神様とぼく2
7/31訂正
理熾の答えは単純明快でなおかつ即答だった。
脊髄反射のレベルで、神の言葉に被せるくらい見事に。
それはそうだろう。
初対面の相手(というか神様らしいけど)の願いを無条件で聞く必要があるだろうか?
答えはNOだ!
と考える理熾の思考は大変正常だ。
考えてみて欲しい。
飲食店に「お腹が空いたから」と食い逃げして良いはずが無い。
例え仕事ではなくとも、人の家に上がりこんで冷蔵庫を開けていれば即通報だ。
その程度のことも分からないなどふざけている。
動物園の園長だと言うが、餌付けもせずに動物は芸をしない。
理熾は「この神様やっぱり小物感がパない」という感想しか出ない。
「いやいや、待ちなさい。
せめて内容聞いてからでも遅くないだろう?」
「え、内容聞いてから断ったら『断れる』の?」
「………」
「おい、何故黙る」
どうやらちゃんとした拒否権は無いらしい。
予想だが『断られることを想定していない』とかいうオチじゃなかろうか。
いや、この神様ならそうに違いない。
そんな風にとにかく結論付けて、話を進める。
こちらが出来る限り有利になるように。
「神様、よく考えてみて下さいよ。
いきなり良く分からない場所に誘拐。
次にそんな場所で『お願い』という名の強要。
ここで僕が嫌がるだけで、最後には「言うこと聞かないと還さない」っていう『脅迫』ですよ?」
ひとつ、ふたつ、みっつと指を折りつつ告げていく。
貴方のやってることはとてもおかしなことなのだよ?と見えるように。
この神様の小物感なら畳み掛ければ何とかなる!
演出でも何でも使って、このピンチを切り抜けろ僕!!
理熾の脳内は神様を丸め込むために現在フル稼働中だ。
せめて表情やらが見えれば多少情報を拾えるのだが、光の玉ではどうしようもない。
相手の反応に対処するのではなく、完全に押し切る形で押さえ込むことをにする。
「神様に会うのは初めてなんだけど、神様って脅迫するの?」
「いや、いや!!
そんなことは無いぞ!」
慌てた声が響くが、やはり表情は無い。
電話をしている感じかな、と理熾はこっそり納得する。
「そっか、なら『断っても良い』ってことだよね?」
「う…うむ、だが話だけは聞いてくれ」
まさか少し押しただけで一瞬で立場が逆転してしまった。
いや、正常に戻ったと言うべきか。
この神様チョロイ!
やっぱり力持ってても使い方なんだね。
馬鹿ははさみを持っても石とか切りに行きそうだし。
と神に対して酷評する。
確かに外野から見ていると馬鹿っぽいのだが、これでも一応自称神様なのだ。
「それじゃ聞いてからですね」
ここで一度受け入れておく。
強硬に話を進めすぎると相手側から反発が出てくる。
それでなくても立場としては弱いのだから、『ここまでは納得したよね?』というセーブポイントは必須である。
実力行使されると負けるのは当然なのだから、気を付けないと。
少しだけ余裕が出来たため、使いすぎて茹だる頭を少し冷やす。
ここで判断をミスればせっかくの逆転劇が水泡に帰すことになる。
言葉は慎重に、そして神への断罪は手厳しく。
「さて、先ほど『手詰まり』の話を聞いてもらった件だ。
私が管理している世界の一つに、今言った問題だらけの世界がある」
言うに事欠いて『管理している世界』ときた。
しかもいくつも管理してることを示唆する。
無自覚かもしれないが、『お前とは格が違うんだよ』という副音声が聞こえてくる。
これだけ出来なさ加減を振りまいているが、実は結構凄い神様(?)なのかもしれない。
けれど理熾にとってはどうでも良いから即答する。
「それって最早滅亡したほうが良いレベルじゃ?」
「まぁ、正直もうダメだろうなとは思っている」
心の中で「ダメなのかよ!」と突っ込みを入れる理熾。
そんなことを言う神様を見て何だかその世界がいたたまれない感じになる。
こんな神様に見放されるってよっぽどだよなぁ…。
逆か。
こんな神様だから見放すしか無い事態になったんじゃないの?
理熾は相変わらず神様に対して酷評だった。
そして同意するのならばと追撃する。
「だったら僕に用は無いよね?
早く解放して欲しいんだけど」
「そこで最後の最後として一手を打ちたい!
そう、この手詰まりの世界を救って欲しいのだ!」
どうやらこちらの話は聞かないことにしたらしい。
恐らく会話をすると言い負かされると判断したからなのだろう。
どこまでも残念な神である。
「そう」じゃないよ…。
むぅ…勢いで押せると思ったのに。
なかなか頑固だ…諦めるってのが出来ないのかな?
むしろ諦められないからジリジリ悪化させている事を思い出した。
そう思って理熾は改めて畳み掛けておくことにしてみた。
相手が聞こえないフリをしないように。
「『損切り出来ない人が投資をしちゃいけない』らしいよ?」
「何処でそんな言葉をッ!?」
「えーっと、お父さん?」
まさに「・・・」というような沈黙が降りる。
神より偉い(堅実)な父親とはこれは一体?とも思うが、単にこの神様が残念なだけなのだろうと勝手に結論付ける。
逆か。
お父さんがとても凄いということにしておこう。
じゃないと神様の程度が知れすぎる…まぁ、チョロイんだけど。
と立場を逆転させて納得する理熾。
しかし外から見ればどっちでも一緒で、結局目の前の神様は理熾の父より格下になる。
まさに痛い沈黙を破ったのは理熾の方だった。
「それで。
最後に打ちたい一手って何なの?
手詰まり状態で一手打っても迷惑なだけじゃないの?」
「うむ、確かに手詰まりではあるものの、現実は将棋などと違う。
たった一手でもどんな状況をもひっくり返せる可能性があるのだ!」
こうやって事態をややこしく、そして手詰まりへと導いていったんだなぁと白い目で見る。
言ってる事自体は平和ボケしてぬるま湯に浸かってる理熾でも分かる。
だって今にも事故で死ぬかもしれないし、逆に宝くじが当るかもしれない。
何処でどんな『一発逆転』があるか分からないのが『現実』というものだ。
むしろ現在進行形でこの不思議空間に監禁されてるのを考えれば本当に『何が起こるかわからない』というのも納得も出来る。
可能性というくくりで言えば何事も確率が低いというだけで起こりえるのだから仕方ない。
「そして最後の、ほんとに最後の最後の一手としてとしてリオ君を送りたい」
「いや、意味分かんないし」
相変わらず容赦の無い即答だった。