ポルン
相変わらずだ。
相変わらず、主人のやることは意味不明だ。
走り回った時の【重力魔法】にしても、『空に落とす』ってのがあんなに有効だとは思わなかった。
自分が空を飛ぶ時にアレだけ気を使ったのを思い出せば、すぐに考え付きそうなもんだが…。
いや、無理だな。
結局のところ『対象』が違う時点で考え方の視点が違う。
つまり主人は『使われた側の立場』をも含めて考えているということだ。
まぁ…「魔法を体感したい」とか言って最初に3倍の加重を受けてたしな。
攻撃ではない攻撃、回避ではない回避。
敵の足止めと攻撃を、たった一つの方法だけでやりくりするんだからな。
まぁ、その分ほとんど全部の処理能力を持っていかれた上に魔力を馬鹿食い。
普通なら要求された方法を使えば動けもしないはずなのに、逆に『走れるだけの能力』を残して走らされるんだからな。
主人がその分を補っていたことを思うと、やっぱり『器用だな』という感想に行き着く。
でもまぁ、目の前の光景はまた違うよな。
絶対に違う。
いや、違うと言ってくれ。
俺はこんなおぞましい光景になるなんて思ってなかったんだよ!!
・
・
・
理熾がライムに聞いたのは<調教師>の話である。
<魔物使い>というクラスがあるのは理熾も知っていた。
だから少なくとも『自分の配下となる何か』が無ければ<調教師>等と誰も認めてくれるはずが無い。
そしてそれらに関わるスキルとして『従えるスキル』というものがあるはずだと予想した。
(で、だよ。
魔物を従えるスキルとか知らないかな?)
(…確か【従属】ってのがあるな)
(それって<魔物使い>のスキル?)
(あぁ、そういや上位にそういうクラスもあったな。
だが俺が言ってるのは<調教師>ってクラスのスキルだ)
(おぉ。
ちなみにどんなスキル?)
(簡単に言うと屈服させやすくする。
スキルが無くても言うことを聞かせるのは出来るからな。
ただ、そうするにも相性とか『相手よりも上位の証明』が必要だ。
で、相手よりも自分の方が強いならそもそも従わせる意味はそんな無いだろ?)
(確かに)
実際に自分よりも弱いモノばかりを使役していても余り意味が無い。
いや、数の優位は存在するので一概にはそう言えなくも無いが、それだけである。
餌代や戦力を考えれば費用対効果も薄く、そうなればそもそも<調教師>というクラスが成り立たない。
であれば、何かしらの『例外』が存在するだろう。
それこそスキルやクラス補正と言う形で。
(だからスキルを持つとその辺が緩和される。
簡単に言えばLv10のヤツがLvが倍の20の相手を従属化するのはほぼ不可能だ。
だがスキルを持っていれば少しは確率が上がる。
しかも従属化後も命令の拘束力に恩恵を与えられるから、<調教師>になるなら必須技能だな。
つか無いとクラス選択の時に名前が上がらないと思うがな)
(んー…それってパッシブ?)
(そのはずだ)
(んじゃ従属化する方法は?)
(一番簡単なのは『力を見せ付けること』だったか?
死なない程度にぶちのめせば『ボス』と認められるぞ)
(なるほどね)
という訳で。
理熾は少し『久々かも?』と思いつつ早速【スキル取得】を使用する。
【従属】のSP消費は30。
テイマー系の初期スキルということでコストがかなりお手軽である。
当然ながら理熾は「なんてお買得なんだ!」と内心小躍りしたいくらいだった。
(ところでさ。
何でライムはそんなこと知ってるの?)
(聞いといてそれかよ。
昔厨房で働いていたヤツが居てな。
そいつがまさにポルンを飼ってたんだよ)
(え?)
(『何でも食べる』からな。
生ゴミとか食べ残しを食ってくれるからかなり便利なんだってよ。
しかも本体は5~10cmくらいの核。
身体は不定形だから意外に使えるらしくてな。
暴れても鎮圧が簡単とかで「<調教師>の練習台にも良い」とか言ってたぞ)
(まさかの清掃要員?!)
