表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子
240/537

貴族の謝罪2

信用が大事な貴族にとって『約束事』というのは重い。

それだというのに「出来ることならしよう」という言葉を使った。

驚きを隠せない理熾の横でフィリカは薄く笑い、「吹っ掛ける良い機会だな」などと耳元で囁いた。

相変わらずフィリカは意地悪だった。

理熾は一瞬考え


「…ほら僕、基本失礼でしょ?

 貴族の相手とか無理なんですよ。

 だから『公爵家の子息』じゃなくて、『カルロさん』で良いですか?」

「…その程度で良いのか?」


「んー…いや、これ多分だけど、結構な話じゃないのかな?」


と疑問形になるのは、単純に理熾が『貴族』をしっかり理解している訳ではないからだ。

単純に『目上の人』とか、『えらいっぽい人』的なイメージしか持っていない。

だが、実際には一般人と爵位持ちでは隔絶された差が存在する。

必ず貴族贔屓に傾くのだから、権力と言うのも馬鹿にならない。


「確かに貴族と一般人はやはり『位が違う』。

 それなのに一般人の方から『同列に扱え』というのは不敬だな。

 しかもそれが『ただの謝罪のため』となると公爵家の方が怒るんじゃないのか?」


フィリカも理熾の言葉を追随する。

やはりかなりの問題を抱えたお願いに該当するらしい。

しかし


「事情を知らない他人の前でなければ問題ない。

 そもそも私達が『公式に顔を合わせる機会』などほとんど無いしな」

「なるほど、それは確かに。

 そう考えればむしろリオ君の申し出はありがたいくらいか」


「あぁ、重ねた非礼は多いからな」


確かに竜殺しと呼び出されて見限られ、執務室では殴り掛かられた。

その翌日には理熾の配下と知りつつ勧誘(しかもしつこく)し、三日前は時間が無い中で部下(ロッソ)の暴言。

二日前は腕試しのため(つまり侮られている)と言われてロッソと腕相撲だ。

来往の時間などを考えると三日前は問題があるかもしれないが、全ての場面で理熾に非はない。

これだけやらかして理熾はカルロを排除しようとしないのだから、心が広いと言わざるをえない。


「まぁ、良いならそれで。

 せっかく『友達』になったんだし、危なっかしい末っ子とかも紹介してくれる?」

「なっ…良いのか!?」


和解に加えて、諦めていた先日の依頼を受けるという理熾にカルロは驚愕する。

カルロには一体何がそうさせるのかさっぱり分からないようだが、理熾には明確に答えがある。

理熾からすると全ての人が対等で、そこに背景(ステータス)である立場や爵位がくっつくだけ。

だから『背景』で押してくる相手にはとても冷たい。

そしてカルロも理熾と『対等』になり、和解により『身内』として認識されただけ。

なので


「え、うん。

 でもカルロさんと一緒で『公爵家の末っ子』じゃなくて『アシュレイ』でね」


そう笑いながら言い、理熾はカップを傾ける。

『友達の家の末っ子の護衛』であれば受けるが、『公爵家』を振り翳すなら断る。

権力はあれば便利だが、その分シガラミが増えて身動きが取れなくなる。

だから理熾は『肩書き』ではなく、当人を重要視する。


アシュレイの件での【神託】は確かにあるが、それはそれ。

理熾側から譲歩する必要など無いのだから、『やりたくなる条件』を提示するのも変わらない。

変なことに巻き込まれて困ったとしても神はきっと助けてくれない。

そうならないために出来る限りのことはしておかないといけない。


「あぁ、問題ない」

「話はまた明日とかにしようか。

 あー…時間って空いてますか?」


「空けるから心配するな。

 私の視察の半分が終わったようなものだからな!」

末っ子(アシュレイ)さん大事にされてるなぁ…」


理熾は自分の妹のことを思いながらそんな感想を漏らす。

確かに『末っ子』は可愛がられる…というか、ルールが緩い節が多い。

兄の時、自分の時はダメでも、妹の時は良いという風に。


公爵家の子息に、一切の気負いも無く和解と依頼受諾の条件を突きつける理熾を横目にフィリカはいつものように楽しそうにしていた。

そんな風にあっさりと和解と約束が成立し、緩い空気になった時にふとカルロが理熾のカップを見詰めた。

思わず出たのは


「リ、リオ?

