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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動
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救出準備6

「カルロ様すみません」


としばしの沈黙を破ったのは理熾だった。

少なくともこの謝罪は『主人(カルロ)』へのもの。

今、ロッソへ謝る気など一切無い。


「い…いや、構わない。

 こちらこそ従者が失礼をしたな」


そしてカルロも追求することは無かった。

いや、追求することが出来ない。

カルロが言ったように『主人の来客』に対して失礼な態度を取ったのはロッソである。

しかもその上で理熾達はロッソに対して危害を加えていない。

《障壁》は防御魔法でしかなく、単に隔離しただけであり、攻撃した訳ではない。

結果として今回は勝手に気絶しただけ。

そんなことに目くじらを立てていれば、隔離…つまり別室に連れ出して質問すら出来ない。

何より気絶した後、即座に開放しているので『攻撃だ』と言い張るのも難しい。


だから手管に色々と文句を付けたい部分はあるものの、カルロは黙ることにした。

護衛として雇い入れたい相手の制圧力を垣間見れたのだから、むしろ歓喜すべきことである。

更に言えば理熾達に武力的に太刀打ち出来ないことを理解したため、言葉で解決したかった。

領主館という場所なので暴力に訴えることは無いだろうが、それでも穏便に済ませたい。

まだ理熾達に対する交渉カードを揃えている訳ではない。

逆にこの場で暴れられたら一方的に損をするのはカルロなのだから。


「カルロ様を思ってのこととは思います。

 が、今はこちらにも余裕がありません。

 後日改めて謝りに来ますので、ひとまず続きをお願いします」


先ほどまでの口調や怒気などを一切見せずにあっさりと普段の理熾に戻る。

その様子にカルロは内心改めて驚くと共に『そんなものを飼っているのか』と畏怖した。

だが理熾の主張は『邪魔をするな』で一貫している。


しっかりとした判断基準と行動力を持ち、討伐者として、そして個人としてアルスに存在する。

そうかと思えばあどけなさと柔らかさ、周囲が見えないという子供らしい側面も見せる。

大人びた一面を持つが、所詮はガキであり子供であるため、周囲に扱い方を迷わせる理熾。


そんな理熾は感情の爆発までの導火線が長く、余り『怒る』という場面を見せることが無い。

このせいで『何をしても許してもらえれる』と周りが誤解することがある。

が、単に理熾にとって『怒るべき内容では無い』というだけで、感情を抑えられる訳ではない。

今はただ『ぶつける相手が居ない』というだけでしかなく、優先順位を付けて行動することで怒りの感情を抑えているだけ。

逆に言えば理熾の怒りのポイントを撃ち抜けば即座に報復されるということ。

そしてそれが周りに余り伝わらないだけである。

だからカルロの思いは誤解としか言いようが無い。

理熾は理熾で、相変わらず猪突猛進型のガキなのだから。


「あぁ、名前はマルタ・レスター子爵。

 辺境伯が来る前からアルスを支える一人だ」

「…荒れていた頃を知っている人ですね?」


「そういうことだ。

 基本的にアルス領主交代の際、多くの貴族が前領主と共に粛清された。

 しかしそこで残っていたのがマルタ・レスター子爵…元が伯爵だったのを降格されただけで済んだ稀有な一人だ」

「『降格』ってことは加担してたってこと?」


「証拠を見付けられなかったそうだ。

 しかし実質的には真っ黒で、仕方なく降格処分で手を打ったらしい。

 罪状は『伯爵位にありながらアルス領の荒廃を放置した』という、半ばこじつけのような内容だ」

「証拠が見付からない…?」


証拠が無いという事実が信じられない。

むしろそれなのに『真っ黒』といえるのは一体どういうことなのだろうか。


「当時は武官、文官共に荒んでいたらしくてな。

 そのほとんどの記録が改竄されていて、『虚実の区別』が付けられなかったらしい。

 嘘に嘘を重ねるから、何処までが『建前』で何処からが『真実』で何処が『改竄』なのかが分からなかったそうだ」

「辻褄を合わせるためにいじったけど、結果も合わない感じ?」


「ご名答。

 特に取引関連の信用度は最悪で、一体誰に何をどれだけいくらで売買したのかさっぱりだったらしい」

「……よく何年もその状況を維持したね…」


「最初からじゃ無いからだな。

 長期に渡り改竄をし続けた結果がそれだ。

 改竄に改竄を重ねるから、元が何なのかがさっぱりなのだ」

「馬鹿だね…」


「まぁ、記録に残って良いことなど無かったのだろう。

 逆に彼等にとっては『記録がある』という保険と『絶対に分からない』という安心が凶行を助長させたんじゃないのか?」

「…そういうもんですか」


理熾の呟きにカルロは「恐らくな」と苦笑いする。

少なくとも自分の治める領地でそんなことになっていれば泣く以外出来ない。

記録を遡ろうにも、何処から改竄されているかも見当が付かないのだから、対策の取りようもない。

もし対策を取る場合は読み解くことを放棄し、その部分をごっそりと捨てる気でなければならない。

癌のように、切除によってのみ助かるともいえる。


「その人が今回出てきてる…?」

「出てくる?

 レスター子爵は暗躍するタイプだぞ?