(まぁ、魔物に掃除させるのも確かにどうかとは思うが…。
ポルンの体液って回復薬とかにも使えるような優秀なものだし。
使い魔だから、悪さもしないって思えばポルンを炊事場にってのは合理的っちゃ合理的だがな)
一家に一匹という感じで必要ではないかと思わせるまさかの有用性だった。
ゴミ箱代わりにしても怒らない。
というか、『餌がもらえる』と逆に喜ぶのだから主人冥利に尽きるだろう。
思わず理熾も(ポルン凄い!)と感心する。
(掃除屋としてはかなり優秀だな。
ポルンがやってるのはあくまでも『食事』だからな。
蠱毒で瘴気に侵された土地でも消化・吸収して浄化していく。
と言うよりは『染み付いた魔力』を食べるから結果的に浄化されるって仕組みだな。
ただ『喰う分』はともかく、土地にこびりついた瘴気が核を侵さないって条件が付くけどな)
理熾も驚くまさかの活用方法だった。
『何でも食べる』というのがこれほどの強みがあるとは思わなかった。
好き嫌いはいけない、ということである。
意味は違うが。
そういうことならば余計にポルンは使い勝手が良い。
セリナへのお土産に一体でも持ち帰れば喜ばれるだろうと理熾は微笑む。
(んじゃライム行って来るよ)
(は?
いや、だから無理だって!
おいこら!
いきなり《転移門》閉じるなよ!?)
理熾はあっさりと《転移門》を閉じて前方のポルンの海へと走りこむ。
ポルンの攻撃力は低い。
元々が食べることに特化した生物なので、消化能力は高くとも戦闘行為に適しているわけではないのだ。
ただやはり量が多ければいくら強くなくとも勝てるとは言い切れない。
だからこそライムは止めたし、理熾も躊躇していたのだ。
1体を瞬殺出来たとしても、千体に押し流されない理由にはならない。
(主人!)
(ライム煩いから切るよ!!)
(やm
あっさりとライムとの【連携】を断ち切り、正面のポルンへと集中する。
見渡す限りのポルン。
核の数だけ居るはずだが、一体どれだけの数が居るのか分からない。
全てを討伐するには絶望的に体力が足りない。
全てを殲滅するには圧倒的に火力が足りない。
理熾の手元にある命綱は先ほど取ったスキル。
【従属】は完全に起動している。
とはいえ取得したばかりなのでそれだけで理熾を主人と認めてくれるはずも無い。
だから理熾は【従属】を抱えて戦場を駆ける。
この戦場で『理熾が強者だ』と示せばそれで良い。
それだけで鎮圧出来るし、散らせる。
問題なのは『この場にこんなにも集まっていること』なのだから。
ポルンの群れへと走り込んでいた理熾は急に曲がって外周を回る。
突っ込んで身動きが取れなくなればそれで終わりだからだ。
駆ける理熾を『生きの良い新たなエサ』認定したポルン達は津波のように跳び掛かってくる。
それらを《障壁》で止めつつ、漏れたポルンを叩き落とす。
いくら体液が不定形だといっても衝撃全てを逃せる訳も無い。
そして明確な弱点が丸見えなのだから、そこを目指して殴り飛ばせば良いし、切り落とせば良いのだ。
ただその動作を延々と繰り返す体力が普通は無いだけで。
群がるポルンをそうして弾き飛ばしながら外周を一周すると、負傷したポルンが足元に転がっている。
それぞれがそれぞれにダメージを受けているが、流石に殴っただけなので生き残る個体は多い。
ぐるりと回った限りで叩き落としたのは十数体。
その内3体が元気に飛び回り、数体が沈黙、残りが蠢動している。
とりあえずポルン全体に対して理熾は走りつつ
(従えお前ら!!)
