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神様のおねがい  作者: もやしいため
第三章:始まりの街
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野うさぎハンター

野うさぎの語られざる真実を公開です。

【神託】はやはり厳しいものなのです。


8/27訂正

理熾はえらく早い時間に朝食をお願いしてセリナに笑われた。

それでもちゃんとご飯を出してくれた辺り、セリナの優しさがきらりと光る。

そんな感じで朝食を終え、部屋に一度戻る。


まず理熾が考えなければならないのは生き残ることである。

ギルバートの厚意で宿代は免除されているとはいえ、食費は必須なのだから所持金は減り続ける。

1カラドでもいいから、稼がねばならない。

ちなみに朝夕のご飯代を考えると最低でも日に10カラド手に入れなければただ減るのみだ。


 お昼も食べるならさらに5カラド追加かなぁ。

 ボリュームあるから、別にお昼食べなくても良いけどお腹は空くし出来れば食べたいよね。


そうは思っても昼ごはんは自重しようと理熾は決める。

たかが一日10カラドくらいと思う無かれ。

薬草50束も納品しても100カラドにしかならない。

なかなか厳しい世の中なのだ。

いや、理熾にとっての異世界(スフィア)は最初から厳しかったが。


理熾にしてみても、まさか13歳の身分で金策に走る羽目になるとは思わなかった。

というよりスフィアに来ての苦労が『神のせい』と思えるものが目白押しすぎる。

諸悪の根源を絶たねば、このままずるずる緩慢な詰みへと押し込まれそうだ。

その諸悪の根源として挙げているのは依頼をした神自身だったりする訳だが。


 あぁ…だから(・・・)この世界詰んでるのかなぁ…?

 正直僕以外だと下手すると初日で諦めそうだし。

 というか僕もほとんど運だし…それにしても、どうしようかなぁ?

 安全なのは採取とか、作成系だろうと思うんだけどなぁ。


ちなみに作成系なら道具が無い。

先行投資として買ってもいいのだが、そもそも元手が足りなさそうだった。

ついでに危険度の低い採取は実入りが少なく、とても稼ぎきるのは難しい。

なんと言うかああいった依頼は子供が(理熾も十分子供なのだが)小遣い稼ぎにやる仕事なのだ。


 いや、いいか。

 とりあえず市場調査(?)ってヤツをやってみよう。

 それにギルバートさんのところに挨拶に行かないと。


そう思い、まだ暗い早朝と言うのにさっさと身支度を済ませて出発する。

朝が早すぎたためか、開店準備中か閉まっている店ばかり。

せっかく早起き(単に目が覚めただけ)したのに残念だと理熾は思う。

ならば店が開き出すまでにギルバートに顔を見せに行こう。


 何処に居るか分かんないけど一回詰所に行ってみよう。

 居なくて戻ってきても、その頃にはきっとお店開いてるし。


と行き当たりばったりな感じで方針をサラッと決めてしまう。

街の外へ向かう道にもやはり人は居ない。

時間が時間ということもあるだろうが、露店や店舗なども中心地でひしめきあっている反面、この辺りはとても静かだ。

恐らくこの辺はベットタウンというものなんだろう。

城壁に囲まれてるからそんな言葉が当てはまるか分からないが。


 そういえば昨日の【格闘術】は残念だったなぁ。

 それなりに強ければ手に入れておくつもりだったのになぁ…安く上がるし。


そういえば昨日は疲れと眠気で後半頭が回っていなかったので考えられなかったが、何かに引っかかっていたのを思い出す。

理熾は何に引っ掛かっていたのか頭を捻る。

あれこれ考えるも思い当たることが無いまま、詰所が見えてきた。

どうやら迷わずに到着できそうだ。


「おはようございます」


声を掛けて入ってみる。

スフィアの常識を知らないので、朝から訪問とか大丈夫だったかな?と不安になったりする。

もう声を掛けて入ってる時点で既に手遅れなのだが。


「ん?

