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神様のおねがい  作者: もやしいため
第九章:口煩い貴族様

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降りかかる火の粉3

その後ギルド内を練り歩き、各種カウンターの特徴を見て回った。

ギルド員になってから約1ヶ月。

ようやくまともにギルドの内部を探索したことになる。

といっても詳しいことはさっぱりで、中に入ってさらっと回っただけ。

今後時間の空いた時にでも改めて詳しく確認しようと決める。


そうこうしている内にそろそろ約束の15時。

「おやつの時間だなぁ」とか理熾はぼんやり考えていた。

仲介者役であるガゼルと共に部屋で待つが、来ない。

そろそろ30分ほどの遅刻だ。


「来ないね、ガゼルさん」

「そうですね。

 まさか明日と勘違いされてませんよね」


「いやー相手から言ったんでしょ?

 勘違いしてたところで相手が悪いよ」

「それはそうなんですが…。

 正論が通じない相手もいますので」


「まぁそうだねぇ。

 少なくとも二度と取引したくない相手になる可能性が高いしね」

「この時点で刻一刻と信用を失っている事実に気付いていないんでしょうね」


と二人して散々なことを言う。

呼びつけておいて遅刻するのはありえない。

遅れるのならばせめて一報くらい入れるものである。

理熾はともかくガゼルは大変忙しいのだから。


「いつまで待ちます?」

「とりあえず後5分待ちましょうか。

 いくら貴族でも甘やかしては為になりませんから」


「はーい…って、来ちゃったよ?」


と理熾が残念な声で呟く。

【索敵】に三人の気配が引っ掛かったのだ。

暫くすると「コンコン」とノックの音が響き、ガゼルが「どうぞ」と対応した。


「ガウス子爵をお連れしました」

「ありがとうございます」


入ってきて礼をしたのは案内をしたギルド職員。

対応したのは当然ガゼルだ。

扉を開いてガゼル子爵が通されたので、理熾も立ち上がった。

一応依頼主…お客様なのだから仕方ない。


「遅くなってすまんな」

「いえ、お忙しいのですから仕方ありませんよ」


と子爵の謝罪にガゼルが平坦に返す。

そんな白々しいやり取りを経て自己紹介が始まる。


「こちらがウード・ガウス子爵。

 そしてこちらがEランクの討伐者、御巫 理熾(ミカナギ リオ)様です」

「始めましてウード様」

「ほう、この子供がか」


最初から目に入っていたであろう理熾を改めて検分するように言葉にした。

ガウス子爵の見た目は小太りの中背。

ふっくらとしているのに顔は整っているので違和感がキモチワルイ。

この違和感を醸し出すおっさんの相手をしなければいけないのかと思うと理熾はげんなりする。

もう一人の男は従者らしく、一言も発さずに控えている。


そんな初対面を終えて席に着く。

いきなり商談で理熾は良かったのだが、子爵側が質問をしてきた。


「年はいくつだ?」

「13歳です」


「若いな。

 その年でEランクだと?」

「ゴブリン程度なら楽に狩れますので」


ゴブリン以上に有名で弱い魔物は居ない。

理熾の場合上を見ればいくらでも倒せる魔物は居るが、敢えて下限を伝えているのだ。

大人が楽に倒すゴブリンといえども魔物には絶対に誰も手を出さない。

それを13歳という若さでゴブリンを『楽に倒す』と平気で言うのだから「確かに凄腕だ」とガウス子爵は笑う。

恐らく「将来有望だな」くらいの感覚だろう。

それを横で聞いているガゼルは「ホントは一人で竜種(リザード)狩りますけどね」とか呆れつつ言葉選びが上手いなと思っていた。


「それで【空間魔法】を使えると?」

「特に言った覚えは無いんですが」


「ふむ…証拠を見せてみろ」


全て浴びせかけるような上からの質問である。

だが別にそれに答えてやる必要は無い。


「嫌です」


と即答する理熾に機嫌を害した子爵が強めに「何故だ?」と聞く。

理熾は冷静に「僕に利益が無いですから」と答えた。

理熾が売り込んでいるわけではないのだから、この貴族に実力を見せる意味など無い。

この場でほいほい乗ってしまっては主導権を握られる。

だがそんなこともお構い無しに


「利益だと?

