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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
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闘技場にて2

アシュレイの説明を聞くとこうだ。

学園内のDランク迷宮(ダンジョン)『アレクセイ』。

30層もの階層を持ち、浅層にはGランクの草食系の魔物。

最奥のCランクに相当する守護者(ボス)までを擁する変化に富んだ迷宮だ。

珍しい魔物や精神生命(アストラル)体は居らず、一般的によく見るものばかり。

ある意味『訓練用』として最適化されているとも言える。


「なるほど。

 僕もオークとオーガくらいしか見てないから丁度良いかもね」

「リオ君が乗り気だ!」


「少しね。

 用事も後回しにして良いと思うし…それで制限人数とかあるの?」

「一人に付き三人までかな」


「え、どういう意味?」

「学園内でパーティ組むこともあるからね。

 だから生徒一人当たり三人まで付き添いが許可されてる」


「生徒三人パーティなら護衛が最大9人まで大丈夫?」

「うん、そういうこと。

 でもそれぞれの主人登録が必要だから、パーティの総数よりは個人の最大数かな」


「ふーん?

 その制限なら何とでもなりそうだね」

「…何とでもしそうだよね」


最後の言葉だけは理熾とアシュレイで噛み合わなかったが、概ね理解した。

この方式を取る場合の問題点も、攻略の鍵も色々と。


「んじゃいくつか質問」

「はい、どうぞ」


「迷宮内で致命傷を受けたらどうなるの?」

「迷宮区から追い出されるかな。

 後、罰則(ペナルティ)として5階層分の巻き戻り」


「巻き戻り?」


《非殺結界》のために迷宮で死ぬことが無いという話を聞いていたための質問だったが、一つ目の質問で早速意味不明な言葉が出てきた。

アシュレイ自身は端折っているつもりも無いだろうが、説明として全く足りていない。


「えっとね、5階層毎に転移スペースが設けられてるんだよ」

「何そのヌルゲー」


「え?」


ぼそりと囁いた理熾の言葉をアシュレイが拾ったが「いや、気にしないで」と流した。

この世界だとTVゲームは無いのだから、恐らく試合(ゲーム)となるので意味不明だ。

混乱しそうな言葉を流して話を促す。


「う、うん…それでね。

 5、10、15って感じで5層ずつ転移スペースが置いてある。

 探索中にその転移スペースに行けば勝手に記録(ログ)を残す。

 だからそこから一度外へ出ても、最後の記録の転移スペースから始められるって感じかな」

「ということは15層まで攻略してても、5層から出たら5層から?」


「…普通はしないと思うけどそういうこと」

「便利なような不便なような…。

 つまり記録は一つしか残せないんだね。

 それは装備品か何かで管理するの?」


「うん、指輪が支給される。

 無くしさえしなければ身に着けて無くても良いみたい」

「道具袋でも良いんだね」


「多分?」


うんうんと頷きながら理熾は理解を進めていく。

ルールも分からず突っ込むのは馬鹿のすることなので、こういうことはきちんと行うのだ。

理熾の行動原理がアシュレイにも伝わればわざわざ聞かなくとも、何かしらの報告が入るようになるだろう。

そしてそんな状況を理解した理熾が取る方法が正攻法とは限らない。


「それってさ一人が全員分の指輪を持って25層まで行って、指輪に記録残して帰ってきたら25層から行けるの?」

「………え、そんなことするの?」


「安全でしょ?」

「いや、確かにそうだけど…。

 でも個人認証あるんじゃないかなぁ…多分」


「そっか、流石にそれくらいの対策してるよね」


裏口はなし、と理熾は心の中でチェックを入れる。

この方法で問題ないなら理熾、レモン、ハッサクで25層まで行き、そこからアシュレイを連れて攻略出来れば早かった。

三人の行軍速度は圧倒的に早く、相手がDランク程度なら斥候(ハッサク)ですら露払いまで出来てしまう。

そして本格的な戦闘ならどの場面でもレモンが、休憩・野営の快適性なら理熾がそれぞれ居る。

在野の戦力としては終結しそうに無い面子が揃っているのだから、使える場合は使わない手は無いだろう。


「巻き戻りは?」

「うん、7層探索中に追い出されたら最初から。

 12層の場合は5層まで転移記録が巻き戻るってこと」

「だとすると5層分攻略したら一度出た方が安全だね」


「そうだね。

 でも10層まで(浅層)はサクサク進んでも良いと思うよ。

 余り襲われることも無いらしいし」

「そうなの?

