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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動
209/537

注文の品

珍しく、昼頃…12時に近付いても全員が揃わない。

やはり本日は自由時間だと思っている可能性が高い。

というより、理熾のように昨日の今日で『ギルバートの依頼に行こう!』なんて思う方がどうかしているのだ。

当人が一番ぐったりしていたのだし。


そんな常識はさておき、揃わない配下を呼び寄せる。

まず理熾は自分の血魔石(ブラッディコア)の反応を確認する。

街に点在する反応は一つがギルド、二つがあけみや。

さらに二つが街のいずれか、と言う風に散らばっていた。

それぞれ距離はそれほど離れていないので【連携】を一人ずつに繋いでいくことにした。

たまたま一番初めに飛ばした【連携】にはスミレが引っ掛かった。

場所はあけみやだったことを思うと、昨日一日で相当疲れたのかもしれない。


(スミレー)

(は、はい!?)


(もしかして寝てた?)

(いえ、起きてました。

 大丈夫です。

 また何かありましたか?)


(いや、今のところは無いよ。

 そろそろご飯だからフィリカさんのところへ集合って言おうと思って)

(そうでしたか。

 すぐ向かいます)


(うん、でももう一人そこに居るみたいだから一緒に来てね。

 ぁー…いや、全員連れてきてもらえる?

 やり方はこんな感じで)


と【連携】にイメージを乗せてスミレに伝える。

『意識を繋ぐ』という【連携】や【以心伝心】には思念会話以外にもこんな使い方があるのだ。

改めて昨日の《探査魔法》から得るものは多いと理熾は感じる。


(…なるほど。

 それなら自分でも声を掛けられますね)

(うん、じゃぁ後はお願い~)


と理熾はスミレにあっさりと託し、理熾はぼんやりと待つ。

暫くして全員が揃い、食事を始める。

そこで改めて本日ギルバートのお願いを聞く行動を起こすと話す。

理熾の話を聞いていた全員に不満は無いものの、そのタフさに呆れ顔だった。


主人(マスター)働きすぎじゃないのか?

