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神様のおねがい  作者: もやしいため
第二章:神域
2/537

神様とぼく

7/31訂正

彼はとても困っていた。

困り果てていた。

一つ一つは瑣末なことではあった。

しかし数多くの問題が絡み合った結果、問題が大きくなりすぎていた。

彼が手を打てば一瞬だけ事態は好転するものの、結果として新たな問題が発生してさらに問題が複雑になっていった。

放置していれば確実に悪くなるのが分かっているが為に、彼は何度も何度も、根気良く手を打ち続けていた。

目の前の事態が好転する事を願って、何度も何度も。


そうして気付いてしまった。

いや、前々から気付いてはいた。

けれど言葉に出すことは認めてしまうことに繋がる。

彼はどうしても目の前の現実を認めたくはなかったのだ。

もう少し、後一手で事態が少しでも良くなると自分ですら既に信じていない(・・・・・・・・)のに手を打ち続けた。


これを人は手遅れ・手詰まりというのだが、彼はそれでもまだ『困っている』のだから問題の深刻さが分かる。

認めてしまうことが嫌で…いや、認められない事実だからか。

そう、これはどうしても『解決しなければならない事柄』であるのだ。

なのに余りにも複雑に、ややこしくしてしまったために何処から手を付けて良いかが分からない状態になっていた。


問題は大きくなる一方で、解決策は見つからない。

いや、一つだけ。

たった一つだけ方法はあった。

彼が直接手を下すのだ。


それはとても簡単であったが、禁じ手であり、最後の手段。

むしろその手段を使う際は全てが台無しになってしまう。

例えば…将棋の盤面をひっくり返してしまうような。

そんな一方的な『破壊』を行うようなことだった。


だからどうしても、彼が直接関わることはしたくなかった。

手を打つ際も一手一手効果を見る必要があったし、何より『関われないこと』に歯噛みしていた。

どうすれば解決するのか分からない。

打つ手は全て弾かれ、取り込まれ、彼の持つ駒はどんどん無くなっていく。

まさに将棋のように…。


---+---+---+---+---+---


「はい、というわけで。

 『オープニング』を見てもらった訳だが感想は如何に?」

「………」


感想とか求められても困る。

単に壮大なテーマ曲と共に良い声でナレーションが流れただけなのだから。

映像もちゃんとした説明もないし、分かったことと言えば目の前のヤツが困ってるくらい。


「反応が無い、ただの屍のようだ?」


目の前のヤツは新たに質問を投げかけてくるが、理熾はそれどころではない。

まさに混乱している、というのが正しい表現だろうか。


 周りには何も無い。

 そしてただただ白い。

 『玄関を開けたらそこは白い世界でした』とかどこの雪国だよ。

 最後に目の前にふよふよ浮かぶ光の玉。

 どうしてこうなった!?


心の声は外へは出さない。

混乱の境地にあるため、思考だけが空回りする。

行動へと昇華するだけの余裕が無い。

ほんの少しだけ目を瞑って改めて周囲を見渡す。

あわよくば白昼夢であって欲しかったが、やはり世界は白かった。


「で、ここどこ?」


仕方なく目の前に浮かぶ光に問いかける。

得体の知れないモノに尋ねるのは抵抗があるのだが仕方ない。

周囲に何も無いこの状況で、頼るべき相手も居ないこの場所で、唯一答えを持っていそうなのが目の前の光なのだから。


「第一声がそれとはなかなか豪胆だな。

 この空間に引っ張ってきた者は大概混乱して叫び倒してからしか話を聞かないからな」


それはそうだろう。

余りに白すぎて上下感覚が無く、前置きも説明もゼロでいきなり荘厳な曲とナレーション。

理熾自身も自分の頭が狂ったのか、狂った奴に何かされてるかのどちらかくらいしか思いつかない。

ついでに上記2点のどっちでも発狂するくらいの恐怖はあるだろう。

だから分かりきった言葉を念押しで言ってみた。


「人間ってさ、情報が足りなさ過ぎると壊れるって知ってる?」

「うむ、何とも脆弱な生き物なのだろうか」


「手詰まりの癖に偉そうに…」

「っぐ!なかなか言うなお前!」


余りな物言いだったので何かイラっとしたのでとりあえず切り捨てておいた。

事実、理熾も混乱している。

というより、非現実過ぎて実感が沸かず、そのせいで落ち着いているように行動できるだけ。

とにかく現状は理熾が発狂したのか、狂人に攫われたのかのどちらかなのだろうと棚上げしておいた。

そしてどっちでも最悪なんだから、騒いでも仕方ないなという諦めの境地。

なので少しでも情報収集を行おうとするも、光の玉が出てきてテンションダウン。

もう少しシチュエーションというものを選んで欲しいものだ。


「んー…ねぇ、人魂さん、僕は死んだの?」

「君は死んでいない。

 そして私は人魂ではない」


「ぁーそうか。

 『人間を馬鹿にする人魂』って矛盾するもんね」

「そういう解釈をするのか…まぁ、良い。

 自己紹介が遅れてすまなかったな。

 私はいくつかの世界を管理する『神』になる」


「神様…?」

「概念上は、といった感じか。

 まぁ、動物園の園長みたいなもんだ」


動物園の園長とは、理熾に対してなかなか失礼な物言いだ。

だが言いたいことは理熾にも理解できる。


きっと自分達の感覚で現すとやはり動物園なのだろう。

園長は園内に展示する動物の種類や数、そして園のレイアウトも変更可能だ。

その上で調教師や飼育員を携えて、動物の管理をする。

その動物が理熾達と言いたいのだろう。


だからこそ、この神様は気付かずに理熾を見下してしまう(・・・・・・・)のだろう。

そんなことをさらっと頭の中で解釈していく。

となれば、逆に目の前の神様と宣言する光の玉に牙を剥いても良いのだろうか。

動物園でそんな状況になればまず確実に射殺の憂き目に遭うのだから、結局反抗したところで意味は無い。

ただ狂人による誘拐という線が濃厚だと分かっただけだった。

事態は全く好転しない。


「ふーん?

 で、そんな神様が何の用?

 僕は学校に行くのに忙しいんだけど…?

 今のところ皆勤賞だから、遅刻したらどうしてくれる」


理熾は皆勤賞なんかどうでも良い。

それより何か雲行きが怪しそうな現状を変えるべく、牽制してみる。


「その辺は抜かりない。

 この空間は、君の世界の時間より遥かに早いように出来ている」

「あぁ、精神と時○部屋のパクリか」


「理解が早くて助かるが、インスパイヤされただけだからな?」


即座に切り返した理熾にそんな言い訳してくる。

何というかこの神様の小物感が半端ない。

なのにきっと色んな意味で理熾より遥かに『強靭』なのだろうと思うと残念で仕方ない。


「まぁその辺はどうでもよい。

 私の願いを聞き受けて欲しい」


今更なのだが、この神様の声「ナレーションと同じだなぁ」とか気付いてしまった。

きっとOP曲も自作なんだろうと思うとちょっと神様に親近感が沸いてきた。

が、それはそれ。

理熾の返答は一つしかなかった。


「え、嫌だけど」


即答だった。

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