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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
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初期装備の価値

理熾によるメルカノ家攻略講習を終え、首都ガーランドへと向かう。

アシュレイには方針を伝えたので、後は本人の交渉次第だろう。


「本当に《転移門(これ)》には溜息が出るな」


そう呟いたのはカルロ。

結局アシュレイを連れてガーランドの私邸へ連行することにしたのだ。

流石にこの期に及んで逃げ出すとは思えないが、それでも念のため。

ちなみに護衛はロッソのみ。

その他はカルロの指示に従い、アルスで情報収集などに励んでいる。


《転移門》が繋いだのはアルスから1km北、ガーランドから1km南の地点。

200kmほどもある道のりをすっ飛ばして、たった2kmにまで縮めてしまったのだ。

先程のカルロの言葉も仕方が無い。

アシュレイは一度アルスへの帰路で移動しているので少しだけ余裕を持っているが、通常1週間もの時間が掛かる距離を思えばまさに一瞬だ。

しかも『行きたくない』と駄々をこねた場所という条件まで付くのだから悔しそうな顔をしていた。

それら全てを気にせずに


「スミレはうちの自慢だからね。

 あ、だからって広めないでね。

 依頼されても気分で断るから、あてにされると困るんで」

「相変わらず貴族相手に大したヤツだまったく」


そんな遠慮の無い理熾に、カルロは楽しそうに答える。

『対等な関係』というのはかなり得がたい。

相手が貴族であっても、家の立場によって交友関係も変わってしまう。

対立する家であれば当人同士が仲が良くとも、第三者視点では対立しなくてはならないのだから面倒なものである。


「とりあえず家まで送れば良いかな?」

「いや、ガーランドに入るまでで十分だ。

 もし学園の闘技場が見たいならアシュレイに声を掛けてくれ」


貴族に観光地の案内をさせる理熾(Eランク)という光景が実現するかもしれない言葉。

相変わらずちぐはぐ感が凄まじいが、この場で気にする者は居なかった。


あっさりとガーランドへと続く街道を1km歩き、門に到達する。

理熾とスミレはギルドカードを、貴族と騎士はそれぞれの刻印による証明を見せると態度が一変した。

門番である守衛達は二人が『メルカノ家』と分かり、わたわたと目に見えて慌て出し、本当に急いで通してくれた。

その様子を見て理熾は改めて「あ、この人達やっぱり凄い人なんだなぁ」とか思っていたりした。


しかし通した後になって『貴族が徒歩で移動する』という異常さに気付き、別の意味でまたも慌ただしくなった。

襲撃を受けて馬車を奪われた場合や、脱輪などの事故によって馬車を放棄したなどが考えられるからだ。

だというのにそれらの報告を一切行わずに通過するのみというのは流石におかしい。

念のためということで、後日メルカノ家への確認がなされたのは高すぎる利便性の弊害かもしれない。


「それじゃここで」

「あぁ、すまなかったな」

「…リオ君ありがとう」


おずおずといった風にアシュレイが告げる。

対する理熾は驚愕の表情で


「アシュレイさんがお礼を言ってる!!」

「ボクだってお礼くらい言うよ?!」


相変わらず売り言葉に買い言葉。

そんな微笑ましい(?)光景に二人に他の面子は微妙な表情を浮かべていた。


冗談を挟んで分かれ、今は理熾とスミレの二人きり。

最近ずっと『みんな』と居たので少し寂しい数である。

二人してトコトコとギルドへ向かって歩く。


「さてと。

 まずはギルドで話を聞いて、次が宿探しかな。

 闘技場はちょっと見ておきたいけど…スミレは他にある?」

「いえ、特には…。

 あ、ですがネーブルさんが」


「ネーブル?」

「はい。

 どうせ行くならフィリカさんの装備が『どの程度か』を見比べて来た方が良い、と」


「なるほど。

 いくら辺境で装備の生産が盛んでも、やっぱり首都の方が栄えているしね。

 当たり前だけど手持ちの装備がどのくらいのランクにあるかっていうのは知っておいた方が良いよね」


と理熾は納得する。

面白いものがあればお土産として買うが、これで先程の案件に武具店の見学(ひやかし)が追加された。

街へ入ってまずギルドに顔を出すのは生存確認のため。

だが理熾達の移動力は異常なので記録を残さないためにもカードを提示することは余り無い。