 って、それだけ分かっててなんで1ヶ月もかかるの?」


「中層からE・Fランク、深層からD・Eランクの魔物が居るからね。

 巻き戻りも起こるし、誰か一人でも倒れたら皆戻らないといけないから、そこで行き詰まっちゃうって訳」

「なるほどね。

 あ、試験期間っていつなの?」


「期間内ならいつでも良いよ。

 入ってから試験開始だからね。

 もう入ってる人も…というか、入ってないのはボク達とサボり組だけじゃないかな」

「ふーん…?」


理熾はアシュレイとの会話で手に入れた今までの情報を組み立てていく。

そうして出した答えは


「…単なる最速クリアと、実力付けてゆっくり攻略。

 目指すならどっちが良い?

 僕のオススメは実力付けた上で最速クリアだけど、付いて来れないかもしれないし」

「え?」


「単に最速クリアするだけなら簡単だからね」

「…どうやるの?」


「少しは考えようよ。

 というか迷宮に行きたい人が、攻略法を人から聞いてどうするのさ」

「むぅ…」


「スミレなら僕が考えたこと分かる?」

「無理、です」


そうきっぱりと笑顔で断言されると理熾としても少し悲しくなる。

確かにスミレには迷宮関連の知識や経験がほとんど無い。

イルマ迷宮にしても送り迎えに入っただけで正規の手続きすらしていない。

そもそもGランクなので入れてもらえないが。


「それじゃアシュレイさん、攻略だけを目指すなら簡単でしょ?」

「どういう意味?」


「迷宮攻略って、何を持って『攻略』って言うと思う?」

「核を取ることかな」


「それじゃ管理迷宮は攻略出来ないことになるね。

 スミレはどう思う?」

「…守護者(ボス)を倒すことでしょうか?」


「ブー。

 それが目的だと、前のパーティに倒されて守護者不在の場合攻略出来ない。

 だから正解は『最奥に到達すること』ということです」

「あ、そっか…」

「確かに…」


理熾の言い分に二人は納得の表情を浮かべる。

何故ここで先生役を担っているのかさっぱり分からないが、『賢くなることは良いことだ』と割り切る。

身に付けた賢さで理熾が助けられることもあるはずだから。


「だったらそれ以外は別にいらない作業(・・・・・・)だと思わない?」

「え…えぇ?

