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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子

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アレクセイ迷宮

「自分も迷宮探索(そっち)のメンバーですか?」


スミレが驚くのも無理は無い。

元々ラボリ迷宮(ダンジョン)への橋渡しとしてスミレの派遣を考えていたのだ。

ただそれらの準備もまだ暫く掛かり、準備が整ったとしても5日に1度くらいの出番しかない。

とはいえ、それでも迷宮探索が加わればつらいだろう。

出来る限り余裕を持たせることを約束して承諾を得た。

奴隷相手に承諾と言うのもおかしな話ではあるが、ネーブルともこまめに打ち合わせ予定である。


パーティはまだ三人しか決まっていなかったが、アシュレイは登録用の指輪を既に4つ受け取っている。

既に最大数持っている理由は、『必要になった時に付けて認証すれば良いだけ』と聞いた理熾が、「手元にあった方が便利だ」と言ったからだ。

実際登録さえ済ませばスミレが前線まで送り届けてくれるので、最初から持っている方が面倒が無い。

やはり<空間使い(ディメンショナー)>が居るパーティに荷物削減の頭は皆無だった。


指輪は2種類。

1つは生徒専用、残りの3つは護衛用の指輪だ。

また、護衛の指輪は登録者の変更が可能。

ただし変更の際は必ず講師立ち合いの下、指定された場所で契約の書き換えを行わなくてはならない。

勝手に指輪を交換しても登録者扱いされないので注意が必要だ。


三人は指輪をはめて契約による認証を終えて迷宮へと入る。

契約内容は『《非殺結界》への同意』というものだ。

これをしておかないとせっかく張られている結界の恩恵が受けられないとのこと。

指輪があるお陰で随分と危険度の低い探索となるのだが、契約段階になって初めて《亜空間》へ取り込めないことが発覚した。

《亜空間》内では時間経過が無いので、指輪が正しく動いてくれない可能性が高い(試す訳にもいかないし)のだ。


少し不満は残るものの、アシュレイの荷物や稼動していない指輪をスミレが《亜空間》に仕舞い込み、理熾とスミレは服の《拡張空間》で対応した。

また、アシュレイはスミレと理熾の血魔石(ブラッディコア)を首飾りにして渡されており、それに指輪を通しておくことにした。

こうして結局誰一人として装備以外の荷物を持たずに出発した。

ちなみに理熾は武器、スミレは盾すら持っていない。


「何これ楽すぎるっ!」


アシュレイの驚愕は全くその通りである。

特に山場も無く、初日で5層を呆気なく突破する。

スミレは足元に《障壁》を置いてサクサク歩くため、遅れることも無かったのだ。

ただやはり体力は無いのでちょくちょく休憩しながらだったが、少しずつ能力も上がるだろう。


翌日の7月5日も同じだった。

地図を持つ斥候役の理熾は一切迷う事無く最短距離で次の階層に向かう。

どう考えても過去最速のペースで突き進んでいった。

その結果、10層分の合計で掛かった時間は約8時間。

予定通りとはいえ、翌日に疲れを残す事無くたった2日という短期間で10層までを踏破した。

余りにも順調すぎて笑いよりも呆れが前に出てくる始末だ。


浅層部を突破中、三人は色々な話をしていた。

安全圏なので誰に憚ることも無く。

そして絶対に通過しなくてはならない作業の片手間に、時間が必要な打ち合わせを済ませていったのだ。

今後の対策、戦闘方法の打ち合わせや撤退の線引き、その他日常の色々まで。


学力試験と呼ばれるものの最終日である7月6日は理熾達の休息日。

スミレは少し移動の打ち合わせを終えてから解放されるらしい。

もう少しすると移動用として駆り出されるので最終調整とも言える。

馬鹿みたいな過密スケジュールをこなす理熾もこの日はゆっくりしていた。

翌日からの中層攻略を考えると疲れることなどそれこそ馬鹿らしいからだ。

だからセージやミントの様子を見に行ったり、ガーランドの図書館で本を探したりとゆっくり(?)過ごした。

ある意味贅沢な休日ではあったものの、他人から見ると『え、遊んでたの?』と言われるかもしれない。


7月7日、中層部と呼ばれる11層に足を踏み入れた。

ここから少しずつ攻撃的な魔物が現れる。


「そういえばここまで誰とも会ってないね?」

「実戦試験開始からもう3週間は経ってるし、丁度中層の終盤~深層の最初くらいじゃないかな?」


「あ、そうなの?