 でなければ粛清の際に他の貴族と同じ運命を辿っているからな」


「……でも真っ黒なんでしょ?」

「レスター子爵は『部下に一任』するんだ。

 そのため、部下は張り切り色々と画策する。

 働きがよければ『私が見込んだ』ともてはやされる。

 逆に犯罪等で捕まれば『私はそんな指示していない』と突き放す。

 確かに犯罪に加担はしていないだろうがそれだけ。

 甘い汁も啜っているし、指示はしていなくとも示唆している…ただそこに明確な証拠が無いだけで、結局真っ黒だ」


「それって責任問題にならないの?」

「普通はなる。

 が、その追及をのらりくらりとかわしているからの今というわけだ」


「うーん…」


と理熾は唸る。

人は必ず何処かでミスをする。

レスター子爵は部下のミスに対して一切の責任を取らずに押し付ける。

どうとでも受け取れる内容で示唆し、自身の逃げ道を確保しつつである。

部下にとってはたまったものではない。


責任を取らない役職者の鏡のような相手で、恐らく部下(身内)にこそ嫌われるタイプだ。

しかも本人は他人へと仕事を回している以上、能力は皆無であるとも言える。

責任を取らないということは、出来ても出来なくても火の粉が降りかからない。

つまり仕事内容を精査して『出来る相手を探す必要が無い』のだから、当人の能力も要らない。

単に右から左に流すだけにどれだけの能力が必要だというのだろうか。


ともかく。

何か行うにしても前に出るタイプではなく、全て部下のせいにする。

ということはやはりこの件において全く動いていないと見て良いだろう。

となればその部下を洗うのが筋とも思えるが、それでは根本的な解決にもならない。

結局そのレスター子爵をどうにかしなくては別件で絡んでくる可能性が高い。


理熾はセリナを助けて終わりでは済ます気は無い。

後顧の憂いを立つためにも『やるなら徹底的に』を掲げている。

トカゲの尻尾切りなど絶対に許さない。

だからこそどうやって追い詰めるかを考えねばならない。


「ちなみに。

 カルロさんは何でその人だと思うんですか?」

「貴族には暗部がある。

 というよりは人は『見る者』によって神にも悪魔にもなるから当然だがな。


 それでもアルス領主は善政を敷いているとされている。

 それは偏に『領民の幸福』を主眼においているからだ。

 誰にでも分かり易く、施策の結果は領民に利益が回るように組まれているからだ」


急にギルバートの賞賛を始めるカルロに理熾は首を傾げる。

特に否定する気も無いが、ギルバートの領主としての手腕は知らない。

施策の内容など初めて知ったし、今までやってきたことについて知る機会も無かった。

理熾が実感しているのは単に恩人であることと、アルスが住みやすい街であり、皆に親しまれていることくらいだ。


「領主とは相反するのがレスター子爵だ。

 彼の利益の終着点は自身になる。

 目立った功績も無いのに『伯爵位』まで上ったのはその積み重ねだ。

 その位に到達するまでに使い潰した部下は相当数に上り、一般人はそれに輪を掛けて多い。

 つまり誰かが損を被る際には彼が隣に立っている可能性が高い。

 …と言われる程度の問題のある人物だから、暗いことがある場合はすぐに引き合いに出される」

「なるほど…。

 過去が過去だから、何もしてなくてもそう思われるってことか…」


「『思い当たり』を問われればそうなるというだけだがな。

 実際に誰が何をしているかなど、間借りしている私ではさっぱり分からん」

「参考になりました。

 ありがとうございます」


と理熾はお礼を告げながら頭を下げ、スミレは無言でそれに倣う。

領主館を後にし、《転移門》を開いてフィリカの店へと向かう。

手にした情報はどの程度の重要度かは分からない。

しかし時間は待ってくれない。

この少ない情報でセリナを見付けなくてはいけない。


「ハッサクからだ。

 とりあえず追えるところまでは追ったらしい」


戻ってすぐにネーブルが理熾に報告した。

こっそり「暴走せんでくれよ」と思いつつ、恐る恐るだ。


「場所は?」

「主人が以前捕まった付近だそうだ。

 あの辺りに『住人』は居ないし、ほとんどが倉庫だな。

 一定の警備が居るかもしれないが…まぁ、届出が出てるのは極小数だ」


「…バレるのが前提?