カードを提示するよう(信用が必要な)な深い情報はいらない。

今回も同様でカードを提示する事無く街の情報を集める。


対して街の出入記録はどうしても残ってしまう。

ただこの情報はギルドではなく『領主の情報』となる。

つまりアルスであればギルバート、ガーランドであれば王家の情報ということ。

これらの情報は総括管理されていないため、渡航暦を追うのは難しいどころかほぼ不可能。

結果的に街や村への出入りの記録は残した方が安全、という訳である。


そうしてギルドで手に入れた宿と武具店の情報を元に街を歩く。

ガーランドは首都であり王都。

街の中央に湖上の城という風に見えるような城。

その周囲には城壁と門と跳ね橋、更に外周が街となる。

壁は城を囲うものの他に、街を守るように同心円状に三重の壁で囲っている。


それはこの国の生い立ちに由来する。

元々は南の魔物を寄せ付けないための重要拠点として今は無きある国が要塞を建造した。

度重なる襲撃、侵攻が行われる度に要塞は頑強に増築され、陥落せぬように周囲にも水を引いた。

今となっては迷宮による大氾濫(スタンピード)が頻発していたと分かっている。

しかしその時分は魔物が支配領域を広げようとしていると考えられていたのだ。


多くの時間を掛けて魔物を鎮めて状況が安定してきた時に、この要塞を取仕切っていた責任者が王として立った。

状況が落ち着いたことを良いことに、馬鹿な周辺国が『防衛費の削減』を口々に言い出したからだ。

次の襲撃がいつになるか、そしてどれほどの規模になるかも分からない状況下でそれは無理だ。

要塞に詰めていた者達を生贄にしろと言うのと変わらないような馬鹿げた話に要塞の責任者が遂にキレたのだ。


しかしただの派遣扱いだった場所であり、そんな地方貴族を国や王として担ぐとはと非難を浴びた。

何処の馬の骨とも分からない地方貴族が『王になる』などとは大それたという風に。

加えてガーランドを持っていた国が、その地域に対して命令が出来なくなるのは問題だと渋ったのだ。

周辺国も縁もゆかりも無い地方貴族に辺境を牛耳られる(任せる)のはと嫌がった。


そうした様々な思惑が絡み、最終的に近隣諸国を巻き込む議会が開かれた。

当然のように王として認められる雰囲気ではなかった。


しかしそんな針のムシロのような議会でも、この危険な僻地を守る貴族は強気だった。

「だったらお前らがこの辺境を守れば良い」と一言告げ、議会の席を立ったのだ。

慌てたのはその言葉を聞いた周辺国である。

頻繁に魔物の襲撃が起こる地域が欲しい国など居ない。

軍備に力を入れれば赤字、入れなければ全てを薙ぎ倒される。


それだけならまだ良いが、今まで風除けとして扱っていた要塞や国が無くなるとなれば被害はどれほどに上るかも予想出来ない。

しかしそんな労力や金を無駄使いするような土地を誰が欲しがるか。

いや…誰がそんな『イラナイモノ』を受け持つかを散々押し付けあったのだ。


事実この貴族の及ぶ範囲での全ての人・物・金を引き上げる準備を進めた。

武装解除を刻々と行う最中も小競り合いは頻発する。

たまたま魔物の大きな襲撃は無かったものの、防衛力という意味で1ヶ月もの空白期間が出来たのは後にも先にもこの時だけである。

結局『受け持つ国』など現れず、地方貴族と罵った側が実質的には頭を下げることとなった。


こうして削られようとした防衛費は、逆に吊り上げられる形でなし崩し的にガーランドという国は成立した。

この問題の発端となった防衛費は未だに近隣諸国からガーランドに流れ、国が国に対する傭兵を行っている状態だ。

また、国として成立してからは軍事要塞をきちんとした拠点とするために城として増改築を行った。

その辺りから雇い入れた建築士や商人、その家族などが城壁の周囲に住み着き、そんな人々(国民)を守るためにその外側に壁を作った。


新たに作られた壁の中は魔物からの安全圏となり、更に人が増えていった。

飽和した人口は作った壁の外側にも集落を作り広がっていったため、新たに外壁を建造した。

結局この外壁は同心円状に合計で3つ作られ、城壁の次にある壁から一の壁、二の壁、三の壁と呼ばれている。

また、一の壁の内側が最も古く階級的にも安全性も高く、外へ向かうに連れて庶民へとなっていくという、とても分かり易い構造だ。

ガーランドという街において、『成り上がる』というのは壁の内側へと移り住むことを言うのだ。


他にもガーランド成立後、ヴァルトルとラッフェルの都市を傘下に納めた。

元々は別の国が持っていた街なのだが、他の小国が財政破綻や滅亡してしまい、ガーランドに身を寄せたのだ。

