『戦闘の経験値を貯めに来た』のだ。

そのための撒餌であり、その為の奇襲である。


 殴り合いは慣れてる。

 ちゃんと見て、判断して、防ぐか、かわす。

 それが出来て初めて『戦闘経験』になる!


相手も素手なのでまさに殴り合いだ。

ミニゴブリンにしてみれば本気なのかもしれないが、理熾にとっては遅すぎる攻撃が来る。

振りかぶって放たれた握られた右手を左腕で受け、いなす。

それだけで体勢を大幅に崩されたミニゴブリンはたたらを踏む。

相手の攻撃を受けきったところで、右の拳で反撃を入れると軽い反動と共に吹き飛んでいった。

これで2度目の戦闘終了である。

何ともあっさりとした幕引きだった。


 うん、大丈夫。

 落ち着いていれば対処できる。


少しずつ自信を付ける。


そもそも研修にしても、ある程度基礎が出来てる中での戦闘訓練ならば問題は無かった。

けれど全く何の技術も無い理熾が渦中(殴り合い)にいると、ただのフルボッコである。

普通めげて終わりなところを、最後には多少捌けてる辺り、スキルとクラス補正が尋常じゃない。

一応理熾の根性も。


またもや討伐証明を集めるついでに死体を回収し、最初の撒餌の場所に追加する。

次の魔物が現れるまでが理熾の休憩時間であり、思考時間であり、練習時間だ。

考えるのと平行して石を拾い集めておく。

残弾は多いに越したことは無い。


 とりあえずこの調子で行こう。

 戦闘中に空間魔法を挟めれば良いんだけどなぁ。

 そういえばセンガさん相手に発動したなぁ。


と亜空間を開け閉めする。

ここまでは割りと簡単なのだ。

そこから先が難しい。


空間魔法とは、使い方が違うだけでやることは全て同じである。

空間の制御というただ1点に収束される。

亜空間生成のように、世界に新しい空間(容量)を用意する。

もしくは世界から一時的に空間を削る、もしくは入れ替えるなどだ。

容量を削る場合は、削った部分の空間は世界と繋がっていない為、防御に使える。

また、位置を調整して発動すれば、空間を削るという魔法に巻き込まれて、攻撃を受ける。


魔力の量や質によって展開距離、範囲、強度が自由自在であるため、汎用性が高い。

そして何より『空間に作用する効果』である以上、対抗(レジスト)するのが難しい。

普通の人間は空間と言う対象を認識できないのだから。


 とはいえ、それは制御(コントロール)出来て初めて言えることなんだよねぇ。

 んー…空間を削る、削る…ねぇ?

 そういえば普通詠唱あるらしいんだけど、知らないんだよなぁ。

 とりあえず指の軌道をなぞるように削れるようになろう。


と実験を始める。

魔力感知と魔力操作のレベルは高いが、未だこの程度。

まさにスキルのみ持ったような状態だ。

例えるなら上質な紙と良く切れるはさみを渡されただけ。

誰でもはさみで紙を切れるが、上手に切れるとは限らない。

そこに技術が揃えばただの紙から切り絵のような芸術もできる。


そんな感じで上等なスキルを渡されても、今の理熾には生かす技術がゼロなのだ。

それを今磨いている。


 お、出来た出来た。


と喜びながら、指を振る。

瞬間的だが軌跡が歪む。

空間が繋がっていないので光りが直進できずに曲がり、歪で見える。

亜空間を開け閉めできる以上、ここまでは早い。

この先の『便利に使う』という段階が遥かに遠い。

それでも理熾は初めての技術に喜ぶ。


この日は、追加で5体のミニゴブリンを討伐して岐路に着いた。

死体を放置しておくことも出来ないので、5体を亜空間へ。

残りを不出来な空間魔法で削り取った。

まだまだ討伐者としては歩き始めたばかりである。

お読み下さりありがとうございます。

スキル・能力などが出揃ってきています。

まぁ…まだまだ足りていない部分は山ほどあるんですけれども。

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