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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十三章:有名税の取り立て方

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仮初の勝利

ギルバートとの交渉をほぼ終え、ようやく半分。

次はアルスのガゼル(ギルドマスター)が交渉相手になる。

領主館で対ギルドとの話をするのもおかしいのだが、ラボリの件で色々と絡んでいるから仕方が無い。

頭を使う交渉を連続で行うのはネーブルとしても負担だったが、主役級が全員揃っているこの場で終わらせるのが一番手っ取り早いのは間違いなかった。


「リオ様、おめでとうございます。

 Bランクへの昇格が確定(・・)しました」


そんな場で、ガゼルが挨拶の後、物凄く良い笑顔で次に発したのは驚くべき事柄だった。

オレガノのウォーターソファでダレていた理熾は思わず「はぁ?!」と声を上げて起き上がるほどに。


「えぇ、本当に素晴らしい働きでした。

 まさか大氾濫(スタンピード)という災害をパーティ単位で解決してしまうだなんて」

「え、えぇ?

 あれ…今来たところだよね?」


「その通りですが、館を通されている間に粗方説明して頂いております」


といつでも対処出来るようにドア付近に立つノイズへと視線を送る。

彼は適宜お茶やお菓子を提供していたはずなのだが、ガゼルという来客の対応でいつの間にか席を立っていたらしい。

そして領主側(ギルバート)が『伝えなくてはいけない内容』を既に伝え終えていたようだ。

ネーブルの対面に座るギルバートは紅茶をすすりながらかすかに頬を上げていることを思えば意趣返しだったのだろう。


「くっそ…詰めが甘かったか…」

「いやいや、わしが出来たのはちょっとした仕返し(手伝い)だけだろう?」


「馬鹿言うな。

 ギルドマスター(ガゼル)に情報(恩)を売った上に、俺等の立ち位置を好きに固定しやがって…。

 外から見れば『俺等の働きに報いている』ってのも気に食わん…そんな施しはいらないってのに」

「…ネーブル、やっぱりこっち側に来ないか?」


と改めて誘う辺り、ネーブルの頭の回転速度は、働く側の貴族からしてもかなり速いらしい。

ネーブルとしては本音から「そんな気が抜けない立場になるとか嫌過ぎる」と断っていた。

今でも十分苦労性なのに、貴族になんてなったらいくらネーブルの毛根が根強くとも流石に禿げそうである。

そんな鍔迫り合いの最中にもガゼルの話は進む。


「ちなみにリオ様の奴隷、五名に関してもランクをCへと引き上げさせて頂きます」

「最下位(G)ランクから?!」


「それだけの規模だった、ということですね」

「…吹っ掛けるなよガゼル。

 主人が信じちまうだろうが。

 一気に上げれても2つが上限…無茶して3つだろう?」


「あら、バレてしまいましたか」

「え…?」

「当たり前だ。

 そんな簡単にランクを強制的に(・・・・)上げられたら、討伐者側が対処出来ないだろ」


「少しは驚いて頂けるかと思ったのに…残念です」

「十分に驚いたよ!?

