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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動
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機密事項4

エリルが仰向けに横たわるところに


「ようエリル。

 私の店で昼寝とはなかなか面白いことをしているな?

 不法侵入だぞ団長様」


と私は声を掛けると身体がピクリと動いた。

声が弾んでいるのは仕方ないだろう?

こんなにも面白い余興が見られたんだから。


実を言うとリオ君が《転移門》を開いた瞬間、私の感知に引っ掛かった。

視線を向けた時には既に背中しか見えなかったが、アレはエリルを連れ込んだとすぐに察した。

私はそのままスミレを連れて席を立ち、血魔石(ブラッディコア)の探査を依頼。

同時にネーブルには|《精霊の囁き》《ウィスパード》で見学を耳打ちし、後の全てを任された。

そのことをスミレに伝え、特定地点を俯瞰出来る場所に《転移門》を開いてもらって覗きをしていたのだ。

まぁ、場所は私の店の裏庭だった訳だが。


そしてこの場には、つい先ほど送ってもらった。

ちなみに功労者であるスミレと、ついでにポルンのオレガノも居る。

同じく一部始終を見聞きしたはずのスミレは残念ながら理解が追いつかなかったらしい。

いや、そもそも『知っている者』にしか分からないような抜け落ちた会話で理解しろと言う方が無茶かもしれないがな。

…それでもハッサクとネーブルなら付いていけそうだから、スミレにも頑張ってもらうしかない。

そんな訳でスミレは『リオ君が騎士団長(エリル)に殴り掛かった』という事実に顔を青くしていた。


「そう見えるか?

 なかなか満身創痍だと思うが」

「くく…そうだな。

 手酷くやられたようだな。

 だがどちらかといえば心の方が、だろ?」


とチクリと刺してやると、『ぐっ』と息を引き込むような、堪えるかのような仕草をした。

くく…エリルの強がる姿がまた…。

歳が半分ほどの子供に団長が転がされるなど、誰が予想出来ただろうな。

いや、私はリオ君の勝利を疑っていなかったがな?


「これでも遠征明けだぞ?

 今日は気楽に酒と昼食を取れると思ってたんだけどな」


溜息混じりに答えるエリルには先程までの張り詰めた感じは無くなっている。

最早偽る必要も無いからな。

だから


「詰めが甘いからだ」


と改めて傷を抉ってやると、あっさり沈黙してしまった。

愉快愉快。

普段表情を隠す役職に居るエリルが簡単に渋面を作るんだからな。

そうかここの面子は『身内』だと判断した訳だな?

くく…用心深い団長様にしてはなかなか緩い発想だ。

珍しいが無くは無いし、リオ君が『こじ開けた』というべきか?

スッキリしているのはこの結末にも納得しているからなのだろう。


今回の件、本来なら誰にも気付かれずに終結するはずだったのだろうな。

二つの事件の手管は似ていても、それぞれに接点はないし、目的も違う。

大きく捉えれば一緒だが、リオ君の時は『下っ端を捕まえること』、セリナの時は恐らく『貴族を捕まえること』を目的としているからな。

人攫いがいくら重犯罪だとしても、被害者が一般人では貴族の位を揺るがすには届かない可能性もあるからな。

ガウスのことを思えばお小言を貰って終わり、ということまで考えられる。

確実を期すなら『身分』を狙うのは必要なことだよな。


「それで、私はどうなると思う?」

「どうにもならないだろう。

 リオ君ならすぐそこで自己嫌悪してるし、どうせ証拠も無いんだろう?

 元々は話し合いと言うか、『二度とするな』って釘刺したかっただけだろうからな」


そう告げるとエリルは埋もれた状態まま「そうなのか?」と首を傾げた。

リオ君は『そう』なんだよ。

ただしその過程で何度か『殺意』を込めていたのは否めないからな。

この短時間にエリルは何度か死ぬ覚悟をしたんじゃないのか?

そう言える程度には手酷い仕打ちを受けているからな。


「あぁ、そうそうエリル。

 お前|《治癒》《ヒール》使えただろう?

 ちゃんと顔と腹には掛けておけよ。

 今は麻痺してるかもしれんが、多分酷いぞ?」


だから忠告をしてやる。

私がリオ君に渡したスコップの攻撃を受けている。

硬度は相当だし、あの子の力で振り回しているからな。

今回使い慣れた剣・斧・槍・弓じゃなかったのは単に『鈍器じゃないから』だろう。

あの場面ですら理性としての行動が混じるのだから面白い子だ。


殺す気は最初から無いからその選択は当然なのだが…あの威力だと死にかねんがな。

いくら平らな場所で殴られただけといっても、未だに軽口を叩けるエリルがやたら頑丈なんだよ。

私なら一撃の被弾で昏倒する。


「すぐに掛けておく」


私の忠告に少し身体の具合を確かめた後、顔を引き締めて魔法を使い出す。

あぁ、アレはことの重大性に気付いたらしいな。

淡く光り始めたエリルを眺めつつ、私はそんなことを考えていた。

結局、エリルが立ち上がれたのはそれから10分も経った後だった。



暫くして土塗れの服の汚れをパンパンと払いながらエリルは起き上がった。

身なりは汚れているものの、既に体調に不備は無い。

その音を聞きつけて理熾は自己嫌悪の渦から復帰し、エリルを見る。

そして


「すみませんでした。

 何にも知らないのに、一方的に殴りかかって…」

「いや、そういうこともあるだろう?