 今日くらい寝て過ごしても文句言われないだろうに」


そう切り出したのはネーブルだった。

確かにここ数日は相当バタバタと忙しくしている。

休んだところでクレームなど来ないだろうし、依頼も無い。

そもそも毎日のように狩りに向かったり、戦闘をする理熾がおかしいのだ。

本来であれば十分な休息は必要だし、それで無くともせっかく稼いだ金を使わない理由は無い。

むしろ討伐者のほとんどはその日暮らしが普通で、まさに『宵越しの銭は持たない』という感じだ。

翌日にはあっさり死ぬ可能性が身近にあるのだから、仕方の無いことではある。


「んーとりあえず今回のことが終わったら考える。

 でもまずは主犯捕まえるのと、ギルバートさんのお願い終わった後だけどね」

「それなら主人は留守番でもしてろ。

 こっちで勝手に終わらせてくるから」


「やだよ。

 アラクネとポルン見たいし」

「図鑑でも広げろよ…」


「実際に見たいじゃないか!」


行くと言い張る理熾にネーブルは「そうか…」と答える。

好奇心を背負う者を止めても無駄だと悟ったらしい。

危険度が高いわけでもないのだからと諦めることにした。

どちらにせよ休ませたところで『休みはしない』のだから、意味が無い。

周囲を見渡すと全員が『好きにさせよう』という諦め顔で満場一致だったこともある。


「あ、でもハッサクは予定通りお留守番」

「俺がか?」


「うん。

 悪いんだけどセリナさんについててあげて。

 四六時中じゃなくて良いからさ」

「……なるほど、分かった」


昨日の今日では不安も残る。

ありえないとは思うが、それでも再度仕掛けてくる可能性は否めない。

だから少しくらい警戒しても良いだろうと思ってのことだ。

ハッサクの護衛なら、何かしらの方法で自由時間を堪能しつつやってくれるだろう。

この中で一番情報分野で長けているのだから。


「というわけで。

 本日の予定はご飯食べたら僕とライムは西。

 スミレ、レモン、ネーブルが東。

 最低の討伐数が確か…オーク30、アラクネ10、ポルン20だったはず。

 後で数だけ…ていうか、そっちにスミレ居るし全部持ち帰れるよね?」

「はい、問題ありません」

「本当に<空間使い(ディメンショナー)>は便利だな」


そんな理熾とスミレのやり取りに、ネーブルは溜息混じりの感想を告げた。

移動に時間が掛かるのは日本もスフィアも同じ。

この場から現場まではそれぞれ約70kmほど。

本来であれば馬車を使って往復約5日間の行程。

それが理熾とスミレは失敗を重ねても長くて30分となれば日帰りすら余裕である。

しかもピンポイントで任意の場所に降り立てるとなればその有用性は計り知れない。


何より理熾やスミレの場合は戦闘すらもこなすため、まさに『荷物持ち(ポーター)』としての性能が高すぎる。

そしてそれらの実現に必要なのは魔力と座標認識だけとなれば引く手数多なのも頷けるというものだ。

ネーブルの溜息も分かるだろう。


「ここで私からリオ君達にひとつ」

「うん?」


「テントが出来た」

「え!?

 頼んでたリザード製の?」


「あぁ、二張りな。

 リオ君用のはリザードの頭が入口についている」


そう言ってフィリカが隣の部屋からテントを取り出した。

サイズは長さ1.5m、直径50cm程と一抱えほどの大きさしかなく、思っていたよりも遥かに小さい。

片方には確かに小さくなったリザードの頭が乗っていた。


「何か小さくない?

 多分皆入れないと思うんだけど…」

「くく…良い反応だ。

 是非後で使ってみてくれ。

 あぁ、ここじゃなくて庭の真ん中でな」


フィリカは実に楽しそうに理熾にテントを渡す。

首を傾げながらもそれを受け取り、食事に戻る。

ちなみにテントの値段は理熾のものが15万、スミレのが10万で二張りで合計25万カラド。

平気でアルスの土地付きの一軒家が買える値段である。

性能も見ずに食事の席で(しかも即金で)渡す理熾に配下全員は呆れていたりするが、フィリカはその光景を楽しげに眺めていた。


そんな食事会を終え、早速庭で実験である。

理熾が持ち込むあけみやの食事に餌付けされているノルンは黙ってお片付け。

この場に居るのは後片付けを逃れたノルン以外だ。


「で、これはどうやって使うのかな?」


《亜空間》から先ほどのテント二張りを取り出して理熾は問う。

片方はスミレに渡し、理熾は『自分用』のテントを軽く持ち上げる。


「まず、地面にしっかり突き立てる。

 足を下にして本気で叩きつけて構わんぞ。

 リザードの耐久力程度はあるから、簡単に壊れん。

 力が足りないなら先に少しだけ穴を掘って固定できるようにしておいてくれ」


テントなので広げるものだと思ったのだが、そうでもないらしい。

いや、広げたところで大した大きさにはならなかった。

言われた通りに地面に突き立てると、物凄く急な三角錐の形に勝手に組み上がった。

テントといえばテントの形ではあるものの、小柄な理熾一人が立って居るだけで一杯になるようなサイズである。

念のため入口の掛け布を捲って中を確認するも、同じだった。

全員が首を傾げる中、フィリカが続ける。


「それじゃ魔力を流して起動(・・)を」

「は?」


思わず理熾はそんな疑問の言葉を吐いた。

魔力伝導率の高低は、電力で言うところの絶縁体のような役目も果たす。

熱した鉄棒を水に浸けるようなもので、ただのテントに魔力など流せば最悪弾ける可能性もある。

それを思うとただの物体に魔力を流すのは馬鹿のすることである。

ちなみにフィリカの装備は強弱はあるものの、魔力伝導率が高めである。

戦闘の際に魔力を使わないことの方が少ないためにこのような作りにしてあるのだ。


「それが魔法具(マジックアイテム)と言うやつだ」

「え!?