 というか僕もBランクとか嫌だよ!」


のほほんと話を続けるガゼルに抗議を上げる理熾。

だがそんな抗議をものともせずに続ける。


「いえ、残念ながらこれは『決定事項』です。

 デリック騎士長を含む面々に目撃されては言い逃れが出来ませんから。

 五名に関してもアシュレイ様を含みますが亡者の繰手(Bランク)を討伐しているので上げます(・・・・)」

「…そっちは誰にも見られないぞ?」


「でしたら『数百規模の囮役』という形で引き上げさせて頂きます。

 今回の件は公共事業であり、領主・ギルド共に人・金・物を出しています。

 功績として申し分無いものですし、隠せる規模でもありませんからね」

「そうか…で、俺達のランクは?」


「暫定的にEランクとさせて頂きます。

 ただ、リオ様同様いつでもDランクへの昇格は可能ですので、必要でしたらご連絡ください」

「Eランクは腰掛かよ…」


どうにもならない現実を受け入れ、ぐったりとしながらネーブルは確認の言葉を吐く。

当然ガゼルからは『満面の笑み』で返答されてしまった。

これ以上口出しするとネーブルの邪魔になりかねないので、理熾としては成り行きを見守るしかなくなってしまう。

オレガノに先程以上に沈んで現実逃避に忙しいとも言えるが。


「もうその辺は終わったことだ。

 だからもっと建設的に話を進めよう」


ネーブルは諦めの混じった声色で進行を促す。

振り返っていても後悔の念しか浮かばないのだから。


「それで、今回の件に対するギルドの施しはランク上昇っていう嫌がらせ(・・・・)だけか?」

「嫌がらせだなんて…。

 ようやくまともなランクになって…ませんけど、近付いただけじゃないですか」


「なら何か報酬があると思って良いんだな?」

「えぇ、ギルバート様と同様にお手伝いしましょう」


「…そこも聞いてたのか」

「少しだけ、ですけれどね」


顎に手を当て話を組み立てるネーブル。

どうせギルドの支店が必要になる以上、最初から噛ませていた方が手っ取り早い。

特にまともに更地にすらなっていないのだから、全部自前で作らせてしまえば金も掛からない。

アルスには建設許可と土地を借り受けて、勝手に作ったとギルバートからネーブルは聞いていたことだし。


「ならギルドの支店の進出を考えておいてくれ。

 多少大きくても今なら押さえられるから、是非とも先に手を打つことをオススメする」

「承知しました。

 支店建設と共に運営者としてアルスのサブマスターを一人派遣します。

 その他の人材は余り持っていけませんが、過不足無く回るようには仕上げます」


「随分と太っ腹だな。

 拠点作りは確かに大仕事だが、サブマスターまで出すとは」

「管理迷宮に支店が作れるんですよ?