 それにリオ君をがっかりさせると怖いことも分かったしね」

「同感だ」


とエリルは気が晴れたように、そしていつの間にか居るフィリカは含むようにそれぞれ笑う。

その横でやはりいつの間にか居たスミレは全く笑えずに青い顔をしていたが。

相変わらずスミレは衝撃的なシーンばかりに出くわしている。


「しかしエリル。

 土塗れの良い男になったな?」


と余計なことを言うのはいつも通りフィリカ。

水気が少ない土だったからまだマシだが、手足の先を埋められていたせいでドロドロだ。

普段着とは言え貴族らしい豪奢な服が、だ。


「そういうこともある。

 リオ君が『演舞』を見せてくれた横でたまたま転んだんだよ」


エリルはそう切り替えして話を終わらせようとするが、理熾が待ったを掛けた。


「エリルさん、汚れ落とすから動かないで」

「うん?」


「オレガノ、服に付いた土とか砂…あ、血も食べて」


スミレに付いて来ていたオレガノがエリルにふよふよと近寄り飛びつく。

その動きにエリルは後ずさろうとしたが、にやにやとした笑みを浮かべたフィリカが背中を「とん」と軽く押さえて止めた。


「おいおい、リオ君の好意を無駄にするなよ?」

「いや、しかしっ!」

「攻撃は絶対にしないから大丈夫だよ。

 だからもう少しだけ我慢して。

 仕上がりは保障するから!」


理熾の言葉通り、透き通ったオレガノの身体を通してエリルが見下ろす服は、刻一刻と汚れが消えていく。

先ほど散々付いた土汚れや砂は勿論、口を切って流した血までもが一緒くたに。

その光景は遠征時に最低限だが洗濯を必要とするエリルに衝撃を与えた。

ポルンさえ居れば洗濯に割く水も時間も労力も必要ない。

乾かす時間すら必要ないのだから、これはもう画期的としか言いようが無い。


「綺麗になったかな」

「こ…これは…」

「ポルンという魔物は何処までも便利だな。

 エリルもそう思うだろう?」


確信を持っているくせにフィリカはそんな質問をエリルへと言い放つ。

エリルも是非欲しいとしか言いようが無いが、ポルンを使い魔にしたがる者など居ない。

いくら便利でも【従属】のスキルを手に入れるのは相性。

無ければ延々と捕まえられるまでポルンを狩り続けなければいけない。

だがポルンは群れる魔物でもないので遭遇率はそれほど高くないし、弱すぎて連れ歩くのも難しい。

街中でなら問題ないだろうが、それだとエリルが欲しがる利点がごっそり無くなってしまい意味が無い。


「ポルンがこれほど欲しいと思ったことはないな。

 けれど私には残念ながら使いこなせないらしい」


と肩を落とす。

オレガノを欲しがられないようにすぐに会場へと戻る準備を始める理熾。

ここには単に酔い醒ましに出てきただけで何も無かった(・・・・・・)

事態について来れていないスミレも含めてその認識を共有し、会場へと戻る。


気を取り直して食事を始めるが、先ほどよりもエリルの機嫌と言うか調子と言うかが良く見える。

それに理熾が疑問に思ったのと、他にも聞きたかったこともありフィリカに聞いてみた。


「フィリカさん、エリルさんもしかして機嫌良い?」

「ん?

 あぁ、アレは機嫌が良いというよりは肩の荷が下りたという感じか」


「どういうこと?」

「先ほどの話に戻るが、アレは語れない事実だ。

 それを明かされた…つまり秘密の共有だな。

 たったそれだけのことでも随分心は救われるものだぞ?

 それに『断罪された』というのも、少なからず心が軽くなるものだ」


「なるほど。

 お悩み相談って感じかな?

 殴り飛ばしたけど…」


と最後の言葉はぼそぼそと小言で呟いた。

その様子を見てフィリカは更に笑みを深める。


「くははっ。

 あいつを『殴れる』ってのは一流の証明だと思うぞ?

