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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動

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独裁者

現場に到着し、フィリカが《探査魔法》を使おうとした時に「思い付いた!」と急に主人(マスター)が言い出した。

何事かと思ったのだが、最初に決めた大筋を曲げる事無く進められるため、全員が了承した。

とはいえ主人の思い付きは色々と『激しい』から、土壇場ではやめてもらいたいものだ。

特に検証が必要なことならなおさらな。

今回に限って言えば予想もしやすくて有効だから構わんがな。


主人が思い付いた内容は簡単だ。

フィリカと主人が【連携】を繋いだ状態で《探査魔法》を使うということ。

俺の【以心伝心】にも言えることだが、確かに意識を繋ぐと感覚を共有出来る。

つい先日もハッサクと意識を繋いでたからレモンが生き残ったんだしな。

特に正確な座標が分かる<空間使い(ディメンショナー)>が地図を用意したならまず完璧に捕捉出来る。

一切の洩れも無くその瞬間の全てを把握するだろう。

反面、処理能力を限界まで引き出す結果になるだろうけどな。


だが感覚を共有することでそんな情報が手に入るなんてことは主人は絶対に知らないはずだ。

俺でも気付けそうなもんなんだが、まず<空間使い>と<精霊術師>と<指揮官(コマンダー)>が揃うことなど無い。

要は予想や推測が立っても、実行できる環境が無いというわけだ。

それをこんな土壇場で思い付くのは流石と言うべきだろうな。

相変わらずカンの冴えが良い。


そうして【連携】で繋がったフィリカが《探査魔法》を放ってすぐに主人が血相を変えた。

何事かと思った次の瞬間には主人は消えていた。

思わず全員が主人が居た地点を無言で数秒間見つめた。

【以心伝心】を通さずとも全員の思いが『???』という言葉で一致した瞬間だ。


消え去るなど意味不明だが実際に目の前でこの場から消えたのだから仕方ない。

すぐにスミレに視線を送ると


「《空間転移》です」


と断言され、俺は思わず絶句したね。

いやはや。

こんな馬鹿な主人を持つと本当に困る。

せっかくハッサクが苦労して用意した地図は目印(マーカー)すら書き込まれないまま新品だ。

あぁいや、一応ライムが調べた届出の情報は書き込まれているから真っ白ではないけどな。

だがせっかくの地図や情報も共有出来なきゃ意味が無い。

意味がねぇんだよ…くそぉ…ッ!!

こんなことなら何のために【連携】を繋いだんだよ。


「フィリカ、捕捉した人物の数はどんなもんだ?」

「そうだな…ざっと150人ほどか」


「少し多いな…すまんがもう一度《探査魔法》を使ってくれ。

 スミレとフィリカの意識を俺を経由して【以心伝心】で繋ぐ。

 俺はここから東側、スミレは西側の地図に主人がやろうとした通り色々と情報を書き込んでくれ」


と俺は主人の独断専行を無視し、少し方法を変えて取り決め通りに行動する。

少なくとも主人が提案した方法は、情報の無い現状ではこの上ないくらいに有効だろうと全員が納得もしている。

一人のイレギュラーで変更するほど温い策ではないんだからな。

ただしこの方法がフィリカと二人だけで取れるのは、【連携】というスキルを持ちながらも<空間使い>である主人だけだ。

俺の【以心伝心】を介せば流石に情報に誤差が出る。

『俺が理解しきれない』のと、『スミレが処理しきれない』から仕方ない。

だから俺とスミレで作業を分担する。

あぁ、フィリカには全体を監視してもらうんだけどな。

処理能力を極限まで使えるように【以心伝心】をフィリカとスミレの二人にのみ割り振り、「準備は良いか?」と問いかけようとした時


(ネーブル見付けた。

 場所はスミレに血魔石(ブラッディコア)で探させろ)


