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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動
201/537

襲撃者

状況は逼迫していた。

理熾が持つ情報は【神託】による通達のみ。

即座にギルバートに確認して状況を把握はしたものの、手元に握る情報はセリナを見付けるには余りにも乏しかった。

更に情報収集を進めるも、手に入る情報は全て『可能性』というだけ。

情報源(ソース)としては信用出来るとはいえ、それらに確証は無く、現状では使える情報ではない。

結論から言えばこの状況下でセリナを見つけ出すことなど本来なら不可能ごとだ。


…いや、だった(・・・)と言うべきだろう。

何故なら理熾はあっさりとセリナを見付けて救出したのだから。



理熾は《空間転移》を使い屋根に降り立った。

【索敵】と座標認識を【直感】(シックスセンス)で併用しながら当たりをつけ、更に《空間転移》を展開して屋根裏へと移動。

そっと足元の天井を外して眼下にセリナを収めた理熾は思わず


「セリナさん良かった…」


と極度に精神を張り詰めた状態を保っていた理熾が最初に漏らした言葉がそれだった。

その呟きはとても小さく誰にも届かない。

まだそれくらいの自制はある。


セリナが監禁されていた場所は倉庫を改造した一室。

先日理熾が囚われていたような作りであることを思うと、同じ一味のアジトの一つなのかもしれない。

それか形式美というもので、内装や外観が似かよるのかもしれない。


セリナは後ろ手に縛られ、口を塞がれていた。

縛られた手が近場の柱に繋がれているものの、囚われの身としてはかなりマシな扱いをされていた。

流石に『交渉材料』としての役目があるため、傷付けられた様子も無く理熾は本当に安心した。

もし何かしらの手出しをしていた場合を考えるだけで、理熾は怒りで身体が震えるくらいだった。


だがまだ救出すらしていない。

見付けただけだ。

気を抜くのはまだ早い。


セリナの周囲を確認。

人数は六人。

すぐ隣に立つ人攫いが今のところ一番脅威度が高い。

『セリナに危害を加える』という点においてだが。


理熾は決断し、行動を開始した。

《空間転移》によりセリナの隣に降り立ち、躊躇無く一人目を殴り飛ばす。

辛うじて《拳打》を使わなかったが、手加減無く殴ったので5m程先の壁まで真横に吹き飛んだ。

「ゴガン!」と相当な音を立てて壁にめり込むように激突していたが気になどしない。

当然意識を飛ばしているが、そこへ《亜空間》から【士魂の強弓】で放った矢を両の手の平に撃ち込み、壁に縫い付ける。

これでもし起きてもすぐには行動できない。


「誰だお前はッ!?」


気が付けば轟音がして、仲間の一人が壁にめり込み縫い付けられているのだ。

この状況下でそんな悠長な会話は馬鹿としか良いようが無い。

何せ対処法としては二つしかないのだ。

制圧してから話すか、黙って殺すかだけ。

結局この会話に意味は無く、理熾としても聞く耳など持たない。

むしろ理熾にしてみれば口が開かれるだけでもイラつくのだから。


理熾が無用心に足を踏み出すと、人攫い達は一瞬にしてそれぞれに刃物を取り出して戦闘体勢へと移行する。

もし本気で迎撃する気なら、侵入者が登場した時点で思考を切り替えねば意味が無い。

つまりこの時点で既に遅い。

そんな無謀にも見える理熾にセリナは思わず制止の声を上げるが、口を塞がれていて言葉にならない。

理熾はセリナに柔らかい視線を送って【連携】を繋ぐ。


(すぐに始末するから後ちょっとだけ待ってね)


セリナは頭に響く理熾の言葉に目を見開いて驚き、その思考会話を引鉄に理熾の気配が周囲を圧倒する。

【隠密】を反転起動して注目を集める方法だ。

これだけで『この目の前の子供はただの子供ではない』と確信するほどの威圧感を受けて人攫い達が一歩後ずさる。


---+---+---+---+---+---

告)【おn

---+---+---+---+---+---


 後だ!!