 それって『《転移門》で最奥へ行こう』って話?」


それが出来れば一番早いし、楽だろう。

その考えは至極当然ではあるものの『アシュレイが認めない』という一点で理熾は実行する気も無い。


「いやぁ、流石に見ても無い場所にピンポイントでってのはスミレとしても厳しいと思うよ」

「そうですね。

 基本的に《転移門》は感知か、視界かのどちらかですから。

 感知の場合は『目印(マーカー)』が、視界の場合は『見えていること』が条件ですので」

「最奥まで目印持って行く?」


「まぁそれでも良いけどね?」

「攻略してない…いや、してる?」


等とアシュレイは葛藤している。

だが理熾が提案したかった話はこれではない。

この方法はどちらにせよ『誰かの迷宮突破』が前提となる。

結局、迷宮突破に掛かる労力は変わらない。

だから


「それは最悪の場合ってことで。

 要はさ、迷宮って『魔物だよね』ってことなんだよ」

「うん、そうだね?」


何言ってるんだこいつ的な表情をするアシュレイ。

常識過ぎることに踏み込むのはやはり変わった視点が必要ということなのだろう。

だったら常識の話から、踏み外して(・・・・・)やればいい。


「じゃぁさ。

 すっごい強い魔物が居たとしよう…どうやって倒す?」

「人を集める」

「皆で攻撃する」


「うん、良いね。

 二人とも正解だよ」

「「え?」」


「それが正解。

 個人の力が足りないなら数で補う。

 当たり前の話だよね。

 そんで出来るなら道具も…装備を揃えれば完璧だ。

 準備を整えてから戦闘を始めて、相手が死ぬまで延々と攻撃し続ければ良い」


余りにもあっさりとなされた答え合わせにアシュレイとスミレは目を瞬く。

理熾の考え方や発想を思えばこういう『常識的な回答』が最も遠いはずなのに。

さっきと同じように変なことを言い出した理熾にアシュレイは首を傾げる。

これが一体何の答えになるのだろうか。

『賢い』とされるアシュレイの頭をフル回転させても結局その意味を掴むことが出来ない。


「でさ、迷宮ってそういう『強い魔物』なんだよ。

 だから皆で戦うし、皆で攻撃する。

 でも迷宮って魔物の場合、目的は『倒すこと』じゃなくて『その向こうへ行くこと』だよね?」


理熾の言葉が染み渡る。

何かを見落としていて、何かが足りない。

けれどその『何か』がすっぽりと抜けていてアシュレイには形に出来ない。


「また話を変えようか。

 迷宮にとっての『能力値』って何だと思う?

 生命力、精神力、筋力や魔力は何に相当すると思う?」

「核の強さってこと?」


「ぶー。

 正解は『迷宮内の魔物』でした」

「どういう意味?」


「迷宮の攻撃手段は何?

 防御手段は?

 体力とか、知恵は何処にある?

 答えは迷宮で飼っている魔物の『総量』だよ」

「…………?」


足りない。

答えには足りない。

筋道立てて説明してくれている部分は大半が分かり易い。

だが『その先』へは到達出来ない。

言われれば…説明を受ければ分かるが、理熾が語るまでそんな発想は出てこない。


「まだ分かんないかな?

 迷宮の難易度の話をしていたよね?」

「うん」


「難易度は迷宮の深さと出てくる魔物のランクで決まる。

 つまり迷宮の強さは『飼ってる魔物の質』って訳。

 それに迷宮は別に魔物を『産んでいる』訳じゃない。

 呼び入れてはいるけどね。


 で、改めて考えてみると。

 迷宮をオーガが300体守っています。

 攻略には全部倒さないといけません…大変だよね?」

「うん、すっごく」


「でも別に一人で倒さなくて良いよね。

 試験中だから、人が一杯入るんだし」

「え?」


「じゃぁさ、最初から行くんじゃなくて。

 295体倒されてから行った方が早くて安全で楽でしょ?

 別に迷宮自身は『魔物の数や質の管理』をしっかりしている訳じゃないんだからさ」

「…………」


迷宮を攻略するに当たり、全ての魔物を討伐する必要は無い。

しかし目の前に出てくる魔物から逃げ惑っていれば、いつかは追いつかれて囲まれる。

そうならないためにも出来る限り討伐するのは当たり前の話だろう。

問題を先送りにしてもいつかは決壊するのが目に見えているのだから。


最初に入る者達は『迷宮側戦力が最大の状態』で入っていく。

生徒達全体で見た時、そうした者達は斥候であり、露払い役だ。

生半可な戦力では押し潰されるし、例え突破できたとしても相当に疲弊する。


階層を重ねるごとに脅威度が上がるのだから、疲弊した状態では致命傷も受けるだろう。

そうなればせっかく攻略したのに巻き戻される。

しかもパーティ内で誰か一人でも陥落したら、全員が戻る羽目になるのだ。

攻略法も能力も手に入れているので巻き戻ったところで時間は掛からないかもしれない。

だからと言って掛かる時間が『ゼロ』という訳ではないし、戻された距離を移動するだけでも相当の労力が必要だ。

一から、とは言わないまでもなかなか心を折られる作業を強いられることになる。


そして何故全員が先を争うように迷宮公開時に殺到するかと言えば『迷宮攻略は時間が掛かる』からだ。

3ヶ月間しか迷宮攻略の猶予が無く、『最速でも1ヶ月以上掛かる』という前提がある。

逆に言えば最速クリアを基準に考えて初日に突入しても『予備日が2ヶ月弱しかない』のだ。

つまり『攻略の遅い者達』にとって、3ヶ月と言う期間では『猶予がある』とは決して思えない状況なのだ。

であれば迷宮攻略に時間が掛かっても良いように、公開された時点で入る。

時間的制約があるのだから前もって動くというのは当然の動きだ。


「つまりこのアレクセイ迷宮を攻略する一番の方法は三つ。

 1:最短距離を歩く(迷わない)

 2:巻き戻りしない(死なない)

 3:戦闘を回避する(見知らぬ他人に頼る)


 入ってから試験開始なら、他のパーティの探索深度がそれなりになってから速攻で攻略すれば良いんだよ」

「ずるい!」


「えー何でさー?