主人からいきなり【連携】で一方的に通達された情報に全員黙る。

おいおいまじかよ…まさか《探査魔法》一発でド本命を引き当てるとは。

思わず俺は額に手を当てる。

相変わらずの規格外振りを見せ付けやがるが、とりあえず今は良い。

指示の言葉が主人にしては『命令』だったのも違和感を覚えるがこの際構わん。

指示が来たのだから行動だ。


「聞いた通りだ。

 スミレ、場所は何処だ?」

「………ここ、ですね」


スミレが示した場所を見て改めて全員が黙る。

《探査魔法》の範囲は周囲2kmに及ぶ。

そして主人が居る場所は


「嘘だろおい…1km近くも離れてるじゃないか…。

 そんなに遠距離まで《空間転移》が出来るのか?」

「いえ、自分も500m超えると詠唱が欲しいです。

 でも500mの無詠唱にしても数秒の時間が掛かります」


スミレは魔力やら知力といった能力値はそれほど高いとは言えない。

【空間魔法】にしても完全な一本伸ばしにしてはLv自体はそれほど高くは無い。

だが技術に関しては一級品だ。

馬鹿みたいな話だが、余りにも『それのみ』に特化しているからこそその技術は強力だ。

それは少し前にした模擬戦で全員が認めている。

そのスミレが『無理だ』と言ったことを目の前でやっているのだ。

あの主人には本当に驚かされるばかりだ…が、今はそれよりも行動だ。


「スミレは現場への《転移門》の用意。

 ライムは裏で俺と逃亡対策。

 レモンは正面から、ハッサクは死角から突入。

 その後は俺の【以心伝心】越しにレモンと連携。

 二人で制圧を目指して、何かあれば俺に報告してくれ」

「ネーブルさん、《転移門》繋ぎました」


「分かった、では出発だ。

 スミレは《障壁》を使って空中に待機…フィリカも側に居てやってくれ」

「了解。

 たまには私も働かないとな」


フィリカのあっさりとした了承を合図に全員が《転移門》をくぐる。


建物の近くに配置された《転移門》を出て初めに感じたのは違和感だった。

特にハッサクは冷や汗を流しているし、フィリカとレモンも苦い顔をしていた。

既に全員を【以心伝心】で繋いでいる状態だ。

ハッサクの感覚を共有した途端、俺は思わずその場を飛び退いた。


「な、何だこれ?」

「これは拙いな…。

 リオ君が本気でキレてるかもしれん」


呟く俺への返答はフィリカだった。

主人が居る地点からは最低でも30mも離れている。

壁や建物で隔たれた場所でこれだけの敵意を感じるなんてありえない。

強烈な悪寒を感じたのは確かに一瞬だったが、俺なら絶対に近付かん。

少なくとも【索敵】という感知能力が無い俺ですら違和感を感じたくらいだ。

現場に居たら気が触れかねん。

一体主人に何をしたんだ人攫い…。


「主人が人攫い(証拠)を壊す前に制圧するぞ」


その場の全員が頷き、行動を開始する。

フィリカとスミレは上空に待機し、逃亡防止。

特にスミレは《転移門》を使ってライムと俺の場所へと逃亡者を飛ばす。

フィリカは全員のフォローだ。

あいつは万能だから、何とでもするだろうからな。


行動開始から5分という短時間でハッサクとレモンが屋内を制圧したことを伝えてくる。

つまりもう出てくるやつは居ないという訳だ。

俺達の方も数人ほど打ちのめしたが、相変わらずスミレのトラップ型の《転移門》の性能がヤバイ。

何処に逃げても…というか、移動すると終着点(俺達の前)へご招待だ。

主人も恐ろしい使い方を考案したもんだ。


(じゃぁ主人を回収しに行くぞ)


という俺の思考会話で屋内へと踏み入れる。

ハッサクによる精査とフィリカ・スミレの《探査魔法》で調べ上げている。

罠の有無、主人・セリナの位置も確認済み。

主人の周囲に11人の反応があるらしいが生きているだけで動いていないらしい。


とりあえず主人の独断専行はお説教予定だ。

何度指揮官(俺)の意見を曲げれば気が済むんだ。

それで結果を残してるから始末に終えないが、それは単なる結果論だ。

作戦指揮を任されている以上は従ってもらわねば困る。

失敗も含めて作戦なのだから、イレギュラーは出来るだけ排除しなくてはいけない。

なのに任せた本人が毎回率先してブッチするんだからな。

いい加減俺もキレていいよな? な?


