スキルの間違い方2
まったく馬鹿な主人を持つと苦労する。
普段はえらく優秀な癖してしょうもないドジを踏む。
まぁ、大概のドジは本人が何とかしてしまうから別に良いんだが…。
そう考えると対応力がずば抜けてるな?
いやいや、失敗することが問題なんだから褒めてる場合じゃない。
少なくとも今の状況は上手くない。
少し前にBランクとやりあったらしいが、その時よりも恐らく状況は悪い。
その時はコボルトという一種類の魔物(種族)を相手にすればよかったんだが、今回は違う。
あの馬鹿はオークの血の臭いと弱った生物の気配を無差別に周囲に放った。
『弱った生物が気配を放つ』ということがおかしいんだが、そのおかしさに気付けるのは知能ある種族だけだろう。
いや、むしろ人ですらも騙されかねん。
単に『距離が近い』と思い、近くに居なければ『移動した』と思う方が自然だからな。
…ほらみろ。
もう背後でギャァギャァと魔物同士の小競り合いを起こしてるじゃねぇか。
「ライム危ないよー」
「うぉ!?」
俺の顔のすぐ傍を高速の矢が走った。
思わず反対側に身体を仰け反らせてしまったが、既に矢は正面に消えていってた。
俺の反応で主人の矢を躱せる訳が無いから当てなかったんだろうが、それにしても何なんだよ!?
「「危ないよー」じゃねぇよ!?」
一瞬だけ後ろを振り返り抗議するが、涼しい顔して俺のすぐ後ろを走っていた。
いや、これでも俺は一応《脚力強化》掛けてるんだけどな?
しかも術者である俺が、俺自身に掛けてる魔法なんだから効果も高い。
後衛特化の俺でも《強化魔法》を使えばそこらの下っ端騎士くらい力でねじ伏せられるんだぞ?
それを平気な顔して付いてくるとかおかしいだろマジデ。
まぁ…レモンと平然と殴りあう時点で考えるだけ無駄か。
俺はほとんどの考えをそういう風に割り切ることにした。
(そろそろ【連携】で話そっか。
今の矢は正面150m先にウッドウルフが…って、ほら見えた)
(あぁ、身体に穴が空いてるな?)
(さっきの矢が貫通したんだよ。
距離があってもこのくらいなら穴が開くんだね)
平然と受け答えしてるが、150m先の敵を狙撃するのは難しい。
矢は山形に飛ぶし、魔法もこの速度で走りながらでは放てない。
いや、こんなにピンポイントで狙い撃つのは狙いを定めても難しい。
その辺は<空間使い>の特権みたいなもんか。
にしても《亜空間》を利用した攻撃方法が手軽すぎるだろ…。
前衛は《亜空間》の魔力を感知できずに矢を見た時点で手遅れ。
後衛は《亜空間》の魔力を感知しても避けるだけの身体能力はない。
実践的というか、合理的というか…しかもこの上に投剣とか投石だろ?
しかも全部の予備動作が同じとかふざけてるぜ。
《亜空間》ってたった一つの技術で汎用性が高すぎるだろ…。
つーか、そもそも《亜空間》を開く魔力コストが軽すぎて『魔力の感知』が物凄く難しい。
今さっき俺も矢の風切り音を聞いて初めて気付いたくらいだしな。
本人が言うように確かに『初見殺し』は伊達じゃねぇよ。
俺はついそんな考えを浮かべた。
(ところでライム。
何処まで行くの?)
(とりあえず奇襲を受けない場所まで。
俺等が『攻撃に回れる場所』まで退いてから、攻撃する)
(あぁ、さっきの場所を『罠』として使うってことかな?)
(そういうことだ)
(んー…ならそろそろ良いと思うよ。
500mは離れたし…確実にいくなら1km離れる?)
(そうだな、一旦それだけ離れるか)
(りょーかい)
そんな会話の最中にも主人はさっきのウッドウルフを《亜空間》に取り込んだらしい。
距離が15mほどになったところで死体が消えてたからな。
いや、マジで便利な魔法だよな。
…つーか何で俺が先導者なんだ?
どう考えても主人の仕事だろうに…。
そう思って前後の交代を打診するとすぐに前に出てきた。
あぁ…やっぱ本気で走ってないんだな主人は。
これでも俺、【重力魔法】も併用してるんだぜ?