と【連携】で無差別に意識を叩き付けた。
【連携】がどうやって敵味方を判別しているかも分からない。
むしろそういう概念は無くて、単純に『信用度』が他者の干渉への防壁になっているのかもしれない。
だから理熾を信用しているほどに意識が繋がるし、スキルを知っているほどに鮮明になるのではないか。
ならば多少でも信用されれば【連携】が繋がる余地が生まれるのではないか。
それに今の理熾には【従属】もある。
一部のポルンの意識をこじ開ける要素は無くはない。
そういう思いで【連携】越しに意識を叩き付けたのだ。
ただ理熾には能力値という純粋な力があるが、それは表面上分からない。
結局殴り飛ばされた個体しか、その力の大きさを理解しない。
主従関係を結ぶに当り、『力の強弱』は比較的大きな比重を占めるとライムから教わっている。
そういう思惑でこのタイミングで【連携】を使った。
要はダメ元、という訳だ。
だがそんなダメ元の発想に殴り飛ばされた数体が理熾の呼びかけに応じてしまった。
(よしッ!!
んじゃ、皆お食事タイムだ!
僕が叩き落すヤツを端から食べてけ!!)
理熾は持ち前の体力と攻撃力で大多数の敵の露払いを一人で行える。
だが今回は量が多すぎて一々止めを刺すまでに至らない。
拘っていればその一瞬で押し流されてしまうからだ。
特にポルンは核以外の負傷をそれほど気にしない。
むしろ核ですら軽度であれば修復してしまうことを思えば止めを刺せないことは相当に痛い。
加えてポルンは『何でも食べる』。
つまり同族ですら死んでしまえばただのエサとなる。
それでは数を減らしたところで新たな分裂を許してしまい、結果的に倒すべき総数は増えてしまう。
だからこそ理熾一人ではなく他の手が必要だった。
露払いをする理熾の横で止めを刺してくれる味方が欲しかった。
今回の場合は目の前に大量のポルンが居た。
死体を食べて増えるのを防ぐことまでしてくれるというとても優秀なのが目の前に。
だからそれらを使おうという訳だ。
【連携】を通じて(食べろ)と指示を出すと、比較的元気な個体が沈黙していた数体を取り込み始めた。
理熾に従わないポルン達も同じように『餌に出来そうなポルン』に群がる。
理熾はそれを横目に更にもう一周駆け、同じように十数体をポルンの海から引き剥がす。
引き剥がされた中から理熾の配下に加われば仲良くお食事タイム。
そうでなければ喰われる側だ。
ポルンは何でも食べる。
それが同族でも魔物でも人でも。
そして食べたら増える。
しかし『同族を食べれば無限増殖!』などは当然できない。
消化や行動で消耗するから、ポルンの群れとしての全体のエネルギーは必ず減っていくのだ。
とはいえ。
戦闘開始から10分ほど経った現在。
既に理熾としても100以上ものポルンを引き離して配下や餌にしてしまっている。
だというのに目の前のポルン達は余り減っているように見えない。
やはり消耗率を抑えたり、摂取エネルギーの高効率変換能力保持者だったり。
数が増えれば増えるほどそういった希少な特性を持つ個体も現れる。
そして恐らくはそういった個体が居るのだろう事を理熾は察した。
故にそういったレア個体を叩かないとちゃんと数が減らない。
優先度は高くとも見分ける方法は【解析】しかなく、しかも数が多すぎて【解析】するのも厳しい。
例えリコに頼んだとしても、一瞬で全てのポルンを【解析】するのは不可能。
個体差をキチンと見分けられないのだから、ポルンに動かれれば【解析】済みかどうかも分からない。
であれば処理能力と精神力の無駄遣いというわけだ。
そんな状況に理熾は内心歯噛みする。
困った。
まさかここまで減らせないと思わなかった…。
こっちも育てる?