 こんなまたとないビジネスチャンスに尻込みしてどうするんですか」


とはいえ、現地調査もせずに決めていい話では無いはずだ。

それが『この場』という特殊性の賜物かもしれないが、それでもネーブルとしては気軽過ぎると感じてしまう。

なので齟齬が出ないように情報を出す。


「後は迷宮の管理だけが気がかりって感じか…?」

「そうですね。

 転移魔法陣の設営はこちらで行いましょうか。

 …というか、ラボリ迷宮って攻略されたんですか?」


「主人がな」

「ほう…それはまた」


「これ以上のランクの引き上げは拒否するぞ」

「残念ですね…」


「それと迷宮関連は少し時間を空けてもらって構わないか?」

「問題ありません。

 こちらもすぐに支店を作れませんし、運営となれば時間も掛かりますから」


という要求もすぐに通ってしまう。

ラボリは他に比べて随分と特殊な迷宮なので、調査したいだろうとの思惑で声を掛けたのだが。

どうやらガゼルも理熾の借りをこのタイミングで全て吐き出すつもりらしいとネーブルは察した。


「しかし…リオ様はえらく出世されましたね」

「んーたまたまだよ。

 皆がすごいだけだしね」


「謙遜が過ぎますよ。

 ともあれ、後日で構いませんのでギルドに顔を出してくださいね。

 カードのランク情報を更新いたしますので」

「うぅ…やだなぁ…」


「残念ですが、更新に来なくてもギルドの持つ情報としてBランクに登録されますよ?」

「一度脱退を…」


「その場合は『争奪戦』が起きますよ?」


とリセットを考える理熾にガゼルが『待った』を掛ける。

何より『ランクを上げたいガゼル』を前にそんなことを行えば、ギルドへの再加盟が出来るかも怪しい。

その辺は察しているものの、まず何より「争奪戦?」と疑問を口にした。

見かねたネーブルが


「あー…簡単に言うとだ。

 今は『アルスギルド所属』だから勧誘が来ない。

 だが、13歳でBランクにまで認定される逸材が『ギルドから脱退』とかしたら、様々な組織による熾烈な勧誘合戦が始まる」

「え、何それ…」


「奴隷(俺達)と同じで所属っていう『首輪』を掛け、『主人をどの組織が所有して使うか』を明確にしたがるんだよ。

 それだけならまだ良いが、主人が不祥事を起こした時に誰が責任を取るかも含まれるから制限も厳しくなる。

 今のところ、このままガゼル管轄のギルドか、ギルバートのアルス領に仕官するというのが一番融通が利いて良いと思うぞ」


理熾達は『やりすぎた』というのが正確な表現だ。

実力を隠しているくせに、隠し切れずに色々と首を突っ込んでいる。

その結果がBランクなのだから世話が無い。


「ふふ…身内からの忠告痛み入ります。

 私共から告げても信憑性が薄いですからね」

「くっそ…こいつらこんなんでも実力者だからな。

 俺達の情報は全部止めているはずだ。

 いくら何処かの組織に所属していても、声くらいは掛かるだろうからな」

「なんだ、バレておったのか。

 上手くやっていたと思うのだがなぁ」


「上手くやりすぎなんだよ…。

 首都に居るヴァルトル領主(ガートルード)が俺達を知らないって時点でな」


そう、情報が伝わらなすぎなのだ。

子供の討伐者のデビュー戦が『緊急依頼』の時点で大騒ぎするはずなのだから。

そしてネーブルは「ともかく、この場では主人は『飾り』だろ?」と告げ、交渉者は自分なのだと改めて理熾を黙らせる。

ここから先は腰を折られること無く一気に行きたいのだから。


「それじゃガゼルに協力を依頼したい」

「ふふ…何なりと」


「ありがたい話だ(・・・・・・・)。

 とりあえず手持ちの魔物の解体をギルドに依頼する。

 あぁ、いや…ジンの『討伐補助』も確かまだ有効だよな。

 『功績として認めている』というなら、秘密裏な必要も無いし、いっその事凱旋的な感じで大々的に送りつけよう」

「え、待ってください。

 今回討伐したのは数百体でしょう?

 一度に持って来られても困りますよ?」


「いや、俺達もそうしたいのは山々なんだが…ほら、腐るだろ(・・・・)?」


今度は逆にネーブルに笑みが浮かぶ。

対するガゼルは先程とは真逆の引き攣った笑みに変わる。

ネーブルは続けてその視線をギルバートへと移して


「そういえばさっきラボリに転がる全ての魔物をくれるって言ってたよな?」

「あぁ、元々そのつもりだったから構わんが」


「その解体って誰がするんだ?」

「当然ギルドに依頼する」


聞きたい事実を引き出し、ネーブルは笑みを深める。

そしてガゼルへと視線を戻す。


「そっかーなるほどなー。

 普段ほとんど無い『解体の依頼』が山ほどくるなんて大変だなぁ」

「い、いえ…あの…?」


「まぁ、仕事だし?

 その辺を俺達が気にする必要は無いか。

 それにあれだけ『功績だ』とか褒め称えてランクまで強制的に上げておいて拒否るなんて無いよなぁ?」

「《亜空間》に保管し、順次解体では…」


「脳筋が服来て歩く俺等のような討伐者に在庫管理させるって?

 まさかなぁ…それに『最初から依頼者の善意を当てにする』って組織としてどうなんだ?」

「っぐ…」


「俺達も心苦しいんだけどな。

 いくら主人とスミレでも無尽蔵じゃ無い。

 聞いてると思うが、これから資材搬入の量が跳ね上がる…それを誰が運ぶと思う?」

「お二方ですね…」


「そんな状況で多量の在庫を抱えられるか?」

「………難しいですね」


「だろう?

