ポルン5
スミレが理熾へと連絡した方法は簡単だ。
理熾の持つスミレの血魔石を感知し、その周辺に小さな《転移門》を開く。
そしてその《転移門》を通してスミレが声を掛けたのだ。
安全の確認が出来ない以上、門を小さくして安全を確保すると共に、擬似的に距離を縮めて『会話の通り道』を作ったのだ。
こうして簡易的に『電話』と同じような状況を作り出した。
理熾が今やっているのぞき穴とやっていることは同じ方法だが、通すものが光か音かの違いがある。
ちなみに今日フィリカの店に全員を集める際にスミレが利用したのはこの『電話』だ。
理熾のような【連携】を持たずとも、スミレはこれで他者との意思疎通を行うことが出来るというわけだ。
(スミレ、すぐに全員連れてきて!)
(え、あ、はい)
スミレの《転移門》により距離が無くなったために即座に繋いだ【連携】を通して指示を出す。
これもやり方は同じ。
単に通すものが思考会話か音かの違いでしかない。
この方式を取り入れればネーブルも【以心伝心】を使って遠距離で会話が出来る。
すぐに通常サイズの門が現れ、ネーブル、レモン、スミレが顔を出した。
そしてネーブルとレモンは理熾とライムが覗く先を見て「また何かやったなお前」という視線を理熾に送った。
理熾はのぞき穴から視線を外して三人に向き直って説明を始めた。
(はいはい、状況説明はじめまーす。
一度しか言わないからよろしく。
ポルン300体が合体しました。
何とか核の数を50体まで減らしたんだけど、今は暴走して何でも食べてる。
しかも純化が進んで強力になっちゃった!
解決案求む!!)
ライムは横で苦笑いし、ネーブルは額に手を当て天を仰ぐ。
レモンは『殲滅者』としてポルンを《転移門》越しに覗き、スミレは状況に付いていけずにぽかんとしていた。
更に理熾は説明を続ける。
(距離はここから大体2km。
後半分減らせれば僕とスミレで封殺する準備がある)
(ふぇっ!?)
(で、何か案ない?)
いきなり話の中枢にねじ込まれたスミレは身体を浮かせて驚く。
しかしこの場に居る全員はスミレの反応を無視して話を進める。
方法など誰も知らないが、理熾が「やる」と言っているのだからやるのだろうというくらいだ。
色々とおかしな感じで信用されている。
だが今すぐに出来ない理由を知るのは必要だ。
この場の作戦指揮を執るであろうネーブルは理熾に問う。
(封殺が今行えない理由は?)
(大ポルンが暴れて散らばっててさ。
核を壊そうにももう少し集まってくれないと一気に叩けない。
10m四方くらいなら何とかするんだけどねぇ…)
(主人の投剣で蹴散らすのは?)
(出来なくはない。
でも多分【均一化】とかで大した効果なさそう。
ぁー…逆に貫通させまくってダメージを【均一化】させるってのもアリかな)
(あぁ、なるほど。
過剰戦力で押し潰して強制的に体力を削るってことだな。
押し切るだけの根拠があるなら有効だが…そういえば大ポルンのLvは?)
(Lv82)
(は?)
(いや、だからLv82だって)
流石のネーブルもぽかんとする。
Lvが高かろうか何とかは出来る。
だが高ければ高いほど強くなるのは当然。
そしてポルンと言えば弱い魔物に上げられるのに、どうなればそこまでの高Lvが生まれるんだ、という訳だ。
(そんなもんの体力削れるか馬鹿!
人と魔物はそもそも作りが違うんだぞ!?)
(うぅ…だから弱点壊してたんだよ)
情けなくも理熾は言い訳をする。
これでも頑張った方なのだ。
色々とやらかした後だが。
(ならもう手は無いのと同じだな。
仕方ない。
レモン、あそこの邪魔なでかぶつを刻んで来い)
(ん?
良いのか?
ポルンは基本斬撃には強いぞ?)
ネーブルは最初から最強戦力を投じる指示をする。
話を聞く限り、時間が経てば経つほど純化が進んで危険度が増す。
それならば意識を散らして純化の邪魔と対象の弱化に力を注いだ方が良いという判断だ。
対するレモンは単純に『相性は悪いぞ』という意味だけの返答をし、しかもその言葉に気負いが無い。
『「やれ」と言われればやる』、というのがレモンの仕事だからだろうか。
(構わん。
存分に遊んでやれ。
お前もさっきの雑魚とかよりLv82のポルンのが手応えあるだろ)
(良いね、りょーかい)
レモンはそう楽しそうに答え、手早く腰に吊るしてある4本の刀を1本ずつ抜いて一振りしてから鞘に落とす。
その他《拡張空間》内の回復薬の数と牽制用の礫、防具の具合を確かめていく。
(あぁ、スミレ。
お前はレモンの補助を。
適当に上から回復薬落としてやれば勝手に走り回るから頼む)
(えらい言われようだな…。
そんじゃスミレ、道を頼む)
(はい、お気をつけて)
理熾の《転移門》で座標を確認したスミレはすぐに、ポルンから50mほど離れた場所に門を開いた。
レモンは嬉々とした表情で門を抜け
「はっはっはっはああ!!