それはそれで流石に時間が掛かるよね…。
理熾は目の前の状況を処理しながらも考える。
ポルンの群れへと踏み込み、引っ掻き回した以上は倒しきる他無い。
一人で逃げるのは容易くとも、逃げている間に他に被害が拡散しかねないからだ。
《転移門》などを使ったところでそれは同じ。
厳戒態勢にさせてしまったのだから、始末をつけなければいけない。
とりあえず一発入れよう。
理熾はそう決断し、【瞬発】を起動して《空間転移》で30m上空へと移動して《障壁》に着地する。
眼下でポルン同士の壮絶な喰い合いを広げているが、理熾陣営は圧倒的に押されている。
数が少ないのだから仕方ない。
真下へ向けて回転式の投剣を落下させる。
リコは《結界》、最後まで威力が残るように理熾は荷重硝への魔力供給をそれぞれ分担。
「バツン!」という壮絶な爆発音を奏でて展開された《結界》は一辺10mの正方形。
そして回転する《結界》はある意味掘削機のようなもの。
ポルン達を削り飛ばし、地面へと到達して圧し潰した。
投剣の一撃を受けた《結界》範囲内のポルン達の大半は核が壊れるか、傷付き戦闘不能。
その周辺に居たポルンも、衝撃波を受けてかなりのダメージを受けている。
急遽出来た空白地帯に理熾側のポルンが参戦。
動けないだけの敵はこのままではただの餌と化してしまう。
その周囲に改めて理熾は【連携】で(従え!)と命令を飛ばす。
今度は結構な数が理熾側に寝返った。
そもそもポルンは集合体ではないし、統率している個体が居るわけでもない。
単に気ままに食欲を満たしているだけなので繋がりというものもさほど無いのだろう。
これで少しは盛り返せるかな?
と理熾は思い、《障壁》の上で暫しの休息に入る。
普段は完全近接に『後衛力を追加する』という形で戦う。
しかし今回は理熾が従えたポルンが前衛だ。
コボルトなどとは違うのは余りにも愚直に進撃するということ。
単体ならば違うのかもしれないが、ポルンの群れは防御や回避を行わず、ただただ進撃による蹂躙を行う。
そこに体液を伸ばしての攻撃も含まれるが、これだけの数が津波のように押し寄せるのを個人で退けるのは難しく、いつかは捕まる。
理熾としてもいくら殲滅力に優れていても、囲まれて押し潰される。
気力や体力は人より多いというだけで無限ではないのだから。
《障壁》の上で回復薬と魔法薬を被る。
休憩の機会なのだから、しっかり回復しておかなければ意味が無い。
理熾陣営は投剣によって潰されたポルンを取り込むものの、更に外から敵のポルンが雪崩込んで混戦状態。
改めて数で押されてしまい、またも分が悪くなる。
理熾は弓を取り出し、上空から敵ポルン全体の勢いを落とすために《乱れ撃ち》と《穿矢》を重ねて放つ。
数が多いので狙いをつける必要はない。
それに距離が離れているので切羽詰って撃ちまくらなくてはならない訳でも無い。
落ち着いて味方ポルンが居ない場所を見極め矢を放つ。
完全に後衛に徹せる環境が出来たのだから、使わない手は無い。
敵を傷つけ、動けなくさえすればその後は配下のポルンが捕食してくれるのだから。
何度も行う内に少しずつだが数が減ってきた。
その分理熾は魔力を激しく消耗しているが、手持ちの魔法薬で回復させている。
既に3つを開けていることを考えると、たかがポルン相手の出費にしては完全に赤字である。
しかも換金出来る素材はお互いのポルンが消化・吸収してしまっている。
出費だけが嵩むという悪循環に陥っている。
ただしその分前線で生き残っている理熾のポルンはどんどん核を純化させて強化されている。
当然のようにポコポコ分裂もしていくが、その辺りは敵のポルンも同じくだ。
数が減ったのは良いが、お互い個体の能力が上がっているという困ったことにもなってきた。
そんな折。
理熾はライムを視界の端に捉えた。
結構な距離があったはずだが、どうやら自力でここまで走ってきたらしい。
理熾はライムに【連携】を繋ぎ直して
(あ、ライムお帰り)
(………どんな状況だ…?)
(んー…ポルン同士の大合戦?)
(どうしてこうなったッ!?)
ライムは頭を抱えて苦悩してしまった。
お読み下さりありがとうございます。