 そんなに簡単に手に入るの!?」


「いや、簡単では無いんだが。

 単に魔力の伝導率が高く、それを利用する機構を組み込めば魔法具となる。

 リオ君の弓や服もある意味で魔法具なんだが…気付いてなかったのか?」

「ぁー…なるほど…」


と理熾は少し残念そうな返事をする。

理熾の中での魔法具というのは解析も進めているが結局まだまだ不明な点が多く、『使えるだけ』という不思議アイテムだと思っていたのだ。

それが作れるもので、しかも既に利用しているのだから驚きは半減である。

そんな理熾にフィリカは少し不満を持って急かした。


「まぁ、リオ君。

 ここは一つ魔力を通してみてくれ」

「う、うん」


少し気圧される感じで理熾が魔力を流す。

するとリザードの目が一瞬蒼く輝いた。

理熾は恐る恐るテントの入口の掛け布を捲って、そのままそっと閉じた。

腕組みをして少し考え、もう一度同じことを繰り返した。

フィリカを見ると「ドッキリ成功」というような表情でにやりと笑っている。

実に楽しそうなのが理熾には少し悔しい。

理熾以外は何が起きたのかさっぱり分からないため、改めて入口を開く。


「…何で奥行きがあるんだ?」


というネーブルの疑問が全てだった。


「そのテントは《拡張空間》を利用した構造になっている。

 内部に仕込まれた蓄魔石の魔力を利用して特性を引き出している形だ。

 間取りは個室3つに共同空間(リビング)食堂(ダイニング)調理場(キッチン)完備。

 トイレは当然付いてるし、風呂もあるぞ?