 じゃぁ後ちょっとで追いつくね」


等と話す理熾達は少し大変なハイキング気分である。

ちなみに10層に掛かる期間は平均で7~10日間程らしい。

しかしこの期間は『迷宮内での滞在期間』であり、5層で外に出て休憩していれば更に期間は延びる事になる。

そう考えると理熾達は通常行程の5倍くらいの速度で攻略していることになる。

地図があるのと無いのとではまさに雲泥の差だ。


理熾達は地図を持つ手前迷うことが一切無かったが、同じ場所をぐるぐる回ることを考えると嫌気が差す。

他のパーティだと例え地図作成(マッピング)していたところで探索時間が延び、疲れや不満が溜まる。

更にストレス発散先の敵が居ない安全地帯であることを含めて考えれば実は『仲間割れの危険性が一番高い区間』なのだろう。

そのことに突破してからようやく気付いたのだ。


アシュレイが最初に言った『さっさと通り過ぎるに限る』との言葉通りだということだ。

『最初は温い』のではなく、最初から精神的な揺さぶりを掛けてくるような構成になっているのだから何とも言えない。

そんな話を理熾がするとアシュレイが目に見えて『いやーな顔』をした。

どうやら地図が無い状態では理熾の指摘通りの未来しか予想が出来ず、そのことを思えば仲間割れしている可能性がとても高かった。

何せアシュレイなのだから。


「あ、何か来るよ」


ふと理熾が遠くの気配に気付いた。

移動速度は大したことが無く、大きさもそこそこ。

数は3つなので


「多分オーク3体。

 距離は150m先で右手側から歩き。

 もう少しで音も聞こえると思うよ。

 スミレとアシュレイさんでやる?」

「リオ君は?」


「僕が手を出すと二人が何も出来ないけど良い?」

「…そんなに?」


「うん、この距離なら弓使うしね」

「え…【格闘術】じゃないの?」


「器用貧乏だからね。

 別に殴り合いで負ける気はしないけど、距離があるなら弓の方が有利でしょ?


 で、どうする?