あっさり抜かれたらちょっと凹むわ…。
そんな俺の思惑など全く気にせず涼しい顔で遭遇する魔物を《亜空間》からの矢で討ち取っていく。
改めて主人の異常さを目の当たりにした俺の心情は…『主人だしなぁ』というものだった。
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ライムがいきなり駆け出した。
確かにこの場に残れば四方八方から押し潰される可能性はある。
危険度の高い森とはいえ、理熾だけならば逃げるのは容易い。
《障壁》を駆け上がれば安全だし、《転移門》がダメでも《空間転移》で数十m移動するだけでも十分だ。
ライムも一人ならあっさり逃げ切れるだろう。
彼には【重力魔法】という、自身を『発射する方法』があるのだから。
だが今は二人だし、勝手に逃げるというのは無しだ。
そのことを思えばライムの判断は正解だし、何より『後衛の護衛』というのが今後控えている。
一人が勝手な行動していいはずもなく、むしろ今は理熾のせいでライムに迷惑を掛けている状態だ。
理熾はひっそりと「失敗したなぁ」と反省しながらライムの後を追っている状況だ。
最初の段階で理熾の頭が回っていれば《転移門》をくぐって1km離れることなど造作も無かった。
しかし今となってはどのタイミングで魔物に遭遇するかも分からないので簡単には開けない。
開いたところで戦うことになれば魔力の無駄だからだ。
そのまま折り返しまで続くかと思っていたが、ライムに前後交代を言い渡されたので即座に前に出る。
『主人のイイトコロ』を見せておかないと叛乱は目前である。
気を引き締めなければと、【索敵】と【直感】、座標認識に力を注ぐ。
既に失敗地点から750mほど離れている。
背後での喧騒を思うと『やっちらかしたなぁ』という思いが強い。
しかしそこで理熾ははたと気付いた。
(ね、ねぇライム)
(どうした主人)
(最近キングと戦ったんだけどさ?)
(あぁ、それで?)
(目の前で凄い勢いでLv上がってたんだよね)
(あぁ、リンク式の固有能力だっけか。
確か【戴冠者】にくっついて発現するパッシブだったと思うが…)
(うん、【経験集約】ってヤツ)
(それがどうした?)
(それってさ。
身内が一定範囲内で死んだら自動発動なんだけど…)
(なんだ、どうしたんだ?)
(そもそも魔物のLvって、どうやったら上がるの?)
(そりゃ俺達と同じだよ。
生まれて餌を食って寝て、戦って生き残tt!!!)
(だよねーーー!!?)
ライムがいきなり立ち止まる。
それを追うように理熾も地面に踵を叩きつけるようにして止まる。
思い当たったのだ。
最悪の展開に。
(主人、まさか…これは)
(うん…ヤバイよね?)
(俺達も戦闘や経験によってLvを上げる。
今まさに殺し合いをしてる魔物は一気にLvが上がる…。
あぁ、これは蠱毒か…。
呪術系の使役物を育てる際にそういう方法を取る事がある)
(うわぁ…)
(だがそれでもこんな大規模に殺し合いを演じないはずだ。
そもそももっと小さな生物同士で作るもんだからな。
それを主人が集めるから…。
多種多様な種族が一同に会せばそうなるよな…どうする主人?)
(どうする、って?)
ここへ来るまで10分ほど。
戦場の音は既に遠く、この場は平和だ。
問答を続けるだけの余裕はあるが、刻一刻と危険度を増しているのは二人にも分かる。
だがこの話を決めねば先には進めない。
(最悪を排除するためか、最悪になったと考えて中心地へ戻るか。
それとも知らんぷりしてこのまま適当に狩って帰るか、だな)
(そりゃ戻るよ。
僕のした事の後始末くらいはね)
(…そうか。
なら俺も付き合ってやる。
だから存分に暴れて良い…フォローは全部してやる)
とライムはかっこよく決めた。
理熾はその言葉に感動しつつも尻拭いを手伝わせるという自分のかっこ悪さを歯噛みする。
しかし時間は待ってくれないし、何よりも手が必要なのは分かりきっている。
故に(うん、付き合わせてごめんねライム)と謝罪を入れて頭をカチリと切り替える。
ここから先は『失敗談』として笑い話にするための行動だ。
(ライム。
僕が前衛、ライムが後衛。
空に《障壁》張るから、そこから援護頼める?)
(おいおい、主人。
俺を侮り過ぎだろ、そんな姫様な扱いとかいらねぇよ。
主人が攻撃手、俺が防御手…きちんと並んで戦ってやる)
今の戦場は理熾とライム以外は全て敵だ。
まさに四方八方が敵なのだ。
だというのに、『後衛』という立場で理熾と並んで戦うのだ。
何処から攻撃を受けようとも問題ないというだけの自信が必要な場面だというのに、相変わらず男前な言葉を掛けてくる。
理熾はその言葉に
(そっかお願いするよ)
(おう、任されてやる)
(んじゃ《転移門》を開くね?)
(は?)
理熾は即座に現地行きへの《転移門》を上空50mに《障壁》とセットにして開いてくぐる。
その後を慌てて反射的にライムも追った。
ここからは血みどろの戦場だ。
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