 いやぁ、話が早くて助かる。

 馬鹿なヤツならこのままごねて話が平行線のままだからな!」


とさも話は付いたかのようにネーブルは進める。

処理の手が回るはずが無いが、それを止めるだけの材料がガゼルの手元には無い。

ラボリの件で賞賛は浴びても減点要素が無いのだから。


「と、普通ならこれで終わりなんだが、まだ続けるか?」

「いえ…ギルド側(こちら)で解体依頼の募集を掛けて対応します…」


「そこでだ。

 俺達の…いや、主人のランクをCかDへの昇格で抑えてくれないか?」

「は?」


「いやなに、主人は『緊急依頼に引っ張り出される』のは嫌らしくてな。

 それなら義務の無いCかD辺りなら納得もするんじゃないかと。

 もし引き上げを抑えてくれるなら、俺達が持つ解体待ちは後回しにしても構わんぞ?」


先ほどガゼルは『領主館の中で説明を受けた』と言っていた。

これは『ギルドマスターの権限での決定事項』というだけで、まだギルドという組織を通した決定では無いのだ。

ついでにガゼルはギルドマスターではあるものの、身分を隠しているために『護衛や補佐官が居ない』ことが多い。

ただの受付にそれらを付けると悪目立ちしすぎるからだ。


つまり、今この決定を知るのは領主館で話を聞いている面々だけ。

であれば、この場でならばまだこの決定を『ひっくり返せる』という意味でもある。

そしてそれをひっくり返すためにネーブルが取引の天秤に乗せたのが『大量の解体依頼』という訳だ。


ギルドとしては余り美味しく無い仕事で、なおかつ一括・大量ともなると手が足りない。

苦肉の策として外部にも手を借りることになり、目に見えて費用が掛かる上に、腐敗するために使える時間もそう多くない。

余りにも負担が掛かるこの案件をわざわざ引っ張り出してきたのは、単なる嫌がらせではなく昇格の引き下げを狙ってのことだった。


対するガゼルとしては理熾の昇格はどうしてもしたい。

が、組織的に考えて『引き上げさえしなければ負担が抑えられる』となれば頷くしか無い。

まだガゼルが決定しただけという条件までくっつけば、この場でただ昇格ランクを変えるだけで話は終わるというお手軽さ。

何より『昇格の取りやめ』でないところがいやらしい(・・・・・)。


「分かりました…Cで手を打ちましょう」

「なら半分だな」


「は、半分…?」

「おう、主人どれくらい持ってる?」


「んー…59かな?」

「全部だよ全部。

 《亜空間》の未解体の魔物ぜ、ん、ぶ」


「全部なら187~」

「スミレはどれくらい回収してるかね?

 確か俺達側で150は狩ったと思うが…全部ならもう少し乗るか。

 まぁ150で考えても90と70で160体分を今日持ち込むk「Dで!!」…。

 …そうか、無茶を言って悪いな?

 ならギルドに負担が掛からないように持ち込むよう、こちらで随時調整しよう」


薄く涙を目じりに溜め、入ってきた時とは真逆の顔でガゼルは敗北を認めた。

そしてあの少ない情報量でここまで追い込まれてしまったことに『理熾の配下が強すぎる』と改めて感じる。

また、これ以上譲歩を引き出されないためにもガゼルは「すぐに手続きを手配します…」と議論に蓋までしてしまう。

勝ちの目しかなかったはずなのに『どうしてこうなった』という思いしかない。


「こっちはギルバートの分が終わり次第持って行こう。

 …いや、それじゃお互い手間だな。

 ラボリの魔物回収もこっちが受け持って解体数を制御した方が全員の負担が軽いか」

「わしはありがたいが構わんのか?」


「問題ない。

 ラボリは俺達のだし、ゴミ掃除するのは当然だ。

 それより200体を超えるバラバラの魔物拾う労力分を他に回してくれると助かる」

「しっかりしとるなお前…」

「調整して頂けるなら私もそちらの方が嬉しいです」


ネーブルもこれ以上渋ることは無い。

いくら今まで通りが良いとしても、これだけのことを起こした以上は『昇格しない』という方が問題。

引き際を間違えると全てが無駄になってしまうのだから。


「あぁ、そうそう。

 あれだけ話しておいてなんだが、解体に出す数は随分と少なくなると思う」

「え?」


「ちょっと使い道があってな」

「…ハメましたね?」


「いや?

 ギルドマスターとの交渉が上手く行かなかったら全て納品して綺麗にしてもらうつもりだったぜ?

 ただ俺達はどんな形でも使えるからな。

 『無駄な解体の手間』を掛けても痛くも痒くもない。

 むしろ綺麗な方が使い勝手も良いし、ありがたいのには変わりないしな」


そしてネーブルは「この情報はリップサービスってヤツだ」と平気な顔して言い放った。

何に使うかは誰も分からないが『解体作業(やらなくていいこと)』を交渉材料に使われていたことを知り、ガゼルは改めてソファに沈む。

誰も騙されていないし、むしろ全員が得をした話のはずなのにこの徒労感。


「…ギルバート様、ネーブル様を何とかしてください」

「つい先程わしもへこまされたところだしなぁ」


とアルス領での上位者二人が嘆き合うという状況に、理熾は『下克上気を付けないとなぁ』と密かに恐怖感に囚われていた。

お読みくださりありがとうございます。


大人の交渉者であるネーブルは、突発的な案件にも対応出来る正攻法(テンプレ)を持っています。

また、それぞれへの利益分配のバランスも良いので、不満は残っても不利益な交渉ではないという絶妙のラインを持ち出します。

とはいえ、元工作員という性質上、交渉者としては邪道かもしれませんが。

というわけで、3話を通してネーブル無双でした。

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