 あぁ、リオ君か。

 おはよう、昨日は良く眠れたかい?」


十分早いタイミングだったのだが、ギルバートは詰所に居た。

これ幸いと、お礼を言う。


「はい、ぐっすりと。

 昨日夕方前に寝て、起きたらついさっきでした。

 やっぱり色々疲れてたみたいです…ギルバートさん、本当にありがとうございます」

「いやいや、気にしないで。

 わしの気まぐれだから、ついでに期待もしないように」


笑いながら答えてくれる。

厚意なのだから、いつ追い出されるかも分からない。

いきなり放り出すようなことはギルバートはしないだろう。

理熾としても大変ありがたいがずっとこのままというのはいただけない。


 一刻も早くギルバートさんから自立しないと。

 厚意に甘えているだけじゃダメだ。

 自分すら守れないのに、スフィアを救うなんて言ってられないしね。


そう心に決める。

一刻も早くと思いつつも目処も立っていないのだから、困ったものであるが。


「はい、頑張ります。

 宿は一人にしては広いですし、あ、それとご飯すっごい美味しかったです!」


良い笑顔で答える。

ご飯が美味しいのは間違いない。

また今朝食べたバーガーを思い出してしまう。

ボリューム、味ともにすばらしい。

「あの宿ってかなり高級な宿なんじゃなかろうか?」とも思うが、怖くて聞けない。

どちらにせよ無い袖は振れないのだから。


「それは良かった。

 昨日あれからギルドへ行ったのかい?」


昨日の朝の時点でかなり疲れた様子だった。

ギルバートは理熾が強がってギルドに行くと言っていたが、宿でそのまま寝てしまうと思っていた。

それほど疲れ切っていたように見えたし、何より野宿は心身ともにクるのだ。


「はい、何とか。

 僕が出来そうなことって討伐カウンターくらいしか無さそうだったので、ついでに見てきました」

「おぉ…それは頑張ったな…」


驚きである。

このLv1の子は体力が尽きている状態でも動くのかと。

何が理熾を動かすのか気になるところである。


「その分、ギルドから帰ってそのまま寝ちゃいましたけどね」

「そりゃそうだろうなぁ」


心を込めて答える。

むしろ宿からギルドへ行って、登録して、なおかつ討伐カウンターまで寄って帰ってくるとは。

いくらその後潰れたといっても、本当に「それはそうだろう」としか言いようが無い。

そもそも体力以上に動いているのだから。


「そういえばここ(アルス)の討伐カウンターって人少なく感じたんですが、これくらいなんですか?」

「どれくらいだったんだ?」


「あぁ、いえ。

 全然居なくて、受付さんしか…でも最後にツヴァイって人と知り合いましたよ」

「なるほどな。

 皆出払っているんだろうな…余りにも魔物が多くてな」


またこの話だ。

ギルバートも、セリナも言っていた。

ツヴァイ達も恐らく言うだろう『魔物が多い』と。


 もしかするとこの魔物が多いのがスフィアの問題の一つなのかもしれない?

 だからといって原因も分からないし、どうしようもない。

 そもそも僕には全く戦う力が無い。

 歯痒いなぁ…もっと力があれば…。


残念ながら無いものねだりである。

無いものは無い、できないことはできないのだ。

切り替えが大事だと理熾は切り替える(・・・・・)


「お、そういばリオは【短剣術】も持っていたのか?」


左側の腰にぞんざいにくくり付けているナイフを見てギルバートが質問する。

昨日の時点では言語知識のスキルしか持たず、ナイフも無かったのだから、疑問に思うのは仕方ない。


「いやー、全然。

 これは護身用…いや、ハッタリですね」


これにもギルバートは驚く。

『ハッタリ』とは、秘匿する事に意味がある。

中身を知られてしまうと何の意味も無いからだ。

だからギルバートは呆れて言ってしまう。


「何ともあっさりと言うなぁ」

「ぇーだって、ギルバートさん僕のステータス知ってるでしょ?