 お前は一体何を飲んでる?」


という疑問。

対する理熾は「んー?」と声を出しながら自分のカップを見る。

手に持つカップに注がれている透き通るような赤い液体は恐らく酒。

アルコールの臭いが立ち昇るので間違いは無いはずだが、飲んでいる本人は中身の詳細を知らない。


「ほぅ…火竜酒か。

 リオ君は思いの外酒に強いんだな?」

「そうなの?

 何か名前から凄そうだね。

 適当なの入れて持ってきたんだけなんだけど」

「何で割ったんだ?

 原酒の色合いそのままのように見えるが…」


「割る?

 注いで来ただけだけど」

「待て待て待て!

 そんなモノを原酒で飲める訳が無い!」


「そうなの?」


とやはり首を傾げてカップを見詰め、くいっと煽る。

口の中をジンジンと熱くさせるが、特に何ら問題なく喉を滑り落ちていく。

多少喉や腹が温かくなるがその程度。

これの何処が問題なのだろうか、と理熾が思っているとカルロが絶句していた。


「リオ君、その火竜酒というのは竜の血を使った特に強い酒でな。

 普通は原酒ではなく、割って飲むものだ。


 そうだなぁ…そのカップ一杯でワインの樽一つ分くらいだと言えば分かるか?」

「そうなんだ?