 今考えるべきは私の機嫌を損ねる『不利益』だろう?」


と押しかけてきた分際で『実力を見せろ』と言う。

余りの物言いに理熾は思わず「馬鹿だなぁ」と口にしかけた。

自制心とは、かくも大事なものだろうか。

口をつぐんだ理熾を横目に見ながらガゼルも心の中で苦笑しつつも助け舟を出す。


「ガウス子爵、何分13歳という若さです。

 しかもEランクですので生きるのに必死なのですよ」


と思ってもいないことを言う。

その発言に何故か得心したのか鷹揚に「そうか、ならば仕方ないな」と頷く。

一体何に納得したのかは二人にはさっぱり分からなかったが、場は収まった。

もしかすると「値段を吊り上げる手」とでも勘違いしたのかもしれない。


そもそも取引とはお互いに利益になるように交わすものだ。

それを初対面の相手に対して『要求を突きつける』というのがどうかしている。

ガウス子爵が巻き起こす『不利益』に対する説明も無いまま、それを気にしろというのも意味不明だ。

子爵が付くことによる利益を受け取っているならば分かる話ではあるのだが。


「では本題に移るか。

 私自身がお前が転移する瞬間を目撃している」

「そうなんですか?」


「あぁ、先日解体場でだ。

 目の前に居た人物がいきなり消えたのには驚いたがな」


「だったら何でわざわざ確認が必要なんだ」と突っ込みそうになる二人。

ついでに理熾に疑問が生まれた。

何故最初の挨拶で「この子供か」と言ったのだろうか?

本人が確認しているのならば疑う余地など無いのではないか。

というより昨日もしっかり追われているのだ。

ガゼルも疑問に思ったらしく


「今回が初対面ですよね?」

「あぁ、その通りだ。

 残念ながら人が居た事には気付いたんだが、既に転移後であった。

 だから責任者に「先程誰か来なかったか?」と問い詰めたらリオという者が来たと言うじゃないか」


理熾とガゼルは共に「あいつ(ジン)のせいか!」と内心嘆いた。

これにより後日ジンには理熾からは文句を、ガゼルからは実質的な罰が秘密裏に下る羽目になる。

色々と間の悪い人である。


「なるほど。

 それでリオ様を…」

「そういうことだ。

 背が小さいとは聞いていたがまさかこんな子供だとは思わなかったがな」


などと言いながら笑う。

事実ではあるものの、言い方のせいか馬鹿にしているようにしか聞こえない。


「まぁ、子供だろうが問題ない。

 実力を示してもらえればな。

 それでリオ、私と専属契約を結ぶ気はあるか?」


と手を差し伸べる。

あくまで鷹揚に、余裕を持っているように見せる。

貴族には確かにこういう『格好』が必要なのだろうが、今は要らない。

勧誘なら勧誘する態度で来なければ意味が無い。

配下になるとしても『選ぶ権利』くらいは存在する。

だから理熾の答えは


「ありません」


と即答することで決まっている。

理熾としても相手の出方によっては普通に依頼を受けて終わることも考えていた。

しかし余りにも頭が悪すぎる。

年の差は恐らく三倍はあるだろうに、理熾と対等にすら話せない。

これでは絶対に無理だ。

無意味なことをして、馬鹿馬鹿しい事に付き合わされる未来しかない。

だからこそ即座に叩き切った。

なぁなぁで出来るような話でも無いのだから。


しかし断られたことが信じられないらしい子爵は、差し出した手を引っ込められずに頬をピクピクと痙攣させている。

すぐさま次の行動に移れないのは怒り心頭だからだろうか。

これで『判断力が問われる貴族』をやっているのだから笑えてくる。


「言っている意味が分かっているのか?」

「意味が分からない?

 あぁ、では『お断りします』と言えば分かりますか?」


あくまで理路整然と返答する。

煽っている訳ではなく、理熾は本当に『分からない』という風に取ったのだ。

そんな理熾に子爵は怒りの余り声を震わして怒鳴る。


「ふざけるな!

 何が『お断りします』だ!