 単体戦力ならルルガの方が上だろうが、それでもアルスでは上位に君臨するはずだしな」

「いやぁ…単に初見殺しってだけじゃないかなぁ」


「それもある。

 が、そう簡単には対策取れないから困るんだよ」


と気が付けばスミレとオレガノを伴い見物していたフィリカは終始楽しそうである。

殴り合いになるまで数分も時間が無かったというのに、全てを見知ったような発言だ。

理熾は「そっかぁ」と自分の戦い方が相変わらず変らしいことを思いつつ続ける。


「…もしかしてフィリカさんは最初から知ってたの?」

「可能性としては、程度だがな。

 たがタイミングがおかしいし、危険度も高い。

 あいつが取る手段としては『安全』が少なすぎる。

 可能性はあっても結局その程度、という判断しか出来ないがな」


「そっかぁ」

「ちなみにギルバートも恐らく気付いているぞ」


「えっ!?」


その発言に驚きしかない理熾。

自分の娘が凶行に遭っており、しかも首謀者を知っているにも関わらず平然としている理由が分からない。


「私と同じく可能性として持っていた。

 だとしても、あの時あいつは居なかったし、居なければ解決も出来ない。

 何よりあの場で一番可能性が高かったのはやはりリオ君に語った内容だ。


 それに万が一、予想が事実だとしても証拠は出ないし、あったところで表に出せない内容だ。

 上司である本人が指示を出したと疑われる可能性がある…というよりはまず確実に突っ込まれる部分だろう」


エリルはそこまで考えて単独で行動していた。

理熾の件はともかく、セリナの件に『騎士団』として関わればマルタに行き着いたところで非難は必至。

あくまでも『迎撃』でなくてはならず、事態が進んでしまえばどうとでもなるが、準備段階で外に漏れると申し開きも出来ない。

その非難は『アルス領の汚点』となるため、あえて個人で秘密裏に動いた。

情報が外に漏れることの無いように、そして漏れたところでギルバートに迷惑を掛けないように。


「戻って来てから『ここまで準備を行いました』とでも言う気だったのだろう。

 上司と周囲が頷けは計画通りそのまま実行。

 ダメなら別の案件に滑り込ませて犯罪者(関係者)の検挙と、やること自体は変わらない。

 結果がリオ君の時と同じになるか、当初の目的の大物を釣り上げるかの違いしかない。

 だから思惑通りに運べば誰も危険になど晒されず、治安維持(いつもの仕事)をするだけで終結するはずだったのだろう。


 あぁ、それと。

 上司は恐らくこの件についての処罰は見送るだろう。

 ただ『父親としての文句』くらいは伝えるだろうがな」

「いや、でも…」


「言いたいことは分かる。

 だが(・・)それでも(・・・・)ということもあるんだよ。

 正論だけで世界が回るなら誰も泣かない。

 『為政者』という立場は、『誰かの敵になる覚悟』を持った者だからな。


 この件に関しては釘も刺せたし一件落着。

 エリル(あいつ)にしても同じ過ちは繰り返さないだろう。

 納得しろとは言わないが、立場があるというのもなかなかしんどいものだぞ?」


フィリカの言葉を聞きながら理熾は考える。

例えば今回の件で70人ほどの犯罪者を捕まえた。

この70人が今もなお街を歩いていたら、被害者が『たった二人(理熾とセリナ)だけ』ということはありえない。

未来の多くの被害者を救うために、目の前の二人を『切り捨てる』という決断を行ったということ。

最悪を起こさないために万全の状況を構築するが、『万が一』を諦めるという判断を。

是か非かと言われれば、当事者である理熾は非としか言いようが無いが、事情を知らない第三者からは正しいかもしれない。


理熾はごく身の回りの人達が大事だが、ギルバートやエリルはその対象者が圧倒的に広い。

『領民の利益』という形で考えればむしろエリルの方が正しいのかもしれない。

そんなことを思い、結局人によって『求めるモノ』は変わってしまうと理熾はあっさりと思考を放棄した。

『正しさ』などどうでも良く、ただ『認められないモノ』に抗うしかないのだから。


「あぁ、そうそう。

 私がハイオークの時に『選民意識を持っている』と言ったの覚えているか?

 あの時は事務方と一緒くたに説明したが、あいつの場合はギルバート(上司)が最上位に居るんだよ。

 だからそれ以外は割りとどうでも良いと思っている節がある。

 ただギルバートが望むことも理解しているから、普段なら目的は同一になる。

 とはいえ必要性を感じれば今回みたいなことも平気で行う。

 まぁ、崇拝されてる側からすると領内全てが庇護の対象だから、完全に噛み合っているとは言い難いんだがな」

「エリルさんって変な人だね」


「むしろギルバートの周囲は変人ばかりだな」


理熾としては納得しかねる内容だが仕方ない。

この世界は…いや、アルス領はそうやって回っているのだから。

お読み下さりありがとうございます。


更新していない日に一気に閲覧数が上がる不思議現象は何なのでしょうか…?

もしかして読み返してもらえてるんですかね(。。

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