 だったら今更ギルバートさんにハッタリ使っても意味ないし」


これまたあっさりと言う。

全くその通りなのだが、ギルバートから何処かに漏れるというのは考えないのだろうか。

こんなに不用意で大丈夫なのか、とギルバートは思う。

すると続けて


「そもそもハッタリが必要なのって『僕の利益の為』だよね?

 だからギルバートさん相手には必要ないと思ってるんです。

 十分ギルバートさんからしてもらってるんだから、気になんてならないしね」


と理熾はさらに言う。

打算とか、計算とかではなく、単に恩に対しての言葉だった。


「それはまた信用されたもんだ」


これにはギルバートも笑いながら答える。

厚意をそのまま『返せる』者などそう居ない。

人間は誰かに『してもらったこと』より『したこと』の方が印象に残るからだ。

何せ『自分が行動した』ということが己の中でとてつもない価値になるからだ。

お互いに『同程度のお返し』をした場合、第三者の目からはそれぞれ『減っている』と感じるだろう。

それが普通なのだが、その辺理熾は惜しげも無い。

ギルバートが「素直な良い子だ」と孫を見る目で眺めていると理熾が質問する。


「そういえばギルバートさん。

 野うさぎって、どんなのか分かるかな?」

「うん? 野うさぎ?」


はて、とギルバートは首を傾げる。

「何故この子は野うさぎのことなど聞いているのだろうか?」と。

今までの話に全く繋がらないのだが。


「分かるには分かるが…どうするんだ?」

「うん、捕まえようと思って。

 うさぎだし美味しいよね…?」


疑問系なのはまだ食べたことが無いからだろうとギルバートは予想する。

確かに野うさぎの肉は高級品だ。

嗜好品(・・・)とすら言ってもいい。

ギルバートは「もしかしてくれるのか?」とか思ったりもするが、それはあるまい。

理熾にとっては自分で食べるか、売った方が遥かに意味があるだろう。


「確かに物凄く美味いが、無理だと思うぞ?」

「え、もしかして強いの!?」


理熾は衝撃を受けた。

まさか無理だと断言されるとは思っていなかったからだ。


 野うさぎすら捕まえられないとは…。

 まさか…10歳でも狩れるはずなのに…。

 というか僕が10歳以下の能力だから心配してる…?


疑問は浮かぶが、解決はしない。

野うさぎの概要をもっと追求しなくてはならない。


「いや、そうではなくてな。

 野うさぎと言えば、『ステータスを強化する食材』として有名なんだ」

「は?」


思わず口が開く。

何とも凄い食材を【神託】に指定したものだ。

『いや、だからこそ(・・・・・)指定したのかもしれない』と理熾は思い直す。

手に入ればこの弱さを克服する一歩になるかもしれないと期待して。

この世界(スフィア)はそんなに甘くない。


「野うさぎ自体の強さは無い。

 けれど、そもそもが希少種で見つけるのが困難な上に、素早いからなぁ。

 ちなみに上手に野うさぎを狩る者を『野うさぎハンター』として呼んで有名になるくらい難易度が高いからな」

「え…」


理熾は何となく『はぐれ○タル』を思い浮かべた。

倒しにくく経験値…ではなくステータスを底上げする食材だから。

にしても『なんて難易度の高い【神託】なんだ』と戦慄する。

それをチュートリアルに混ぜ込む悪辣さをも考えて。

だがそうなると報酬が安すぎる気がすると理熾は首を傾げる。


「というか野うさぎの旬…というか、獲れるのは冬だけだ。

 冬以外の季節はこの辺りには居なくて、他の寒い地域に移動している。

 今は初夏だから、後半年はまずお目にすら掛かれないと思うぞ?」

「………」


スフィアの風当たりは理熾の予想を遥かに上回って厳しく、そして冷たかった。

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