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神様のおねがい  作者: もやしいため
第八章:使用方法
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お仕置きの時間3

理熾、スミレ共に緊張感が無い訳ではない。

殴られれば痛いことなどスミレは十分過ぎるほど理解している。

シミルでの生活は痛みを伴うものだったのだから。


ダメージを受けていなくとも、痛みを予測してしまうと身体が固まる。

だからこそ、理熾は気楽に対応する。

変に緊張をして、身体を強張らせて無駄なダメージを負わないように。

防げるものは防ぎ、回避できるものは回避する。

そもそもスミレは相手の攻撃範囲に入らないように厳命している。

だからライムが【重力魔法】を仕掛けた時も、レモンが近付いた時も逃げている。

ライムの場合逃げた先がたまたま『近付くことになった』だけである。


それもこれも高速で移り変わる状況を理熾が把握し、スミレがフォローを入れるという基本スタンスに則っている。

瞬発的な処理能力は理熾が圧倒的に高く、物魔に共に対応力が高い。

対するスミレは特に空間把握能力が高く、対象の座標を即座に理解してしまう。

このため局所展開が可能な上に本来必要な対象設定の時間がほぼ必要無いため、魔法の速度が尋常じゃなく早い。

当然早いだけではなく、処理能力を強度や照準にも回せるので他者の比ではない。

しかもそれだけ並列で行いつつも処理能力に余力を残しているため、理熾へのフィードバックまで行える。


だからこの二人が《転移門》を開き続ければ四人揃っていても捉えることはかなり難しい。

少なくとも100m単位程度なら即座に《転移門》を開いて渡る機動力を考えると、距離を詰めるのも至難の業だ。

そんな状態で三人がバラバラにされては目も当てられない。

つまりこの三人が取るべき行動は完全な防御陣形にならざるを得ない。

しかしハッサクはスミレを強襲したがために二人の下へ戻れていない。

せっかく離れているのだからこれを使わない手は無い。


(スミレ、ハッサクの足止めよろしく。

 あの速度なら足元か正面に広めの《転移門》開けば勝手に飛び込むよ)

(…えぐいこと考えますね)