 人に頼るのも、時間を見計らうのも集団戦闘の基本でしょ?」


理熾は迷宮を強力な魔物として『災害指定(Bランク)と同じ扱いで対応しよう』と言っているだけだ。

そのことを非難するのは英雄にしか許されない。

英雄はそんな災害指定ですらも個人で屠るだけの力を持つからこそ、許されるのだから。

そしてアシュレイはただの加護持ちなだけで英雄ではない。

一言たりとも文句が言える立場ではないのだ。


「う゛…でも、何かずるい!」

「言いたいことは分かるけどね。

 それじゃ『嫌な理由』か代案を聞こうか」


提案を蹴るなら代案を出せ。

少なくとも理熾が出した提案を蹴るだけの否定を積み上げろ。

理熾は暗にそう言って笑う。

アシュレイの答えを聞くために。


「他人の手柄を横から持っていくみたいな感じで何かダメだ!」

「うん、ダメだね」


「うん!」


理熾の言葉を同意と受け取り、アシュレイの声が弾む。

しかし続く言葉は違う。


「アシュレイさんは」

「え!?」


「ダメだよ…本当にダメダメだよ。

 僕の話を聞いてたなら、分かり易い『否定』があるじゃないか。

 それすら見付けられずに非難は最悪だよ。

 ちゃんと『考えて解決策を見付ける努力』をしないと、単なる希望だけ(・・・・)じゃ死ぬだけだ」


理熾は強く、アシュレイを嗜める。

我侭を通すなら通すだけの理由が必要になる。

ちゃんとした理論でも、言い掛かりのような屁理屈でも良い。

ただ相手も納得するような理由(モノ)を提示しなくてはならない。

だから目的へ至るために『考える癖を付けろ』と。


対するアシュレイは理熾の指摘を聞いて『否定』を探す。

自由回答に弱いのは単にパターン的な応答に慣れているから。

問題に対する答えが決定している『処理するタイプの問題』を多く知っているからだ。


しかし要領も地頭も良いはずだ。

でなければ首席など取れない。

きちんと理論立てて頭の書庫に整理していなければ、問題に対する答えなど出ないのだ。

アシュレイの頭の良さはネーブルのモノと変わらない。

だから引き出し方や使い方さえ分かればネーブルのように…いや、ネーブル以上に対策を張り巡らせられるはずなのだ。


「………分かった、時間だ」

「うん、正解。

 単にアレクセイ迷宮の最短クリアが目的ならそれで良いんだけどね。

 アシュレイさんの本当の目的はラボリ迷宮でしょ?

 『最短クリアのための待ち時間』は致命的な無駄遣いって訳。

 すぐに気付いて欲しかったなー。

 というかこれくらい気付けないと、冒険者(ベンチャー)どころか貴族や討伐者としてもやっていけないよ?」


貴族のことを分からない理熾が言うのもおかしな話だが、通じるものがある。

挙げたどの職も個人の裁量が大きく、たった一言でも間違うと命取りになるような可能性が出てくる。

逆に相手の一言を見過ごすのも同じく致命的だ。


「うぅ…恥ずかしい…」


そんなことを言って座った状態で膝の間に頭を伏せるアシュレイ。

その頭に理熾は手を置いてぽんぽんと撫でながら


「まー慣れかな。

 周りに一杯凄い人居るんだから、よく話を聞いてみて。

 受け答えなんかに参加しなくても、隣に立って聞いてるだけでも全然違うと思う。

 そんで慣れたら『何故そんなことを言っているのか』を良く考えてみて。

 その考えは別に間違ってても良いからさ。

 出来るなら後で理由を聞いて答え合わせもすると良いよ」


意識しているのとしていないのとでは隔絶した差が生まれる。

今まで気にしていなかったものを気にするというだけでまさに世界が変わる。

そんな話をすっ飛ばして最初から理解し合うメルカノ家はやはり優秀な家系なのだろう。


「僕もまだまだだし、皆に追い付けるよ」

「うん、がんばる」


いつの間にか顔を上げたアシュレイ。

理熾は思わず『やっぱり素直だなぁ』と感心するしかなかった。

お読み下さりありがとうございます。

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