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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
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ジオトラント国立校

今回はアシュレイと加護の話。

加護って便利なようで危険なんですよ。

失礼極まりない反応なのだが、仕方ない。

持ち主は大したことが無いと思っているかもしれないが、『加護』は管理者が授ける一方的な恩恵だ。

クラスやスキルと違って魂の容量に関係なく、ノーリスクで手に入る上に、持っているだけで他者と違う。

という風に加護というものは理熾が知る限りとても特別なものなのだから。


【庇護の宿命】(プロテクションロット)って加護を持ってる」


けろっとしながら話すアシュレイ。

対する理熾は『加護持ちとかうらやましい』としか思えない。

神からお達しが出ている理熾ですら持っていないのに、アシュレイの何処に加護が必要なのかさっぱりである。

加護が無いと生きられないような気がするので『だからこそ必要』なのかもしれないが。

カルロは溜息を吐きながら説明下手なアシュレイの補足を入れる。


「リオが指摘したように『土壇場で運が良くなる加護』だ。

 ついでに言えばスキルの習得や能力への補正まである。

 他人に対して抜きん出ているのはその為だ。

 そしてそのせいで残念ながらメルカノ公爵家としては『アシュレイ』を見捨てられない」

「え、そんな話が…?」


初めて聞く話にぎょっとするアシュレイ。

対するカルロは半眼で睨みながら話を続ける。


「当たり前だろう。

 いくら社会的に優遇される加護持ちでも限度がある。

 お前は毎度毎度毎度毎度!

 その限度を踏み倒していくんだからな。


 一応言っておくが、お前の肩書きは『御令嬢』なんだ。

 何処に出しても恥ずかしくない『メルカノ公爵家』のな。

 対するお前(・・)は何処に出しても恥ずかしい『アシュレイ』なんだぞ?」

「え、あはは…」


話は終わったとばかりにカルロは口を噤む。

突如始まったメルカノ家兄妹による説教を前にギルバートは苦笑い。

理熾としても話の途中だったのでどうすれば良いのか微妙な表情しかできない。


「さて、それでリオ君。

 先程の続きを頼めるか?」

「えっと…結論を言うと【庇護の宿命】のせいかな?

 その加護のせいで『危機感が薄すぎる』からやめた方が良い」


仕切り直すギルバートに理熾がそう答えるとしんみりした雰囲気だったアシュレイが「何でッ!?」と突っ掛かってきた。

だが『何で』と聞く方が周りには疑問である。

分かりやすく理解できるように理熾は説明を始める。


「『運が良い』だけで、死なない訳じゃない。

 怪我もするし、不運が重なればどうなるかも分からない。

 幸運、強運、悪運…何でも良いけど、『運』だけで引っ繰り返せないものは必ずある」

「今までは問題なくやってきた!」


「うん、かもしれない。

 だから別に過去の経験を否定しないし、大事だとは思う。

 けど、『未来は未経験』でしょ?

 何が起こるかわからないのに、『何となく大丈夫そう』って根拠の無い自信を持つのはおかしいよ」

「うぐ…」


「もっと分かりやすく言おうか?

 本当に幸運なら最初から僕と戦った時に『勝たないといけない』んだよ。

 我を通すため、気分を晴らすため…理由は何でもいいよ。

 僕に文句を言わせないためにね。


 でもそうはならなかった…つまり『幸運の対象が限られる』ってこと。

 じゃぁ僕が手加減せずに戦ったら?

 一撃目で頭を割られて死んでるけど、それでも『死なない』って断言出来る?」


理熾は畳み掛ける。

『もしも』の話に意味は無いが、だからといって『起きない』とは限らない。

理熾がこの場で「じゃぁ今から殺し合おうか」と言い出した時に、持ち前の加護だけで何とかなるかはまた別なのだから。


「現に獅子猿の群に突っ込んでる。

 僕達なら余程のことが無い限り『遭遇する』ことはない。

 必ず斥候を立てるし、斥候が居なくてもそれぞれが周囲を警戒する。

 だから相手に気付かれる前に察知する方が圧倒的に多い。

 それに敵と顔を合わせる場合は必ず『目的を持って動く』しね?」


理熾も過去に何度か遭遇戦を経験しているが、そんなものは最初のオークだけ。

【索敵】や【隠密】がそれほど自由に使えていなかった本当に初期だけ。

どれだけ自分が危ういかというのは理解しているし、何より今まで全て『出来ることしかやっていない』のだ。

だからこそ準備を怠ることは無い。

ハイオーク、リザード、コボルトキング、蠱毒、大ポルンなど、どんな時でも理熾は勝機を見出してきた。

運が良かったのだろうと思うこともあるが、それでも大半は警戒と準備を、そして『勝つための思考』を怠らなかった成果だ。


「危機感って凄くあやふやな感覚だと思う。

 でもアシュレイさんくらい無いと『運に生かされているだけ』にしか思えない。

 それってもう本人の実力じゃなくて、単に『加護があるから』でしょ?