主人とセリナが居る場所へと足を踏み入れて絶句した。

今日だけで俺は何回絶句してるのか分からんが、言葉が出なかった。

他の面子も同じ感じだろう。


主人とセリナを除く周囲は赤錆色の水溜りだった。

そしてあの主人(・・・・)が子供のように泣いていた。

いや、主人は確実に子供なんだけどな?

いやいや俺が言いたいのはそういうことじゃない。

無駄に冷静な主人が感情を爆発させてるのを初めて見た。


…そうでもないか?

フィリカの店でセリナが攫われたと言った時、感情が滲み出ていた。

恐ろしいことにアクティブスキルの中でも特に常駐させられないようなのを無意識に使用してる、とかな。

それを思うとやっぱり子供だと言えるかもしれん。


というか周囲に飛び散る(?)人攫い共は全員が一様に伸びていて、両手ともに矢で壁や床に縫い付けられている。

余りにも完璧な物理的制圧振りに変に納得してしまう。

確かに主人の能力なら簡単だし、確実性も高い。

もっと穏便に取れる手もあっただろうに…相当頭にきていたらしいな。

ていうかこいつらの回収を俺等がするのかよ…?

俺はガックリとしながら指示を出す。


「レモンとハッサクはこいつらの回収。

 矢羽を切り落として引っこ抜け。

 ライムは適当に手当てしてやれ。

 あぁ、全員この場に引き摺って来い」

「別に良いが手当てとか必要か?」

「分かった」

「面倒だな…」


とそれぞれ口々に言って作業に入る。

ライムの言葉には「手当てしとけば奴隷として高く売れるし、情報絞るにも便利だ」と返して納得させる。

続けて


「フィリカはスミレを連れて領主に報告を頼む。

 ついでにこいつらの回収を確約させてくれ。

 報酬はうちの主人と折半で良いだろう?」

「いや、今回私がやったのは《探査魔法》だけで何もしていない」


おいおいふざけんな。

ここで「そうか」とか俺が折れたら主人に殺されかねないだろ。

それに何だかんだと最後まで付き合っといて何もなしってのは俺も納得できん。


確かにフィリカが成した事は『目に見える内容』ではかなり少ない。

やったことといえば《探査魔法》が一番目立つ功績だと言える。

だがフィリカは『主人の支え』として存在している。

主人からすると『最終的にフィリカが何とかしてくれる』と心のどこかで安心感を持っている。

だから主人は折半でも納得するだろうし、むしろ全額渡したところで『巻き込んだし』という結論に至るだろう。

それをゼロ、という話を飲めば確実に詰め寄られる。

そんなの怖すぎるだろ?