 いや…流石にそんな馬鹿は居ないか…」


理熾はぐるぐると思考を回す。

しかし今は考えるよりも行動する方が大事である。


「フィリカさんもついてきてください」

「私もか?」


「はい、人が少ない場所ですからね。

 《探査魔法》をお願いするつもりです」

「ほう?」


「セリナさんを狙って見付けるのは可能ですか?」

「…出来なくはない。

 身長と体型である程度見分けられるからな」


「出来ればその条件に合う人を優先で見付けてください」


と頼む理熾にフィリカは「善処しよう」と請け負った。

フィリカもセリナの食事には確実にお世話になっている。

ギルバートの娘という立場以上に近しくも思っている。

手を貸さない理由も無い。


「でもそこを優先的に狙うわけじゃない」

「あてがあるのか?」


「いえ、逆です。

 全く無いから、必ず全部見ます」

「全部…?」


フィリカを頼りつつも、それで良しとせずに理熾は話を進める。

《探査魔法》だけで何とかなればそれで良い。

しかしダメだった場合まで考えねばならない。

むしろ『失敗は出来ない』のだから、《探査魔法》を過信しすぎるのは危険だ。


「考えた方法はハッサクが絞り込んだ対象区域のど真ん中にスミレとフィリカさん、ネーブル、ライムを配置。

 フィリカさんの《探査魔法》で見付けた誰かの隠れ家に残りの僕、ハッサク、レモンが強襲するって形。

 これには《探査魔法》に反応がある全てを虱潰しで行きます。

 要は『相手が居るかどうかだけ』で判断し、誰が何処に居ようと縛り上げます」

「過激な提案だな」


「誰がどう関係するか分からない以上、一人たりとも逃がしません。

 全員捕まえてそれで何も出ないなら改めて考えましょう」

「…私も強襲側に入らなくて良いのか?」


「うん、《探査魔法》を使えるのはフィリカさんだけです。

 なので洩れが無いように指揮官(ネーブル)に付いていて欲しい。

 スミレには《転移門》で負担を掛けるけど、僕は自前で行くよ。

 ライムは危険度の高いところへの追加戦力と、回復要員で待機」

「その面子(三人)で制圧出来ないならライム足しても多分無理だぞ?」


フィリカと理熾とで話を詰めているところへネーブルも参加した。

作戦立案は理熾でも、運営をするのはネーブルだ。

彼が理解していないことには話にならない。


「違うよ。

 三人で1箇所じゃなくて、一人1箇所担当だよ。

 そうしないと時間が足りない。

 《探査魔法》は『お互いに気付く魔法』だからね。

 使った時点で逃げ始めるから、時間が一番の問題。

 それと騒動に紛れて逃げられる確率が上がるから、『包囲する』って形で潰していく」

「リオ君、包囲するなら3人では数が足りないだろう?」


「だから《探査魔法》が必要なんだよ」


と理熾は理由を重ねて説明する。

場所を特定する《探査魔法》は、レーダー代わり。

何処にいようともフィリカであれば確実に捕捉する。

そして見つけさえすれば…


「なるほど。

 後追いでも【空間魔法】なら補足できるというわけか」

「うん、この場には<空間使い(ディメンショナー)>が二人も居るんだから、どうにでもなる。