 それに加護って『与えられるもの』だから、今後無くなることがあったら本当に何も出来ないよ?


 あぁ、そうそう。

 もし僕がアシュレイさんの攻略をする必要がある場合、必ず『幸運の対象』を見極めてから動くよ。

 準備とか心構えってそういうことだからね」


加護はスキルや能力値のように本人に根差す、固有のモノではない。

どちらかといえば装備に近く、しかも与える側の気分次第で取り外しが行える。

加護を受けるのも才能だとは理熾は思うが、それのみで世の中を渡っていけるはずも無い。

所詮それは借り物なのだから、極力使わないように、頼らないようにしないと最終的に足を掬われる可能性がある。


「なるほど。

 相変わらず面白い意見だ。

 アシュレイ殿、前線に立つ者の意見を聞いてどうかね?」


ここで改めてギルバートがアシュレイに水を向ける。

理熾の評価は相対までして確かめた事柄だ。

しかも『能力の有無』ではなく、『心構え』の部分を指摘されている。

これでは魔法、スキル、能力を鍛えたところで意味が無い。


「思い当たる部分は多いです。

 ですが、それでも。

 迷宮探索の許可が頂きたい!」


打開策も無く言い募るのは、思い付かないからだろうか。

とりあえず許可だけ貰いたいというのが透けて見える。

『それではいけない』と理熾が今言ったばかりだというのに。

だからという訳ではないだろうが、そんなアシュレイから視線を外し


「カルロ殿。

 許可を出すのは吝かではない。

 だが、負傷・生死問わず、アルスは関知しない。

 故にアシュレイ殿への依頼は出さず、探索許可のみの発令としよう」

「それはアシュレイではなく、『メルカノ家としてアルス領主(クライン伯爵)に依頼しろ』ということでしょうか?」


「あぁ、そうして貰えれば助かるな。

 答えが決まり次第、こちらも対応しよう」

「承知しました。

 限定的とはいえ妹の申し出を受けて頂きありがとうございます」


「いやなに、わし側では何もせんからな」


とカルロに対して領主としての判断を下す。

事実、アルスとしては迷宮への探索者は何人居ても良い。

多ければ多いほど迷宮内部の情報を引き出せるのだから。

それに『実力的に無理だ』というのはカルロと理熾の二人から証明済みのため、責任も無く感謝までされる。

ギルバートの問いは単なる世間話などではなく、そこまで見越して話をしていたのだ。


そうして無謀なアシュレイへと顔を向け


「それとアシュレイ殿。

 聞いた通りだ。

 『探索許可』は君自身がメルカノ家で勝ち取りなさい」


ギルバートが許可を出してくれれば面倒ごとの一切がなくなるのでアシュレイは少し不服そうだった。

しかしアルス領が許可を『出さない』という明言を避けたのだ。

成果としては十分であるものの、メルカノ家の面子を説き伏せるのは難しい。


「発見してもらった迷宮については早急に調査させてもらう。

 昨今の魔物被害を抑えるために早々に手を打ちたいのでな。

 探索を希望するなら、早めに説き伏せて参戦を心掛けてもらえるか」

「はい、ありがとうございます」


「リオ君達とは運搬業務の話を詰めたい。

 アシュレイ殿から場所の詳細を聞いた後、改めて使いを送る。

 交渉役は…ネーブルで問題ないかね?」

「良いですよ。

 それと…」


理熾は首都ガーランドへの旅行を告げるために話を続けたようとした時に、視界が明滅した。

いつも通りの【神託】である。

強制介入というほどではないものの、会話中に入ってくる【神託】だ。

以前のカルロの時のようにがっかりしたくないので念のために早めに開封しておく。


---+---+---+---+---+---

【神託】

ラボリ迷宮の探索

達成内容:魔物討伐(合計300体以上)


新たに発見された未開拓迷宮『ラボリ』。

アルス領としては早期の開拓が急務となる。

迷宮内部の魔物を駆逐せよ!


報酬

アクティブスキル:看破(オールグリーン)

---+---+---+---+---+---


開いた【神託】に軽く眩暈を覚えながら理熾は内心がっくり項垂れる。

結局こうなるのか、と。

だがそれについての報酬は破格だろう。

驚くべきことにフィリカが言った『希少スキル』が報酬なのだから。


「うん?