無意識から表層意識への報告をカットする。

セリナを一刻も早く開放しなくてはならず、それには当然『安全に』という注釈も付く。

そんな些事に意識を取られる訳にはいかないのだ。


この場に居るのは六人。

一人は既に制圧済みなので残りは五人だ。

セリナに危害が及ばないように《亜空間》から血魔石(ブラッディコア)搭載の投剣を取り出し地面に踏み打つ。

合わせてセリナを包むように極小サイズで《結界》を起動する。

小さくすることで強度を保つのだ。

ルーチェを保護した経験がここで役立った。


《障壁》は不透明だが、《結界》は透明度が相当に高い。

その上厳密には《障壁》のような『壁』では無く、極小サイズの『網』のような形をしている。

その網に触れた衝撃や温度を拡散・中和・緩衝するのが《結界》の特性だ。

このため密閉されることも無く、呼吸は滞りなく行える。

逆に《障壁》は空間を魔力で塗り潰す完全な壁として存在する。

故に単純な防御力は《障壁》の方が高いが、《結界》の方が様々な場面で使えて自由度が高い。


二人目がナイフを片手に無用心にも距離を縮めてくるのを、むしろ理熾から一気に距離を詰めた。

相手が迎撃動作に移る前に躊躇無く殴り飛ばす。

《拳打》すら使用せずに放った投げやりの薙ぐような裏拳は、それだけでナイフを握った人攫いを壁際まで弾き飛ばした。

激突音を奏でたところで一人目と同じく《亜空間》からの矢で壁に縫い付ける。

意識などとっくに飛んでいる。


三人目、四人目は連携の取れた動きをするが、その程度。

Eランクのマドックの方が余程優秀だと感じる。

近接戦でのナイフの斬撃を、持ち手の手首を狙って手の甲で弾き飛ばす。

それだけでナイフと共に腕が外側へと跳ね上がって胴を晒した。

連携する四人目のナイフ使いの攻撃を下へと叩き落して膝を付かせ、足の甲に《亜空間》から小型投剣を放って縫い付ける。

地面が硬いことと、靴が頑丈な可能性があるから念のため放ったが、苦もなく貫通。

余りの事にぽかんと足元を見、確認したことにより激痛が走ったのだろう。

一瞬後には「ぎゃぁあああ!」と絶叫を上げた。

その絶叫をただ「うるさい」としか理熾は感じない。


その間に三人目のがら空きの胴に蹴りを放ち一人、二人目と同じように壁へと叩き付け、矢で手を縫い付ける。

さっきから煩い四人目の頭を殴り飛ばして意識を刈り取る。

手に向かって矢も追加しておく。

邪魔されても困るのだ。


一瞬で残り二人になり驚愕するが、やられたことに対する怒りが勝ったらしい。

「この野郎!!」と怒鳴り声を上げながら突っ込んで来る五人目を、身体を開いて躱して奥襟を掴んで引き込む。

体勢を崩すと同時に一瞬にして服で首が絞まり、五人目は意識を落とす。

そのまま五人目の奥襟を握ったまま完全に体格負けしている理熾が、六人目へと投げつける。

人を『荷物』として分類した場合、バランスが相当悪く重量以上に重く感じる。

それを軽々と投げつけてくるのだから、六人目は受けることも躱すことも出来ずに一緒に壁際へと叩き付けられる。

他の面子と同じく矢で縫い付けるのも忘れない。


生かしている理由は二つ。

理熾が嫌なだけなのと、聞くべきことがあるからだ。

幸いにもライムが居るから死ぬことも無い(・・・・・・・)

必要なことを知るためにもその一線は無意識でも守っている。


六人を息も乱さず30秒ほどで全員の意識を飛ばして制圧した理熾は、セリナへと足を進める。

早く縄を解いて助け出さなければ…そう思って近付く。


「止まれ化け物!!

 それ以上近付くと大事なお姉さんに傷が付くぜ?」


そんな理熾の思考を遮ったのは七人目だ。

いや、七人目など居なかったことを思えば新手だ。

セリナの傍でナイフを取り回しながら告げる言葉は悪役が使う台詞そのものだった。

尤も、この場で人質を取っている以上は悪役どころかただの悪人なのだが。


【索敵】は常設稼動させていたはずなのだが、頭に血が上っていたのかもしれない。

まさかこの距離で気付けないと理熾は思っていなかった。

それにたったこれだけの時間(30秒ほど)で増援が来るともだ。

よくよく考えれば四人目が叫んでいたことを思い出し、理熾は「一々癇に障るヤツだ」と怒気を強めながら歩みを止める。


「よくもやってくれたなぁ?

 まずは膝を付け。

 訳の分からん魔法を使いやがって…」


そう悪態を吐きながら仲間を呼ぶ。

対する理熾は「何処のスラ○ムだよ」と内心舌打ちしたい気分だった。

追加で来たのは四人。

脅している男の傍に立ち、全員が部屋の惨状を見て息を呑む。


「おいおい…ガキじゃねぇか」

「あいつ一人でやったのか?」

「嘘だろ…?」

「だが弓も持ってないぞ?」

「ありゃぁ化け物だ。

 あいつらをほぼ瞬殺だ。

 だがこの嬢ちゃん助けたいらしい。


 …聞こえねぇのか?

 膝を付けって言ってんだよ!」


にやにやとした表情で眺めて使う言葉を聞かされる理熾はやはり腹立たしい思いを募らせる。

相手も一向に従わない理熾を見て苛立ったのだろう。

「あ゛ぁ!?」と睨み、更に脅しの言葉を投げつけ声を荒げるが、理熾には一切響かない。


脅されている側のセリナは翳されるナイフよりも理熾を心配して逆に大人しくなった。

暴れるにしても『今ではない』と理解しているのだろう。

だが【連携】を通じて


(リオ君、私に構わないで!)