言葉以上の何かをスミレは感じ取り、そう答える。

そもそも《転移門》は移動用でしかなく、攻撃として考えること自体がやっぱりおかしいのだ。

とはいえ有効な手段なのでスミレは即応して《転移門》をハッサクの正面に展開する。


いきなり出現した魔力源をハッサクは目敏く察知した。

【超感覚】(シックスセンス)も手伝っていたようだが、その辺りは情報収集に長けるだけある。

急停止しようとするが、スミレの展開速度に加えてハッサクの移動速度が裏目に出た。

そもそもスミレはハッサクが踏み切った瞬間に《転移門》を合わせているので空中で動けるはずもない。

勢いをどうしても殺しきれずに《転移門》をくぐってしまう。

くぐった先は先ほどスミレが移動した地上10m程の空中(・・)で、当然の如く《障壁》の足場は無い。


《転移門》を勢い良く飛び出したハッサクは「まじかよ!?」と叫びつつ体勢を整えるのはやっぱり流石だ。

加えてライムも反応し、ハッサクに【重力魔法】を反転起動して落下速度や衝撃を緩和する。

これだけの異常事態を現在進行形で体験しつつも状況判断は鋭く正確だ。

しかし『空中では移動できない』ということが発覚した以上、スミレと理熾の策はこれに留まらない。

ハッサクの落下地点(・・・・)に新たな《転移門》を形成。

またも地上10mの位置から発射される。


こうなるともうお手上げだ。

スミレが集中を乱さない限りは《転移門》の連携(コンボ)から逃げられない。

それに対していくらライムが重力や落下速度をいじったところでスミレが落下地点を見誤ることは無い。

ついでにライムがハッサクに意識を向け続けるなら、その時点で理熾が制圧する。

現にレモンと対峙している理熾がライムへの攻撃方法を模索しているようにしか感じられない。

ハッサクはそこまで見越して「参った」と早々に諦める。

少なくともハッサクはこれで『詰み』だから仕方ない。


スミレはすぐに空中の《転移門》を地上から上向き(・・・)に展開し直してハッサクを移動させる。

地面から飛び出るような形になったハッサクだが、重力に引かれてほとんどの勢いを削り取りあっさりと着地を決める。

そのままスタスタ歩いてネーブルが大の字になっている場所まで行き「ありゃ無理だ」と一言嘆いた。

少し離れた場所から一部始終を見ていたネーブルは可哀想なヤツを見る目で迎え、「死ななくて良かったな…」と慰めた。

実際に《転移門》を高度1万mとかに展開されたら地面の赤い染みにしかならないのだから、その行動阻害と殺傷能力に落とし穴さんも涙目である。


元々《転移門》は『毎回二つ作る』ということから、処理能力や魔力消費の面で単なる移動手段としてしか見られなかった。

しかし理熾が「片方閉じなきゃ良くね?」とか言い出したために、劇的にこの二つが改善されたのだ。

だとしても結局は移動手段に留まるのが普通。

それを攻撃手段として捉えるのは理熾のひねくれた発想の成せる業である。

というか《転移門》潜るのが罠、というのがそもそもありえない話なのだから回避も何も無い。

ハッサクも『魔力源』として危機感を感じただけで、最初から《転移門》だと知っていれば止まることすらなく突っ込んだだろう。

色々と背景はあるものの、初見で回避することなどまず確実に不可能だ。


(流石スミレ!)

(いえ、ご主人様(マスター)の差配の結果です)


とお互いに労う主従。

相手の数が多ければ多いほど危険が増す。

当然倒せば倒すほど有利に近付く。

しかしその反面それぞれがフォローする相手が減るため、個人の隙が減るのだ。

故に最初の四人だった頃の二人よりも、今残っている二人の方が遥かに厄介だった。


残り時間は二人で約10分。

倒しきれるかは微妙な時間だと理熾は考える。

それにスミレも今は集中力を切らさずに付いてきているが、いつまで持つかは分からない。

スミレの場合は肉体的な疲労よりも精神的なモノの方が遥かに強い。

今も《障壁》と《転移門》の片方を常設展開しながら《亜空間》で石を拾っている。

それぞれの魔法の処理は軽くとも、並列処理をしている以上はかなりの負担になっているはずである。


対する理熾は一瞬だけ展開するタイプ。

その分展開時には多くの処理と魔力を使うが、いつ使うか分からない魔法を待機させるよりは近接戦闘に目を向けた方が良いという判断だ。

お互いに一長一短はあるものの、瞬間の威力が必要な理熾と、恒常的(コンスタント)な応用力を求められるスミレで住み分けされている。


(リコ、レモンのMP吸い上げて。

 刀を持ってないから強い武技は使わないだろうけど疲れさせるに越したことは無い)


当然吸い上げられたレモンのMPはリコと理熾の糧になる。

たかが10分程度吸い上げたところでどうにかなる訳でもないが、魔力を使った強化は必ずしている。

その消費に加えてMPを吸い上げられてはたまったものではない。

魔力抵抗が低く、最大MPの低い前衛には特に鬼門である。

理熾が時間稼ぎさえしていれば勝手にバテて膝を付くのだから。


理熾は本気で殴り合いを仕掛けるが、レモンは刀も持たないくせに体捌きのみで対応する。

格闘戦なのでやはり武技は使わない。

それでも理熾の攻撃を掠らせない。

それにしてもライムは手が空いているはずなのに何もしない。

それは理熾を舐めているのかレモンを信用しているのか微妙なところだ。


 …いや、違う!

 レモンの動きが前より格段に良い!

 ライムの【生体魔法】か!