こうして気付けばやはり小国ではあるものの、一定の戦力と発言権を持つ国として現在に至っている。

また、この以南にアルスが出来るまではこのガーランドが最南端とされていた。

ある意味でアルスは人が魔物の領域を削り取った証であるとも言える。


「というのがガーランドの概要でしょうか」

「おぉ凄いね、スミレ。

 やっぱり賢いんだね」


ご主人様(マスター)、からかわないで下さい。

 シミルの要注意国ですよココ。

 このくらいしか知らないとなると逆にネーブルさん達に怒られそうです」

「そうなの?

 むしろスミレ知らなくても怒られそうに無いけど」


「まぁ…自分はただの運び屋(ポーター)ですからね」


とあちこちを見て回りながらスミレの説明を聞いていく。

別にだからどうしたということは無く、単に「へーそうなんだ」くらいでしかない。

間違っていても誰も困らないが、単に「やたら大きな壁が多い」と理熾が首を傾げたのが原因だ。

どう考えても移動に邪魔な壁がぐるりと巡っている。

入口もわざわざ一直線に入れないようにずらしていることを思えばやはり防犯上の仕組みなのだろう。


二人して話しながら歩く間にも良い感じの宿も見つけていた。

理熾は一人でもどうとでもなるが、スミレが夜襲に遭えば危険ということで防犯のために二人部屋。

二の壁の中でも中央よりの比較的治安の良い場所ではあるが、念には念を入れてという感じだ。

ちなみに一の壁の中ではないのは特権階級が多いからだ。

嫌悪感は無いものの、何らかの原因で近付いて面倒事に巻き込まれないため。

どの場面でも<空間使い(ディメンショナー)>は稀有な存在なのだから。


宿を取る時にその辺りを考えて理熾がさっさと二人部屋を頼むと何故だかスミレが顔を赤くしていたが、理熾としては首を傾げるしかなかった。

部屋は同じでも二人とも《障壁》と《亜空間》経由で着替えるし、ベットも別々だと思えば「同室になるのも嫌なのかなぁ」くらいに感じていた。

あけみやでは一人部屋なのだから、その辺は仕方ないか、とも。


「あ、あそこだ。

 生産カウンターオススメの店」


と武具店を目指してスミレを連れて歩く。

わざわざ『生産』と付くのは過去に痛い目に遭ったためだ。

学習とはかくも時間の浪費を抑える役目を担っているものである。


入ってみると普通の武具店にしか見えない。

どちらかと言うと武器寄りの店だったらしく、壁に立て掛けられたり、吊られていたり、棚に置かれていたり。

はたまた樽のようなものに雑多に詰め込まれていたりと、様々なものがある。

防具も一応あるが身に纏う鎧のような物よりも、盾のようなものが多かった。


理熾はそれぞれを【解析】しながら具合を確かめていく。

装備のステータスを見た結果、明らかにフィリカの装備はおかしかった。

装備についている特性は普通は1つか2つ。

店の最高級品と思われる、目立つ場所に飾られている槍でも4つしか(・・)ついていない。


フィリカが手掛けた理熾の初期装備ですら2つが最低。

靴に至っては7つも付いていて、使い捨ての想定だった初期型の投剣でも2つもあるのだ。

見るだけでは比較になどなるはずも無く、仕方が無いので方法を変えた。


「すみません」

「どうした坊主?」


明らかに理熾を下に見る態度に、スミレが苛立つような雰囲気を醸し出す。

店主はそれに気付いていながら鼻を鳴らすだけ。

しかし理熾は今に始まったことでもないので気にせずに続ける。

これからプライドを木っ端微塵にする予定なのだから、多少の失礼には目を瞑ってあげよう、とまで思っていた。


「これ、買い取るならいくらですか?」


理熾が取り出したのは黒鎖鋼で作られた剣。

カウンター越しに理熾を見下ろしていた店主は、ゴトリと置かれた剣を見て胡乱な目を見開いた。

子供の中でも小柄な理熾が振り回すには大きい片刃の剣。

食い入るように見るその剣は、一ヶ月ほど理熾と共に戦った完全無欠の初期装備である。


「こ…これを売るのか?」

「いや、買取金額によりますね」


「そ、そうだな。

 3万カラドでどうだ!」

「話にならないよ。

 そこに吊られているあの剣。

 特性は同じ二つ…【腐食耐性】と【切断】(スライス)だよね?」


特性武器は値札に付属特性も書かれているから、【解析】に頼らずとも分かる。

しかしどうしても特性の強度までは測れないために使ってみるしかない。

付いているのは確かだが、手持ちの武器よりも格下の可能性もあるという訳だ。


「あ、あぁ…そうだが」

「アレが5万するんだけど、そんなに違うの?」


「馬鹿言うな!