とまさにヒロイン的な言葉が理熾の頭に響くが、それにも取り合わない。

これまでの全ての行動はセリナのためでなく、『セリナを助けたい』という理熾のため(・・・・・)の行動なのだから。

ナイフで脅しているヤツが理熾へと完全にいたぶる目を向ける。

この状況ならどう考えてもまずは味方の回収が先決なのだが、そうはしないらしい。


「あのガキに首輪付けろ。

 俺の奴隷にしてやる」

「黙れ」


「あぁ?」

「口を閉じろ低脳(クズ)が」


「ぉぃぉいおい!?

 馬鹿か?

 この状況でそんな口を利いて良いのかよ?」


普段の理熾なら無言で叩き潰しただろう。

だが今回は言葉を紡ぎながら威圧感を撒き散らして静かに歩を進めた。


「馬鹿はお前だ。

 人質ってのは『無事だから』価値がある。

 「危害を加えるぞ?」って言葉を使う時点で無価値なんだよ」


人攫い共は一様に首を傾げた。

大したことは言っていないのだが、どうやら理熾の言っていることが分からなかったらしい。


人質は『傷を負わせたくない』と思わせることに意味がある。

だがセリナは今、理熾の目の前でナイフを突き付けた状態で脅されている。

ここで思惑通りに動かないことを理由にセリナを傷付ければ、『傷を負わせたくない』という前提が崩れる。

逆に理熾がその脅しに屈してしまえばセリナを助けられない上に『傷を負わされる可能性』が残るのだ。


そんなのは取引ですらない。

逆転の目や手を考える時間稼ぎで付き合うならともかく、従うのはただの英雄(ヒーロー)気取りの馬鹿だけだ。

本当の意味で助ける気があるのなら『脅される状況を排除する』ことに全力を注ぐべきなのだ。

そんな状況を引き起こしている時点で現実味など無い。


「な、何だこいつ…?

 こいつがどうなっても良いのか!?」


既に手は打ってあるのだ。

そんな言葉では理熾の歩みは止まらない。

痺れを切らし


「やれ!!」


とセリナにナイフを突きつけているヤツが指示を飛ばし、四人が殺到する。

直後リコの【重力魔法】によってセリナを除く周囲5mに3倍の加重が掛かる。

重量を増した身体に驚愕を覚えながらも踏ん張るが、全員身体を支えられずに膝を付く。

自身の身体すら支えられないのだから、当然のように武器など取り落としている。


理熾はその重力場の中を平然と歩き進め、その中の一人の前に立ち、必死に身体を支えている足を蹴り砕く。

「ぎゃぁぁあ!!」という悲鳴を上げると同時にバランスを崩して床に崩れ落ちる。

こうなっては最早床から顔を上げることすら出来ない。

むしろそんな気力すらなく、重量に潰されるままに意識を落とす。

理熾は一人重力を気にせずゆっくりと歩き、作業のように(・・・・・・)残り三人を同じ目に合わせて意識を刈り取る。

念のために矢で両手を固定するのも忘れない。


「ば…化け物がぁ!」


と一部始終を…理熾の『作業』を見せつけられた最後の一人が叫ぶ。

ナイフをセリナに突きつけていたヤツだ。

最後の力なのだろうか。


「あぁぁぁ!!」


と叫びながらセリナにナイフの刃を身体ごと倒れて突き立てる。

最早セリナに対して人質の概念すらないのかもしれない。

『一矢報いる』という一点のみで最後の攻撃を果たす。

しかし「キン!」という高い音を立て、理熾が最初に組んだ高密度の《結界》に阻まれる。

セリナは目の前でナイフが不可視の壁によって滑っていくのを驚きの表情で見ていた。


「くそぉ!!」と悪態をついて床にへばり付き、身動きの取れなくなった最後の一人。

理熾は身長が60cm程も違う相手を左手で胸倉を掴んで引き上げる。

3倍の重力下では重量は200kg以上だろうが自然な動作で吊り上げた。

代わりというべきなのか、きちんと重量があることを示すかのように服がミチミチと断末魔の叫びを上げる。

吊り上げられたナイフ男は絶句して顔を青褪めるが、既に遅い。

『セリナを脅す』という愚を犯したのだ。

償ってもらわねばならない。


3倍の重力の中、左手で胸倉を掴んだまま勢い良く地面に叩きつけ、更に右の拳を振り下ろした。

意識など残っているはずも無い。

他の面子と同じく矢で地面に四肢を縫い付け、制圧が完了した。


「セリナさん、お待たせ。

 すぐに縄を解くからね」


理熾は《結界》を解除してセリナに声を掛けた。

お読み下さりありがとうございます。


【25話:運動の後のいっぱい】を修正しました。


感想への返信は余裕が出来次第させて頂きます。

私が考え無しに書いている部分もあるので考察系は大歓迎なのですが、ご指摘を受けたところを頭で整理するのに時間が掛かって返事にまで辿り付けません(。。;

理熾並みに処理能力が高ければ良いのですが…私の頭の作りが知れてしまいますね(-ω-`;

気長にお待ちいただければ幸いです。

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