 私がわざわざ出向いて頼んでやっているのだぞ!」


全く意味不明な言い分だ。

わざわざ足を運んだのは理熾の方だし、あの態度で頼んでいるらしい。

むしろ頼み事なのだから、断られたのなら諦めて帰れば良いのだ。

付き合ってやる必要も無い。


「そうですか。

 ご足労ありがとうございます。

 しかし契約や取引と言うのは双方の合意の下、成立するものです。

 逆に合意さえすれば偏った条件でも問題無いという代物だと考えています。

 そして今回の件、僕に受けるつもりはありませんので、残念ですがお引き取りください」

「黙れ!

 誰がお前の意見など聞いている!

 お前は私の言うことに唯々諾々と従っていればいいのだ!」


言われた側の二人は半眼になるのを必死に堪えた。

ただし「さっきお前が聞いたよ」と突っ込みそうになった。

自制は偉大である。


それにしても完全に子供の喧嘩のような言い分になってきた。

まさか断っただけでこんなことになるとは、と理熾とガゼルは呆れるしかない。

色々と対応を考えたのが馬鹿らしいくらいだ。


「落ち着いてください子爵。

 貴方が声を荒げては民草に示しが付きません」


と従者の男が「今更だろう」と二人は思ったが、口には出さない。

これ以上挑発しても単に子供の喧嘩レベルの罵声が続くだけで意味が無いからだ。


「だが!

 ヤツは私の誘いを蹴ったのだぞ!」

「せめてこちらの条件を伝えねば答えにも窮するでしょう。

 専属契約における給金は一月に1万カラド。

 また依頼時に更に特別報酬と言う形ではどうでしょうか?」


条件としてはかなり良い。

たった13歳の子供に対する報酬とは思えないくらい高額である。

そんな説明を従者がしたと思ったら子爵が「少し焦ったようだな」と落ち着き払った声で言っていた。

「今更遅いよなぁ」と理熾とガゼルは内心で苦笑いしてしまう。


「このお話はお断りします」


きっぱりと断言する。

こういうのは『未練を持っている』と勘違いされては困る。


「では一月3万カラド出そう」


空気の読めない子爵が金額を吊り上げた。

一気に3倍に上げる辺りに『どうしても欲しい』という言葉が聞こえる。

何より値段の問題ではないので


「返答は変わりません」


と突っぱねる。

それに3万如きなら理熾なら三日も森を走り回れば手に入る。

相手の数さえ多ければ一日でも事足りる。

それをこんな程度の低い相手の指示待ちでぼーっと過ごすなど理熾には耐えられない。


「お前はまたしてもッ!」

「お引き取り下さい」


理熾はぴしゃりと言い切る。

従者は単に条件の吊り上げだとだけ思っていたようで、この展開には流石に驚いた顔をしていた。

『貴族の依頼』を断るのはそれほど軽いものではないからだ。

だがそのまま子爵を放置しておくとあちこちに面倒が掛かると判断したのだろう。

すかさず耳打ちして黙らせた手腕は買いたいが、それは告げた内容次第だろう。


「ではガウス子爵。

 申し訳在りませんが不成立ということで」

「ふん、好きにしろ」


大人しくなったところでガゼルが最後に話を打ち切る。

要した時間は30分ほどだが、部屋は一日課し切りだ。

本当に金の使い方を知らない子爵である。


「後悔するなよ」


そんな典型的な悪役の一言を残して子爵はドスドスと足音を立てて去っていった。

後に残された従者は一礼して後を追う。

その光景を二人で眺め


「上手くいきましたね」

「うん、多分次はすぐだね」


「でしょうねぇ…。

 あの怒りようでは機を待つなんてことは無いでしょう」

「というか凄いね。

 僕が普通に接しただけで激怒だよ?」


「情緒不安定にもほどがありますね。

 もしこの件で抗議が来たところで私が潰しておきます。

 といっても、何か言われてもただの言いがかりでしかないんですけどね」

「色々考えてたのになぁ…」


「仕方ありませんよ。

 喧嘩にもならない相手だったというだけですし」


子爵の相手をするだけで二人して盛大な溜め息を吐く羽目になった。

お読み下さりありがとうございます。

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