 …って、これルルガさんにも渡したんだけど」

「それは大丈夫なのか…?」


カルロは被害者であろう副団長のルルガを心配する。

立ち昇る臭気(・・・・・・)で気付けば良い(むしろ普通は気付く)が、気付かずに口に入れたら惨事である。

竜の血は元々毒性があるものなので、飲まなくとも口内の粘膜から侵され(吸収し)て一気に回る。

少量であれば気付けや血流量・食欲の増加、各種能力上昇、果ては精力増強と言った効果まである、大変美味い酒である。

まさに『竜』の名に相応しいこの酒は効能と希少性のために貴族でも入手が難しい。

値段的にもだが、そもそも材料が手に入らないからだ。


「ダメらしいな。

 あそこでルルガがぶっ倒れている」


とフィリカが指差す先にはルルガが使用人達に端へと引き摺られて退場する姿があった。

本来こういった介抱などは行われない。

というのも、貴族社会で『酒での失態はありえない』からだ。

全員が酒豪という訳ではなく、身内以外が居る場所で潰れる・絡むなんて醜態を晒すことなどない。

だから相当に珍しい光景だ。

そこから担架へと乗せられて客間へと連行である。


だが今回は仕方ないだろう。

まさか理熾から渡された酒が火竜酒だとは誰も思わないし、そもそも同じように飲んでいるのだ。

平然としている方がどうかしている。


「あれが正常だ…リオ君は何故無事なんだ?」

「ぁー…多分【状態異常耐性】かなぁ?」


「また珍しいものを…。

 いや、だとしても完全に無効化するほどじゃないぞ?」

「だとしたら元から強いのかな?」


相変わらず首を傾げるが、理熾にはさっぱり分からなかった。

しかし


---+---+---+---+---+---

告)【消化】を取得しました

---+---+---+---+---+---


というアナウンスが脳内に流れ、思わず「あ…」と声を漏らした。

隣に居たフィリカは「あ?」と聞き返す。


「いや、今なんだけど」

「うん?」


「【消化】ってパッシブスキル手に入れたっぽい」

「また珍しいものを…。

 いや、最近の食欲を考えればそれくらい取るか」


とフィリカは変に納得していた。

その横でカルロはやはり驚いていた。

スキルなどそう簡単に手に入るものではない。

そのことを思えば理熾の食事量がヤバイという結論にしかならない。

ただ普段の食事量を知る二人は特に気にせず、理熾に至ってはスキルの内容の方が気に掛かる。


「えっと、内容は?」

「簡単に言えばポルンと同じ。

 大概のものを『栄養として取り込める』というスキルだな。

 だが実際は消化能力が上がるだけなので、ポルンほど悪食な訳ではないがな。

 いや、そもそも口に入れる以上は『食べられるもの』でしか無理だから普段と変わらない」


「好き嫌いはダメってことだね」

「どうだろう?

 少なくとも得られる栄養(エネルギー)は増えるから、食事量は減るはずだが」


「えぇ!

 美味しいもの一杯食べたいのに!」

「リオ君らしいな」


というやり取りをする二人。

カルロは完全に置いてきぼりである。

そんな中、急に理熾がふらつきだす。

よたよたするほどではないものの、頭がぐったりと重くなる。


「大丈夫かリオ!」

「何だろ…急に…頭が重い…?」

「火竜酒をカップ一杯も飲めばそうなる。

 むしろ今まで平気だったのが不思議なくらいだ」


と当然だと言わんばかりにフィリカが返答する。

悪酔い以前に急性アルコール中毒の可能性もある。

まさかただの酒の飲みすぎで【状態異常耐性】を乗り越えられるとは理熾としても思っていなかっただろう。

そもそも耐性が関係あるのかも不明だが。


「ぁ゛ー…地面が揺れるぅ!!」


先程までの健在振りはなんだったのかと言うくらい完全に顔色を真っ赤に変える理熾。

そのままぐらりと身体が傾くのをフィリカが掬い上げるように抱きかかえ


「ライム、リオ君が倒れた。

 お前も客間へついてこい」


と遠隔会話が出来る《精霊の囁き(ウィスパード)》を利用して呼び出す。

酔い覚ましの塗布もあるにはあるが、皮膚からの吸収と、内臓(粘膜)からの吸収では断然後者の方が早く効果が高い。

しかし意識を失ってしまうと飲み薬の処方が出来ない。

塗布薬に加えて【生体魔法】で簡易的に解毒を施し、余裕があれば飲み薬という形を取るために呼んだのだ。

さらに


「ノイズ、主催者様は退場するから後は頼んだ」


同じく《精霊の囁き》で主催者の理熾が行わなくてはならないであろう後始末の色々をノイズに丸投げして会場を後にする。

聞こえているのはノイズのみだが、その相変わらずの行動にギルバート以下、領主館の面々が察して苦笑いする。

ちなみに『酒の失敗』に厳しくとも勝手に潰れただけなら誰にも文句は無い。

介抱されるかどうかは本人の普段の行いだし、潰れたことで不利益を被るのは本人の評価だけ。

他に問題があるとすれば、例えば泥酔時に財布を盗られたところで『落し物扱い』にしかならない。

『盗っても良い』という訳ではなく、『盗られるような飲み方をするな』というのが常識なのだ。


ただ今回は主催者ということで少し外聞が悪い。

が、きっかけを作ったのが理熾なだけで、結局取仕切っているのは領主館の面子。

その辺りは参加者全員が知っているので『失敗』というには言いすぎだろう。


設営や多くの材料はノイズやダグ達だが、発想や肉は理熾の持ち出し。

費用も理熾が出す訳だから、感謝こそすれ嫌悪感など一切無い。

むしろ『色々とよくやる』という評価と、『いつ休んでるんだ?』という疑問が混在するくらいである。

なので皆の前で酒で潰れて寝てる方が、どちらかと言えば安心という良く分からない子供なのだ。


「やれやれ、リオ君は相変わらず忙しないな」

「リオ様らしいと言えばらしいんですけれどね」


ギルバートとガゼルはそんな話をのほほんとしながら、酒を傾ける。

倒れた主催者のためにも是非とも楽しまなければならない。

お読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