 僕でも50kmまでは一瞬だし…あぁ、魔法薬はスミレも持ってるから適当に使ってね。


 それじゃ話の続きを。

 危ない場合や制圧後にはネーブルに【以心伝心】を通じて連絡。

 危ない場合はライムを追加投入か、いったん下げるかはネーブルが判断して。

 制圧したなら一度拠点(ホーム)に《転移門》で戻って、そのまま次の現場に移動」

「了解だ。

 なら主人は最初は強襲側。

 その後は逃げる相手に対する遊撃に回ってくれ。

 屋内での制圧ならそのまま現地で拘束後、放置。

 しっかり捕縛しておいてくれ。

 屋外で捕獲したら拠点で預かる。

 とりあえず全て制圧した段階でセリナが居なければ当たりを付けて締め上げるか」


理熾の話だけでは細かいところが足り無いのでネーブルが一つ一つ確認しながら詰めていく。

必要なのは『セリナの安全』である以上、安全策はいくらあっても足りない。

ついでに捕縛を目的にしているのだから、万が一にも逃がせない。

ネーブルは更に


「ハッサク、周辺の地図の作成。

 ライムは役所に届出が出ている物件の確認。

 その中でも『人員配置の有無』も調べてきてくれ。

 後でそれらをハッサクの地図に書き込むから急いでくれ」


【以心伝心】を通して現地のハッサク、そしてこの場に居るライムに伝える。

地図の作成は理熾を追ったこともあり、周囲の状況に明るいハッサクだからこそ時間を掛けずに行える。

ライムにしても書類仕事に強いため、早急に情報をかき集めるだろうし、移動に関してはスミレが付いていく。

ネーブルは時間を掛けないための指示を手早く出していく。


「主人は暫く待機だ。

 周辺地図と、探索除外地区の選別しなきゃならんからな。

 無策で突っ込むと本当に全部見て回る羽目になって時間が足りん。

 《探査魔法》を使ってから焦っても遅い。

 今この場で終えられる準備は全て済ませるから、大人しくしておいてくれ」


理熾が立てた作戦ならば全てを網羅するように叩かなければ成立しない。

孤軍奮闘されては困るのだ。

それに時間は既に10時に近い。

何もしないように念入りに理由を述べて理熾を『待機』させる。

一日中動き回っている理熾の体調にも配慮しなくてはならない。


そんなネーブルの思惑を知ってか知らずか、理熾はほっと一息入れて


「これで見付かれば良いんだけどね…」


と先の見えない今の状況に理熾は思わず呟いた。

お読み下さりありがとうございます。


先日90万PVの話をしたばかりなのに、既に300万PVを超えています。

ランキングに入るということはこういうことなんだな、とガクブルしている次第です(。。;


追記

先日より感想で「標準」と「照準」が間違っている、という指摘をいくつかいただいています。

「何かおかしいなぁ?」と思いながら使っていましたが、3ヶ月程前にご指摘をいただいて気付いています。

多分150話以降では修正されているとは思うのですが、今後修正していきたいと思います。

相変わらず読みづらくてすみません(。。;

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