 部屋の気温調整にはテント全体に【最適化】。

 水については魔石に【流水】、調理場には【炎上】、風呂場には【加熱】の刻印を施してあるから魔力さえあれば使い放題だ」


そんなフィリカの説明を理熾達は中に入ってキョロキョロ見渡し、ありえなさに驚きながら聞く。

確かに値段に相応の仕上がり…な訳が無い。

同じ設備を完備した普通の家の購入ですら、こんなに安く(15万カラド)では手に入らない。

作り込むのが大好きなフィリカらしいテントだが、それにしたって持ち運びできる家がこんなに安いはずが無い。


「ただし、相応の魔力を使う」


というフィリカの声を聞いて理熾は少し納得した。

維持管理費(ランニングコスト)が多少高くないと釣り合わない。

先ほど『蓄魔石を使う』と言ったのだから、その魔力の消費度合いが激しいのだろう。

そんなことを考えていると説明はさらに続く。


「かなり大きい蓄魔石を積んではいるが、それでもこの規模の展開だと継続使用は1日が限界」

「遠征に向かんな」


とネーブルが呟く。

確かに蓄魔石を大量に抱えて移動したのでは意味が無い。

それなら最初からある程度のテントを持ち運んだほうが余程効率的だ。

特に費用面で。


「ところがそうでもない。

 最近リオ君に渡した吸魔機構を積んでいる」

「…中に居ると魔力を吸われる?」


「そういうことだ。

 通常蓄魔石への魔力供給は『任意』だ。

 それをこのテントは『自動』で行う。

 その分変換効率はまだそれほど高くは無いが、全て蓄魔石に流れる仕組みにしてある。

 蓄魔石に空きがあれば少し多め、一杯になれば消費分だけの搾取に設定してある。

 リオ君達の魔力ならレモンとハッサク以外は維持するだけならそれほど問題にならない程度のはずだ」

「ということは二人以上で入れば良い?」


「そういうことだ。

 それでなくとも起動して放置してても1日持つ。

 しかも君は《亜空間》を使用できるのだから、荷物にもならない。

 使わない時は完全に仕舞えるから、リオ君達に限ってはエネルギーコストも軽い」


説明と共に全ての部屋を廻り終えた理熾達にフィリカは「どうだ!」と言わんばかりだった。

ここまですれば素材の良し悪しではなく、完全に技術の領分だ。

フィリカの技量に加え、ノルンが作った吸魔機構、そこにようやく『素材の良さ』が加わっただけ。

素材は確かに出来る幅は広がるだろうが、使いこなせなければ意味が無い。

そして使いこなしたのはフィリカである以上、自慢の一品として胸を張る権利を持つだろう。

圧巻の性能を見せ付けられた理熾は少しだけ黙考した後


「多分どの部屋からでも魔力を奪ってると思うんだけど…」

「あぁ、どの場所に居ても良いようにな。

 でないと一箇所に留まらないと魔力が回復しないことになるからな」


「だよね。

 フィリカさん、相談なんだけどさ」

「うん?」


「個室のどれでも良いんだけど、『一部屋から優先的に魔力を奪う』ってのは出来る?」

「優先順位を組み込むだけだから出来るぞ。

 …あぁ、なるほど。

 そうだな、確かにその方が使い勝手良いな。

 だとすると拘束具とかも取り付けられるようにしておくか?」


とフィリカはあっさりと理熾の思惑を見抜く。

しかしその他だとネーブル以外は思い当たらず、首を傾げる。

溜息混じりに


「主人、ちゃんと説明しとかないとスミレが使えないぞ。

 要は一室を『牢屋』にも出来るようにしておきたいって話だろ?」

「おぉ、流石ネーブル。

 最近何だか人を捕まえることが多いからさ…。

 そんなに捕まえられるような道具もないし、魔力が無いだけでかなり違うでしょ」


「そりゃそうだが…。

 犯罪者の扱いでわざわざ部屋与えるとかは普通無いからな?」

「その辺は充電用だよ」


「充電?」

「あ、いや。

 蓄魔石みたいなものだよ。

 魔力の源さえあれば僕らは吸われることも無いしね」


「あぁ…テントの餌か」


とネーブルは実も蓋も無いような結論に納得する。

理熾としてもそのつもりだから良いのだが、何とも釈然としないものがある。


「あぁ、まだ注意が。

 《拡張空間》内で《亜空間》は使えるが、基本的に逆は無理だ。

 時間の流れ方が違うからな。

 その辺は迷宮(ダンジョン)に潜ってるから経験的に分かると思う。

 《拡張空間》を展開したまま《亜空間》には入れられないから注意してくれ。


 それと迷宮ほどに巨大になれば多少の融通は利くが、本来《拡張空間》同士は反発する。

 特性持ちの荷物袋に荷物袋を入れられないのと同じだな。

 テントの入口を向け合った状態なら良いが、横並びとかすぐ後ろに立てるとかはやめておけ」

「やったら?」


「最悪空間が解れて中身が溢れる。

 後、テント内に持ち込んだモノは全て持ち出せ。

 でないと『テントの一部』として認識されずに《拡張空間》が閉じた時に吐き出される。

 中のインテリアとして使いたいなら『テントへ登録』しておけ」


内装その他の家具にもフィリカの手が掛かっているようだが市販品とのこと。

基本的に装備作成者であるフィリカが作れるモノには限界がある。

テントなどのようなものを頼むのは本当にお門違いなのだ。

それを気にせず頼む理熾も、請負うフィリカもなかなかおかしなコンビである。


「意外と注意が必要なんだね?」

「その分の快適性と利便性は保障する。

 何せこれ、ほとんど『入口だけ』というテントだからな」


「うん、これなら僕以外でも平気で持ち運べるよね」

「元がリザードの素材だから頑丈だしな。

 最悪それで殴れるぞ」


とフィリカが鈍器としても勧める。

確かに1.5mもの支柱アリの傘みたいな形状を思えば相当痛いだろう。

とはいえ基本はテント(布っぽい)なので冗談だが。


「それじゃフィリカさん、テントの改造お願いします。

 僕達はそろそろ狩り(あそび)に行こうか」


朗らかに理熾は笑い、昨日の怒りの表情とは違うことを改めて見せ付けた。

お読み下さりありがとうございます。


実はテント出来てました。

相変わらずフィリカが手掛けるとオーバースペックになります(。。

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[気になる点] 「意外と注意が必要なんだね?」 「その分の快適性と利便性は保障する。  何せこれ、ほとんど『入口だけ』というテントだからな」 「うん、これなら僕以外でも平気で持ち運べるよね」 …
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