そう、実は既に相手は手を打っている。

【生体魔法】には《部分強化(ポイントブースト)》と呼ばれる代表的な強化魔法がある。

単純に腕力や脚力を一時的に上げて使うのだが、今回は違う。

全体強化(オールブースト)》と呼ばれる全身を対象とする強化魔法だろう。

微かに立ち昇る魔力の揺らぎが全身を覆っているので恐らく間違いない。

この魔法共通の弱点は『極度に疲れる』という極めて単純なものだが、対策もしづらくなかなか使用に踏み切りづらい。

なので普通は部分強化を施すのだが、短期決戦にはこの《全体強化》は確実に役に立つので、今回はお目見えしたらしい。

この二人であれば残り10分くらい平気で続けるだろう。


これで押し切る方法が無くなったかというとそうでもない。

現在抑えられているのは理熾のみ。

そしてこの事実が現状を動かす。


スミレが唐突にライムに向けて投石を始める。

拾ったばかりの石は単純に上空からポンポン落としていく。

前衛にはちょっとした嫌がらせだが、後衛にはなかなか痛い攻撃だ。

しかも高さを調節して落とすため、時間差が発生する上にちゃんと威力のある投石はそれらの合間にも横から飛来する。

周囲と、死角である上にも注意を回さなければいけないのは大変だろう。

理熾はスミレの在庫が気になるが、どうせ時間はそんなに無い。

全部吐き出すつもりで問題ない。


そんな中理熾はライムへのフォローをさせないためにもレモンとの一騎打ちだ。

フェイント、小細工を絡ませながら戦う最中にも、お互い余裕がある。

というよりはお互いが『余裕だぜ?』というブラフである。

レモンは《全体強化》使っても追い縋る理熾に驚いているし、理熾は入れる小細工全てを叩き落とされるていることに辟易している。

お互いが決定打の無いままガシガシと攻撃・防御を繰り返し続ける。

状況が動かないので強制的に動かすために理熾は無駄口を叩く。


「ほっとくとライム負けちゃうよ?」

「そんなやわじゃねぇよ」


「そっかぁ…」

「というかスミレ反則じゃね?

 そう簡単に空中への攻撃なんぞ無いぞ?」


「その辺は仕方ないよ。

 『空中を歩ける』のは<空間使い>ならではだからね。

 ほら、こんな風に(・・・・・)


理熾はレモンとの間に《障壁》を展開して、自身が放った攻撃を強制的に止める。

しかもその反動を次の行動へと受け流して加速する。

ド本命の攻撃がいきなりフェイントへと変化したことにレモンは愕然としながらも、表情は動かさない。

確かに驚かされたが、やはりその辺は経験の差。

理熾の次の動作を読んでレモンはそこへ攻撃をねじ込む。

が、その攻撃は新たに展開された《障壁》によって阻まれる。

「カシャン!」という音を立てて割れた《障壁》にほとんどの攻撃力を奪われて思わずレモンは舌打ちしてしまう。

今はその時間すらも惜しいというのに。


理熾は気にせず、《亜空間》から矢を放つ。

レモンはギョッとして思わず刀に手を伸ばすが、思い留まったようだ。

何とか身体を開いて回避したのだが、それに理熾は目を見張る。

実はこの矢、訓練場で貰った鏃の無い非殺傷の矢なのだ。

つまりこの模擬戦では認められている(・・・・・・・)

この場でレモンが矢を切り落とせばルール違反でレモンの退場だったのだが…と理熾は悔やむ。

まさかこれだけ意表を突いて思考能力を殺いだ土壇場で、鏃まで見切るとは思わなかったのが本音である。


一発限りの不意打ちは失敗に終わったので、単なる攻撃手段として切り替える。

突き刺さらないとは言え、矢を受ければあっさり行動不能にはなる。

それを服の防御力と体捌きのみで全て躱し尽くすレモンの能力は流石なのだが、理熾はそこに近接戦闘を持ち込む。

攻撃手段・速度は単純に2倍に増え、フェイントまで加わりレモンも余裕をガリガリ削られながらの防戦に終始する。


理熾からすれば後一手足りず、レモンからすればぎりぎり持ちこたえられる境界線。

そこに今まで沈黙していたリコが参戦する。

振るう能力は【重力魔法】。

一瞬でもバランスを崩せば理熾の勝ちが決定する。


魔法が起動されたその瞬間、理熾は【直感】(シックスセンス)に従い思い切り背後に跳び下がる。

【直感】が全力で「アレは、ダメだ」と警鐘をガンガン鳴らしたのだ。


「いやぁ、主人。

 まさかここまでやるとは思わなかったぜ?