 同じ金額で売ったらうちが破産しちまうだろう!」

「ということは僕の剣と、そこの剣は『同じランク』って言いたいのかな?」


「当たり前だ!」

「そっか…売るのはやめておきます。

 それじゃスミレ、次の店に行こうか」

「はい」


店主が握る剣をあっさりと奪い取って踵を返す。

最早この場に用は無い。


「なっ!

 急にどうした!」

「今話してるのってそこの【牙燕の雫】(がえんのしずく)っていう剣だよね?」


「…それがどうした?」

「で、僕の持つ剣ってさ、銘が無い(・・・・)んだよ」


理熾の言葉に店主が絶句する。

そんなことはありえない、という風に。


「ほら、よく【鑑定】してみて?

 やっぱり何かおかしいと思ったんだよね…この剣」


理熾はそう言って剣を翳しながら溜息を吐く。

『銘持ち装備は強力である』という常識がある。

それは単純に作成者の技術や時間が反映された結果だから、名前を『付ける』のだ。

『名付け』とは特別なモノに行う行為なのだから。

つまりそのモノにどれだけの思い入れがあるかが全てだった。

逆に言えば名前が無い装備というのは『量産品』とも言えてしまう。

そんなフィリカにとっての量産品が、この店での銘持ち装備と同じだと言ったのだ。


この時点で馬鹿馬鹿しいくらいの技量差がある。

さらに打ち合えば確実にフィリカの黒鎖鋼の剣が勝つ。

鼻の良い犬が【嗅覚】という特性を持たないように、フィリカの剣はわざわざ特性発現にちょっと足りないように作ってあるようなのだ。

でなければ素人目にも違いが分かる程の『差』を見せ付けることは出来ない。

例えば【腐食耐性】の影に隠れているが、フィリカの剣は『整備不要(メンテナンスフリー)』、だとか。


他の装備を見ていたところで、これでは無知な理熾が『初期装備』として受け取ってしまうに決まっている。

そんな技術が詰まった量産品にも勝てない店主が、『自分の装備よりも安く見積もる』のだから理熾としては見限るしかない。

買い叩こうとしているなら見下しすぎだし、そうでなければ見る目も技量もフィリカの足元にも及ばないのだから。


「ま、待ってくれ!

 10万出そう!

 しかも即金ならどうだ?!」

「いえ、間に合ってますので~」


理熾はそう返事してすぐに店を出る。

スミレも「では失礼します」と言い置き、後を追う。

振り返ることも無くさくさく次の店へと歩いていく理熾と、少し後ろを気の晴れた表情と共に心配をするスミレ。

だがこんな往来で子供(理熾)女の子(スミレ)を無理矢理引き止めるようなら、すぐに警備が飛んでくるので心配は無い。


流石に買取金額を聞いたりはしなかったが、その後何軒か回るも同じようなもの。

店の『銘持ち(とっておき)の最低ランク』がフィリカの量産品くらいだったのだ。


「んーやっぱりフィリカさんって特別っぽいねぇ」

「というより何故アルスにいらっしゃるんでしょうか」


「だよねぇ。

 あれだけ何でも人よりも強いものを作れるのに」


アルスが悪いという訳ではない。

単に辺境で流行らない店を持つ意味が余り分からないのだ。

そもそも生産カウンターとも取引を持っていないことも思えば生産者としても少しおかしい。


「ま、フィリカさんは謎が多いよね」

「ご主人様も大概だと思いますが…」


「そうかなぁ?

 素直に生きてると思うけど」


理熾は相変わらずだったが、スミレは苦笑いするに留めた。

森を歩くよりは格段に楽だが、それでも人が多い中をあちこち歩き回って疲れた二人は早々に宿へと引っ込んだ。

出された食事は大変美味しいものだったが、残念ながらあけみやの感動には届かなかった。

ガーランドへ着てようやく気付いたのは、理熾達は『驚くほど贅沢な暮らし(装備含めて)をしていた』ということだった。

お読みくださりありがとうございます。

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