久々に本気で暴れられるな!
主人も早く来ねぇと残ってないからな!!」
消え去る《転移門》越しにレモンはそんなことを叫びながら暴走ポルンの触手を切り飛ばしていた。
レモンの斬撃の速度に【均一化】の処理が追い付かないらしい。
だが相手は液体。
多少のダメージは期待できても、核を壊さなければ意味が無い。
だからレモンは叫んで注意を向けさせる。
威嚇のためと、『注目を集める』ということで相手の行動を制限させるためだ。
量の魔物の『無差別』よりも、狙われた方が遥かに対策を取り易いとの判断だ。
それに魔物相手に舐められたら、本当にろくなことが無い。
特に集団で襲ってくるタイプは相手が弱いと見ると圧し潰しに掛かるのだ。
そんな思惑を持ってレモンはポルンへ突貫する。
不得手な相手だろうが、斬り捨てるのがレモンの役目だから。
(まぁ、あの馬鹿はほっとこう)
とあっさりとネーブルはレモンのことを思考の端に追いやる。
信用していることもあるが、レモンが瞬殺されるような相手ならここの全員が頭を絞ったところでもまず勝てない。
むしろレモンが倒してしまう可能性すらありえるとネーブルは考える。
いくら強靭でも所詮意思なき魔物。
技術の無い力押しでレモンが負けることなどありえない。
(え…あの速度を切り落とせるの?)
とネーブルが思っている横で理熾はのぞき穴から観戦モードである。
この状況を引き起こしたヤツが、だ。
色々と優れてはいるが、理熾は子供だ。
興味を惹かれてしまえば観戦もしてしまうことだってある。
むしろ味方が増えたことで心に余裕も生まれてしまった。
ネーブルは少しだけイラっとしたが仕方ないと飲み込んだ。
(あいつなら1時間くらい平気で抑える。
しかし主人余裕があるな…?
本当に倒しきれる策があるんだろうな?)
(うん、スミレとライムの力に頼っちゃうけどね)
と理熾は方法を説明した。
すると全員が呆れたように溜息を吐いた。
(ぁー…とりあえずそれするなら結構準備必要だな?)
(うん。
というかまずは魔力回復させないと。
僕もリコもほとんどすっからかんだからね。
あ、ライムもしっかり魔法薬使っておいてね)
(俺もか?)
(成功率を上げるため念のためにね。
スミレは準備出来るまでレモン見てあげてて。
出来たら呼ぶから、その時はこっち優先してね)
(はい。
ですがその方法で大丈夫ですか?
自分はそんなに強くありませんよ?)
(確かに強度は心配だけどね。
まぁ、一瞬持てば良いから何とかなるよ。
それじゃ準備開始!)
理熾のそんな言葉と共にネーブルはレモンの手伝いをするために《転移門》をくぐる。
【以心伝心】と【群雄割拠】を施して共に戦う。
特にネーブルは【衝撃魔法】を持っているので取り込まれそうになった時に弾き飛ばすのがかなり楽になる。
大ポルンは核の純度が上がっているのか、理熾が核を減らしていた時よりもやはり動きは早く威力は重い。
しかもこっそり体液が減少しているのは、操りきれない体液を消化によって回復と純化を進めているようだ。
知能は無いくせに本能的にそういうことを行うらしい。
時間が経つごとに攻撃の重さや速度が上がっていく、巨大なポルンなど悪夢である。
更に回復役のライムが居ないから無理な行動も出来ないし、大きな負傷もダメ。
難儀なことだ、とレモンはにやけながらポルンを切り分けるとネーブルが【衝撃魔法】で吹き飛ばす。
爆散してしまえば【均一化】も液体がどうのこうのも関係ない。
ただただその部位を消し飛ばしてまるっとダメージになるだけだ。
(レモン、後10分しない内に終わるからもうちょい頑張れ)
(何だもっと掛かると思ってたがなかなか早いな)
時間稼ぎとは言え、数が減らせた方が後が楽なのは事実。
そんな思考会話をしながらも殺しきるつもりで対応し、二人の時間稼ぎはあっさりと達成された。
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