 こっからは本気(ガチ)で行くから、もしこれで俺が負けたら涙目だわ」


そう言うレモンは凄惨な笑みを浮かべている。

戦闘狂という言葉が頭を過ぎるが、今はそんなことを考えている場合ではない。

今、目の前の脅威をどう回避するかが問題なのだ。


「俺が持つ【狂戦士】(ベルセルク)に連なるスキル全乗せすっから誇って良いぞ。

 一つ【限界突破】、二つ【技術増幅】(スキルアンプ)、三つ【戦闘思考】(バトルロジカル)…四つ【狂戦士】、起きろ」


逆に言えばそのユニーク無しでこれだったのだ。

能力値だけでいえば理熾の方が恐らく高い。

それでも【皇気】(理熾の持つ【闘気】の上位スキル)を操るレモンには届かないのだろう。

でなければ現状の理由がさっぱり見当が付かない。


仕方が無いので理熾も【限界突破】、【魔闘技】(まとうぎ)、【闘気】を全力稼動へとシフトする。

予防線というわけではないが、全力で使うと自分の動きに付いていくのがやっとになるのだ。

しかも【限界突破】に引きずられてパッシブ系スキルも手加減無く稼動し始める。

岩を殴れば砕ける程度には能力が跳ね上がる。

魔力の余裕を考えれば圧倒的にレモンに勝るが、レモンは本来この上に二刀を使うのだ。

全員に『天才』と呼ばれるだけの事はある。


「何だ、主人もまだ隠し玉あったんじゃねぇか」

「そんなもの無いよ。

 レモンと同じように【限界突破】使っただけだし」


「おぉ、その年で使えるのか?

 どんな生活送ればそんなことになるんだよ」

「本気で数時間ぶっ通しで戦えば身に付いたよ?」


「なるほど。

 そりゃ手にも入るな。

 全力行動なんか10分出来れば十分だからな。

 主人のイカレ具合は良く分かった」


とレモンは拳を握り直す。

気楽に話すのも味方だからか、それとも勝ちを確信しているからか。

しかし理熾は冷や汗しか出ない。

【直感】が「敵対するな」と警鐘を鳴らすのだ。

リザードと対峙した時から持つ【直感】だが、コボルトキングの時でさえそんな拒否反応は出なかった。

単純にそれ以上の脅威なのだろう。


拳を握り込むレモンと対照的に理熾は手を軽く開く。

真正面から戦ってはいけない。

さりとて逃げに回っては意味が無い。

理熾は攻撃が何よりも得意なのだから、それを存分に生かさねばならない。


まずは死角から《亜空間》を開いて矢を放ち動きを窺うが、レモンはその矢を一瞥もせずに少し下がって回避した。

先程も躱したが、意味が違う…一瞥もしないのだ。

最早この時点で単体の矢ではどの場所から放っても意味が無い事を悟る。

投石如きで慌てていたレモンは最早居ない。

全ての能力のギアを上げてこの場に臨んでいる。


だから理熾は前に出ながら《亜空間》から矢を放つ。

狙いはレモンではなくライム。

目の前のレモンはただの一人。

パーティとして考えた場合、一人に構う必要は無い。

機能さえ止めてしまえば個人が強かろうと関係ない。


しかしそれでもレモンを抜けなかった。

レモンと矢は距離にして3mもあったのに、一瞬で詰めてあっさりと矢を叩き落す。

その分理熾から離れてしまうが仕方が無い。

お互いに逃げる気など無いから、離れたところで同じ。

結局殴り合う羽目になるのだから。


それよりも発射された矢に追いつける仕組みが理熾にはさっぱり分からない。

人はそこまで早く動けない。

ということは何かしらの予兆を…と考えてひらめいた。

そもそもレモンは【超感覚】(シックスセンス)持ちだ。

先ほどから当たらない理由はここにあったのだ。

しかも今では先ほどよりも遥かに戦闘力が上がっている。

どうすれば抜けるかさっぱり分からない。


 でも、出来ることは攻撃だけ、だ!