「そうはいかん。

 情報収集、作戦立案、作戦行動全てに立ち会っただろう。

 修正、確認は勿論、各種フォローも頼んである。

 それでタダ働きだと主人に俺が殺されるだろうが…少しは俺の気苦労も汲んでくれ」

「…なら私は頭割りの金額だけ貰おうか」


『頭割り』と言うことは、1/7の報酬を受け取るということか。

作戦行動の比率は1/7には違いないが、報酬としては安すぎる…。

主人が文句言うかもしれんが…まぁ、これ以上は受け取らんだろうな。

暫く黙考した後、俺は「分かった」と肯定する。


「ならギルバートから絞ってくる」

「お手柔らかにな」


思わず苦笑が洩れる。

報酬は吊り上げるが、受け取り分は減らすという訳の分からない行動を平気でする。

そもそも金に困っている風は無いから良いんだろうが、それにしたって自由すぎるだろ。

金なんてあればあるだけ良いんだからな。


俺の指示に従っててきぱきと行動する他の連中から視線を外し、セリナに声を掛ける。

本来なら被害者(セリナ)を一番最初に保護とフォローを入れなくてはいけない。

後回しにしたのは周囲の手当てをしないことには死にかねないからだ。

それにセリナはどう見ても主人をあやしているように見えるし、余裕もありそうだった。

加害者を優先するのはおかしな話なんだけどな。


「セリナ大丈夫か?」

「えぇ、助けてくれてありがとう」


「それは主人に言え」

「うん、それでもありがとう」


とセリナは律儀に俺達へ礼を言った。

短いやり取りだったが、既に表情は緩んでいることを思えばもう問題は無いのだろう。

そこから先はセリナに抱き付いてぐずぐず泣く主人を尻目にセリナに声を掛けて無事の確認。

怪我は勿論、金品の強奪、その他にも聞き難い乱暴についても確認した。

主人とは思えないくらいセリナに対して何も確認していなかったから仕方ない。


ちなみに五体満足で乱暴もされなかったらしい。

運が良いというよりは、主人の到着が恐ろしく早かったのだろう。

尋問はこれからになるのだが、恐らく攫われてから数時間程度で解決しているはずだ。

セリナの話だと監禁場所(ここ)に着いたのもつい1時間ほど前らしいしな。

そんな中、ギルバートが《転移門》を抜けて到着した。


「…これはどういう状況だ?」


第一声がそれかよ…。

分からなくはないけどな。

俺自身もこの状況はあんまり分からからな。


「ちょっと主人が張り切りすぎてな。

 セリナを助けたことで緊張が切れてこんな感じだ。

 話は明日以降…というか、フィリカが話した内容で全部だ」

「そうか…では礼は改めよう」


とギルバートはセリナに目配せだけして即座に切り替えた。

この場には領主として来ているからな。

いや…『領主』としてなら主人が捕まった時のように来る必要など無い。

だからこの場に居る時点で『父親として』この場に立っているのだろう。

だがそれ以上をしない辺り、貴族と言うのは相変わらず面倒なものだな。


「人数は?」

「21人だ。

 死者ゼロ、負傷者10、重傷者1だ」


「なかなかの大所帯だな…。

 分かった。

 副団長(ルルガ)をすぐ手配する」

「手当てはしてあるから死ぬことはない。

 武器その他は全て取り上げてあるから、安心して新兵でも連れて来い」


「リオ君にでも聞いたのか。

 荷物運びにしかならなかったら意味無いんだがな」


とギルバートは笑ったが、訓練と称して連れ込むだろうことは俺にも分かる。

いくら安全が確保されているからと言っても血飛沫がそこらにある場所へ踏み込むのは精神的にもつらい。

だというのに罪人が死ぬ心配も無く、反抗も出来ない。

危険は少なく、得るものは多いこの場はさぞ訓練に最適だろう。

それに『武器を取り上げてある』と素直に新兵に伝える必要など無いしな。


「尋問はこちらで行おう。

 今回はご苦労だったな…ではわしは戻る」


ギルバートは主人に視線を送ってぼそりと「また借りが出来てしまったな」と呟いて帰っていった。

いやいや、まだ諦めてないのかよ。

うちの主人相手に借りを返すのって無理じゃないのか?

俺の疑問は尽きなかったが、入れ替わりで帰ってきたスミレにあけみやへの《転移門》を頼む。

ちなみにフィリカはこれからギルバートと楽しい楽しい報酬の交渉時間だ。

ギルバートには同情を禁じえないな。


その後ルルガに人攫い共を引き渡し、セリナの誘拐事件は幕を閉じた。

あぁ、主人はセリナに抱きついたままいつのまにか泣き疲れて寝てたぞ?

そりゃ押し潰されるような最悪の緊張状態をたった数時間とはいえ、維持してたら泣きもするし寝落ちもするだろ。

とかえらそうに言ってる俺達も、食事も取らずに全員服のまま就寝だったけどな。

今日は全員よく働いたから仕方ないだろ?

お読み下さりありがとうございました。


ちゃんと裏方も居て、きちんと仕事をしています。

むしろネーブル達が居ないと成立しません。

やはり彼等は優秀です(‘‘

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