 どうしたね?」

「いや、気にしないで。

 明日首都のガーランドに行ってきます」


「明日?

 あぁ、スミレを連れてか」

「うん。

 でも目的はアシュレイさんを学園に送ること。

 僕はちょっと観光して帰ってくるつもり。

 だから明日ネーブルに領主館に行ってもらうようにするよ。


 あ、そうだ。

 ガーランドって何か見といた方が良いところあるかな?」


と理熾は本当に観光するつもりで質問する。

既に領主と討伐者の話は終わっているからだ。


「そうだのぉ…。

 さっき言ってた学園…ジオトラント国立校は見ておいた方が良い。

 あそこは最新設備の導入を躊躇わない場所でな。

 特に魔法技術の粋を集めた闘技場が有名だ」

「学校なのに闘技場?」


闘技場とは何かと何かを戦わせる場所。

聞くところによれば、戦わせるための奴隷…戦奴を使って賭けが開催される。

奴隷達が戦う理由は『自分を買い戻すため』であり、勝てば報奨金。

負ければ負債を背負うという立場にあるため、簡単には負けを認めない。

故に賭けが成立し、その姿に見る者は熱狂する。

ちなみに賭けをしない場合の席もあり、そこへは入場料を支払って会場へと入る。


その他にも戦奴ではなく傭兵や討伐者が戦う『闘技大会』も行われる会場でもある。

何を言ったところで理熾としては『野蛮な場所』というイメージが付く。

戦闘など無ければその方が良いのに、わざわざ定期的に戦わせるのだからおかしなものである。


「そうだ。

 学園自体は各都市にあるものとそう変わらない。

 だがそれでも首都の学校だけあってレベルは高い。

 『レベルの高い生徒』ということは、それだけの教育が出来る環境がある」

「あぁ、なるほど。

 貴族とか商人とかが多いんだね」


「正解だ。

 それと武力を持つ者。

 他にも学園が認めれば誰でも構わない。

 まぁ、雑な話をすれば『優秀』であればそれでいい。

 

 そんな面子を集めているから『怪我をさせられない』んだが、そうすると戦闘訓練などが出来ないだろう?

 そうならないために闘技場が進歩した。

 簡単に言えば儀式魔法による非殺傷空間の技術が進歩したんだがね」

「んー…安全に殺し合える場所?」


と理熾は矛盾する答えでもって解釈した。

その答えにギルバートを筆頭に、貴族二人も苦笑いを浮かべながら頷いた。


「その通りだ。

 無傷、という程ではないが致命傷は免れる。

 部位欠損も完全消失まで行くと無理だが、ある程度までなら回復出来る。

 その分ごっそりと気力・体力を持っていかれるから暫く立てないがな」

「なるほど。

 あぁ、そこでアシュレイさんが暴れたんだね」

「ひ、人聞きが悪いよ!?

 アレは正当防衛!

 むしろボクはきちんとルールを決めて戦ったんだから!」


「どんな?」

「『正々堂々戦おう』ってね」


どうだと言わんばかりに残念な胸を張って答えるアシュレイ。

確かに騎士道精神や公平さを主張する言葉としては最高のルールだろう。

だがルールとは決める側が圧倒的に有利なのだ。

それは理熾とアシュレイが戦った時にも実証されている。


だからその言葉を聞いた理熾は「卑怯な!!」と即座に非難した。


「え、何で?!」

「当たり前でしょ。

 アシュレイさんと正々堂々、正面からやって『勝てないから群れてる』んだよ?

 なのにその状況をぶった切るなんてしたら絶対勝てる訳無いよ。

 何のために人を集めたのさ。

 一人ずつ順番待ちして叩き潰されるために集まったの?

 というかよくそんなルールで相手が受けたね…学園の生徒ってホントに優秀なの?」


理熾は残念な視線をカルロとギルバートへと送る。

さっとその視線から顔を背けるのは肯定の表れだろうか。

むしろアシュレイが『がーん!』という擬音語が似合いすぎるほどのショックを受けているのには哀愁を漂わせる。

賢いはずなのに馬鹿なアシュレイを見ると、ガーランド唯一の国立校である学園のレベルに疑いの目しか理熾は向けられない。

色んな意味で大丈夫か、と。

お読み下さりありがとうございます。


裏を読まねばならないはずの貴族達。

学園内部ではアホばっかみたいです。

いや、アシュレイに喧嘩売るようなやつ等がアホばっかなんですけどね?

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