と理熾は瞬時に頭を切り替える。

矢を放ちつつ、《障壁》を使って立体的な攻撃を見舞う。

理熾がレモンに対して優位に立つのはただ一つ。

『全力行動で動き続けられる』ということだ。

使わない手は無い。


先ほどまでの直線的な動きとは打って変わって、攻撃パターンが一気に複雑化した。

まさに縦横無尽という言葉がぴったりな理熾の攻撃は流石のレモンも苦戦する。


一つ、攻撃とフェイントの差が見分けられない。

本命の攻撃を《障壁》を使って止め、後出しで変更する。

逆に見た目だけの弱い《障壁》を張って、あっさりと叩き割ってフェイントに見立てた本命の攻撃を行う。

故にまさに攻撃を受ける直前までフェイントの可能性を捨てきれず、全ての行動で後手に回ってしまう。


二つ、近接攻撃に《亜空間》を使った後衛力が加わる。

レモンの能力をもってしても、【士魂の強弓】から放たれた矢を全て見切るのは不可能。

それを【超感覚】と経験則を駆使して防御と回避をする。

経験則は単に『攻撃を受けると嫌なタイミング』を読み切ることだった。

まったくいやらしいことに、理熾は対応しにくい場所に矢を放つのだ。

そのお陰で逆に回避できていることを思うとやるせない。

というよりたった一人を相手にしているとは思えない手数にレモンは辟易する。


三つ、《障壁》と【重力魔法】を駆使する動きはまさに空中戦を可能とする。

通常、空中での姿勢制御や、急激な軌道変化などは不可能とされているのにも関わらず、それらを苦も無く行っている。

これには経験が逆に邪魔になり、レモンもひやりとする場面が何度もあった。

何せ着地が必要な場面で踏み込んでくるのだからたまったものではない。

攻撃のリズムが不規則で、タイミングを計るという話ですらないのには本当に困る。


四つ、レモンが放つ攻撃はほとんどが《障壁》によって弾かれ、理熾がまともに防御をしてくれない。

普通は『攻撃し続ける』という状況は生まれない。

反撃や迎撃がある以上、それに対する防御行動を取らなければならないからだ。

例えば一回攻撃すると、相手は一回防御か回避の行動をしなくてはならない。

二回攻撃するなら、当然二回の防御が必要だ。

防御をするということは、それだけ行動に制限が掛かり攻撃回数が減ることに繋がる。

これらは技量や速度、攻撃の重さによって千差万別になるが、拮抗する者同士であればこの通りになるはずである。


しかし理熾は《障壁》という手段を使い、防御行動に割く手数を補う。

連撃に対して割り込みを掛けて攻守を逆転させるという方法を取るのだが、攻撃を差し挟んだところでそれに対する防御行動が無い。

これによって理熾は攻撃し続けるという状況を作り出しているのだ。

となればレモンが迎撃・攻撃に手数を回すと防御出来る回数が減り、それだけ窮地に追い込まれる。

そもそもレモンの攻撃は理熾の攻撃の合間に放つので、どうしても威力が足りない。

そのため《障壁》であっさりと止められてしまうのも頭の痛いところだった。


五つ、後ろが気になって仕方が無い。

ライムへの攻撃を許すつもりは無いが、スミレと理熾のコンビははっきり言って異常だ。

世界の常識として『【空間魔法】は便利なだけ』というものがある。

それがこの一戦で完全に崩壊した。

たった20分の攻防で既にネーブルとハッサクが負けを認めている以上は認めざるを得ない。

故にライムの能力云々ではなく、スミレの戦力が未知数で危機感を持つのだ。


六つ、まだ何か隠し持っている可能性がある。

この場面で出さないのだから、流石にもう奥の手は無いだろう。

そうポンポン出されてもレモン達の立場が無いのだが、理熾のことだ。

『まだ何かある』と思わせるところが恐ろしい。

思考の端をそんな疑惑に占拠され、挙動一つ一つに脅威を感じるのだから精神力が削られる。


七つ、何より理熾の能力が飛び抜けている。

単純に無手でこれだけ動ける者はそう居ないとレモンは驚くしかない。

しかもこれでまだ『動きが荒い印象を受ける』のだから恐ろしい。

レモンからすると、もっとスムーズに繋がる部分が山ほどある。

むしろそんな無駄があるからこそ、均衡を保てているとも言えるが。


これではレモンの能力や経験がどれだけあろうと関係ない。

攻撃方法と手数が圧倒的に多いのだ。

まさに息つく暇も無い攻撃に晒されるレモンは、理熾の足止めにしかならない。

様子見と思って初撃を譲ったのは間違いだったとレモンは悔やむ。

最初から打ち合ってればここまで一方的な展開になることも無かっただろう。


理熾が攻め、レモンが防ぐという状況が固定化されてしまった。

二人は共に相手に対して「こいつおかしい」と思う。

レモンにしてみればここまでスキルを使い切っても押されていることへの驚き。

理熾は能力値やスキル、さらには手数に不意打ちまで混ぜているにも関わらず有効打が全く無いという焦り。


 流石レモン…こんだけ打ち込んで倒せないとか信じられない。

 というか一発もまともに当たってくんない。

 こりゃもう賭けるしかないかぁ。


既に時間などを気にする余裕など無い。

1分かもしれないし、既に10分打ち合ったのかもしれない。

そんな些細な情報は、この心を削る戦いには不要だ。


間断無く放つ攻撃の合間に理熾は心を決めた。

お読み下さりありがとうございます。

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