 斥候として排除してこようか?」


と理熾は気軽に聞く。

同じEランクであるオーク3体はそれほど簡単ではないはずなのに。


「いや、ボクが行く。

 スミレは援護お願い」

「承知しました」

「じゃぁ近くまで移動しようか。

 ついてきて…静かにね?」


とアシュレイの少し先を行く理熾の気配はほとんど無い。

いくらアシュレイに察知系の技能が無くとも、目の前に居て見失いそうになる理熾の背中を必死で追う。

対して後ろを歩くスミレはしっかりと気配を感じるが、唯一足音だけが抜け落ちている。

今まで戦いの無い場所だったので気にしていなかったが、そんな異質な前後二人にアシュレイは内心驚きつつも必死に気配を殺す。

相手に感付かれては何のために理熾が先に発見したのか分からない。


暫く歩くとサッと理熾が手を上げて止まれと指示した。

すぐに息を殺して近くの木に身を潜めて待つ。


ザッ、ザッという歩行音。

フゴォ、フヒィという呼吸音。

周囲を威圧するように漏れて漂う魔力。

抑えられない臭気。

そして何より隠れるつもりも無いその身体。


アシュレイは魔物をこれだけ観察したことは無い。

いつも出遭い頭の戦闘を強いられ、じっくり見る状況を作れたことが無かったのだ。

そんな初体験をしているのだが、あんなにも生々しい気配を放つオークを『先に気付いたことが無い』ということにも驚く。

自分で自分の鈍感ぶりを嘆く程だった。


距離が縮まり、10m程になった時。

理熾が静止のために上げていた手を下げた。

この距離からならどうとでも出来るだろうという意味だ。

現にアシュレイはそれを合図とみなして一気に近付いた。


「やぁぁぁ!!」


呼気を含めてのただ振っただけの一撃は、剣の武技である《一閃》程ではないものの剣筋は重く鋭い。

その一撃で先頭のオークの武器を持つ手をあっさりと切り落とした。

切り落とされた腕をぽかんと見る一瞬の間を置いてオークの絶叫がこだました。

その絶叫に驚き、身を固めた残り2体には間を置かず、直線上を切り払う剣の武技である《波濤》を繰り出した。

攻撃の幅は狭くとも、射程が数mあるので無傷の2体はそれぞれ脇腹を深々と割られて血が噴出した。


最初から武技を使わないのは相手が一体ではないから。

アシュレイが「オークぐらい武技で一撃だ」と放った言葉を理熾が聞いて質問した。

「技後硬直(ディレイ)中に攻撃を受けたらどうするの? わざわざ助けてもらう(・・・・・・)の?」と。

その時に相手を倒すことよりも『自分が無事であること』の方が余程重要なのだと気付かされたのだ。


だから無茶な武技は使わない。

タメは長くても良いが、ディレイが長いものは使わない。

動きを縛られるような行動を取ってはいけない。


《波濤》の短いディレイを抱えるアシュレイに、腕を落とされた1体目が圧し掛かろうと突っ込んで来た。

技術も何もないただの体当たりにも似たそれは、『何の準備も必要ない』という意味で予想外に早い立ち直りの攻撃だった。

ディレイの回復よりも少しだけ早く到達するため、対処が出来ない。

回避や受け流し、防御までもを諦め、ダメージを覚悟して衝撃に備えて身を固めた。

しかしその衝撃は一向に来ない。


変わりにビタン、ズシンという痛く重い衝撃音が響いて気付いた。

スミレの展開した《障壁》が1体目のオークの足を刈っていた。

さらにアシュレイに対して斜めに張った《障壁》は、オークを阻んで横に転がしたのだ。

しかも残り2体が手を出せないように《障壁》の柵で隔ててしまっている。


「うっわ…すご…」


並列処理された《障壁》という魔法を見たアシュレイは思わずそんな感想を述べた。

しかしすぐにそれどころではないと剣を握り直す。

予想外の衝撃に立ち上がりが遅れる1体目のオークの背中に剣を突き立て止めを刺し、柵の2体へは風魔法を用意する。


「風塵よ断て《風の斬撃(ウィンドスラッシュ)》!」


《障壁》で出来た柵の隙間を抜けて放たれた魔法は、斬撃の言葉通りにオークの皮膚を越えて骨へと到達する。

防御のために掲げた腕や、回避のためによじった身体には、大きな裂傷を刻まれ更に血が流れた。

その出血量は多く、2体共が既に動けず後は死ぬだけという状況を確認したアシュレイは息を吐いた。


そこへ何処に居るかも分からない理熾が鋭く指摘する。


「アシュレイさん、止め刺して」

「え、でももう動けないよ?」


「ダメ。

 動けないかどうかは『結果が決める』こと。

 だからちゃんと終わらせないとダメ。

 『動けない』と言うならせめて部位欠損が最低」

「…分かった」


理熾の言葉に納得したかどうかは分からないが、すぐに実行する。

抵抗すら出来ないオーク達の頭を剣で割り、確実に息の根を止める。

その時にギラギラと殺意の篭った目を見て「ぅ…」と思わず呻く。

そこで初めてアシュレイは『気が緩んでいた』ということを理解した。


「…分かったと思うけど『殺し合い』に油断は邪魔だよ。

 『大丈夫だろう』とか思わない方が良い。

 だから絶対に『確実だ』って言えるだけの状況を作ってね」

「うん、気を付ける」


魔物と戦うのを生業としている理熾からすると、命を絶ってすら恐ろしい。

死体が動き出すという意味ではなく、その死体を始点に何かが起こるという意味で。

つい最近ポルンの大発生を起こしたばかりでもあるのだから。

そして


「スミレ」

「はい」


という短いやり取りで《亜空間》へと仕舞われるオーク。

持ち帰る量を減らすための解体すら行わず、しかも丸のまま取り込むのだからアシュレイは目を疑う。

貴族である者達は『わざわざ持ち帰らない可能性』はあっても、全てを持ち帰るというここまでの無茶はしない。

そしてそんなことを平気で行う<空間使い>の非常識さに感心もする。


アシュレイにフィリカ作成、【最適】付きのハンドタオルを投げつけて、理熾はすぐに方向を修正して移動をはじめる。

オーク本体は《亜空間》の中だが、流れた血や臭いは簡単に消せない。

このままでは新しい何かに襲撃される可能性が高いからだ。


現場から少し離れてから理熾は口を開いた。


「さてと、そんな訳でスミレは上手い。

 強いんじゃなくて『上手くて便利』なんだよ」

「うん、ありがとうスミレ」

「パーティなので当然です。

 それよりもアシュレイ様の方が凄いです」


「だねぇ…オーク3体を一息で怪我させるしね。

 その後の魔法の選択も完璧で威力も十分。

 スミレが居なくても勝てると思うけど、多分ちょっとした怪我はしてたかな?」


戦闘の経緯を話して今後の参考にしていく理熾。

アシュレイは宣言通り剣主体の魔法士という扱いで良いだろう。

特に【剣技】だけを見れば理熾よりも攻撃手段(バリエーション)は多く、どの場面でもそれなり以上の成果を上げるだろう。

そしてそれらを含めて『これだから天才はずるい』と理熾は思う。

どうせ正面から戦えば理熾が負けるのだから。


「あんなに立ち直りが早いと思わなかったんだよ…」

「うん、確かに。

 だから次は『攻撃後に距離を置く』ってのもありだね」


「一撃離脱ってこと?」

「んー正確には『相手の攻撃範囲に居ない』ってだけで違うと思う」


「どう違うの?」

「んっと…あ、次が来たらそいつで実践してみよう」


そう言って理熾は先に進んだ。

お読み下さりありがとうございます。

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